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2023年3月1日

なぜ日本ではイノベーションが生まれにくい? 日本のイノベーション事情を探る【オープンイノベーション①】

オープンイノベーションは、組織の内外を問わず、世界中に広がる技術やアイデアなどのリソースを活用して革新的な価値を創出することです。このオープンイノベーションのアプローチ、注目されるようになった背景、日本でオープンイノベーションが進まない理由などについて紹介します。

オープンイノベーションとは?

オープンイノベーションとは?
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イノベーションは、それまでになかった製品やサービス、ビジネスモデルなどによって、新たな価値を社会にもたらします。イノベーションによって、人々の暮らしは豊かになり、その発信元である企業は大きな収益を得て、ときに産業構造を変革するほどの影響力を有します。近年、このイノベーションの創出に有効であるとして注目されているのが、オープンイノベーションです。 

イノベーションを創出する有効なアプローチ

イノベーションを創出するための効率的な手法として、オープンイノベーションを提唱したのは、経営学者のヘンリー・チェスブロウ。2003年に発表した「Open Innovation – The New Imperative for Creating and Profiting from Technology」のなかで、オープンイノベーションを以下のように定義しています。

組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果として組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすこと

和訳引用:「オープンイノベーション白書 第3版」オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

多くの企業はそれまでイノベーションを、競争優位性を確保するための切り札として、自社が保有する技術や知的財産を保護して、組織外に展開することを避けてきました。このような壁の存在が、新たなイノベーションの創出が困難となる状況を生み出し、より効率的にイノベーションを創出するためのアプローチが求められていました。

従来のクローズドイノベーションとの対比

オープンイノベーションの対極にあるのが、クローズドイノベーションです。

研究開発を強みとする企業では、自社開発による独自の技術をベースに、それらを発展させた製品や技術を短期間で開発し、その販売までを自社資源でまかなう垂直統合の事業モデルを実践してきました。イノベーションの成果をいち早く市場投入することで競争優位を確立しようとするもので、これを「クローズドイノベーション」と呼んでいます。

一方、オープンイノベーションは、自社が保有する独自技術の延長線上に新たな市場を築こうとするというよりも、市場の変化をとらえたビジネスモデルを有効に機能させ、発展させることを優先し、そのことによって創出される新たな価値に主眼を置きます。そのためには、社内の人材のアイデアや研究開発の成果に頼るばかりではなく、他社との提携を含めて、より広く積極的に外部のアイデアや知的財産の獲得を図ろうとします。

クローズドイノベーションとオープンイノベーションの考え方の比較/和訳引用:「オープンイノベーション白書 第3版」オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会
クローズドイノベーションとオープンイノベーションの考え方の比較/和訳引用:「オープンイノベーション白書 第3版」オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

なぜ、オープンイノベーションが注目されるようになったのか?

なぜ、オープンイノベーションが注目されるようになったのか?
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近年、オープンイノベーションに注目が集まっている背景としては、まず、イノベーションを自前の技術やリソースだけで実現しようとするクローズドイノベーションでの限界が認識されるようになってきたこと。加えて、「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる変化が激しく将来予測の困難な時代の到来があります。具体的には、以下のような変化に機敏に対応することで、新たな価値の創出が期待されます。

多様化する顧客ニーズへの対応

消費者や顧客企業に選ばれ続けるためには、変化する顧客ニーズを的確にとらえて、スピード感をもって対応しなければなりません。しかしながら、今後ますます顧客ニーズが多様化していくと、変化をとらえるためのリサーチ活動や変化に対応した機動的な技術対応にも限界が生じてくるでしょう。そこで期待されるのが、組織外との連携・協働によってマーケットへの柔軟な対応を可能にするオープンイノベーションの推進です。

短期化するプロダクトサイクル

市場における激烈な競争環境では、他社の製品やサービスよりも優れたものを可能な限り早期にマーケットに送り出すことで、競争優位を確保しようという動きが繰り広げられています。新たな製品やサービスの市場投入時期を早期化するためには、開発や製品化のプロセスを圧縮し、プロダクトサイクルを短期化しなければなりません。そのためにもオープンイノベーションによる知的財産や研究成果、人材やアイデアなどの共有が不可欠です。

オープンイノベーションが日本で進まない背景

オープンイノベーションが日本で進まない背景
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オープンイノベーション活動の実施率やオープンイノベーション活動への投資割合、「Global Innovation Index」のランキングによって、日本と欧米のイノベーション創出状況の違いについて見てきました。この結果、日本企業は総じてオープンイノベーションの実施に消極的であるために、イノベーションの創出におけるプレゼンスを落としている可能性があります。そこで、ここでは日本でオープンイノベーションが進まない背景について整理しておきます。

発明牽引型のイノベーションが生産性のジレンマに

日本にはかつて「Japan as No.1」と称賛され、世界経済を牽引してきた時代がありました。1989年の時価総額ランキングでは、日本企業が世界のトップ10中7社を占め、50位内に32社がランクインしていました。ところが、2019年の時価総額ランキングでは、日本企業はトップ10から姿を消したばかりではなく、50位内に1社がランクインするのみとなっています。

イノベーションの創出については、「発明牽引型」「普及・展開型」「21世紀型」に類型化できると考えられています。「Japan as No.1」の時代、日本企業が創出した代表的なイノベーションは発明牽引型。「それまでに世界にない製品やサービスを生み出す技術力」に加えて、「プロセス・イノベーション」による改善や垂直統合によって、高品質で価格を抑えた製品開発を可能にする点を強みとしていました。

しかし、自動化やプロセス化による生産性の高さにこだわるあまり、それらの改善によるイノベーションばかりに偏って注力してきた傾向があります。このため、ウィリアム・J・アバナシー教授が提唱する「イノベーションは、最初にプロダクト・イノベーションが進み、その後プロセス・イノベーションが主流となるが、生産性が上がるほど、その企業や産業において新しい製品・サービス創出のイノベーションが行われにくくなる」、いわゆる「生産性のジレンマ」に陥ってしまった可能性があります。

一方、中国や韓国をはじめとする新興国企業では、低コスト・高品質の製品やサービスを提供するようになり、この点もまた、日本企業がかつて維持していた優位性を低下させる要因となりました。
以下、イノベーションを創出する各要素についても、日本企業ならではの傾向や特徴について見ていきます。

異端が冷遇されやすい社会環境

日本では、ニッチな領域で独自性を発揮する製造業や垂直統合によって技術を閉鎖的に蓄積しようとする戦略が有効にはたらく業界に限っては、高度な競争力を有しています。また、課題先進国として多くの社会課題に直面していることから、これらの課題に対する解決策の展開によって新たな事業創出の可能性があります。

ただし、日本企業や日本社会は、不完全な技術や平均から大きく外れた異端児に対して冷淡な風潮があり、この点がイノベーションの創出を阻害する要因となっていることも否めないでしょう。

発明牽引型のイノベーションが生産性のジレンマに
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過度な統制と法令遵守の弊害

保守的な文化が根づく日本企業では、ガバナンスやコンプライアンスの意識が過度にはたらくために、意思決定が遅れる傾向にあります。また、リスクを回避しようとする志向が強く、既存事業の深耕や改善には有効に作用しますが、イノベーションの創出には不利となる可能性があります。

また、上場する大企業における経営者の任期の短さによって短期的な利益を追求する傾向にあり、資金調達や新規事業創出など実施経験の不足から、中長期の視点からのイノベーション創出に弱みがあるとの指摘もあります。

他社の技術動向に無関心

日本には豊富な技術の蓄積があり、これをベースに新たな価値やアイデアを効率的に創出する可能性があります。しかしながら、他社の技術については無関心な傾向にあるため、社外から発信される技術のトレンドに遅れをとることが多いという傾向も見られます。

とくに、半導体や電子部品などの業界では、自社の技術を強みとしている企業が多く、その強いこだわりから、中小・スタートアップ企業や大学などが保有する技術を適切に評価できていないといわれています。

人材の流動性・多様性が不十分

年功序列、終身雇用が定着する日本社会において、人材の流動性は低く抑えられてきました。また、イノベーションの創出に欠かせない要素として注目される多様性や国際化についての環境も十分ではありません。

新規事業の創出手法を学ぶ機会はあるものの、自ら行動を起こそうとする人材不足によって、イノベーションの推進力に欠ける状況にあります。さらに、リーガルやファイナンスといった専門人材が活躍すべき領域で、質の高い人材が育たないという悩みも抱えています。

スタートアップ企業が育ちにくい

日本でスタートアップを成長させる環境について把握するための、VC(ベンチャーキャピタル)投資額の国際比較の結果が下図になります。日本のVC投資額は増加傾向にあるものの、アメリカや欧州、中国と比較するとかなり低い水準にあり、スタートアップの成長に必要な資金調達が行われていないことがわかります。

政府による補助金の募集なども少なく、国が本気で日本の競争力を強化しようとしていないとの意見もあるようです。

VC投資の国際比較/「オープンイノベーション白書 第3版」オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会
VC投資の国際比較/「オープンイノベーション白書 第3版」オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

企業や大学、スタートアップなどが、イノベーションの創出に向けて連携し、協働するためには、取り払わなければならない、いくつもの壁が存在することがわかりました。研究者や開発担当者などが参集し、所属する組織にしばられることなく、共通する課題解決に取り組めるように、組織のあり方やはたらき方を見直す必要があるのかもしれません。

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