【スーパーシティ】「スマートシティ構想」をブーストさせる「まるごと未来都市」構想
- category : GDX ナレッジ #スマートシティ
- writer : GDX TIMES編集部
index
スーパーシティ構想は、国家戦略特区制度を活用しつつ住民と競争力のある事業者が協力し、世界最先端の日本型スーパーシティを実現しようという構想です。ここでは、この構想が生まれた背景やコンセプトに触れ、その目標である「まるごと未来都市」の実現に向かう日本の状況を紹介していきます。
スーパーシティとは
スーパーシティとは、どのような都市をあらわす言葉なのでしょうか。内閣府の国家戦略特区サイトの記述から読み解いていくことにします。
内閣府の国家戦略特区サイトでは、スーパーシティ構想について以下のとおり定義しています。
地域の「困った」を最先端のJ-Techが、世界に先駆けて解決する。「スーパーシティ」構想はこうした「まるごと未来都市」の実現を、地域と事業者と国が一体となって目指す取り組みです。
「スーパーシティ構想について」内閣府
※J-Techとは、世界に誇る ”日本で展開される技術” Japan Technologyの略です。
スーパーシティ構想は、医療や交通、教育、行政手続きなど、生活全般にまたがる複数の分野で、AI(人工知能)などを活用する先端的なサービスを導入することで、便利で暮らしやすいまちを実現していくものです。
スーパーシティ構想が生まれた背景
スーパーシティ構想は、日本社会の未来にあるべき姿を示すものですが、まずは、この構想が発表されるまでの経緯とその背景について確認します。
2008年頃から取り組み続けている「スマートシティ」構想
日本政府は、日本のあるべき未来の姿を「超スマート社会」として、その実現に向けた一連の取り組み「Society 5.0」を推進してきました。「Society 5.0」は、狩猟社会、農耕社会、⼯業社会、情報社会に続く新たな社会システムであり、「超スマート社会」に向かうための変革の道筋を示すものです。そして、この「Society 5.0」を先行的に推進する場が「スマートシティ」となります。
以下の記事もあわせてお読みください。
Society(ソサエティ)5.0|どんな社会?どう変わる?
スマートシティ②|「スマートシティ化」で各分野はどう変わる?
「スーパーシティ」構想には、日本のプレゼンスを高める狙いも
このように「スマートシティ」への取り組みは、2008年頃から官民の枠を越えて進められてきましたが、
この動きをさらに加速させる「スーパーシティ」構想の提起には、以下のような背景がありました。
デジタル技術を駆使した都市設計の動きが、国際的に急速進展
海外に目を向けると、AI技術やビッグデータを活用して、社会のあり方を根本から変えるような都市設計が進められていることがわかります。中国河北省に設置された雄安新区やカナダ・トロント市で推進される、まっさらなところから未来都市を新たにつくりあげる取り組みや、ドバイやシンガポールでは既存の都市をつくり変えようとする取り組みが見られます。
世界各国で「まるごと未来都市」はいまだに実現していない
「まるごと未来都市」の実現には、「エネルギーやモビリティといった個別分野にとどまることなく生活全般にわたり」「最先端のデジタル技術を一時的に実証するのではなく暮らしに実装し」「技術開発側・供給側の目線ではなく住民目線で未来社会を前倒しに実現」が必要です。これらを部分的に進める都市はありますが、「まるごと」実現することは、いまだにできていません。
日本で実践する場がない
日本には、この「まるごと未来都市」の実現に必要な要素技術は、ほぼ揃っています。ただし、現時点では実践する場がないため、「スーパーシティ」構想では、これを先行して実現することを目指しています。
スーパーシティ構想のコンセプト
日本でも「スマートシティ」や「近未来技術実証特区」などの取り組みはありましたが、エネルギーや交通などの個別分野での取り組みや個別の先端技術の実証などにとどまっていました。
スーパーシティ構想は、これまでの取り組みとは次元が異なり、「まるごと未来都市」をつくることを目指しています。「まるごと未来都市(スーパーシティ)」とは、さまざまなデータを分野横断的に収集・整理して提供する「データ連携基盤」(都市OS)を軸に、地域住民などにさまざまなサービスを提供し、住民福祉の充実や利便性の向上を図る都市であり、具体的には以下の3要素をあわせ持ったものであると定義しています。
生活全般を幅広くカバーする取り組みであること
自動走行や再生可能エネルギーなど、これまでに行われてきたような個別の分野に限定された実証実験的な取り組みではなく、決済の完全キャッシュレス化、行政手続きのワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取り組みであることが必要です。
2030年頃に実現できる取り組みであること
一時的な実証実験ではなく、2030年頃の実現が可能な未来社会での生活を、人々の暮らしや社会に先行して実装できる取り組みでなければなりません。
住民目線でよい暮らしの実現を図るものであること
システムやサービスの提供側や開発者の目線ではなく、あくまでも住民目線で、よりよい暮らしの実現を達成できるものであることが求められています。
「まるごと未来都市」を実現するための3つの取り組み
スーパーシティ構想が目指す「まるごと未来都市」を実現するために、どのような取り組みが求められているのかを見ていきます。
⽣活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供
「スーパーシティ」が有するべき都市機能として、内閣府は以下の10分野を挙げています。そして、少なくとも5つの分野に関連した取り組みとして推進することを、スーパーシティの条件としています。
- 移動:自動走行、データ活用による交通量・駐車管理、マルチモード輸送(MaaS)など
- 物流:自動配送、ドローン配達など
- 支払い:キャッシュレスなど
- 行政:パーソナルデータストア(PDS)、オープンデータプラットホームワンストップ窓口、APIガバメント、ワンスオンリーなど
- 医療・介護:AIホスピタル、データ活用、オンライン(遠隔)診療・医薬品配達など
- 教育:AI活用、遠隔教育など
- エネルギー・水:データ活用によるスマートシステムなど
- 環境・ゴミ:データ活用によるスマートシステムなど
- 防災:緊急時の自立エネルギー供給、防災システムなど
- 防犯・安全:ロボット監視など
複数分野間でのデータ連携
各分野のさまざまなデータを横断的に収集・整理して提供する「データ連携基盤」(都市OS)を軸として、関連する多様なデータを連携させ、共有する仕組みを用意することで、複数分野間での先端的サービスの実現を加速させます。
以下の記事もお読みください。
「都市OS|スマートシティ・スーパーシティ構想に不可欠なデータ連携基盤」
⼤胆な規制改⾰
「スーパーシティ」における先端的なサービスを実現するために、事業計画と規制改革案を同時に検討し、一体的・包括的な規制改革の実現を図ります。これまで、地域限定で規制特例を設ける仕組みとして国家戦略特区制度がありましたが、これには限界があるため、従来の国家戦略特区制度を基礎としつつ、より迅速かつ柔軟に独自の規制特例を設定できる法制度の整備が待たれていました。
スーパーシティ構想を支える「スーパーシティ法」
「スーパーシティ」構想を推進するためには、複数の分野・サービス間でのデータ連携基盤が不可欠です。このため2020年5月、従来まで規制特例の設定に使われていた国家戦略特区法(2013年12月に成立)が改正されました。これが「スーパーシティ法」(正式名称:国家戦略特別区域法の一部を改正する法律)です。この法改正によって、より柔軟で迅速な規制緩和や特例措置が設定できるようになりました。
国際戦略特別区域とは
地域振興と国際競争力の向上を目的とした経済特区のことで、一般的には「国家戦略特区」と呼ばれています。
その目的は「世界で一番ビジネスをしやすい環境」をつくることであり、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇などを行う制度として創設されました。この国家戦略特区を成長戦略の柱として掲げた第二次安倍内閣時代に「解雇ルール」「労働時間法制」「有期雇用制度」の雇用ルールが改正されました。
スーパーシティ法の役割
しかし、未来都市の設計には岩盤規制の突破を目的とした規制緩和だけでは不十分です。スーパーシティ法では、新たな特定事業と特例措置を追加しています。
複数分野の規制改革を同時に進めるための手続き設定
これまで、複数のサービスを同時に実現しようとする場合には、関連する複数の省庁との協議が必要でした。ところが立場が異なる各省庁個別の助言などを受け入れようとすると、事業の内容自体がバラバラになってしまうことがあります。このためスーパーシティ法では、このような提案を、まず内閣総理大臣に提出。その後、提案内容を公表したうえで各省庁での検討および諮問会議の審議を経て、新たな事業の推進へと向かうことができるようになりました。
国や自治体の保有データをデータ連携基盤整備事業者に提供可能に
複数の省庁や自治体などからデータを収集・整理し、AIやビッグデータを積極的に活用した先端的なサービスの開発およびその実現を支えるデータ連携基盤整備事業者は、国が定めた安全基準などを遵守することを前提に、国や自治体などに対して、その保有データの提供を求めることができるようになりました。この特例措置が従来の「国家戦略特別区域法」と異なるのは、区域計画の段階で自治体議会の承認と住民合意が前提となることです。
「スーパーシティ」は「スマートシティ」となにが違う?
これまでスーパーシティについて、その概要を紹介してきましたが、あらためてスマートシティとの違いについて見ていくことにします。内閣府によるスマートシティの定義は以下のとおりです。
[手段]ICT 等の新技術や官民各種のデータを活用した市民一人一人に寄り添ったサービスの提供や、各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化等により
[動作]都市や地域が抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける
[状態]持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場
「スマートシティガイドブック」内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省 スマートシティ官民連携プラットフォーム事務局
先述したスーパーシティ構想の定義と比較すると、言葉の違いはあるものの、目指す社会としてそれほど大きな違いがあるものではありません。都市を対象とするものであること、変革の手段としてITなどの技術を用いるという点は一致しています。違いとして挙げられるのは、以下のポイントです。
実証実験ではなく「まるごと未来都市」をつくる
スマートシティは、都市が抱える諸課題に対して、エネルギーや交通などの個別の分野ごとに、先端技術を導入し、その実証を目指すものでした。スーパーシティは、分野や組織の垣根を越えたデータ連携基盤(都市OS)を軸として、新たな都市(まるごと未来都市)をつくってしまおうというものです。
「住民主導」を強調
さらに、サービスの提供者である行政や企業、それらを実現するシステムの開発者の目線ではなく、住民目線でよりよい未来を実現しようとする点も、スマートシティをさらに強化・発展させた取り組みとなっています。住民の合意のもと、住民が参画し、住民の主導によって、それぞれの地域にふさわしい未来社会を築いていこうとするものです。
最初から複数分野をカバー
スマートシティは、移動や物流などの分野ごとの取り組みを徐々に広げていく構想でしたが、スーパーシティでは、最初から複数の分野を広くカバーし、生活全般にまたがる複数のサービスが導入されることを前提としています。このため、分野横断的なデータ連携基盤を整備し、大胆な規制改革を実施することが不可欠となっています。
各省の巻き込み方が同時・一体・包括的
これまで、複数のサービスを同時に実現しようとしても、関連する複数の省庁との協議や調整が入り、それぞれの意向に沿うことができずに事業自体を断念せざるをえないこともありました。スーパーシティでは、各省庁の検討にも内閣府が加わることで、新たなサービスを創出するための大胆な規制改革を断行しやすい環境が整いました。これは、スマートシティ構想を、より「早く」「具体的に」実現させるための改革でもあります。
「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の指定計画が進行中
2020年9月にスーパーシティ法が施行、同年10月には「国家戦略特別区域基本方針」が変更され、以下のとおりスーパーシティ型国家戦略特別区域の指定基準が制定されました。
この指定基準のもと、2020年10月からスーパーシティ提案の公募を開始。2021年4月に提案を締め切りましたが、31の地方公共団体からの提案が集まりました。その後、専門調査会による提案内容の精査を経て、10月に再提案の提出が完了しました。
今後は、スーパーシティ区域指定に向けて規制改革の提案の具体化、専門調査会による区域指定原案の検討、そして区域指定へと進むことが計画されています。
日本政府は、スーパーシティなどに適用した規制の特例措置によって社会的混乱を招かないことを前提として、順次全国へと広げていくことを検討していくそうです。規制緩和の先鋒としての役割も担う「スーパーシティ区域」に指定される地域の取り組みや動向を、今後も注視していく必要がありそうです。