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2030年までに「まるごと未来都市」の実現を目指す「スーパーシティ構想」。大阪市と共に特区に指定されたつくば市(茨城県)では、“最もオンライン化が望まれる手続きは何か“を可視化する 「手続きアセスメント」を導入。官民連携で共同開発した「つくスマ」の導入に続き、職員にも市民にもやさしいDXを実現する取り組みが行われています。担当者に今後の展望についてお聞きします。(コピー:百田なつき、撮影:花田梢)
<参考> スーパーシティ|「スマートシティ構想」をブーストさせる「まるごと未来都市」構想
インタビューにお答えいただいのは(左から)
つくば市 政策イノベーション部 スマートシティ戦略課 課長補佐 大垣 博文さん
つくば市 政策イノベーション部 情報政策課 企画推進係長(兼)企画経営課 統計・データ利活用推進室 主任主査 家中 賢作さん
つくば市 政策イノベーション部 スマートシティ戦略課 係長 金塚 安伸さん
つくば市がスーパーシティ型国家戦略特区に選ばれた理由
Q 今回、多くの自治体の中から、つくば市がスーパーシティ特区に選ばれた要因についてはどう分析されていますか?
金塚様:31の自治体からいろいろな提案が出ましたので、選ばれるのは厳しいのではないかと正直感じていました。そんな中で選ばれたポイントは、過去の実績の積み重ねなのではないかと思います。モビリティ分野で実績を積み上げてきましたし、医療系やインターネット投票などの実証実験から具体的な実装への道筋が、政府のイメージと合致したのかもしれません。
大垣様:さまざまな規制改革に事業者側が強く関与していると、国が判断してくれたのも大きいです。自治体だけでなく、事業者側と連携でき、かつ関係省庁とも規制改革に向けて概ね合意をとれているということで、勝ち取れたのではないかと思います。
市民と共に歩む「つくばスーパー“サイエンスシティ”構想」
Q「スーパーサイエンスシティ構想」というネーミングにされたのはどうしてですか?
金塚様:つくば市は歴史的に研究学園都市として発足し、国からの大きな投資の中で作られてきたのですが、実際、市民にアンケートを取ると「科学の恩恵を感じていない」という回答が寄せられていて、我々も課題に感じています。
これまでの科学分野における実績と、これからの未来は科学技術を活用して新しい様々な選択肢を提供することで課題を解決できる、というアピールを含めて、「つくばスーパーサイエンスシティ構想~科学で新たな選択肢を、人々に多様な幸せを~」というタイトルにしています。実証や実験に終わらない実装をさせて、住んでいる人にもっと利便性を感じてもらえるようにしていきたいと考えています。
Q この構想には多くの事業者さんが参加されていますが、参加へのお声がけなどどうされたのですか?他の自治体ですと、事業者さんを集めることも課題のようなのですが…。
金塚様:「つくばスマートシティ」の実現を目指し、産学官金が連携して事業を推進していくことを目的に、2019年6月に「つくばスマートシティ協議会」が設立されました。その協議会に参加されていた事業者が協力してくださったので、本当にありがたかったです。
大垣様:つくば市は2011年にモビリティロボットの公道の実証実験のための構造改革特区に手を挙げました。一定条件の中でセグウェイなどのモビリティロボットを公道で走らせました。その頃、これらはどのカテゴリーの乗り物か区別ができなかった状態だったので、小型特殊自動車や原動機付自転車という位置付けで、さらには保安要員が必要などある一定の条件をつけて実証したのですが、数多くの実証実験を実施するうちに、安全性が担保されていきました。
他にも国際戦略総合特区としていくつかのプロジェトにも取り組んできました。こうしたさまざまな取組を試行錯誤して、いよいよこれらを社会実装していく、その集大成がスーパーサイエンスシティ構想という位置付けだと考えています。
金塚様:市民も実証実験を見慣れているので、スーパーサイエンスシティ構想への理解もしやすく、市長がスローガン的に言っている「ともに創る」ということへの理解も得られやすい状況になっているのだと思います。つくば市の子どもたちは、ロボットが配送作業をしている光景なども見慣れていますから(笑)。
Q つくば市はシニア層を含め、市民も協力的ですよね?これも昔からの取り組みによるものですか?
金塚様:科学の街という歴史があったので、市民にとって未来図が描きやすかったと思います。その恩恵でこんなサービスが受けられるという理解が得られやすいのかもしれません。
つくばスマートシティアプリ「つくスマ」の課題
Q つくばスマートシティ協議会事業の一環として、凸版印刷とアスコエパートナーズと共に、つくスマアプリが共同開発されましたが、どのようなアプリか簡単にご説明いただけますか?
金塚様:市民が住んでいる地域や年代などの情報を登録すると、必要な情報がプッシュ配信されるというアプリで、行政手続きや地図情報も簡単に探すことができます。
あらゆる面で市民は困ったら「つくスマ」をタッチポイントにしてもらいたいので、その最初のステップとして、ホームページを見なくても、必要な情報を属性に応じたプッシュ通知でわかるようにしています。つくスマを起点に全部見えてくるようにするという発想で作っています。特に高齢者のわかりやすさには配慮しながら操作性やデザインにはこだわりました。
Q 今後、どのように進化させていくご予定ですか?
例えば、最初に乗り物の予約をして、乗ったら移動中に顔認証で病院の受付ができ、診療が終わったら支払いもキャッシュレスでできて…というふうに、ワンストップで操作できるアプリにしていきたいと思っています。さらに多言語対応などを含め、市民のニーズに寄り添っていきたいので、UXの部分も向上改善していけるようにしたいです。
スーパーシティ構想を推進する組織作り
Q UXについて職員の方の研修はやってらっしゃるのですか?
家中様:直接、UXやデジタル系の職員教育はないのですが、風土として自分だったらこれをやるためにどうするといいか、そういう視点で見ている職員は多いです。
データ活用研修は5年くらいやっています。研修計画に基づかない説明会を1回やっても継続性がないので、職層に合わせて研修を構築しています。管理職には、上長としての心構えを、主査級には実践的な内容を、主事や主任クラスには入門的なプログラムとしています。人事研修に組み込んでいることもあり、「自分だったらどうする」という職員の考え方の下地にはなっていると思います。
Q 課をまたいで、束ねていかれるために工夫されたことはどんなことですか?
金塚様:昨年度までは、つくばスーパーサイエンスシティ構想の先端的サービス5分野で関係する課のキーマン的な人をある程度決めて、スマートシティ戦略室(当時)との兼務という形にしていました。自課の仕事以外でも兼務を立てたらやるしかない状況です(笑)。
家中様:私は昨年度、4つも兼務があって、業務のコントロールも自分でしないといけないので結構きつかったです(笑)。当時はテレワークで大変だったのですが、チャットでそれぞれの部署から仕事の依頼がくるので。
金塚様:現場はきつかったのですが、そうやって強制的に兼務を立てたことで組織に横串をさす形になり、コミットを引き出しつつチームとしてやれたことが大きかったです。
大垣様:私は、前は財政課だったのですが、今はスマートシティ戦略課に移動しました。
金塚様:いろいろな課の人がきてくれてありがたいです。
計画を立てるより仕組化することで職員の意識を変える
Q つくば市のオープンデータ化はどこまで進んでいますか?
金塚様:マイナンバー利用拡大で、医療機関で持っている情報と市で持っている情報を掛け合わせて、健康寿命について使いたいという発想など、利用範囲の拡大の規制緩和までスーパーシティでは唱っています。ただ、その基盤をどうするのかはまだ決まっていません。つくスマはデータ連携基盤の出口であり、さまざまな表現の仕方の一環となっていくと思いますが、どう組み合わせて、どういうサービスを提供するか、課題ですね。
家中様:つくば市のオープンデータについては、今は、あるものを出すという状態ですね。
加工して出す、使いやすいようにデータを出すのは次の段階ですが、それを主査級研修で学ぶプログラムになっています。今はあるものを出すから次の段階に行くのに結構ハードルがあると感じています。
データの出し方にはいろいろあると思いますが、つくば市はそれぞれの担当課がそれぞれで出すという方針があります。今はうまく加工できているところもあれば、PDFのまま出しているところもある状態です。始めた頃に比べると出ている数は増加していて、データセットは350くらい、細かくデータを数えると軽く1000を超えていますので、数としては出ていると思います。
大垣様: 今はデータを出す側もただ出しているという状況かもしれませんが、このデータがどう使われているのかがわかると出し方も変わっていくと思います。
家中様:多くの自治体職員は「何のためにやるのかわからないとやりたくない」、「誰が使うか何のためか」納得しないとやってくれない、やりたくないという職員が多い。まずは職員に理解してもらわなければなりません。
つくば市の場合はまず外の人が使う前に、自分たちが使うようにしてみるようにしています。自分たちが使いやすいものになっていると、そのまま出せば外の人も使いやすくなりますから。
実はそういう意識を持つための職員研修も行っているので、オープンデータにするという意識は当たり前になりつつあります。ホームページのCMSにその機能があるので、そのままボタンを押せばデータになりますしね。
家中様:計画を立てるだけでなく、仕組みにするのが大事だと思っています。仕組み化して自分達で運用できるようにしていくのが重要かと。仕組みにするには当然計画しておかないと、後から予算をつけてくれないので、もちろん計画は作るのですが、まずは仕組みが重要です。
研修も仕組み化して入れたんです。地方公務員法第39条に基づいて研修計画と作らないといけないというのがあるのですが、その中にある「データ活用研修」もそのためだけの研修ではなく、その自治体が持っている総合的な計画、うちでいうと未来構想ですが、その戦略プランの中に「データ活用研修」を設定し目標を後付けして入れておくことで、やらなければいけないことになったんです。それが仕組み化の一つです。
「手続きアセスメント」導入で見えた今後の課題
Q 今後つくばスーパーサイエンスシティ構想を進めていくためのポイントとして、行政手続き棚卸し調査「手続きアセスメント」を導入していただきましたが、何か発見や驚きはありましたか?
家中様:面白かったのは、つくば市の場合は、手続きアセスメントの調査から、だいたい50ぐらいの手続きをオンライン化すれば全手続きの83%がオンライン化できることがわかったことですね。
費用対効果を考えて優先度をつけるのに、このデータを使えばある程度カバーできるというのがわかります。ただこの中にどうしてもできない手続きが出てくるので、今年はこれを使ってさらに整理していこうかなと思っています。
今回、一般市民が申請するケースから始めたので、法人の手続きにはまだ手をつけていないんです。法人は本人確認ができないことが大きなハードルなので、それがクリアできれば法人の手続きもできるようになると思います。
あと、導入した時に携わった職員は理解しても、同じ課の中で認識がバラバラということもよくあります。そういった横の連携ができていないところをテコ入れしたいですね。
せっかく導入したツールを使いこなせていない、ツールの機能を知らず、紙で出していたということもあり、上層部からも指摘されています。そういう部分は早く整理したいと思っています。
Q 「手続きアセスメント」では、今やっていることを可視化することが大切ですし、見たいデータをやりたいことに即して抽出することができるようになっているので、ぜひご活用いただければ。
家中様:すごく使えるデータですね。過去のデータと付き合わせておかしいところを修正しながら、今年は整理していこうと思います。
*つくば市が実施した「手続きアセスメント(行政手続き棚卸し)」の特徴や効果についての詳細はこちらをご覧ください。
国・自治体向け行政DX導入支援「手続きアセスメント(行政手続き棚卸し)」
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