【自治体情報システムの標準化・共通化】「2000億円かけて25年末に完全移行」を目指す自治体システムの大変革
- category : GDX ナレッジ #情報構造設計
- writer : GDX TIMES編集部
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自治体情報システムの標準化・共通化は、各自治体の情報システムを定められた統一基準に適合させ、すべての地方公共団体が、2025年度までガバメントクラウド上に構築された標準準拠システムへ移行することを目標としています。ここでは、標準化・共通化の対象について、標準化・共通化を急ぐ自治体のシステム事情、期待される効果について見ていきます。
自治体情報システムの標準化・共通化デジタル改革関連法による取り組み
まず、自治体の情報システムを標準化しようとする取り組みが見られるようになった経緯について整理します。
コロナ禍で顕在化した行政システムの問題点
日本の65歳以上の高齢者人口は、2040年ごろにピークを迎えるといわれています。2015年に7,728万人だった生産年齢人口も、2040年には6,000万人を割り込むと見込まれています。更新時期を迎えるインフラが増加するなかで、地方行政の担い手となる職員の減少が進むことから、安定した行政サービスを持続可能なかたちで提供し続けることができなくなるのではないかという危惧が生じるようになりました。
新型コロナウイルスの感染拡大による日本社会の大きな変化は、さまざまな分野における課題を浮き彫りにしています。とくに行政の分野では、感染拡大による経済的な影響を支えるために実施された各種給付金の支給において、申請に対する処理が滞るという事態が多発。オンラインによる申請手続きの不具合や、国と地方公共団体のシステムに整合性がないために生じた問題など、行政のデジタル化の遅れが明らかになりました。
日本社会のデジタル化の遅れは、以前より問題視されてきましたが、コロナ禍によってより深刻な社会課題として認識されることとなりました。大きな社会の変化やリスクに直面したときの地方公共団体が提供する行政サービスの重要性が広く認識されるとともに、地方行政のあり方を、社会の変化やリスクに適応したものへと転換する必要があると考えられるようになっていったのです。
デジタル改革関連法とは
このような経緯から、行政のデジタル分野における課題解決を主目的として、管内閣が2021年5月12日の参議院本会議で成立させたのがデジタル改革関連法であり、以下6つの法律の総称です。
- デジタル庁設置法
- デジタル社会形成基本法
- デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律
- 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律
- 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律
- 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律
今回紹介する自治体情報システムの標準化・共通化は、これらのうち「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」による取り組みになります。
「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」とは
「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」は、2021年9月1日に施行されました。自治体の基幹系業務システムの多くは法令によって定められていますが、各自治体が利便性などの観点からカスタマイズして利用していました。これらを標準化することによって、維持管理や制度改正時の改修負担の軽減、クラウドによる共同利用の円滑化、住民サービスを向上させる取り組みの全国への普及を容易にすることなどを目指しています。
2025年度までに全自治体のシステムを整備
「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」によって、自治体のシステムは、標準化のために定められた統一基準に適合させることが義務化されました。標準化についての基本方針は、所管大臣が地方公共団体ほか関係者の意見を聴いたうえで作成。国は、基幹系業務システムを利用する原則すべての地方公共団体が、目標時期である2025年度までに、ガバメントクラウド上に構築された標準準拠システムへ移行できるよう、その環境を整備するとしています。
標準化・共通化の対象は?
自治体システム標準化法の第2条第1項では、「地方公共団体情報システム」について以下のように定義しています。
(省略)情報システムによる処理の内容が各地方公共団体において共通し、かつ、統一的な基準に適合する情報システムを利用して処理することが住民の利便性の向上及び地方公共団体の行政運営の効率化に寄与する事務として政令で定める事務の処理に係るものをいう。
地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和三年法律第四十号)
標準化・共通化の対象となるのは、下図の赤枠で囲まれた業務ユニットにかかわるシステムを指します。
「住民記録システム標準仕様書」第2.0版 では、本仕様書の対象となる自治体は、すべての市区町村であり、標準化の対象項目として、業務フロー等、機能要件、様式・帳票要件、データ要件、連携要件、非機能要件について規定するとしています。なお、画面要件や操作性に関する機能は原則対象外です。
標準化・共通化が急がれる自治体のシステム事情
自治体の情報システムは、システム構築を担うベンダーへの発注やその維持管理、制度改正への対応について、それぞれの自治体が個別に対応していました。自治体ごとにシステムの仕様や内容が異なることが、共通のプラットフォーム上のサービスを利用する方式へと移行することを妨げてきました。
また、自治体ごとに様式や帳票が異なることが、それらを作成して利用する住民や企業、自治体などに負担を強いることになっていました。このような自治体の情報システムへの重複的な投資をなくして標準化・共同化を推進し、自治体行政のデジタル化に向けた基盤を整備していくことが必要でした。
「標準仕様書」で目指す3つの目的
総務省は、自治体の情報システムや様式・帳票の標準化について、国や自治体、事業者などが協力して検討するために、2019年8月から「自治体システム等標準化検討会」を開催。まずは、住民記録システムの標準化についての検討を開始しました。この検討会のなかで策定されたのが「住民記録システム標準仕様書」で、この標準仕様書の作成を通じて、以下の3つの目的を実現しようとしています。
なお、「住民記録システム標準仕様書」第1.0版は2020年9月、第2.0版 が2021年8月に発表されています。
現時点で実装されているカスタマイズについて、有用性が認められるかの観点で「実装すべき機能」「実装しない機能」「実施してもしなくてもよい機能」の3つに分類。自治体は、「実装しない」とされた機能を実装することはできず、定義外の機能は基本「実装しない機能」と同様の位置づけになります。
自治体やベンダーの創意工夫による提案は検討のうえ標準仕様書に反映することもあるとしていますが、「カスタマイズを原則不要」とすることで、自治体内、自治体間、自治体・ベンダー間の調整コストの削減、導入・維持管理や制度改正時の負担の軽減などが期待されています。
ベンダー間での円滑なシステム更改
管理データ項目の統一・データ移動処理の管理方法の統一ほか、ベンダー間のデータ移行や他システムとの連携を円滑にする機能などを定めることで、ベンダー変更時にデータ移行しようとする際の円滑なシステム更改を可能にします。ベンダーの異なる自治体間における共同クラウド化や広域クラウド化を容易にし、ベンダーロックインの抑制によってベンダー間の健全な競争を促すことができるようになります。
自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備
デジタル社会に必要な機能のうち、現段階で有用性が認められるものを実装することによって、自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を推進します。行政のデジタル化によって住民の利便性を向上させるとともに、自治体が行うデータ入力などの業務負担を軽減します。
各ベンダーは、LGWANなどのクラウド上に公開される全国的なサービスとして、標準仕様書に準拠するシステムを提供し、自治体は提供されたシステムをカスタマイズすることなく利用することで、行政のデジタル化を推進します。
自治体情報システムの標準化で狙う効果
自治体が提供する行政サービスのデジタル化は、住民の利便性向上を促し、その基盤となる自治体の情報システムの標準化は、行政運営の効率化につながります。とくに自治体における情報システムの標準化の効果として、以下の4点を挙げています。
開発・改修コストの削減
デジタル庁が整備する標準準拠システムは、自治体や政府が共同利用するマルチクラウドのシステム基盤「ガバメントクラウド」上にできるかぎり移行させます。この標準準拠システムを利用することにより、自治体が情報システムを個別に開発する必要がなくなり、人的・財政的負担の軽減といった効果が見込まれます。
2019年12月に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」では、地方公共団体の情報システムの運用経費などについて、標準準拠システムへの移行完了予定後の2026年度まで、2018年度比で少なくとも3割の削減を目指すとしています。
「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」 によると、既存ベンダーと再度契約することとなった事例の有無についての官公庁向けアンケート調査で、「ある」との回答が全回答の98.9%でした。また、既存ベンダーと再度契約することになった理由についての質問では、48.3%が「既存ベンダーしか既存システムの機能の詳細を把握することができなかったため」としています。
ベンダーロックの解消
自治体システムの標準化の取り組みによって、システムで管理するデータ項目や形式、機能、様式・帳票などは、国がそれぞれの標準を定めます。ベンダーは、これら標準を満たすシステムを開発し、自治体はベンダーが開発した標準準拠システムを利用することになります。このため、標準化の推進によって、システム間のデータ移行が円滑に行えるようになり、ベンダーの切り替えも容易となります。
行政サービス・住民の利便性の向上
標準化・共通化の取り組みによって、システム調達などに従事していた職員を、住民へのサービス提供などの業務に振り向けることが可能となり、行政サービスの向上が期待できます。長期的には、生産年齢人口の減少による労働力の供給制約があるなか、持続的に行政サービスを提供するための体制整備にも貢献できます。また、行政手続きのオンライン化が広く実現されれば、各種行政サービスを利用する住民の利便性は、さらに向上することになります。
行政運営の効率化
標準仕様書には、機能要件に対応する業務フローが示されています。各自治体は、標準準拠システムの利用にあわせて、標準化対象事務の業務フローを見直すことで行政運営の効率化が加速します。また、標準化・共通化を進めることで、システムの共同運用、AI・RPAなどのデジタル技術や外部人材などの活用が進むことが期待されています。
この先の人口構造に大きな変化が予測されるなか、自治体が提供する行政サービスを維持・向上させていくためには、自治体職員の業務負担を軽減し、質の高いサービスを持続的に提供することのできる環境を整備することが不可欠になります。その意味で、自治体情報システムの標準化・共通化は避けては通れない道であり、デジタル技術の恩恵を、すべての地域で暮らす人々が享受できるようになるための情報基盤として整備されるべきではないでしょうか。