自治体DXが進まない本当の理由!?“やってるつもり”のBPRが引き起こす5つの落とし穴とは?
index
BPRはやった、DXも進めた──それでも現場の業務はなぜ変わらないのか?
本記事では、アスコエパートナーズの支援実績をもとに、自治体における「BPRの落とし穴」とは何か、そして本当に機能する業務改革とはどういうものかを整理。
自治体DXを“前に進める”ために、あらためて見直したいポイントと実践のヒントをお届けします。
BPRはやっているはずなのに手応えがない!?

自治体DXが本格的に動き始めた今、「まずはBPR(業務改革)から」と言われることも増えてきました。すでに取り組みを始めている自治体も多いはずです。ですが現場からは、こんな声も聞こえているようです。
「フロー図は作ったけど、何も変わっていない気がする」
「RPAを導入したけど、実はフローは変えてない」
「電子申請にしたのに、紙も併用で結局二重作業」
「システムを入れたはずが、業務がかえって煩雑に感じる」
じつは、BPRには“よくある落とし穴”があります。この記事では、基本をおさらいしながら、「やってるつもり」で終わらないための視点を紹介します。とくに、現場との乖離を防ぎ、真に機能するBPRとは何か──自治体職員が今一度立ち止まって考えるきっかけとなるよう、最新の知見も踏まえて解説します。
BPRの基本:単なる“改善”ではなく“再設計”

BPRとDXは切っても切り離せない関係にありますが、その本質はしばしば混同されています。ここでは、BPRの定義とDXとの違いを整理することで、「なぜBPRから始めるべきなのか」を明らかにします。
BPRとは何か?
BPR(Business Process Re-engineering)とは、「既存の業務の流れを根本から見直し、再設計すること」。単なる業務改善(KAIZEN)ではなく、構造的な改革を目指すアプローチです。今あるフローに手を加えるのではなく、前提を疑い、業務そのものの在り方から問い直すことがポイントです。
DXとの違いは?
よく混同されがちですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)は「技術による変革」であり、BPRはその前提となる「業務の見直し」です。
BPR:仕事の流れを再構築すること
DX:そこにデジタル技術を掛け合わせること
たとえば紙で行っていた申請手続をWeb化する場合、たんに紙の様式をデジタルに置き換えるだけでは不十分です。その業務が本当に必要なのか、もっとシンプルにできないのか。そうした問いこそがBPRの本質であり、DXの成功には欠かせません。
BPRは「なぜこの業務が必要か?」を問い直す視点。
DXは「どう効率化・変革するか?」の視点。
また、ハンマー(=ITツール)を持ったからといって、どこにどう使えばよいのかわからなければ意味がありません。BPRは“釘がどこにあるか”“本当にその釘が必要か”を見極めるプロセスでもあるのです。
よくある落とし穴:5つの“あるある”失敗パターン

DXやBPRにおいて陥りがちな代表的なミスを5つ紹介します。これらを事前に知っておくことで、再設計や導入が“机上の空論”で終わることを防げます。
落とし穴①「やってるつもり」
業務フローを“書いただけ”で終わってしまうケース。ファイルはあるが、現場の誰も見ていない/活用していない──という状態になっていませんか?形式上のフロー作成が目的化すると、実際の運用には何の影響も及ぼさないことも。利用されなければ、整備された業務フローはただの”飾り”にすぎません。
落とし穴②「フローだけ作って終わり」
業務フローの図解は整っていても、その中身がまったく変わっていない。つまり、ムダな手続きや二重チェックがそのまま残っているケースです。見た目の整備で満足してしまい、運用改善には至らない典型例といえます。
落とし穴③「現場が不在」
設計フェーズに現場職員の声が入っていないと、BPRは机上の空論になりがちです。結果として、「本当に困っていた部分が改善されない」「新しい仕組みに現場がついていけない」といった事態が起こります。
実際に、アスコエが支援した自治体の例では、職員の動線や対応内容を現場ヒアリングで丁寧に可視化し、申請受付から処理までのプロセスを組み立て直し、一部ツールも活用 することで、住民の待ち時間短縮と職員の負担軽減を同時に実現しました。こうした成果は、現場の理解と協力を得てこそ成り立つのです。
落とし穴④「一気に全部やろうとした」
全庁的な見直しを一度に進めようとすると、関係者の調整だけでも大きな負担になります。手が回らなくなり、結果として何も進まない、という悪循環に陥ることも。段階的な実施、優先順位付けが不可欠です。
落とし穴⑤「システムが先行」
新しいツールやシステムの導入を先に決め、その後で業務を無理に合わせるパターン。使いづらさや混乱を生み、結果的に職員がツールを避けるようになるリスクも。
さらによくあるのが、現状の業務フローを見直さないまま、従来業務をそのままシステム化してしまうケースです。たとえば、手作業で完結していた承認プロセスをそのまま電子申請システムに載せた結果、むしろ確認の手間が増えたという失敗例もあります。
このように、システム導入は、業務の再設計(BPR)とセットで進めることが不可欠です。
成功する自治体が実践している3つのステップ

BPRを成功させている自治体は、ある共通のステップを踏んでいます。単なる理論ではなく、実際の運用に耐えうる改革を実現するには、この3つの視点が欠かせません。
【ステップ1】業務の棚卸しから始める
まずは業務を「見える化」することから。誰が、何を、どのツールを使って行っているかを一つずつ棚卸しすることで、属人化・重複業務・不要な手順などが浮き彫りになります。このステップを丁寧に行うことで、その後の再設計が現実に即したものになります。
まずは業務を「見える化」することから。誰が、何を、どのツールを使って行っているかを一つずつ棚卸しすることで、属人化・重複業務・不要な手順などが浮き彫りになります。このステップを丁寧に行うことで、その後の再設計が現実に即したものになります。
【ステップ2】現場と一緒にフローを作る
フロー設計の主体は現場です。担当者の作業の流れや悩み、実際の事例をもとにした“リアルな流れ”で設計されてこそ、実装後も自然に定着します。ヒアリングやワークショップの場を設けるなど、対話を通じた設計が重要です。
【ステップ3】マニュアルとの連動や改善ループ
フロー図があるだけでは運用は定着しません。具体的な手順を記したマニュアルと連動させることで、職員の理解が深まり、教育や引き継ぎもスムーズになります。さらに、実際に使ってみたフィードバックをもとに、定期的に見直す改善ループを回していくことが不可欠です。
これからのBPRに求められる視点

DXや業務標準化が進む中で、BPRの手法にも変化が生まれています。従来のような“フローを整えるだけ”のBPRでは、複雑化する住民ニーズや行政サービスの多様性に対応しきれません。これからのBPRには、より「使いやすさ」や「現場視点」が求められています。
UX設計の視点を取り入れる
従来のBPRは「内部の効率化」が目的でしたが、最近では「住民にとっての使いやすさ(UX)」が重要な軸になっています。問い合わせ・相談・申請といった行政手続きの場面で、住民が迷わずたどり着けるかどうか、わかりやすい導線ができているかが問われています。
フローチャートとマニュアルの連動
業務フローだけが独立して存在しても、実際の運用にはつながりません。最近では、フローチャートに操作マニュアルや説明動画へのリンクをつけるなど、実用レベルでの「業務の見える化」が進んでいます。
アスコエでは、庁内の複数業務を一元的に整理・展開した支援実績もあります。こうした柔軟な仕組みが、現場で使われるためには欠かせません。
ベンダーとの新しい関係性
これまでのベンダー選定は「価格」や「機能の豊富さ」が主な基準でした。しかし今後は、「一緒に考え、設計してくれるかどうか」が重視される傾向にあります。
業務要件を丸投げするのではなく、「実現したい姿」を共有し、設計段階から並走してくれるベンダーとの連携が、BPRの成果を左右します。アスコエでは、自治体のDX推進担当、実務を担う現場職員、そしてベンダーという三者が協働する“共創型”の支援を実施し、複数領域で高い実装率を実現してきました。
ツールは“使えるか”より“使われるか”
どんなに高機能なツールでも、使われなければ意味がありません。自治体の現場には、シンプルでわかりやすく、現場のリズムに合ったツールが求められています。Excelやフローチャートツールなど、既存環境でも活用しやすい形式で整備することが、現実的な第一歩になります。
支援の“選び方”が成果を分ける
BPRは進め方次第で、成果が大きく変わります。実態に即した棚卸しや、地に足のついた支援ができる外部パートナーと組めるかどうかが、成功の分かれ道です。単なる“導入支援”ではなく、伴走型で、現場の課題に寄り添ってくれる存在が求められています。
アスコエが伴走支援に入った別の事例では、現場ヒアリングとフロー作成を並行して進め、現場が納得して運用に移行できるよう支援。1年以内での実装と定着を実現しました。
BPRは、まだ間に合う

「うちもBPRはやってます」と思っていても、見直してみると意外な落とし穴があるかもしれません。重要なのは、
最初に“全体像”を見える化すること
現場に即した棚卸しから始めること
業務の再設計から、DXの道はひらけます。BPRをもう一度「点検」し直すところから、自治体の変革は加速するかもしれません。