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2022年3月23日

世界各国のマイナンバー制度の考え方や仕組みを学ぶ【マイナンバー制度②】

国民に番号を付与して情報を管理する共通番号制度は、海外の多くの国で早くから導入されています。共通番号制度の導入国の考え方や仕組みを学ぶことは、日本のマイナンバー制度を理解するためにも重要です。ここでは、スウェーデンやデンマーク、韓国、フランスの個人番号制度導入の経緯やその仕組み、考え方を紹介していきます。

共通番号制度で日本は後発組

日本の共通番号制度である「マイナンバー制度」は、紆余曲折を経て、2016年1月から本格運用が始まりました。

※マイナンバー制度が成立するまでの経緯については、「マイナンバー制度①|どこまで知ってる? マイナンバー法が成立するまでの紆余曲折」の記事を参照してください。

国民一人ひとりに番号を付与して情報を管理するという共通番号制度の仕組みが導入されたのは、先進国のなかでは日本は後発組となっています。後発組であるからこそ、各国の事例をふまえて制度構築が行えたという利点もありますが、先行する各国の共通番号制度の事例から、学ぶべき点も数多くあります。

スウェーデン|PIN

スウェーデン|PIN
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はじめに、社会保障世界一と言われるスウェーデンのパーソナルナンバー制度について見ていきます。

マイナンバーなしの生活は不可能

スウェーデンの個人番号制度であるPersonal Identity Number(PIN)は、1947年に導入されました。1960年代後半には、すでにデジタルデータ化が始まり、1991年に国税庁の所管となっています。

PINは10桁の数字からなり、生年月日や性別などをもとに国税庁によって付与されます。子供が生まれると病院が国税庁に連絡し、国税庁によって付与された個人番号が両親に伝えられることになります。この個人番号に紐づけられる情報には、氏名、住所、出生地、未婚・既婚の別などほか、既婚者の場合には配偶者や子の氏名、所有不動産、死亡後の埋葬場所などがあります。国税庁は、これらの情報を必要とする関係機関などに配分するなどの役割を担います。

社会保障や公共サービス、公的機関の利用のほか、銀行口座の開設や民間のサービスの利用に至るまで、生活のあらゆるシーンでPINが必要となるので、スウェーデン国内での生活はPINなしでは不可能です。

個人情報に対する考え方は日本と大きく違う

スウェーデンでは、誰でも簡単に個人情報を閲覧できるサイトが運営されています。このサイトでPINや名前を入力すると、誰でも個人情報を見ることができます。住所はもちろん、家の写真や電話番号、家族構成、年齢などもわかります。スウェーデンでは、このような情報は隠すようなものではなく、漏えいを危惧するような個人情報など存在しないというのが、スウェーデンの考え方なのです。

マイナンバー制度が男女格差の解消に寄与

いまでこそ男女の平等が進んでいるスウェーデンですが、男女格差が社会問題となっていた時期もありました。その改善は、フェミニスト活動によるものではなく、経済の低迷を克服するために女性の社会進出を期待した政府の強制的な施策によるものでした。誰がどれほどの賃金を得ているかは、公然の情報として誰でも取得することができるため、男女格差が目立つ場合には、その公開によって社会的な制裁が加えられることがあり得る社会なのです。

デンマーク|CPR

デンマーク|CPR
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デンマークにおいて、全市民の名前、住所、家族構成などの情報を地方自治体が管理するようになったのは、1924年のことでした。しかし、1960年代には登録情報の利用頻度が高くなり、小さな自治体などではこの業務に困難をきたすところも出てきました。こうして新たな個人番号制度の必要性が高まり、電子化の潮流も受けて、1968年の市民登録法によって導入されたのが、「Det Centrale Personregister(CPR):国民中央個人登録番号」でした。

全国民が保有。医療場面でも必須

健康カードのサンプル/「ZOOM UP 世界のマイナンバー」自治体国際化協会ソウル事務所 http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_379/04_sp.pdf
健康カードのサンプル

CPRは、すべてのデンマーク国民が保有しています。デンマークで生まれた子供は、担当助産師によってすぐに登録手続きが行われ、3カ月以上デンマークに働く外国人もCPRを取得することが必要です。行政サービスを受けるときにはもちろん、銀行口座の開設、ライフラインの申し込み、図書館の利用、就職や起業の際にも、本人確認のためにCPRが必要になります。医療サービスを受けるときにもCPRは必須で、手術時に手首に巻く患者識別用のタグにもCPRナンバーが印刷されているほどです。

コロナ禍のPCR検査・給付金支給に大貢献

デンマークでも新型コロナウイルスによる感染拡大が見られ、1日最大15万人がPCR検査を受けることがありましたが、CPRナンバーによって迅速な検査と検査結果の通知が可能になりました。また、ロックダウン対応のために用意された補償金の給付でも、CPRナンバーが大いに役立ち、5〜10分ほどで申請が完了し、約1カ月後には給付金が銀行口座に振り込まれたそうです。

韓国|住民登録番号

韓国|住民登録番号
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韓国では、1962年に制定された「住民登録法」によって、住民登録番号制度が導入されました。当初は、あくまでも住民の居住関係の変化に伴う行政業務の混乱を防ぐためのものでした。

1968年1月に北朝鮮の特殊部隊が大統領府を襲撃して、当時の朴正煕大統領を殺害しようとした事件が発生しました。これをきっかけに、韓国政府は住民登録法を改正し、北朝鮮からのスパイ識別など個人を特定する目的で、18歳以上の国民全員に識別番号を付与しました。

2001年には、金大中大統領が、それまで省庁ごとに個別に推進してきた情報化を、より本格的な取り組みとして行政のデジタル化に着手しました。さらに盧武鉉大統領に政権が移行した2003年以降は、トップダウンでその対象をほぼすべての行政部門に拡大しています。

韓国では、住民登録番号を基盤とした行政サービスのデジタル化が進み、2020年7月に発表された国連経済社会局の「デジタル化政府ランキング」によると、韓国は、デンマークに次ぐ2位にランクされています。

17歳以上の者は発給を受ける義務

住民登録番号を記載した「住民登録証」については、17歳以上の者は発給を受ける義務があるとしています。氏名や住民登録番号、現住所、発行区役所名などが記載され、裏面には住所変更欄のほか指紋が登録されています。ちなみに、外国人の場合には、住民登録番号の代わりに外国人登録番号が付与されます。

この住民登録番号は、税、福祉、年金、教育などのさまざまな行政サービスにおいて利用されています。民間企業においても、携帯電話の契約、銀行口座の開設、インターネットの契約、ネットバンキングやネットショッピングなど、本人確認の手段として幅広く利用されています。

電子政府サービスが広く普及

インターネット上で各種行政手続きや証明書の発行が可能なポータルサイト「政府24」は、住民登録番号を基盤としています。「政府24」では、国や地方自治体の各種行政サービスを提供していて、住民登録番号を用いてアクセスし、約1300種類の申請および証明書を発行することができます。このような行政プラットフォームとしての機能に加えて、国民が利用しやすいサービスメニューとして「ワンストップサービス」「ライフサイクル別サービス」「パケージサービス」も用意されています。

「ワンストップサービス」とは、妊娠、出産、転居、相続などのライフイベントに必要となるサポートを一括して申請できるサービスであり、「ライフスタイルサービス」では、ライフステージごとに必要なサービスが提供されます。「パッケージサービス」には、住まい、近所割引、ペット、海外旅行、兵役などのメニューが用意されています。さらに「政府24」には、個人ごとに最適化された「マイライフインフォメーション」が提供され、8分野67種類の生活に関する情報を取得することができます。

行政安全部の「2019年電子政府サービスの利用実態調査」によると、「政府24」などの電子政府サービスの利用率は87.6%。満足度は97.8%、認知度は93.8%で、これらのサービスが国民に広く浸透していることがわかります。

2014年に1億人分の情報流出事件が発生

韓国では、国民登録番号に多くの情報が紐づけられているために、迅速かつ効率的にさまざまなサービスの提供が可能になっています。一方で、これらの情報が流出してしまえば、多大な被害をもたらすリスクもあります。2014年には、クレジットカード3社社からのべ1億400万人分の情報が流出するという事件が発生しました。この事件を機に、法律がとくに認めた場合を除いて、住民登録番号を収集することが原則禁止されました。

フランス|NIR

フランス|NIR
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フランスの個人番号(NIR:Numéro d’ inscription au répertoire)は、「社会保障番号」と呼ばれ、おもに社会保障の分野で利用されています。

フランス国民は個人情報の取り扱いに敏感

フランスは、個人情報の取り扱いについてセンシティブな国であり、個人情報保護には早い時期から先進的な取り組みをしてきました。1974年、内務省は住民登録情報や警察情報などの政府保有個人情報をひとつのデータベースに統合するプロジェクトが発足させましたが、政府がさまざまな個人情報を紐づけることに国民やマスコミが反対運動を展開して中断されました。これを受けて政府は、法案策定委員会を設置し、政府による個人情報取り扱いについて検討を重ね、1978年に「情報処理と自由に関する法律」(個人情報保護法)を制定しています。

国民性を反映した個人情報の厳しい利用制限と監視体制

1978年に制定されたフランスの個人情報保護法は、公的機関・非公的機関が保有する個人情報に「不正・違法な個人情報収集の禁止」「情報提供義務の有無や対象等についての通知」「本人の同意なしでの人種・政治的信条等の収集の禁止」など、厳しい制限を設けるものでした。その監督機関として設置されたのが、 CNIL(Commission nationale de l’infromatique et deslibertes:情報処理と自由に関する全国委員会)です。CNILは、フランスにおける個人データ処理に関して強い影響力を持ち、フランス国民には民間企業や政府による個人情報の悪用への警戒感が強いため、国民は基本的にCNILの活動に強い信頼を置いています。

電子政府構築の取り組みは後発組

個人情報の取り扱いについてセンシティブであったために、フランスの電子政府構築が本格的に始まったのは2002年のことで、他の欧州各国に比べてやや後れをとることになりました。

フランスでは、出生届が受理されたときに社会保障番号が付与されますが、この社会保障番号がフランス版のマイナンバーNuméro d’inscriptionau répertoire(NIR)となります。この番号は、性別や出生年月、出生地を示す数字と固有のシリアルナンバーなど15桁の数字で構成され、個人に固有かつ不変の番号として、海外領土を含め、フランスで出生したすべての人および申請した外国人に付与されます。

社会保険番号は、おもに社会保障の分野で利用され、雇用契約や医療保険地方公庫、家族手当公庫などの手続きでも必要になります。社会保障番号を使用する機関やその目的について、政令によって明確に定められています。また、社会保障番号を使うことのできる機関は、CNILの許可が必要で、個人情報保護の観点からその取り扱いはついては厳格に規定されています。

電子政府構築によるIDカード戦略

電子政府の構築に向けて本格始動したフランス政府は、3つのIDカード関連の政策を打ち出しました。「電子保険カード(Carte Vitale)」のバージョンアップと、「国家身分証明カード(CNIE)」の電子化、「日常生活カード(CVQ)」の提供です。

もっとも普及している「電子健康保険カード(Carte Vitale)」

Carte Vitale(健康保険証)/「ZOOM UP 世界のマイナンバー」自治体国際化協会ソウル事務所
Carte Vitale(健康保険証)

フランスでは現在、いくつかのIDカードが存在しますが、そのなかでもっとも普及しているのが「Carte Vitale(電子健康保険)」カードです。社会保障番号付きの健康保険証で、フランスで生まれ育った場合、16歳になると自動発行されます。医療費の払い戻し、第三者支払制度(現物給付)の利用が可能になるほか、コロナ禍のPCR・抗原検査では、Carte Vitaleと身分証明書を提示することで、自己負担なく検査を受けることができました。

2021年に更新された「身分証明カード(CNIE)」

2021年に更新された「身分証明カード(CNIE)」
CNIEカード

フランス政府が推進するデジタルIDプログラムで利用するIDカードが更新されました。これがCNIEカードです。本人の同意のもと、スマートフォンの背面にCNIEカードをかざすことで、リモートでの身元証明やオンライン取り引きが可能になります。国家情報システムシステムセキュリティ庁(ANSSI)が認定した認証システムと連携し、安全なオンラインサービスを利用できるようになりました。

フランス政府は、国民デジタルIDプログラム「France Identité Numérique」のプラットフォームとして、「FranceConnect」を運用しています。「FranceConnect」には、2800万人以上が登録し、900のサービスプロバイダーが各種サービスを提供しています。CNIEを利用すれば、このような提供サービスに、より安全にアクセスできるようになります。

日常生活カード「CVQ」

CVQは、地域単位で行われる公共サービスなどに、1枚のカードで安全・手軽に利用できるようにするために考案された電子カードです。役場や図書館などをはじめ、スポーツ・サービス、映画館、交通、レストラン、託児所などへのアクセスを、市民に迅速かつ容易に提供することを目的としています。フランスでは、ITに対する市民の関心がまだ低いため、政府は、生活に密接した地方行政レベルでITに接する機会を増やすことによって、国民に先端技術の必要性、利便性を実感させ、国全体の情報化社会に対する意識の向上につなげたいという狙いがあったようです。

このように各国特有の背景・事情でマイナンバー制度は浸透・普及してきました。個人情報についての考え方が私たち日本人の感覚に近く、個人共通番号の導入にも慎重だったという意味で、とくにフランスでの導入経緯や制度設計の考え方は、大いに参考にしたいところです。マイナンバーカードの普及率を高め、日本のマイナンバー制度をさらに充実させたものにするために、諸外国がたどった道を参考にしながら、利用者である国民の声を聞きながら、日本ならではの制度へと発展させていくことが期待されます。

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