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2022年6月15日

【自治体(ガバメント)クラウド】「システム所有」から「サービス利用」に方針変更した成果は?

自治体クラウドとは、情報システムと行政に関するデータを外部のデータセンターで管理・運用して、複数の自治体と共同利用する取り組みのことです。システム所有からサービス利用に切り替えることで得られるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。今回は、クラウドとは何かという点からスタートし、自治体クラウドが注目される背景やその特徴、導入効果について見ていきます。

そもそも「クラウド」とは?

自治体(ガバメント)クラウド|そもそも「クラウド」とは?
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「クラウド」を利用して情報を取得したり、チーム内の情報を共有するなど、「クラウド」という言葉をよく使うようになりました。ここでは、そもそも「クラウド」とは何を意味するのか、「クラウド」にはどのようなサービスがあるのか、そして「クラウド」を利用するメリットやデメリットについておさらいしておきましょう。

ネットワーク経由で提供するサービス

私たちがよく耳にする「クラウド」は、正式には「クラウド・コンピューティング」というもので、インターネットなどのネットワークを経由して、ユーザーにさまざまなサービスを提供する形態をいいます。クラウドの直訳は「雲」ですが、この「雲」という言葉を用いるようになった理由については諸説あります。ネットワークの形態を雲であらわすことが多かったのですが、ユーザーは、その雲(ネットワーク)の存在をとくに意識することなく、その先にある雲の上のサービスを利用することができるというサービスイメージから、「クラウド」という言葉を用いるようになったのではともいわれています。

クラウドの種類

それでは、クラウドコンピューティングによって提供されるサービスには、どのようなものがあるのでしょうか。

SaaS(Software as a Service)

ネットワークを経由してソフトウェアを提供するサービスを、「SaaS(サース)」といいます。ベンダーによって提供されるソフトウェアを、インターネットを経由して利用するサービスで、ユーザーのパソコンなどのデバイスに、あらかじめソフトウェアをインストールしておく必要はありません。GmailなどのメールサービスやTwitterやFacebookなどのSNSサービスなどがあります。

詳しくは、以下の記事をお読みください。

SaaS|コスト削減・業務効率UPなどで注目を集めるクラウドサービス

PaaS(Platform as a Service)

「HaaS(ハース)」や「IaaS(イアース/アイアス)」は、サーバー、ストレージなどのインフラを提供するサービスです。OSやアプリケーションの構築を行うためのインフラがネットワーク経由で提供されるため、実機のハードウェア上で想定されるトラブルを回避しながら、自由度の高い開発が可能になります。

HaaS(Hardware as a Service)・IaaS(Infrastructure as a Service)

「HaaS(ハース)」や「IaaS(イアース/アイアス)」は、サーバー、ストレージなどのインフラを提供するサービスです。OSやアプリケーションの構築を行うためのインフラがネットワーク経由で提供されるため、実機のハードウェア上で想定されるトラブルを回避しながら、自由度の高い開発が可能になります。

クラウドサービスのメリット・デメリット

自治体(ガバメント)クラウド|クラウドサービスのメリット・デメリット
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クラウドサービスを利用するメリット・デメリットには、以下のような点が挙げられます。

メリット|低コストで導入できる

ソフトウェアや開発系のミドルウェア、サーバー、ストレージなどを、ネットワーク経由で利用するクラウドサービスでは、ユーザーはこれらのサービスを所有するのではなく、毎月一定額のライセンス料金を支払うだけで利用することができます。必要な機能を必要なときに利用することができるため、導入費用に悩まされることはありません。

メリット|システム構築期間を短縮できる

システムを自社開発する場合には、多額のコストと長期におよぶ準備期間が必要になります。クラウドサービスを利用することによって、早期に運用を開始することができます。自社にはない高度な開発環境やインフラを利用することで、ビジネスの幅を広げることも可能です。

メリット|メンテナンスが不要

自社が保有するシステムやソフトウェアを利用する場合には、定期的なメンテナンスやデータの管理、セキュリティ対策が必要になります。クラウドサービスの保守やセキュリティ対策は、サービス提供元が行うため、利用者はこのような管理負担からも解放されます。

デメリット|カスタマイズが自由にできない

クラウドサービスでは、サービス提供元が用意したソフトウェアや開発環境などを利用するため、社内で構築したシステムのように自由にカスタマイズすることはできません。クラウドサービスのカスタマイズには限りがあることを認識する必要があります。また、カスタマイズの自由度はサービス提供元によって異なるため、導入前に、自社の実情に合っているかを確認することが大切です。

デメリット|サーバーの安定性やセキュリティのリスク

クラウドサービスでは、機器のメンテナンスなどは、サービス提供元が行います。サーバーの安定性やセキュリティレベルも、導入するクラウドサービスごとに異なることを認識しなければなりません。クラウドサービスがサーバー攻撃などを受けた場合には、保存していたデータが漏えいする可能性もあるため、データの取り扱いのルールやセキュリティ確保のためのガイドラインを設定するなど、安全な運用のための対策が必要になります。

自治体クラウドとは

これまで地方自治体においては、各庁舎内に設置されたコンピュータによって個別にシステムを構築し、自治体ごとに独自の方法で業務処理を行ってきました。「自治体クラウド」とは、これらの情報システムと行政に関するデータ(住民情報、福祉、税務関連ほか)を外部のデータセンターで管理・運用して、複数の自治体と共同利用する取り組みのことです。地方公共団体情報システム機構の「地方公共団体におけるクラウド導入の取組(令和元年度改訂版)」では以下のように定義しています。

地方公共団体が情報システムを庁舎内で保有・管理することに代えて、外部のデータセンターで保有・管理し、通信回線を経由して利用できるようにする取組。複数の地方公共団体の情報システムの集約と共同利用を進めることにより、経費の削減及び住民サービスの向上等を図るもの。

「地方公共団体におけるクラウド導入の取組(令和元年度改訂版)」地方公共団体情報システム機構

自治体クラウドが注目される背景

自治体クラウドが注目される背景
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生産年齢人口の減少が進み、高齢者人口がピークを迎える2040年頃にかけて、地方自治体が抱える行政上の課題はますます深刻化していくことが予測されます。山積する地域の社会課題を解決するために、地方自治体は、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの先進技術を積極的に活用することで、より効率的に行政サービスを提供する「スマート自治体」を目指しています。

スマート自治体については、以下の記事もお読みください。

スマート自治体①|2040年問題に備える新しい自治体行政のあり方とは?

スマート自治体②|「スマート化」に向けて自治体が抱える問題や今後の対策

そして、AIやRPAなどの先進技術に加えて「スマート自治体」を実現するために不可欠なのが、クラウドサービスの活用になります。従来、自治体ごとに独自に開発・運用してきた情報システムを、自治体クラウドで共同利用するようになれば、業務システムの最適化による職員の負担軽減や運用コストの削減につながります。

自治体クラウドの特徴

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地方自治体が情報システムを庁舎内で保有・管理することに代えて、外部のデータセンターが提供する機能を利用するようになることで、どのような違いが生じるのでしょうか。

導入形態の特徴

自治体クラウドの導入形態の特徴として、「システム所有」から「サービス利用」になることがあります。導入前後の違いは以下の通りです。

ハードウェア

サーバーなどのハードウェアは、原則、自庁舎内に設置されていましたが、導入後は事業者などが用意する外部データセンター内に設置されることになります。

ソフトウェア

従来は、各自治体が独自に開発した業務システムを使用するか、事業者が開発した業務システムパッケージに独自の機能をカスタマイズして利用していました。導入後は、事業者が開発したパッケージをそのまま使用するか、一部カスタマイズして使用します。

システム運用・費用

システム運用は、原則として職員が行っていましたが、導入後は事業者側で行うことになります。この場合、運用費用は「サービス利用費」として支払います。

システム構成の特徴

次に、自治体クラウドのシステム構成の特徴について見ていきます。

情報システムの共同利用

自治体クラウドでは、複数の地方自治体が業務システムを共同利用することになります。

データセンターの活用

業務システムをセキュリティの高い外部のデータに設置します。データセンターは、地震や津波などの自然災害に強く、ハッキングなどへのセキュリティ対策を施されていることから、業務継続性の確保や個人情報保護の観点からも安心、安全な運用が可能です。

クラウドコンピューティング技術(仮想化技術等)の活用

クラウドコンピューティング技術を活用することにより、複数の自治体が物理的に同一のサーバー、ソフトウェア、データベースなどを共同利用することを可能としています。

「自治体クラウド」の導入状況

2018年6月に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言」では、「2023年度末までにクラウド導入団体を約1,600団体、自治体クラウド導入団体を約1,100 団体にする」ことを目標として設定しています。

2019年4月時点で、自治体クラウド(複数団体共同でのクラウド化)が約29%(497団体、82グループ)、単独クラウド(単独団体でのクラウド化)が約39%(685団体)で、全国の約68%(1,182団体)がクラウド化を実施しています。

「自治体クラウド」の導入効果

自治体クラウドでは、地方自治体における情報システムの共同利用などによって、以下の効果を得ています。

情報システムにかかわるコスト削減

自治体クラウドの導入段階で発生する各種経費や人件費、ハードウェア・ソフトウェア費については、複数の自治体による共同利用によって団体あたりの経費負担は少なくなります。地方自治情報管理概要(総務省 平成30年4月1日現在)によると、自治体クラウド導入によるコスト削減効果(導入・運用コスト全体)において2割程度削減以上の効果示す割合は、約49%(407団体中、200団体)となっています。

情報システムの管理・運用業務軽減

自治体クラウドでは、情報システムの管理・運用を含めたサービス提供を受けることになるため、地方公共団体側の情報システム担当職員の作業負担の軽減が見込まれます。アンケート対象のすべての地方公共団体が管理・運用業務の軽減効果に期待し、導入後においては91%が期待通りの効果があったと回答しています。

業務プロセス標準化による業務効率化

自治体クラウドの導入にあたっては、情報システムの標準化・共同化を進めることが必要となり、参加団体それぞれが業務改革を通じて、事業者が提供するサービスや機能に合わせた業務プロセスの標準化を実施することで、基幹系業務にかかわる部署における業務の効率化が期待できます。アンケート対象の77%の地方公共団体が業務効率化に期待し、導入後も同数が期待通りの効果があったと回答しています。

情報セキュリティの確保

ハードウェア機器を厳重な入退室管理、24時間365日の有人監視および最新のセキュリティ技術を導入したデータセンターに設置するために、個人情報の保管について高い安全性が確保されます。アンケート対象の91%が情報セキュリティの確保に期待し、導入後も90%が期待通りの効果があったと回答しています。

住民サービスの向上

小規模な地方公共団体においては、情報政策の担当者が1名あるいは専任ではない場合も多く、新たな情報施策への取り組みにまで手が回らないのが実情です。自治体クライドの導入を共同で進めることによって、中核となる地方公共団体の情報システム利用スキルが、他の地方公共団体にも波及する効果が期待され、比較的安価に導入できるため、住民サービスの向上が期待できます。アンケート対象の67%が住民サービス向上効果に期待していますが、期待通りの効果があったとの回答は47%にとどまっています。

災害への対応強化

地震や台風、豪雨による広域災害を受けて、BCPによる業務継続性の確保の重要性が高まっています。自治体クラウドは、ハードウェア設置場所の耐震性確保のほか、バックアップデータの遠隔地保管、自治体間の相互支援を実現しやすい環境であるため、BCP対応でも効果が期待できます。

自治体の情報システムやデータを外部のデータセンターにおいて管理・運用し、複数の自治体で共同利用する自治体クラウドによって、コスト削減をはじめとした多くのメリットがあることがわかりました。自治体クラウドの導入にあたって業務プロセスの標準化が進めば、自治体間の交流や協働などが進み、相互の連携がとりやすくなるでしょう。今までの自治体クラウドの構築事例から導入メリットをどう最大化できるかを学び、さらに多くの導入成功事例が増えていくことを期待します。

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