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2022年9月14日

こども家庭庁の創設で再注目!「支援が必要なこども・家庭に素早く&確実に」を目的としたデジタル戦略【こどもに関する情報・データ連携①】 

こどもに関する情報・データ連携は、貧困や虐待、いじめなどの困難を抱えるこどもや家庭を、支援へとつなげるために必要なものです。「こども家庭庁」の創設に至る、こどもの貧困対策などの取り組みを整理し、支援を必要とするこどもや家庭に行き届かせるための改善策、こどもに関する情報・データ連携 副大臣プロジェクトチームの発足やこどもの生活状況調査について紹介します。

「こどもに関する情報・データ連携」はデジタル庁の政策

「こどもに関する情報・データ連携」はデジタル庁の政策
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2021年9月に発足したデジタル庁は、誰一人取り残されないデジタル社会の実現に向けて、さまざまな分野での政策を実施しています。そうしたデジタル庁の政策のひとつとして掲げているのが、「国民目線のUI・UXの改善と国民向けサービスの実現」です。この分野の取り組みとしては、以下を挙げています。

  • UI・UX/アクセシビリティ
  • マイナポータル
  • 公共フロントサービス(ワンストップサービス等)
  • 政府ウェブサイトの標準化・統一化
  • 準公共分野のデジタル化
  • 相互連携分野のデジタル化
  • 新型コロナワクチン接種証明書アプリ
  • ワクチン接種記録システム(VRS)
  • Visit Japan Webサービス
  • その他国や地方公共団体の手続等のデジタル化

今回取り上げるのは「準公共分野のデジタル化」のうち、「こども」領域の取り組みになります。

貧困や虐待、いじめや不登校などの困難な状況にあるこどもや家庭に、必要な支援が行き届くようにするために、デジタル庁は、より能動的な支援の仕組みを構築する必要があるとしています。能動的な「プッシュ型(アウトリーチ型)」「ワンストップ」の支援と呼ぶ、このような支援が必要とされるのには、どのような理由があるのでしょうか。

「こども家庭庁」の発足で、こども分野の政策が注目されていますが、政府によるこの分野の取り組みは、意外にも早くから進められていて、10年ほどを遡る必要があります。

2013年|「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立

2013年|「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立
子どもの貧困対策の推進に関する法律について/「子どもの貧困対策の推進に関する法律(概要)」内閣府

こどもに関する情報・データ連携のプロジェクトでは、こどもの困難について、貧困や虐待、いじめや不登校など、困難の類型にとらわれず、包括的に扱うこととしています。しかし、こども分野の取り組みに着手した当初は、上図のとおり、こどもの貧困を解消することが主目的でした。「子どもの貧困対策の推進に関する法律」は、2013年6月に成立・施行。子どもの貧困の解消に向けて、こどもが健やかに育成される環境を整備し、教育の機会均等を図るために、こどもの貧困対策を総合的に支援することを目的としています。

この法律をもとに策定された大綱では、すべてのこどもたちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指し、こどもたちの成育環境を整備し、教育を受ける機会の均等を図るとともに、生活の支援、保護者への就労支援などとあわせて子供の貧困対策を総合的に推進することが重要であるとの基本方針が掲げられ、この大綱のもと、さまざまな取り組みを進められてきました。

2019年|「子どもの貧困対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」成立

2019年6月には、「子どもの貧困対策の推進に関する法律の一部を改正する法律」が成立しました。改正後の法律では、1989年11月に、第44回国連総会において採択された「児童の権利に関する条約」の精神にのっとり、こどもの将来だけではなく現在の生活に向けても、こどもの貧困対策を総合的に推進することが明記されました。

2019年8月には、子供の貧困対策に関する有識者会議における計6回の議論の結果、「今後の子供の貧困対策の在り方について」が提言されました。この提言において、前大綱に基づき実施された各種の支援によって、こどもの貧困率をはじめとする多くの指標で改善が見られたことや、こどもの貧困に対する社会の認知が進んだことなどが評価されています。

一方で、いまなお支援を必要とするこどもやその家族が多く存在し、ひとり親家庭の貧困率はきわめて高い水準にあること、地域による取り組みの格差が拡大していることなどが指摘されました。

「こどもに関する情報・データ連携」のベースとなる法律の基本方針

有識者会議の提言を受けて、政府は、新たな「子供の貧困対策に関する大綱」を策定しました。この大綱では、おもに以下の3つの基本方針を示しています。

切れ目のない支援

こどもの貧困対策を進めるにあたっては、こどもの成長段階にあわせて、切れ目なく必要な施策が実施されるべきだとしています。支援の緊急度が高いこどもに対して、優先的に適切な施策を講じる必要があります。

支援が届かない・届きにくいこども・家庭への配慮

貧困の状況にあるこどもやその家庭のなかには、必要な支援制度を知らないなどの理由から、利用できていない状況が見られます。こうしたこどもたちや家庭を発見し、早期に対策を講じるために、ひとり親支援のための窓口のワンストップ化の推進などの体制を整えていきます。

地方公共団体による取り組みの充実

こどもの貧困対策推進のためには、国や地方公共団体、民間の企業や団体、そして地域の住民などが、それぞれ主体的に支援に参画する必要があります。生まれ育った地域によって、こどもたちの将来が異なることのないよう、地方公共団体による計画策定を促し、地域の実情にふさわしい取り組みを進めていきます。

2020年|子供の貧困・シングルペアレンツ問題の検証

2020年|子供の貧困・シングルペアレンツ問題の検証
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2020年11月に実施された「秋の行政事業レビュー(秋の年次公開検証)」では、「子供の貧困・シングルペアレンツ問題」について議論されました。翌2021年のレビューでは、前年秋のレビュー以降、各府省によってさまざまな取り組みが着実に進められていることは評価できるものの、まだ多くの課題が残されているため、以下の改善が必要であると提言しています。

素早く支援するための「ワンストップ化」

必要な支援を必要な人に十分に行き渡らせるためには、有効な支援をタイムリーに届ける必要があり、支援を必要とする人の立場に立った、支援の「ワンストップ化」を推進すべきとしています。そのためには、行政サービスへのアクセスのしやすさを担保する施策や、デジタルデータの活用をはじめ、役所や学校などの現場で支援にあたる人たちを、より効果的に活用するための施策が求められています。

積極的に支援するための「プッシュ型」

自分自身が支援の対象であることに無自覚であったり、潜在的に支援を必要とする人たち、あるいはそれらの予備軍に対して、現状よりも積極的なアプローチをするためには「プッシュ型」の支援が有効になります。デジタルデータを取り扱うための共通インフラを構築し、将来のモニタリングへの活用を視野に、各自治体の工夫がいかせるようなシステム構築に取り組むべきでしょう。

「ワンストップ化」「プッシュ型」を実現するための連携強化と体制の整備

支援を必要とする人やその予備軍に対して、適切な支援や便益の供与が可能な体制を整えることが、「ワンストップ化」や「プッシュ型」の支援を実現するための土台となります。各自治体の関係部局間の連携を強化し、自治体間での一体的な取り組みを可能にするための体制を構築することで、支援の対象者の状況を的確に把握することが重要です。

2021年|「こどもに関する情報・データ連携 副大臣プロジェクトチーム」発足

副大臣プロジェクトチームによる検討イメージ/「こどもに関する各種データの連携による実証実験事業について」デジタル庁
副大臣プロジェクトチームによる検討イメージ/「こどもに関する各種データの連携による実証実験事業について」デジタル庁

2021年11月16日に開催された「デジタル臨時行政調査会(第1回)」において、岸田文雄首相は「貧困や虐待などから保護を要するこどもたちを見守るため、牧島デジタル大臣を中心に、こどもたちの生活に関わる、関係機関のさまざまな情報を集約するデジタル基盤を整備いたします」と発言しました。これを受けて、11月25日には小林デジタル副大臣を主査とし、内閣府・厚生労働省・文部科学省の副大臣を構成員とする「こどもに関する情報・データ連携 副大臣プロジェクトチーム(以下、副大臣PT)」が開催されました。

「こどもに関する情報・データ連携 副大臣プロジェクトチーム」のおもな取り組み

第1回の副大臣PTでは、おもに以下の3点の検討を行うこととしています。

  1. 市町村や支援機関等が保有するこどもに関する情報・データの内容、各データを保有する機関等の整理と連携のあり方
  2. 先行的に取り組む自治体の状況把握や、自治体を対象とした実証のあり方
  3. その他のこども・家庭へのデジタル・データを活用した支援のあり方など

「こども家庭庁」の創設で、共同の取り組み課題に

また、第1回の副大臣PT後には、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針 ~こどもまんなか社会を目指すこども家庭庁の創設~」が閣議決定(2021年12月21日)され、「こども家庭庁」設立後のおもな事務の一つとして、「データ・統計を活用したエビデンスに基づく政策立案と実践、評価、改善」が記されました。

この記載によって、地方自治体においても、こどもに関するデータの連携を進め、支援の必要なこどもや家庭のSOSを待つことなく、プッシュ型の支援を届けるための取り組みを積極的に推進していくことが位置付けられました。

2021年末に初の全国調査「子供の生活状況調査」の調査結果が発表

2021年末に初の全国調査「子供の生活状況調査」の調査結果が発表
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「子どもの貧困対策の推進に関する法律」第7条に基づき、内閣府は2015年以降、子供の貧困の状況及び子供の貧困対策の実施の状況を毎年、公にしてきました。経年分析などは記載されていないため、今後に打つべき対策などに直結するイメージを得ることはできません。

今回、内閣府によって行われた調査は、こどもの貧困に関する初の全国調査であり、2021年2月から3月にかけて実施されました。詳しくは、令和3年 子供の生活状況調査の分析報告書を参照ください。

分析の特徴としては、こどもだけではなく保護者も調査対象とし、世帯収入別に以下の3つに分類して集計を行っている点が挙げられます。

  • 貧困層:等価世帯収入が中央値の2分の1未満
  • 準貧困層:等価世帯収入が中央値の2分の1以上で中央値未満
  • 中央値以上:各収入の選択肢の年間収入の中央値を超えている

政府の取り組みとしては遅きに失した感が否めませんが、今回の調査結果から、親の学歴や経済状況、就労状況などの格差が、生活のゆとりや日常生活の困窮度、学校での成績、進学などに影響していることが明らかになりました。

こどもが直面するさまざまな困難は、家庭内や学校内だけではなく、社会全体として取り組み、解決すべき深刻な課題となりつつあります。こどもに関するデータ連携を進めることは、支援の必要なこどもや家庭に必要な支援を届けるために、有効な施策となるでしょう。そして、そのような支援を契機に、こどもたちの困難な状況がひとつずつ取り除かれ、日本社会全体としての豊かさにつながっていくことを期待します。

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