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2022年11月9日

デジタル社会形成基本法は「IT基本法」の後継法律。なぜIT基本法は見直しが必要だったのか?【デジタル社会形成基本法①】

デジタル社会形成基本法は、2021年に可決されたデジタル改革関連法のひとつで、一連の法律の中核をなすものです。今回は、その前身となるIT基本法について、同法が目指した社会像、IT基本法をもとに策定された「e-Japan戦略」、そしてIT基本法を抜本的に見直すことになった背景について紹介します。

デジタル社会形成基本法とは

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デジタル社会形成基本法は、2021年5月12日に可決された、以下の6つの法律からなるデジタル改革関連法のひとつになります。

  • デジタル社会形成基本法
  • デジタル庁設置法
  • デジタル社会の形成を図るための関連法案の整備に関する法律
  • 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録に関する法律
  • 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律
  • 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律

これら6つの法律のなかでも、デジタル社会形成基本法は、日本におけるデジタル社会の形成についての基本理念を示す法律で、一連の法律の中核となるものです。具体的には、デジタル社会の形成に関する基本理念や施策策定の基本方針、国・地方公共団体・事業者の責務、デジタル庁の設置、重点計画の作成について定めています。

これまで、情報通信技術を活用するネットワーク社会の形成に関する施策を推進するための法律として「情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」がありましたが、制定時(2000年)から20年以上が経過し、データの多様化・大容量化が進むなか、さらなるデータ利活用の推進や、新型コロナウイルス感染症への対応において浮上したさまざまな社会課題に対応するために、IT基本法に代わる新法としてデジタル社会形成基本法が制定されました。デジタル社会形成基本法の成立とともにIT基本法は廃止されています。

デジタル社会形成基本法の前身「IT基本法」とは

デジタル社会形成基本法の前身「IT基本法」とは
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デジタル社会形成基本法を理解するためには、その前身であるIT基本法についても理解しておく必要があります。IT基本法について紹介します。

そもそもIT基本法とは?

2000年7月に内閣に設置された情報通信技術戦略本部が同年11月にIT基本戦略を決定し、IT基本法が成立しました。正式名称を「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」といい、IT(情報技術)を活用した社会形成を進めるための基本方針を定めた法律(2000年11月成立/2001年施行)です。ICT(情報通信技術)による産業・社会構造の変革が世界規模で進むなか、日本においてもICTを活用した成長戦略を描き、日本社会全体として取り組むための指針を示しました。

この法律に基づいて高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)を内閣に設置。2001年1月に、日本政府として初のIT戦略「e-Japan戦略」を発表し、「5年以内に世界最先端のIT国家を目指す」と宣言しました。

IT基本法(e-Japan戦略)で目指した社会像

e-Japan戦略は、IT基本戦略をもとに策定されたもので、2001年1月に国家戦略として発表されました。IT基本戦略の基本理念や実現しようとした社会像は、IT基本法、e-Japan戦略へと引き継がれ、e-Japan戦略では以下のような社会の実現を目指しました。

すべての国民がITのメリットを享受できる社会

5年以内に3,000万世帯が高速インターネット網に、1,000万世帯が超高速インターネット網に常時接続可能な環境を整備。すべての国民がインターネットを使いこなしてさまざまな情報や知識を世界規模で入手し、共有・発信できるようにするとしました。

経済構造の改革の推進と国際競争力の強化が実現された社会

ITの活用を通じて、新たなビジネスの創出や既存産業の効率化を進め、経済構造の高度化、国際競争力の強化によって、持続的な経済成長と雇用の拡大を図ると宣言しました。

ゆとりと豊かさを実感できる国民生活と、個性豊かで活力に満ちた地域社会が実現された社会

2003年度までに電子情報を紙情報と同等に扱うことのできる電子政府を実現。電子商取引の市場を成長させ、2003年の市場規模を70兆円超とするとしました。また、遠隔教育や遠隔医療などの普及にも取り組み、すべての国民がインターネットなどを通じて、いつでも必要とするサービスが受けられ、さまざまなコミュニティに参加できる社会にするとしました。

地球規模で高度情報通信ネットワーク社会の実現に向けた国際貢献が行われる社会

IT関連の修士号・博士号の取得者の増大に取り組み、2005年までに3万人の外国人人材の受け入れを行うことで、米国水準を上回る高度なIT技術者や研究者が、絶えず新たな技術の開発を行える環境を実現。情報通信技術の高度化やコンテンツの発信などを通じて、世界の発展に貢献するとしました。

「IT基本法」をもとに策定された「e-Japan戦略」とは?

IT国家戦略のフレーム/「情報通信戦略の動向」総務省
IT国家戦略のフレーム/情報通信白書(平成27年版)第1部 ICTの進化を振り返る|総務省

2000年11月のIT基本法の成立とともに決定されたのがIT基本戦略であり、このIT基本戦略をもとにして策定されたのが日本初のIT戦略「e-Japan戦略」です。

e-Japan戦略の重点政策

「e-Japan戦略」では、重点政策分野として以下の4つの目標を掲げました。

  • 超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策
  • 電子商取引と新たな環境整備
  • 電子政府の実現
  • 人材育成の強化

このうち「電子政府の実現」の方策としては、以下の取り組みを推進して電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現し、幅広い国民・事業者のIT化を促すとしています。

  • 行政(国・地方公共団体)内部の電子化
  • 官民接点のオンライン化
  • 行政情報のインターネット公開、利用促進
  • 地方公共団体の取組み支援
  • 規制・制度の改革

e-Japan戦略重点計画の変遷

我が国のIT戦略の歩み/「e-Japan戦略の今後の展開への貢献」総務省 
我が国のIT戦略の歩み/「e-Japan戦略の今後の展開への貢献」総務省 

「e-Japan戦略重点計画」は、「e-Japan戦略」を各府省が実施するための具体的施策に落とし込むもので、2001年3月に、IT基本法第35条の規定に基づき最初の重点計画を策定。これ以降は、毎年見直しが行われ、2005年の目標達成に向けて実行されました。

e-Japan戦略・e-Japan戦略Ⅱ

「e-Japan戦略」の初期段階では、インフラなどのIT基盤整備に重点が置かれましたが、2003年7月には、その後の状況変化に合わせて「e-Japan戦略Ⅱ」へと改定されました。この「e-Japan戦略Ⅱ」では、世界最先端のIT国家となった2006年以降も、世界最先端であり続けることを目標に掲げ、医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスを先導的取り組み7分野と定めて、ITの利活用に重点を置いた施策が実施されました。

IT政策パッケージ-2005

2005年2月に策定された「IT政策パッケージ-2005」では、インターネット網の充実や電子商取引の市場規模の拡大について評価する一方で、電子政府、医療、教育分野などでのITの利活用においては、課題が残されているとしました。2006年以降も見通しながら、さらなるITの利活用を進め、ITがもたらす問題点を克服するとしています。重点的な取り組み分野としては、行政サービス、医療、教育・人材、生活、研究開発、国際政策、情報セキュリティ・個人情報保護、電子商取引を挙げています。

uJapan政策

総務省は、2004年12月、山積する社会課題を解決していくためには、ユビキタスネット社会の実現が不可欠であるとして、2010年までに「世界を先導するユビキタスネット社会」の実現を目標とする「u-Japan政策」を策定しました。さらに2006年9月には、「u-Japan推進計画2006」を策定。「u-Japan政策」を総合的に推進し、「e-Japan戦略」の今後に貢献していくとしています。

IT基本法を抜本的に見直すことになった経緯

IT基本法を抜本的に見直すことになった経緯
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IT基本法の制定(2000年11月成立/2001年施行)から20年以上が経過し、「デジタル改革関連法案ワーキンググループとりまとめ」では、改正の必要性を以下のとおり指摘しました。

インターネットの流通データ事情の変化

まず、IT基本法の施行後、インターネットを通じて流通するデータは多様化し、その大容量化が進みました。このためIT基本法が重点を置いていたインターネットなどの高度情報通信ネットワークの整備に加えて、データを最大限に活用していくことが、「あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展」の実現のために不可欠となっていることが指摘されています。

流通データの多用・大量化に伴う「負」も増加

一方、多様化し、大容量化したデータ流通による負の側面も顕在化するようになりました。デジタル技術の活用だけではなく、その悪用や乱用からの被害防止も含めて、リテラシーを育むことの必要性・重要性が増しています。

コロナ禍で、国・自治体、民間・社会のデジタル化の遅れが顕在化

新型コロナウイルスへの対応においては、国や自治体のデジタル化の遅れや人材不足、不十分なシステム連携に伴う行政の非効率化、煩雑な手続きや給付の遅れなど、行き届かない行政サービスや、民間や社会におけるデジタル化の遅れなどのさまざまな課題が浮上することになりました。

社会課題への対応としてデータ活用が緊要

この他にも、少子高齢化や自然災害といった社会課題に対応していくために、データの活用はきわめて重要で必要性の高いものとなっています。

インターネット網の整備が進み、パソコンやスマートフォンの普及によって、さまざまな情報を入手、共有、発信可能な状況にはなりましたが、これらのデータを最大限に活用した「創造的かつ活力ある発展」には結びついていかなかったことが新たな課題として認識され、IT基本法の改正が検討されるようになりました。

インターネットの普及・拡大をはじめとする情報通信ネットワーク基盤の整備から、創造的で活力ある発展を支えるデータ利活用の促進へ。それがIT基本法を継承し、発展させるデジタル社会形成基本法の役割だとするならば、IT基本法は、単に見直されたわけではなく、十分にその役割を果たして、新法へと引き継がれたことになります。そして、デジタル社会の形成による恩恵が、誰一人取り残さずにもたらされるかどうかは、デジタル庁や自治体をはじめ日本社会全体の、デジタル化に向けた取り組みによって方向づけられるのではないでしょうか。

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