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2023年4月19日

自治体システムのクラウド化を遅らせるベンダーへの依存体質【ベンダーロックイン①】

ベンダーロックインとは、情報システムを特定のベンダーの技術や製品などに依存した構成とすることで、他社への乗り換えが困難な状況に陥ることです。本記事では、ベンダーロックインのデメリットやベンダーロックインが自治体システムのクラウド化を阻む原因などについて紹介します。

ベンダーロックインとは?

ベンダーロックインとは?
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情報システムの開発・構築にあたって、ある特定のベンダーの製品や独自仕様の技術、サービスなどに依存した構成とすることで、他社への乗り換えが困難になることを、ベンダーロックインといいます。このような状態では、周辺システムも、そのベンダーの仕様またはベンダーからの指定で揃えなければならないことが多く、後継システムへの更新や新たなシステムの開発においても、同じベンダーに依頼せざるをえなくなります。

ベンダーロックインによって起こる問題点

ベンダーロックインによって起こる問題点
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ベンダーロックインの状態に陥ってしまうと、どのようなデメリットが生じるのでしょうか。

開発・保守費用が高額になりがち

システムを開発したベンダーは、当然ながらそのシステムについて誰よりも深く理解しています。このため、システムの保守点検や障害発生時には、そのベンダーに依頼すれば、より的確で円滑な処置が期待できるでしょう。また、システムの拡張や更新が必要になったり、周辺システムなどを新たに開発する場合にも、既存システムを理解するベンダーに依頼しがちです。

ベンダー側もこのような優位性を理解しているために、開発や保守にかかる費用を算定する際には、より強気な設定とすることも少なくないでしょう。また、要望に対して過不足のある提案があったとしても、ユーザー側は、これに対して不服を申し立てたり、費用の減額を要求しにくい状況にあります。

提供サービスの品質が低下

ベンダーロックインの状態になると、システムの運用や更新について特定のベンダーに頼らざるをえなくなります。このため、要望を十分に満たしてはいない一方的な提案であっても、「システムをよく知っているベンダーのいうことなら・・・」とついつい受け入れてしまいがちです。このような状況が続けば、ベンダー側にも慢心が生じ、要望に対して融通がきかなかったり、障害発生時の対応が遅れたりといった事態となりかねません。

システムの発注者側に適正コストの相場観がなくなる

ベンダーロックインに陥ると、複数のベンダーから提案を受ける機会が少なくなります。従来発注してきたベンダーからの提案が、発注者側の要望をどの程度満たしたものであるのかを、他社の提案と比較・検討することができず、相見積もりをとって適正なコストの相場を把握することも困難になります。

他社への移行が難しい

以上のような状況が続き、ベンダーへの不満が高じて、システム運用については他社に切り替えることにしたとします。ここで懸念されるのが、既存システムを構築したベンダーとの間で発生する問題と、既存システムの運用について新たに担当することになるベンダーとの間で乗り越えなければならない課題の存在です。

前者は、既存システムの仕様の公開やデータの引き継ぎを拒否される可能性があるという点です。仕様の公開やデータの引き継ぎを行えるとしても、高額な費用の支払いを伴うケースがあります。

後者は「他社が構築したシステムの運用は受けられない」とするベンダーが多いことです。対応できるベンダーがあっても、既存システムを把握するための調査に、高額な費用と時間を要することになります。

これらが、ベンダーに不満を抱えていても、他社への移行が難しい要因となります。

ベンダーロックインが自治体システムのクラウド化に及ぼす影響とは?

ベンダーロックインが自治体システムのクラウド化に及ぼす影響
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地方公共団体では、情報システムの構築やその管理にかかるコストの削減、住民サービスの向上を図るために、クラウドコンピューティング技術を活用した情報システムの共同利用を進めようとしています。このような自治体クラウドを推進するうえで、以下のようなベンダーロックイン事情が問題視されています。

高額なデータ移行費用

自治体システムのクラウド化によって、複数の団体が同じパッケージを利用することで、割り勘効果によるシステム改修費用の低減が期待されます。下図のようにシステム構築費自体は抑えられるものの、それまでに利用してきたデータを新システムに移管する費用が高額となるために、システム変更が困難になる場合があります。

新システムへのデータ移管のための抽出プログラムの開発やデータの取り出し、データ内容の説明資料作成などは、既存ベンダーにしか対応することができません。既存ベンダーにとっては、自治体との取引きが終了することになるため、データ移行費用(下図の★部分)の交渉において、自治体にとって厳しい条件を提示されることがあります。

外字の文字コードの互換性不足

新システムへの移行にあたっては、現行システムで利用していた文字コードを、新システムにおいても整合するように変換する必要があります。システムが処理する文字については、各ベンダーのパッケージにおいて、それぞれ独自に設定した標準の文字コードのほか、自治体が独自に文字を登録し、任意のコードを割りあてることができる外字領域が設定されています。

さらに、標準文字の定義や外字領域もベンダーごとに異なっているというのが現状です。加えて、フォントデータの著作権に配慮して電子データの提供が敬遠されることから、文字コードの変換は手作業による対応となるために、次期ベンダーが行う文字コードを整合させるための費用は高額となる恐れがあります。

システム間のデータ連携に伴うシステム改修が必要

現行システムの一部を新システムに移行する場合、移行後も稼働する現行システムと新システム間のデータ連携を保つために、現行システムを改修する必要があります。ベンダー間相互のシステム連携では、連携部分の仕様が非公開であることが多いため、移行後も稼働する現行システムすべての改修を、既存ベンダーに依頼しなければなりません。加えて、新システムを現行システムにデータ連携させるための改修も、次期ベンダーに依頼することになります。

さらに、異なるベンダー相互のシステム間のデータ連携では、緊密で高速な動作を可能にするために、相互依存性の高い密接な結合状態(密結合)のインターフェイスを採用することが多いといいます。このような密結合のインターフェイスを実装するシステム間のデータ連携を実現するためには、仮に新旧ベンダーから連携部分の詳細仕様が示されたとしても、それが複雑であるために、改修費用の総額が膨らむことが懸念されます。

外部機器とのデータ連携プログラムの改修も必要

多くの地方公共団体の基幹系システムは、たとえば自動交付機などの外部機器とデータ連携を行っています。この場合、連携する機器に専用のプログラムが組み込まれていることが多く、新システムへの移行の際には、これらのプログラムの改修も必要になります。また、システムの動作保証として、接続可能な外部機器をベンダー製に限定していることもあります。

既存システムの構築時、付随する外部機器は、システムとの一括調達によって割安となっていましたが、新システムへの移行時にサーバ機器などを別のベンダー製品に更新しようとする場合、従来の外部機器の新たな業務システム上での動作確認や接続調整を行う必要があり、総費用が高額になることがあります。

とくに官公庁における情報システムの調達において長く続いてきた「ベンダーロックイン」は、とかくベンダー側のスタンスが問題視されがちですが、発注者側である国・省・自治体側の環境や体質も要因のひとつです。お互い自立した関係でシステム構築することが、「利用者が使いやすい自治体クラウドシステム」を作るうえで重要です。

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