【DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)】「21世紀の石油」の流通を安全&自由に! 世界規模で取り組むデータ・ガバナンスの取り組み
- category : GDX ナレッジ #デジタルガバメント #情報構造設計
- writer : GDX TIMES編集部
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DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)とは、国際的なデータ流通の環境整備を目的として、2019年に日本が提唱した概念です。DFFTとは何か、DFFTの表明から数年を経て、再び脚光を浴びることになった背景、各国のデータ・ガバナンス事情やDFFTロードマップをもとに加速する国際連携、デジタル貿易について解説します。
DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)とは?
DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)とは、2019年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)と同年6月のG20大阪サミットにおいて、日本が発信し提唱した概念です。データの利活用にともなう価値を最大化するために、プライバシーやセキュリティ、知的財産権などへの適切な対処により信頼を維持・確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく行き来する、自由で開かれたデータ流通の促進を目指すものです。
2019年1月、安倍首相が世界経済フォーラムで提唱
スイス東部の保養地・ダボスで毎年開催される世界経済フォーラム(WEF)に、2014年以来5年ぶりに出席した安倍首相は、「希望が生み出す経済の新しい時代に向かって」と題する演説を行いました。安倍首相は、この年に開催されるG20大阪サミットを、世界的なデータ・ガバナンスが始まった機会として長く記憶される場としたいとして、データ・ガバナンスに焦点を当てた話し合いを、「WTO(世界貿易機関)の屋根のもとで始めよう」「いまこそがその好機である」と呼びかけました。
そして、個人データや知的財産,国家安全保障上の機密を含んだデータなどは慎重な保護のもとに置かれるべきだが、医療や産業,交通などの有益なデータは,国境を意識することなく自由に行き来させる必要があるとし、そこで私たちがつくり上げるべき体制は、DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)のためのものになると強調しています。
2019年6月8日および9日に開催された「G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合」では、DFFTのコンセプトにG20全体で合意し、データの国際的な流通が経済成長につながり、人々や企業間の信頼がデータ流通を加速することに加えて、信頼につながる各国の法的な枠組みは相互に接続可能なものであるべきことを確認しました。
さらに、同年6月28日および29日に開催されたG20大阪サミットの機会に、安倍首相は「デジタル経済に関する首脳特別イベント」を主催し、このイベントにおいて、今後、データ流通や電子商取引に関する国際的なルールづくりを進めていくプロセスとして「大阪トラック」を立ち上げる「デジタル経済に関する大阪宣言」を発出しています。
WTOにおける電子商取引交渉の経緯をたどると、2019年1月に行われたダボスでの非公式閣僚級会合にて、78のWTO加盟国が電子商取引の貿易関連の側面に関するWTOにおける交渉を開始する意思を確認する共同声明を発出しました。
その後も、ビジネスや消費者、さらには世界経済にとっての電子商取引の利益をさらに増大させるため、すべてのWTO加盟国に参加を促しましたが、「大阪トラック」の立ち上げによる電子商取引に関するルールづくりが進められるなかにあっても、2021年12月現在の交渉参加国は86カ国にとどまっていました。日本政府が推進しようとしたDFFTのグローバル展開は、当初、その期待に反して停滞気味であったといえるでしょう。
2021年10月、岸田首相の所信表明演説で再び注目
2021年10月8日、第207回国会における所信表明演説のなかで、岸田首相は「デジタル時代の信頼性のある自由なデータ流通、『DFFT』の実現に向けた国際的なルールづくりを通じ、我が国の安全と繁栄に不可欠な、自由で公正な経済秩序を構築し、世界経済の回復、新たな成長を後押しします」と語りました。「DFFTの実現」が具体的な文言として盛り込まれたことで、多くのメディアがあらためてDFFTについて注目するようになりました。
データ・ガバナンスの各国事情
DFFTが再び注目されるようになった背景として、データ・ガバナンスに対する各国の考え方の違いやそれぞれが抱える課題やそれに対する取り組みの違いがあります。そうした差異を乗り越えて自由なデータ流通を実現するためにも、DFFTへのニーズが増大することになりました。
データ戦略は各国の最重点戦略
インターネットをはじめとする情報通信ネットワーク基盤の整備が進み、IoT(モノのインターネット)が普及することによって、ヒト・モノ・組織がネットワークにつながり、大量のデジタルデータが生成され、それらの収集や蓄積が進んでいきます。
そして、デジタルデータは「21世紀の石油」と呼ばれるようになり、保有するデータ資源の量が各国の国際競争力を大きく左右し、その利活用が国のあり方やその発展にも大きな影響を及ぼすようになります。このようにデータの価値が飛躍的に増大するなか、各国の競争戦略、産業政策としてのデータへの戦略的な取り組みが求められるようになっていきました。
データの重要性が強く認識されるようになるなかで、有用なデータを自国内や自社内に囲い込もうとする国やプラットフォーマー(国家規模のIT基盤提供企業)が登場するようになりました。データ流通への信頼性やその確保のための規制に対する考え方にも大きな差異が生まれるようになり、データ保護のための過度な規制を行う国があらわれたり、情報の偏在やフェイクニュース、サイバーリスクなどの課題が浮上するようになりました。
各国でのデータ戦略に対する考え方も異なります。米国では、産業基盤としての自由なデータ流通を重視し、民間からは国家に匹敵するほどのプラットフォーマーが台頭してきました。EUはデータ流通の前提として個人情報保護を重視する傾向にあり、加盟各国を通じた環境や法令の整備が必要とする立場をとります。これに対して中国は、データを活用した国家運営と産業展開を志向し、周辺国との連携を拡大してデータの収集・蓄積を図ります。
このような各国間の差異を乗り越えて、自由なデータ流通を実現するためには、DFFTの推進が不可欠であると広く認識されることになっていったのです。
この1年で各国のデータ・デジタルへの取り組みが大きく進展
デジタル社会に対応するために、早くからデータに関する法令を整備して積極的な運用を先行してきた国としては、EUが挙げられます。2018年5月には、一般データ保護規則(GDPR)が施行され、EUに居住する個人データの収集、処理、その使用方法に関する法的な枠組みを整備しました。さらに、データガバナンス法(2023年9月施行)、データ法(2024年中頃の施行が目標)、デジタル市場法(2023年施行予定)、デジタルサービス法(2023年施行予定)と、法整備を進めています。
この1年で各国のデータ流通に対する取り組みが大きく進展したのは、前述のとおり、データの価値が飛躍的に増大し、データが国際競争力を左右するほどの力を持つと認識されるようになったためです。また同時に、データに関する安全保障上の議論も急速な展開を見せています。
国家間によるフェイクニュースが出現するようになり、すべての活動の基礎情報が地理空間データであるとして、その測定精度の向上や活用範囲の拡大などを含めた体系的な整備が、国連をはじめEU、米国などで進められています。さらに、相互運用性の確保やデータ連携基盤の実装など、自由で信頼できるデータ流通のための環境整備にも注力するようになっています。
2021年4月に策定されたDFFTロードマップをもとに国際連携のための議論が加速
2021年4月にイギリスにて開催されたG7デジタル・技術大臣会合では、DFFTの推進に向けたロードマップを策定。以下4つの協力分野での作業が提案され、同年6月のG7サミットで承認されました。
- データローカライゼーション
- 規則協力
- ガバメントアクセス
- 優先分野におけるデータ共有アプローチ
G7アクションプランはG7諸国の共通コミットに
さらに、このG7デジタル・技術大臣会合では、「信頼性のある自由なデータ流通の促進のためのG7アクションプラン」として、G7諸国はともに以下の行動にコミットすることを宣言しています。
DFFT のための証拠基盤の強化
まず、国境を越えたデータ流通により生じる機会と課題をより良く理解するための取り組みを支持することを宣言。プライバシー、データ保護、セキュリティおよび知的財産権の保護など、DFFTの推進に向けた従来のアプローチや施策への理解を深め、中小零細企業への影響など、データローカライゼーション措置が及ぼす潜在的な影響にも配慮して、ローカライゼーションの代替措置についても検討するとしています。
将来の相互運用性促進のための「共通性」の構築
将来の相互運用性を促進するために、既存の規制アプローチと信頼性のあるデータ流通を可能にする手段との間に、共通性を見出し、相互補完性や収束の要素を構築。DFFTを促進するために、民間部門が保有する個人データへのガバメントアクセスに関する高次元の原則策定に向けたOECDの取り組みを引き続き支持するとしています。
規制協力の継続
G7各国は、ラウンドテーブルを通じて、あるいはG7政策担当者、データ監督当局およびデータに関するその他の権限を有する組織間の対話の継続などを通じて、DFFTのための規制協力を促進するための取り組みを支持。さらに、国連PETラボのようなプログラムへの建設的な参加を支持するとともに、DFFTに関する規制協力のための、このほかの取り組みについても継続的に支持していきます。
デジタル貿易の文脈における DFFT の促進
2021年にG7貿易トラックにおいて策定されたデジタル貿易原則に基づいて、G7各国がDFFTの促進に向けて協調していくことを確認。WTOにおける電子商取引に関する議論についても引き続き支持するものとします。
国際データスペースの展望に関する知識の共有
国際データスペースに関する知識交換を促し、実現可能な政策環境を整備します。データスペースは、国内外を問わず、産官学におけるイノベーション支援のため、組織や部門を越えた信頼できる自発的なデータ共有への新たなアプローチとみなすことができるとしています。
このようにデータ流通に関する国際的なルールづくりや討議が進むなか、データ戦略においてもDFFTの推進方法を具体化する必要があります。より質の高いデータ規律を追求しながら、まず、DFFT理念を共有できる有志国との国際連携を深め、さらに有志国以外への理念を浸透にも注力することで、ロードマップの具体化を図り、2023年7月のG7日本会合を見据えて、成果につなげることを目指します。
「デジタル貿易」に関する整備も活発化
DFFT推進のためには、データの流通自体が一定の課題をもたらすことを認識したうえで、プライバシーやセキュリティ、知的財産権の保護などの課題に対処しながら、国境を越えたデータの自由な流通を促すための各国の信頼を獲得する必要があります。
そのための国際的な法的枠組み(国際ルール)の構築は、もっとも重要になります。現在、WTOをはじめ、G7、G20、OECD、APECなど、さまざまな国際的枠組みにおいて「デジタル貿易」に関する新たな規律を設定しようとする動きが活発化しています。
WTOにおいては、164加盟国のうち86の有志国が参加。「デジタル貿易」が新しい取引形態であり、国境を越えた取引をともなうことが多い点などを踏まえて、WTO協定との関係を含め、以下のような論点で検討されています。
データの自由な越境移転
ICTやAIなどのデジタル技術や情報通信ネットワークが、国際的に広く普及・浸透するなかで、国境を越えて流通するデータ量も確実に拡大しています。このようなデータの越境移転を原則として認めることによって、事業者は国境を越えて顧客のニーズに対応したサービスを提供することができるようになります。
一方、プライバシーの保護などの観点から一定のデータ保護の政策を認めることが、データ流通への信頼を築くうえでも不可欠です。データの越境移転をめぐって各国のアプローチが異なるなかで、越境移転への規制が過剰なものとならないよう、自由で開かれたデータ流通を促す環境づくりに向けた議論が進められています。
コンピュータ関連設備の設置
先述したとおり、デジタルデータは「21世紀の石油」と呼ばれ、保有するデータ資源の量が各国の国際競争力を大きく左右するようになっています。このようにデータの重要性が広く認識されるなか、自国内で事業活動を行う条件として、サーバなどのコンピュータ設備を国内に設置することを要求する国も出てきました。
この「データ・ローカライゼーション要求」を原則として禁止することで、事業者は、多額の投資や拠点設置を行わずに海外の消費者や企業とのビジネスを展開できるようになります。このため、将来の国際ルールとすることを前提として、より有意義なルールづくりが検討されています。
ソース・コード及びアルゴリズムの保護
ソフトウェアの動作をプログラミング言語で記したソース・コードやプログラムの処理手順をあらわすアルゴリズムは、事業者にとって貴重な資産であり企業秘密であることから、これらの開示を強制されない(保護される)ことが、事業者が国境を越えてビジネスを展開するうえでも重要です。しかし、この保護の対象やその範囲についても、各国で考え方や法制度が異なるために、その調整のための議論が続いています。
デジタル・プロダクトの WTO協定上の取扱い
デジタル貿易の概念やその形態について、WTO協定上、どのように取り扱うべきかについても、議論が続けられています。たとえば、いわゆるデジタル・プロダクトの売買において、購買料(物の代価)かサービスの対価か、知的財産権の使用料にあたるのかという議論があり、その判断によって適用される規律が異なります。また、デジタル・プロダクトがCD-ROMなどの媒体に記録され物理的に流通する場合とオンライン上で流通する場合とで異なる扱いが適用されるべきか否かについても、異なる意見があるようです。
電子送信に対する関税賦課問題
CD-ROMなどに格納されモノのかたちで取引きされてきたデジタル・プロダクトが、オンライン上で取引きされた場合の課税について、こうした取引自体を徴税機関が把握することがきわめて困難であるという課題があります。こうした技術的な問題に加えて、デジタル貿易の発展のため自由な取引環境を確保する必要性から、インターネット取引に関税を賦課すべきではないとの国際合意を形成すべきという声が高まりました。これを受けて、WTOにおける第2回閣僚会議において次期閣僚会議まで電子送信に対する関税を賦課しないこと(関税賦課のモラトリアム)が決定し、2021年時点まで延長されています。
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