10万円給付を完全デジタル化した戸田市のnext stage どの自治体も置き去りにしない!「自治体DX協議会」発足
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- writer : GDX TIMES編集部
国民一人当たり10万円の給付(特別定額給付金)の手配で全国の自治体が混乱を極めていた時、スムーズな完全デジタル化による給付を実現した戸田市。
その戸田市が中心となって、自治体DX協議会が設立されます。特別定額給付金の完全デジタル化の裏話も交えつつ、自治体主導で行政DXを推進していく想いや、自治体職員視点で国に提言していく活動について、埼玉県戸田市総務部次長兼情報政策統計課長 大山様にお聞きしました。
(インタビュー: GDXタイムズ 編集部、撮影:小林孝至)
特別定額給付金のオンライン申請を完全デジタル化
Q 戸田市の「特別定額給付金申請の完全デジタル化」はどうやって実現されたのですか?
大山様:今思えば、特別定額給付金については絶対的に時間がありませんでした。4月中旬に政府から通達があり、5月1日にはオンライン申請が始まることになっていました。
オンライン化をベンダーさんに頼めば、1カ月以上はかかってしまう。かといって職員が手作業で申請情報を印刷して住民基本台帳システムを照らし合わせるなんて、非効率だと思い、自前でデジタル化することにしたんです。
政府は、オンライン申請をマイナンバーカードが活用でき個人向けサイトである「マイナポータルぴったりサービス」で受け付けるシステムを作りました。ですが、申請者の入力ミスが多かったのと、データで受け取れるようになっていない自治体は申請情報のPDFを印刷して処理しなくてはならず、全然デジタル化になっていない。さらにマイナンバーカードで本人確認ができる電子署名やマイナンバーカードの利用者証明書のシリアル番号が入っていないケースがあったのも、混乱のもとになると思いました。
まず、住民基本台帳をもとに給付台帳システムを作成しました。それにより紙ではなく、データベースで一元管理できるようになります。また、マイナンバーカードの利用者証明用電子証明書のシリアル番号を取得。マイナポータルから送信されたシリアル番号を住民情報と突き合あわせて、データ連携できるようにしました。これを3日で作り上げたんです。
Q わずか3日ですか? このやり方が全国の自治体でできなかったのはなぜでしょうか?
大山様:私には、川口市で勤めていた頃、定額給付金の申請システムを自前で作成した時のノウハウがありました。給付台帳や銀行口座の登録のフローは同じで、違うのはオンライン申請があるかという点でしたが、そこはシリアル番号を取得すれば解決できることがわかっていたので、対応できたんです。
今回、戸田市ではマイナンバーカードを使ったオンライン申請は約3000件あり、完全デジタル化したので、職員はスムーズに受け付けることができました。他の自治体は、準備期間も短かったですし、オンライン申請を手作業で行った自治体が多かったので、連日深夜まで手作業に追われてしまったんだと思います。
新型コロナワクチン接種記録システムも作成
Q 次は新型コロナワクチン接種記録システムにも着手されたとか?
大山様:基本部分は1日で作りました。その後、政府が2月中旬にワクチン接種記録システムの概要を明らかにしたので、画面イメージに合わせて、改修しました。
接種券のバーコードを読み取ると、自治体コード、接種券番号など接種情報が入力されますので、この番号と紐付いた住民基本台帳の情報をあらかじめ登録しておくことで、住民情報と接種記録が紐づけされます。これだとバーコードリーダーで読み取るだけで、大きな手間も人員もかけずにすみます。
Q 他の自治体でも戸田市のように完全デジタル化を進めるにはどうしたいいのでしょうか?
大山様:技術的なことはもちろんなのですが、プロジェクトのマネジメントができる、さまざまなリスクを考えながら実際に行動を起こして始める、そういった人材が不足していると感じています。これは、民間企業さんなど外部の人を登用すれば解決する問題というわけではないんですよね。自治体には自治体のさまざまなルールがあり、その中でやっていかなくてはいけないので、外部の人だとなかなかフィットしにくいですね。
そういう想いもあって自治体デジタルトランスフォーメーション協議会(自治体DX協議会)の立ち上げに協力しました。
自治体DX協議会活動とは?
Q 自治体DX協議会とはどんなことをされる組織ですか?
大山様:戸田市は昨年の10月に自治体向けITコンサルティングを手掛けるITbookホールディングスと包括連携協定を結びました。DXの推進はもちろん、人材育成、市民サービスの向上などで連携していきます。それに伴い、他の自治体やITベンダー、企業にもお声がけして「自治体DX協議会」を立ち上げました。
特別定額給付金のオンライン申請で多くの自治体が混乱しました。今後、新型コロナワクチン接種記録システムなどさまざまな場面で同じようなことが起こると予想されます。政府が考えるデジタル化において、どの自治体も置き去りにしないようにしたいという想いがあり、政府と自治体の橋渡し役ができればと考えています。
アスコエパートナーズの安井社長にもエグゼクティブ・アドバイザーをお願いしています。安井社長とは以前より親しくさせていただいていますが、自治体のためにさまざまな活動をされているのと、政府の検討会にも参加され、デジタル化の知見のある方なので、是非アドバイスをいただきたいと参画を依頼しました。
3月末に第1回目の総会を予定しています。まずはメンバーを固定し、また今後は賛同いただける企業さんにご協力をお願いできたらと思っています。
Q この活動自体は、全国の自治体にとってどのような価値を生み出しますか?
大山様:中小の自治体では、他の業務と兼務されている方が多く、やはり圧倒的な人材不足なので、そこは支援していきたいですね。また、戸田市のような事例を示すことで、おのおの抱えている課題と照らし合わして、解決法を提案したり共有できたりできると思います。アイデアが浮かばない自治体さんには、解決に向けてアドバイスはできますし、そういったことをどんどんやっていければと考えています。
今まで紙で処理していたことがボタン一つでできるようなれば、手作業に人員を充てていたところがいらなくなり、もっと必要なところに人員をおくことができ、市民サービスの向上につながります。1年に換算するとコストも時間もかなり削減できます。また、市民にとっても、今まで役所に来ないとできなかった手続き、例えば印鑑証明、住居変更届などがオンラインでできるようになれば、便利なはずです。
ただ、気を付けたいのは、すべての人がデジタルトランスフォーメーションの恩恵を受けられるようなシステムにしなければということです。道のりは長いですが、少しずつ実現していきたい。戸田市ではスマホを使ったスマート申請を作っていて、新たな市民サービスを進めていきたいと考えています。
Q 一歩も二歩も先に進んでいらっしゃいますね
大山様:菅原市長は「デジタル市役所を目指します!」と言ってますからね!(笑)最近はアバターでデジタル職員を作りました。もうすぐお披露目の予定です。今後、デジタル職員による福祉系の手続きの聞き取り調査ができるようにするなども考えています。
Q デジタル庁との関わり合いについては?
大山様:政府自体はデジタル庁を創設し、完全デジタル化を目指していて、いろいろシステムは提供してくれますが、それがどの自治体にもマッチするわけではありません。いい仕組みであっても、自治体にあったやり方でないと本来の機能を発揮できません。システムだけではなく、側面の環境を整えないとシステムがうまく使えないのです。そういったことをデジタル庁に提案・提言していこうと思っています。国と自治体の連携を強固にすることで、新しい価値をどんどん生み出すことができるんじゃないかと考えています。
大山様のリラックス方法
Q とてもお忙しい日々かと思いますが、息抜きはどうされていますか?
大山様:土日も資料を作ったり、講演に行ったり自由な時間はあまりなくて…(笑)。やるべきことはたくさんありますし、いろいろチャレンジしたいことが思い浮かぶんです。でも少し時間ができると、一人カラオケに行きますね。ギターが趣味なので自分のギターとアンプを持ち込んで繋いで、カラオケを流しなら演奏していますね。冬はスケートをやります。アイスホッケー選手のように氷を削りながら滑るのが気持ちいいです!夏はインラインスケートを楽しみます。気分もすっきりしますよ。
Q 全身を使ってされるご趣味なんですね。エクストリーム系ですか?
大山様:そうなんです! 某自治体で、「行政アーティスト」を名乗っている方がいて、それに対抗して、私は「行政エクストリーミスト」を名乗っています(笑)。「行政エクストリーミスト」としての、次の一手にも注目してください。