地方公務員アワード2021受賞 加古川市・多田氏が推進したコロナ対応
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- writer : GDX TIMES編集部
『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2021』受賞者の兵庫県加古川市・多田功氏に、受賞理由ともなった特別定額給付金システム、ワクチン接種抽選サイトの立ち上げ秘話や、加古川市のDXの取り組みについてお聞きします。(インタビュー:GDXタイムズ編集部)
技術者じゃなくてもできる、現場目線のDX
Q 多田様は「技術者じゃない」というお話をされていますが…
多田様:そうなんです。市役所に入るまで、ゲーム以外パソコン関係は全くダメでした(笑)。必要に迫られて、自力で学んだり、教えてもらったりしながらWord、Excel、Accessを覚えていった感じです。Accessでのデータ管理は、本を買ってきて勉強するところから始めました。
最初は地域振興課という課に配属となったのですが、配属当時はいくつかの部が統廃合した時期で、いろいろなテーマの担当部署で構成されていました。それこそ、商工関係、農林関係、観光関係、町内会関係、市民窓口とか。統廃合の直後ですから、書類のフォーマットや項目にそれぞれ以前の部の伝統的なフォーマットがあり、当時の部長から予算関係の資料を統一してほしいと言われたのをきっかけに、前年の予算の残額や過去の予算などを全部入れたシステムを作って、予算配分などに使えるようにしたという経験があります。それが効率化とかデジタル化の必要性を強く感じるきっかけになったのかもしれません。
その後、人事課配属になり、人事労務管理の事務に携わりながら、人事給与システムの入れ替えや庶務事務システムの導入などを行いました。当時、平成18年度4月に実施されたの公務員の給与構造改革に対応して給与を読み替えるシステムを作りました。平成23年度には、民間病院と市民病院が合併した地方独立行政法人の市民病院へ派遣され、人事給与システムの導入やドクターの給与体系の整備にも取り組みました。「こういうのがあったらいいのに」と言われるものは、とにかくどんどん作っていった記憶があります。
最近では、企画部情報政策課でRPAやローコードツールを導入して業務の生産性を高める取り組みなど様々な形でDXに関わってきましたが、入庁以来、現場でその時その時に必要なシステムを作るという経験が私の仕事スタイルになっていったのではないかと思います。
Q 特別定額給付金システム立ち上げに至った背景を教えてください。
多田様:情報政策課がマイナンバー制度を管理していた関係でマイナポータルも管理していました。特別定額給付金の申請を国はマイナポータルで進めていたこともあり、特別定額給付金の事務にも関わることになりました。マイナポータルの画面は自治体でカスタマイズできたので、加古川市独自の画面を作っていたのですが、ダウンロードしたデータに不具合があり、その修正を手伝っていた時のことです。
後ろで、申請された情報を、担当の職員がテストデータを1枚1枚印刷してデータを手入力しようとしていたのを見てしまって…。500枚印刷しただけでかなりの山ですよ。加古川市全体で考えたら果てしなくて、気が遠くなりますし、ミスも心配でした。
「そもそもデータで来てるのに何で印刷してるんだ?じゃ、僕が作ってやろうか」ということになり、Excelのレイアウトを触りながら、Accessでデータを取り込む仕組みなどを作っていきました。
当初から郵便の申請が大量に届くことがわかっていましたので、なんとかして紙の情報を効率的にデータ化しないと!と思いました。AI-OCRで文字を読み取るサービスも試してみたりしたのですが、思いのほか、時間がかかってうまくいかず、悩みましたね。結局、よく考えたら、住民の氏名や住所など基本情報はもともと市で把握し印刷しているので、あとは給付金を振り込む口座番号を市民に入力してもらえばいいということに行き着き、すぐに作業して、加古川市独自の申請システムを作り上げました。
Q 現場を見ているからこそ生まれた発想ですね?
多田様:何かすごく大掛かりな構想で時間をかけてシステムを立ち上げたわけではなく、現場の課題をクリアしていくことが、結果的に給付金の振り込みを早くできたり、職員のパワーを別の業務に回せたりしたことは大きかったです。
また、市民の方からお礼状をいただいたときには感激しました。それはとても印象に残っています。バックヤードの人間なので、直接そんなふうに感謝されることはなかなかないので。
Q ワクチン抽選システムも同じような現場目線でできたものなのでしょうか?
多田様:当初65歳以上の高齢者接種予約を先着順で開始したら、電話回線がパンクするほどアクセスが殺到したので、抽選方式に切り替えました。あらかじめネットで申込してもらって抽選し、当選しなくても同条件であれば再度申込せずに自動的に抽選される仕組みで、予約は確実に取れ、無用な予約競争にならないようにしました。これも思いついてすぐに作りましたが、導入後、個別接種の抽選もが始まるなど、現場からはいろいろな要望が出まして、最後はかなり苦労しました。
65歳以上は抽選システムで何とか乗り切ったのですが、64歳以下は会場や日時などの希望が複雑なので、先着順に切り替えて対応しました。せっかく作ったシステムなので、使い続けてほしい気持ちはありますし、使われなくなるのは寂しいのですが、状況に応じて最適な方法に切り替える判断を素早くすることも重要だと考えています。
「皆がHappyになれるようにしたい」がポリシー
Q 開発したシステムをオープンデータ化したことも評価されていますが…
多田様:どの自治体でも同じような課題を抱えているはずなので、システムはオープンデータカタログサイトに掲載しました。他の自治体でも活用してくださっているようで、いろいろ質問もいただきました。ただ、オープンデータと言っても、自治体内にそれを使える人がいないと意味がありません。内部の処理、コーディング情報は、結局、使う側の人がそれになじんでないと導入は難しいので、公開しませんでした。そういう意味では、考え方を共有するほうがいいのかなと思ってNoteに書いたりしています。
Q こういった新システムを立ち上げる際の多田様ならではのこだわりはありますか?
多田様:基本的な発想は「ラクしたい」ってことでしょうか。皆、ラクな方がいいですよね?皆がラクをしてHappyになれたほういいので。本当に使えるものを素早く作ることが大事だと考えています。職員の業務も効率化して、結果的に特別定額給付金も早く振り込むことができました。
最初はシステムの流れをフロー図に落として、職員に共有するんです。可視化することで流れを共有し、こちらの思いだけでなくできるだけ意見をもらって、彼らが欲しいものが入っているか、現場の声を聞いたうえで進めます。基本は「入れる項目は少なくする」ことを心がけています。こういうシステム作りにたずさわっていると、リリースまでに「項目を増やしたい」「こういうパターンも対応してほしい」など、要望は多くなるのですが、本当に必要なものだけのシンプルな仕組みのほうが皆ラクに使えるので、そこにはこだわっています。
現場を見ていて、自分の頭でイメージできた仕組みは100%作れる自信があるので、あとはすぐにやるのみです。作りだしたものは評価されたり評論されたりしますが、作って共有しなければ何も起こらない。そうすることで次の課題が見えてくるのだと思っています。
インプットすることで次のアイデアを
Q DXの波の中で、多田様の後に続く人材も増えてきそうですね
多田様:デジタル化はまだまだ多くの改革をもたらすと思うので、これからDX人材もどんどん増えていってほしいですね。変化の中で求められるサービスも瞬時に変わるので、自治体内部にシステムを作れる人やコーディングだけでなく、考え方を学ぶ人が増えて、よりよい仕組みが作れるといいと思います。デジタルツールが使える人材というより、全体を俯瞰しながら業務を最適化できる職員がDX人材だと考えています。
Q 今後はそういった方々の教育にも関わっていかれるのですか?
多田様:教育とは違うのですが、教えてほしいと言われることは多いですね。そこに座っているから、聞きたいことがあれば何でも聞いて、という場を作ろうと思って計画中です。職員はもちろん、民間企業の方、それこそ学生など、誰でも参加していただき、逆に僕らも教えてほしいというか、いろいろな声を聞いて次のアイデアを生み出すためのヒントにしたいです。今はそういうインプットが枯渇しているのかもしれません。
Q 多田様はサックスを演奏されるとも聞きましたが、ストレス発散はサックスで?
多田様: よくサックスがストレス解消法ですか?と聞かれるのですが、実は、サックスを吹くと逆にストレスがたまるんですよ(笑)。思ったように吹けないことばかりですから…。夢中で楽器を吹いてるときは仕事から解放されるので、気分転換になっていると思います。