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2022年6月1日

「スマート化」に向けて自治体が抱える問題と今後の対策【スマート自治体②】

「スマート自治体」とは、AIやRPAなどの先進技術を活用することで、定型業務を自動化したり、標準化された共通基盤を用いた効率的なサービス提供を行う次世代の自治体像をいいます。今回は、「スマート自治体」の実現によって何を目指していくのか、「スマート自治体」実現の3大原則と具体的な7つの方策などについて解説します。

「スマート自治体」で目指す状態とは?

「スマート自治体」で目指す状態とは?
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「スマート自治体」の実現によって、乗り越えるべき自治体行政の危機、この危機に備えるための自治体行政の考え方については、以下の記事をお読みください。

スマート自治体①|2040年問題に備える新しい自治体行政のあり方とは?

「スマート自治体」への転換を図る目的と今後に向けた課題については、総務省自治行政局が主催する「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会(スマート自治体研究会)」の報告書において精緻な分析がなされています。この報告書を紐解き、「スマート自治体」の実現によって何を目指していくのかを整理します。

人口減少が深刻化しても、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供

進化を続けるデジタル技術を積極的に活用し、業務プロセスやシステムを改善することで、人口減少が深刻化するなかでも自治体は持続可能なかたちで行政サービスを提供し続けることができるようになります。「スマート自治体」の実現によって、医療や福祉、教育、防災や子育てなどの住民福祉の水準も維持されます。

職員は職員でなければできない業務に注力

自治体の業務では、多くの紙の様式・帳票が残され、電子化・ペーパーレス化が進んでいません。帳票の様式や記載項目の標準化もなされていない自治体もあります。このため自治体職員は、膨大な書類をシステムに入力する作業を抱え、大きな事務負担になっていました。AIやRPAを活用することで、職員でなければできない、より価値のある業務に注力できる環境を実現できるようになります。

団体規模・職員の能力や経験に関わらずミスなく処理

生産年齢人口は、1995年をピークに減少を続け、高齢者の人口は増え続けていきます。自治体においても、経験豊富なベテラン社員のリタイアが増えていくことになりますが、彼らの長年の経験や勘などのノウハウをAIやRPAに蓄積・代替することにより、団体の規模・能力や職員の経験年数に関わらず、誰でもミスなく事務処理を行えるようになります。

「スマート化」を阻んでいる自治体システムの現状

生産年齢人口の減少による労働力の供給制約やSociety5.0(超スマート社会)における技術発展の加速化による急速な社会変革を見据えて、現状の自治体システムについての問題点として、以下の2点を挙げています。

行政の質に直結しないシステムの重複投資

1990年代以降、電子政府・電子自治体の実現に向けた構想が示され、自治体の業務にも情報システムの導入が進みました。現在では、これらのシステムは自治体の業務に不可欠なものとなっています。

一方、これらの行政システムには、制度変更や業務プロセスの変化に対応するためにさまざまなカスタマイズが加えられてきましたが、これらのカスタマイズは必ずしも行政サービスの質に直結しないものとなっています。そして、このようなカスタマイズが重複投資を生むことで、自治体の財政負担となるばかりか、行政システムの全体最適を妨げる要因にもなっています。

世界の技術革新に乗り遅れている

IoTやAI、ロボティクスなどの技術革新によって、新しい価値やサービスが次々と創出され、人々に豊かさをもたらす「Society5.0(超スマート社会)」が到来するといわれています。米国や中国など世界の国々がAI開発にしのぎを削り、付加価値を生むICT投資を積極的に行うなかで、日本では官民を問わず既存の業務プロセスに固執し、それに適合させるためのカスタマイズを繰り返し続けた結果、世界に大きく乗り遅れてしまいました。

過去との連続性を過度に重視すれば、未来と断絶することになりかねません。世界のスピードに追いつくためには、過去の経緯などから距離をおいてデジタル社会に最適化された社会制度を再構築しなければなりません。システムの標準化を進める際には、現在のシステムや業務プロセスを前提とした「改築方式」ではなく、業務のあり方を抜本的に見直す「引っ越し方式」が求められています。

「スマート自治体」を実現するための3大原則

「スマート自治体」を実現するための3大原則
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スマート自治体研究会は、同報告書のなかで「スマート自治体」を実現するために求められる3つの原則を示しています。

原則①|行政手続きを紙から電子へ

「スマート自治体」を実現するためには、原則としてすべての手続きが電子化・ペーパーレス化するような抜本的な改革を行う必要があります。自治体内部でICTの活用を進めたとしても、市民との接点となる行政手続きが従来通りでは、市民にとっての利便性の向上は限定的なものとなります。AIやRPAなどを効果的に活用するためにも、データの入口となる市民との接点から電子データが入ってくることが重要です。

原則②|行政アプリケーションを「自前」から「サービス利用」へ

現在の行政システムの多くは、各自治体が自前で調達して利用しています。しかし今後、システムの標準化やAIやRPAなどのICT活用を進めるにあたっては、複数のベンダーがクラウド上で提供するアプリケーションを、行政分野ごとに選択して利用すべきでしょう。取り扱う情報の性質に応じて、インターネット上のクラウドサービスやLGWAN-ASPサービス(民間企業などがLGWAN上で地方自治体に対して提供するサービス)の活用が考えられます。

原則③|自治体もベンダーも攻めの分野へ

人口減少が進む今後の状況下では、地方公務員の確保が困難となり、システムエンジニアがますます稀少化するでしょう。一方、急速な技術革新に対応していくためには、自治体もベンダーもシステムの構築・保守管理といった守りの分野はできるだけ効率化して、AIやRPA活用などの攻めの分野に集中して、人的・財政的資源を投入できるような環境をつくることが大切になります。

行政システムの標準化・共同化の推進によって、各ベンダーにおいても個別のカスタマイズ要望への対応は減少し、稀少化するシステムエンジニアの人員をAIやRTAなどの攻めの分野に投入し、創意工夫によって競争に立ち向かうことができるようになります。

「スマート自治体」の具体的な7つの方策

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「スマート自治体」の実現に向けて、実施すべき7つの方策について見ていきます。

対策①|業務プロセスの標準化

人口規模や組織などで類似する自治体間でBPR(組織、制度などの抜本的な見直し)を行い、もっとも効率性に差のあるボリュームゾーンを見極めたうえで、最善の方式に標準化します。細かな業務プロセスについては、標準化されたシステムに合わせていくのが効果的です。

対策②|システムの標準化

自治体・ベンダー・所管府省が各々コミットしたかたちで、個別行政分野のシステム標準を設定します。なかでも住民記録システムについては自治体システムの中核をなすものとして最優先で取り組むべきであり、税務・福祉分野についても優先的に取り組むこととしています。ベンダーは全国的なサービスとして標準準拠システムを提供し、各自治体は更新時期を踏まえつつ導入の加速を目指します。

対策③|AI・RPA等のICT活用普及促進

システム標準化や電子化などを通じて、安価に共同利用できる環境の整備が不可欠です。音声認識やチャットボットによる応答の導入など、直ちに導入可能なものは、他団体の導入事例を参考に導入を進めます。その際、国は全国の導入事例を周知して財政支援も行います。また、数値予測やニーズ予測など、AI技術の活用可能性があるにもかかわらず、開発・導入が進んでいないものについては、自治体と企業、各府省が検討を進めることになります。

対策④|電子化・ペーパーレス化、データ形式の標準化

デジタル手続法案などを踏まえ、政府・自治体での抜本的な電子化・ペーパーレス化に取り組みます。また、政府においては、官民を通じた分野横断のデータ連携を実現するために、官民データ活用推進基本法、世界最先端デジタル国家創造宣言に基づき、データ形式の標準化を推進しています。

対策⑤|データ項目・記載項目、様式・帳票の標準化

官民それぞれの標準化に対するニーズを勘案し、実態に即した標準化を推進していきます。住民・企業からの申請については、省令などにより標準様式・帳票を定めることとします。また、住民・企業からの通知・交付などについては、システム標準を設定する際に、様式・帳票の標準化の検討を行い、システム標準仕様書や省令などにおいて標準様式・帳票を定めます。

対策⑥|セキュリティ等を考慮したシステム・AIなどのサービス利用

自治体は、クラウド上の全国的なサービスとしてシステムやAIなどを利用する場合に、セキュリティ面では、自治体やサービス提供事業者が規定するセキュリティポリシーなどを遵守して外部と接続します。LGWAN-ASP(自治体専用ネットワークのサービス)などを利用する場合も同様です。また、個人情報保護条例については、条例上のオンライン結合制限の見直すとともに、制限している自治体も、個人情報保護審議会の意見聴取といった手続きを経ることによって、オンライン結合を推進していきます。

対策⑦|人材面の方策

首長、議員から一般職員まで、職責に応じたICTリテラシーの習得に努めます。人材確保の面からは、専門性の高い外部人材を積極的に登用して補完します。単独で登用することが難しい場合には、複数自治体での兼務を前提とした登用もありえます。都道府県や指定都市・中核市など、人口規模の大きな自治体は、必要に応じて各自治体を支援していくことになります。

「スマート自治体」の実現に向けて求められるのは、過去の実績や積み上げてきた資産を引きずっていくのではなく、むしろ、それらを抜本的に見直すことで、これからのデジタル社会にふさわしい制度を再構築していくという覚悟だと思います。現在の行政サービスのあり方や業務プロセスを前提とした改良、改善に取り組むのではなく、それぞれの地域の未来を見つめ、新しい時代にふさわしい行政サービスを創造することが求められています。

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