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2023年3月29日

行政手続オンライン化 何からはじめる?~加古川市の事例に見る行政DXの進め方①

「行政手続のオンライン化」をテーマに、デジタル庁はじめ、多くの自治体・企業でオンライン化のコンサルティングを行ってきたアスコエパートナーズの北野が、注目自治体・加古川市の多田様にその取り組みについてお話を伺います。
「他の自治体はオンライン化をどう進めているの?」「情報はいろいろあるけど、まず何から着手していいか知りたい!」そんな悩みを抱える方々はぜひご参考に!

(この記事は2023年2月17日に開催したウェビナーのレポートです。)

<参考>

地方公務員アワード2021受賞 加古川市・多田氏が推進したコロナ対応

加古川市の行政手続棚卸調査について【「手続オンライン化検討研究会」報告①】

兵庫県加古川市 企画部政策企画課 

多田功氏

株式会社アスコエパートナーズ 取締役 

北野菜穂

加古川市の手続オンライン化事例

北野:

加古川市は、コロナの特別定額給付金やワクチン接種予約抽選システムでたいへん話題になった自治体です。それを実践された加古川市の多田様と共に「行政手続のオンライン化は、どこから、どのようにはじめるべきか?」についてお話しをお伺いしていきたいと思います。

多田様は「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2021』も受賞されています。以前のインタビュー記事もご覧ください。

地方公務員アワード2021受賞 加古川市・多田氏が推進したコロナ対応

多田様より、まず、加古川市の手続オンライン化事例からお話しをお聞きしたいと思います。

話題になった「特別定額給付金システム」と「ワクチン接種予約抽選システム」

多田様:

よくお褒めいただくのは、コロナの特別定額給付金とワクチン接種予約抽選システムの構築です。

特別定額給付金がはじまったときに、いろいろな自治体がマイナポータルを使ったり、紙の申請等で苦労したと思うのですが、加古川市では独自で申請者番号をふって、それを市民の方に入力してもらい、スマホから本人確認書類と通帳コピーの写メを送れば申請していただける仕組みを作りました。その際、申請フォームだけでなく、自治体内部での処理も一気通貫できるものを作って、さらにそれをオープンデータとして公開したのが話題になったようです。

もう1つは、ワクチン接種予約の申し込み抽選ですね。

最初の頃はワクチンの量が少なくて、高齢者からという順番になりましたが、朝から晩まで電話しても予約できないという状況をどうやったら解消できるかということで抽選方式というのを作ったんです。1度申し込めば外れても2回目3回目に自動的に抽選される仕組みで順番が必ず回ってくるようにし、さらに、一緒に接種に来るご家族も同時に1名申し込めるようにしたのが、好評だったようです。

これを官邸のHPや、当時ワクチン担当大臣で現デジタル大臣の河野さんがSNS等で取り上げてくださったことで、話題になりました。

もともと手続のオンライン化が目的というわけではなく、「市民の幸福感の向上」という市長の方針に沿って、自分たちも無理をせず、ミスなく適切に処理できるような環境にしたいと考えたことですが、市民の方々にも喜んでいただけて良かったと思っています。

手続オンライン化はスマートシティ推進の一環

多田様:

加古川市は、人口約26万人の都市です。刑法犯認知件数が多く、全国的にも子どもが巻き込まれる犯罪が増えつつあったことから、地域の安全安心に対するニーズは非常に高い状況でした。そこで、市内の通学路等に約1500台の見守りカメラを設置することになりました。もちろん、プライバシーの問題もあり、抵抗感のある方もいらっしゃいましたが、丁寧に説明し、管理の方法やどういった場合に画像を使えるのか等、条例も制定し、合意を取ってきました。市長も自ら12会場のタウンミーティングを回って説明するなどして理解促進に努めました。これが最終的にはスマートシティ推進のキッカケになっていますね。実際、見守りカメラ設置で刑法犯認知件数がどんどん減り、令和3年には、平成29年の半分の数に減りました。

見守りサービスも実施しています。BLE(Bluetooth Low Energy)タグという、微弱な電波を発して検知器で検知するタグを持っていただき、小さいお子さんや高齢者のいる場所をご家族が把握できるというものです。見守りカメラは基本、通学路などを中心に設置しているので、そのエリアを外れた場合も検知できる移動式検知器が必要になり、「かこがわアプリ」を作りました。アプリをダウンロードしてもらったり、公用車、郵便局のバイクなどに移動式検知器を設置したり、地域の見守りを強化しています。このかこがわアプリの検知機能を他地域にどのように広げていくかについて今取り組んでいるところです。

今後は、カメラから取れるデータを活用するなどして、プライバシーを侵害することなく、地域の安心安全を強化し、街の賑わいを支援し、シティプロモーションにつなげていきたいですね。

実は今、免許を返納した高齢者に自転車を貸し出して、本人同意のもとで走行情報を把握することを始めようとしているんです。もちろん、自転車には見守りタグの検知器をつけているので、高齢者が見守る側になるという側面もありつつ、データを取ることで、どういった場所に行かれてるのか、無理な横断されていないのか、急ブレーキを踏んだのはどこか、などが解析されていきます。今は無償なのですが再来年度以降は有償にする予定で、走行距離が長かったり、安全運転に寄与していれば価格を下げるというようなことも考えています。

あと、今、ウェルビーイングという言葉がよく使われますが、小さいお子さんのウェルビーイングをどう測るのかが課題となっていました。そこで、子育てプラザで遊んでいるお子さんの笑顔をカメラで検知してこれを施策に活かせないか、笑顔認証のシステムも考えているところです。

このように、デジタルの力もどんどん活用して、街が賑わって、加古川市を市長が掲げているように「市民の皆さんが夢と希望を描き幸せを実感できるまち」にするべく、加古川市ならではの魅力を創るサポートの1つとしてデジタル化・スマートシティの推進を強化しています。

北野:

多田さんとは、そもそも、自治体が行政手続オンライン化を進めるからには、まず状況の実体可視化が必要ではないかと話し合いましたよね。私もよく覚えているのですが、もともと加古川市はオンライン化推進をしたかったのではなく、住民と住民が暮らす街がどういうふうによりよい発展をしていくべきか、という点が起点でした。手続棚卸を実施する目的も、単に行政手続オンライン化のためのみではなかったわけですよね。

多田様

そうです。手続はしなくていいのが一番いいと考えています。市民の生活の質を上げるために行政サービスがあるので、無駄な時間を使わせたくないですから。行政サービスもスマートシティの一環なので、それがスマートシティのあり方でもあるのかなと。

なぜ行政DXが進まないか

多田様:

よくこんな質問をされますが、やはり、それほど困っていないんでしょうね。ワクチンのときに、まだFAXなんかで作業しているから…とFAXが悪いように言われましたが、実際はFAXがダメなのではなく、紙で集まったデータをデジタル化する後処理が問題だったわけで。アナログでも十分暮らしていけるし、日本社会は成熟しているので、課題が見つけにくいのかもしれません。

ただ、自治体職員の数は半減すると言われているので、コロナのときのように何とか人力に頼って乗り切る…ということが難しくなるわけです。そのことを肝に銘じて、DXに取り組まなければいけません。

課題に関してもあるべき姿をきちんと描けていないことが、行政DXがなかなか進まない原因かと思います。我々の業界では昨日と今日と明日、明後日、1年後と同じことができることが評価されてきましたが、民間企業だったら、そんなことをしてたら会社がつぶれてしまいますよね。そこの世界観は全く違うんだろうと思います。

「行政DXは誰がやるのか」となったとき、「デジタル」とつけば情報部門に丸投げというのがよくあるパターンです。外部人材を連れてくれば…という話も聞きますが、そんな人材は来ないと思った方がいいでしょう。結局、自分事にして解決方法を考えなければいけないわけです。

加古川市の「行政手続棚卸調査」で見えた2848種類の手続

北野:

行政手続オンライン化を推進するにあたり、まずは、アスコエパートナーズの手続棚卸調査をどのように進めていったかを具体的にお話しいただけますか?

多田様:

最初はホームページから手続を抽出してもらったのですが、それだけで1800種類ぐらいの手続がありました。さらに、不足部分を各課にエクセルシートを配って50項目ぐらいの調査項目をヒアリングしてまとめたら、最終的には2848種類の手続があることがわかったのです。

自分たちが担当している手続がどれぐらいあるのかを認識できたことも大切でしたし、全体像を知ることはとても大事だったと思います。

調査項目は以下の通りです。

さらに、どれぐらいオンライン化できているか確認したところ、2848種類に対し、電子化済み57、実施予定あり29、未実施2762種類という数字が突き付けられ、こんなにできてないんだということがよくわかりました。

年間処理件数を基準にオンライン化する手続を絞り込む

多田様:

手続がいくつあるのかがわからないと、頂上が見えてない山に登るのと一緒。自分がどこにいるか現在地を知るために淡々と可視化することはやったほうがいいと思います。加古川市では、2848の手続を認識したのち、次の方針として、年間処理件数が多いものをやりましょうと決めました。

調べてみると、上位23の手続をオンライン化すると全体の56%、185種類の手続をオンライン化すると全手続の87%に相当することがわかりました。

これなら担当課も無理なくできるかもしれない、これは可視化したからこそわかったことです。結局、

・年間処理件数1000件以上の手続185件

・オンライン化への制約がない手続199件(書面での実施、添付書類、対面、押印、手数料すべて不要)

はやりやすいということを確認できました。

一方、オンライン化できないもの、しにくいものも整理しておくことも大事です。

オンライン化に向かない図面が必要な手続や国の法律や制度でできない30件などが挙げられました。何でもかんでもオンライン化しないといけないわけではないのです。

これらの結果を踏まえ、検討課題として、以下の項目を挙げました。

検討課題はいろいろあるので、まだまだ取り組みの途中ですが、現在、令和5年中に1100以上の手続がオンライン申請対応できる見込みです。ただ、紙がデジタル化しただけにならないようにどう支援できるかはこれからの課題ですね。

デジタル手続条例の制定・改正の必要性

北野:

自分たちが管理している、加古川市民が実施している行政手続の全体像が可視化できたことで、手続オンライン化のためには各種の障壁があることがデータとして収集できました。例えば、行政窓口で対面で行われている手続をオンライン化するために、デジタル手続条例の制定が必要でした。加古川市はこの条例を制定したのが比較的他自治体よりも早かったと思います。

多田様:

そうですね。個別に条例改正をしていたらたいへんなので、すべての手続を横串でオンライン化できるように早々に取り組みました。

条例制定の目的・骨子としては、市民の利便性向上と、行政運営の簡素化・効率化をもって、市民生活の向上に寄与するということです。職員の業務も改善することで、最終的には市民生活の向上が実現します。市民生活向上のためのICT活用を目指すという方針です。

デジタル手続条例の制定ポイント

北野:

加古川市では令和3年に条例が新規制定されました。複数自治体でも次々に条例整備が実施されています。そこで、例えば、スーパーシティに選定された茨城県つくば市の状況も調べてみました。つくば市は既存にあった条例を全部改正されています。条例整備にむけて、準備されているところも多いと思うので、デジタル手続条例の制定ポイントを具体的にまとめておきます。

【ポイント1】個別条例改正を不要にする

条例改正を個別にやるのはたいへんなので、「デジタル手続条例」を設定し、横串で個別手続のオンライン化をスムーズに行えるようにするのがポイントです。

【ポイント2】対象手続の範囲を広めに設定する

加古川市の場合も、対象機関に「議会」が入っていないとオンライン化できる機関とできない機関が出てくるので、対象範囲を「等」を使って広めに取りました。

【ポイント3】具体的に範囲を明確にして、一つ一つ丁寧に規定する

「等」「など」をよく使いがちですが、列挙できるものは具体的にして「等」が示す範囲を明確にすることが大事です。

【ポイント4】個人番号カードの利用を可能とする

つくば市の例ですが、マイナンバーを前提としたものになっています。マイナンバーカードは巨大なインフラになることは間違いないので、他の自治体でもこれを前提としているところが多いようです。

手続業務を可視化して始めてみる

北野:

加古川市では、手続棚卸調査分析の結果、オンライン化する手続の優先順位を決めることができ、条例も整備し、準備は着々と整えてきたのですね。

多田様:

次の段階として、行政の手続業務を可視化するようにしました。そのときによく使っているのが、大谷翔平さんが使っているといわれるマンダラートです。

真ん中に目標を書き、その周囲にそのためにやることを8つ出し、その8つをさらに8分割して、自分が何をしなければいけないかを整理したものなのですが、これを使って自分の仕事を整理するんです。自分が何をやっているかわかっていないと業務の効率化について語れないと思うので、まずは整理しましょうというところからはじめています。おそらく全部は埋められないのですが、1つを取り出して業務フローを作ると、マンダラートと業務フローで引き継ぎ書になるんですよ。

こういったものを作ると、失敗したら評価が下がるんじゃないかと心配して嫌がる方もいますが、私は「失敗はしたほうがいい」と思っています。失敗しても直すことによって早く成功に近づく、やらないと何もはじまらないので。

よく言われるデジタル化の3段階でいうと、

多くの自治体で今やろうとしているのはまだ1つめですが、もう3つめのトランスフォーメーションをやらないとダメなんです。

住民サービスをデジタル化しても、職員が裏で紙を処理して…というのでは、本質的ではなく、全体像を見ることが重要です。業務フローを書くと、どこに時間がかかっているか全体像が見えるので、かかっている時間の2割を削減するには何をやるか常に考える訓練をすることが1つのやり方です。

ただ、いきなり全部はできません。私の好きな言葉に「スモールスタート」があります。一歩ずつ階段を上がっていくのがすごく大事じゃないかと思うのです。まずは簡単にできそうなこと、時間をかけずにできそうなことからやりはじめるのもいいとのではないかと。

もう1つ、最近よく話すのですが、例えばガウディのサグラダファミリアのように、ゴールが見えている形でそこに向かって進んでいくやり方もありますが、加古川市で民間事業者の方がやっている朝市のように、オープンで皆が参加できる自由な場で何か新しいものが生み出されていくというのも、地域の姿としていいのではないかと考えているところです。


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