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2021年4月14日

オープンガバナンスとは?~“市民と行政が共に創る”ことの重要性

行政も市民も共に主役となり協働する「オープンガバナンス」。市民が地域の課題を自分の問題として取り組み、行政も知識と経験を活かしてこういった市民の活動を支えるという考え方です。2016年から開催されている「チャレンジ!オープンガバナンス(COG)」では、毎年多数のプロジェクトが表彰されています。今回は、COGの運営コーディネーターで、オープンガバナンスネットワーク代表理事の奥村裕一様に、オープンガバナンスのこれからについて、お話を伺います。

(インタビュー: GDXタイムズ 編集部、撮影:小林孝至)

一般社団法人オープンガバナンスネットワーク 代表理事、COG事務局長
元東京大学公共政策大学院客員教授
奥村裕一様

オープンガバナンスとは?

Q まず、奥村様がオープンガバナンスに興味を持ったきっかけをお聞かせください。

奥村様:ちょっと長くなりますよ(笑)。

私が行政官を30年務めて、退職する2001年頃、ようやく日本も電子申請をという話が出てきましたが、その頃のものは使いにくくて、申請者の立場から見ても日本の電子政府はまだまだこれからだと感じました。退職後、何をやろうか考えたときに、IT分野が好きだったこともありますが、行政の近代化につながることを自分のテーマにしようと思い、海外でデジタル化についていろんな会議に出たり、専門書を読んだりしました。そして、2003年頃、アメリカに行ったときに、Building the Virtual State(仮想国家の建設)」という本に出会いまして、非常に感動しました。

そこには、アメリカ政府がいかに電子政府に真剣に取り組んでいるかが事例を紹介しつつ書かれていたのですが、一番印象に残っているのは、1980年代後半の陸軍の電子政府導入の話。当時の将校たちが、経験と勘でやるからデジタル化なんて要らないという中、若い人たちがこれからの時代はデジタルを使ってデータを科学的に分析して軍を動かしていかなければいけないと主張したそうです。こういった新しい考えがアメリカの電子政府の進化のポイントになるんですね。

もう一つのきっかけとしては、クリントン大統領・ゴア副大統領チーム。彼らが行政改革をする際、従来の“ハードな組織を変える”という手法ではなく、これからは民間の手法を大胆に取り入れて真の顧客は誰か、ITを使って仕事の仕方を変えていくという意見書を1993年頃にまとめ、そこから米国政府のウェブサイトの導入と改革なども急速に進んでいきました。

その後、ブッシュ大統領時代は、マネジメント改革に力を入れ、これによって、行政の近代化がだいぶ進んだと思います。しかし、マネジメント改革はあくまで中の話、いかに効率よく仕事するかがポイントになります。そこで、オバマ政権では、市民との関係性に着目。データをオープンにする透明性(Transparency)、市民も行政の意思決定に参加する(Participation)、実行にあたって双方が協働する(Collaboration)の3つの原則に基づき、「オープンガバメント」をやっていくことを職員向けに宣言しました。市民との関係性を強調していくために行政が持っているデータをオープンにして市民に使ってもらう、データを使って課題を市民自身にも解決してもらおうという取り組みを始めたのです。

Q 日本でのオープンガバメントの取り組みはどのように始まったのですか?

奥村様:2013年のG8首脳会議で英国の主導でオープンデータ憲章が合意され、日本も本格的な取り組みを始めたわけですが、市民社会が発達しているアメリカなどに比べて、当時の日本は、市民が行政の課題を自ら解決する、データを活用するなんて、経験もないしやり方もわからない。ましてやデータをオープンにするといっても、行政側もただオープンにしているだけ。そこには市民が見えてこないんです。たくさんのジレンマを抱えたスタートでした。

「市民も行政も主役」のオープンガバナンスへ

Q そのような固定概念をどのように変革していったのですか?

アメリカスタイルそのままではいけないと感じ、考えたのが「市民も主役 行政も主役」という考え方。それがオープンガバナンスなんです。2014年に論文を書き、「オープンガバナンス」という用語を挿入しました。行政がオープンデータに取り組むだけでなく、大事なのは市民が自分事として社会課題の解決に取り組むことの重要性を訴えていきたかったわけです。

そうして、市民が地域の課題解決に対して自分事として取り組んでいくために、行政はこのような市民を支えるプラットフォームを目指す。つまり、行政はデジタル時代にふさわしいオープンデータや知識の市民との共有を進めることとなるわけです。

さらに実際、市民が地域の課題解決に対して自分事として取り組んでいくときに視野に入れて欲しい視点であり道具類でもある、データ、デザイン、デジタルの3Dをよく考えて作っていきましょうとメッセージを出していきました。

  • ファクトを知るデータ分析
  • 人の心を探るデザイン思考
  • 以上を支えるデジタル技術

Q 具体的にはどういうことが必要なのでしょうか?

奥村様:とりわけポイントになるのはデザイン思考です。これはデザインしたものを使ってくれる人間を知るということ。デザインの良しあしはそれを表現したモノが使う人の立場でいい感じか、使いやすいかで決まります。この感覚をCOGのアイデアの設計、ひいては政策つくりにも生かして欲しいと思っています。以前、行政官だったのでわかるのですが、行政側はつい自分の立場でポジショントークをしてしまいます。それではダメなんですよね。一度フラットな目で社会を見て、具体的なユーザーのことを考えないといけないのです。オープンガバナンスを通じて、行政がこのデザイン思考の大切さを理解し、市民と共に今まで目が届かなかった課題について取り組んでほしいと思います。

市民側も市民が主役なのですから、人を知るデザイン思考にあわせてファクトを知るデータで解決の根拠を明確にし、デジタル技術(多方面の使い方があり21世紀の変革の起爆剤)を積極的に活用して、地域の問題解決に斬新なアイデアで取り組んでほしいですね。

「チャレンジ‼オープンガバナンス」が描く可能性

Q 2016年からスタートした、「チャレンジ‼ オープンガバナンス(以下COG)」についてお聞かせください。

奥村先生:COGでは、行政と市民が協働するプロジェクトを募集して、審査、表彰しています。年々、参加する自治体が増えていますね。平均すると50くらいかな。実際にやっていく中で自治体にとっても市民にとっても良い刺激になるようで、例えば、COG2020に参加した沖縄県の那覇市のグループは高校生が中心なのですが、一緒にプロジェクトに取り組んだ若い市役所の職員にとっても成長できる経験になったそうです。こういう声を聞くと、嬉しくなりますね。またそういう職員を見守ってあげる職場環境も大事ですよね。

Q COGで成功している事例はありますか?

奥村様:何をもって成功というかなのですが、COGに参加したらいいというわけではないです。僕が思うにCOGでアイデアを出したことで終わるのではなく、そのアイデアを具体的な人や地域に落とし込み、市民にどう役立っていっているかが大切だと思います。そして、形にこだわらず持続的にやっていけるかが勝負ではないでしょうか。

そういった意味では、COG2016で総合賞を受賞した東京都中野区の「地域でつながる子育て&里親制度」は注目すべき事例となっていますね。このアイデアは、今まで別々の子育て支援としてあったファミリーサポート制度と里親制度を結び付け、地域の子育て支援を充実させることを目的としています。活動は区民、専門家、行政が参加するのはもちろん、最近では育つ子どもたちのアドボカシーとして「こども会議」を実施し、里親家庭で育つ子どものニーズを子どもたち自らが探り、新たに設置される特別区の児童相談所へ発信しています。この活動を通して、里親子の当事者が児童相談所でサポート役をしていきたいという話になっています。

これこそ、行政がやっていることを市民が自ら参加して協働していくオープンガバナンスの理想です。こういう広がり方がもっと増えるといいと思っています。公共的なことは行政や組織だけが担うのではなく、具体的な地域や人にまで落とし込み、それが持続的に変わり続けていくことが成功したことになるんじゃないかと思っています。

COGが今後、目指すところ

Q COGの今後の取り組みや課題についてはいかがでしょうか?

奥村様:もっとこの活動を知ってもらい、支えてもらえるように考えないといけないと思っています。昔の日本は村落共同体が充実して、こういったことは地域ごとにやっていましたが、近代化に伴い消滅しています。この活動を通して、村落共同体の古い因習を踏襲するのではなく、対等で平等な社会にしていく。そのために広くコミュケーションをよくしていくことが必要で、それにはデジタルの力が一番大きいと思っています。デジタルというと超高齢化社会なので、高齢者を置いていかないようにしなくてはいけないですね。

また人の生き方についても考えていきたいです。ワークバランスという言葉はありますが、これからはワークライフソーシャルバランスが大切だと思います。
例えば親が子どものスポーツクラブのコーチをするなど、仕事とそれ以外の時間の調和を図る事例はありますが、それだけでなく社会との繋がりをそこにプラスしていけたらいいですね。例えば公共の場のゴミ問題に向き合うなど、社会との繋がりを意識するようになると、こういった活動に市民がもっと参加しやすくなるんじゃないかと思います。

Q とはいえ、まだまだ行政側がデータをオープンにすることや、こういう活動について慣れない部分もあるのではないでしょうか?

奥村様:オープンといっても本当に行政が市民から見て開らかれているかということには疑問はありますね。行政での考え方にこだわっているところがあります。こういう時こそ、素人目線でいる必要があり、自分は何ものでもない、フラットになることが必要です。不要なものは捨てる、こだわらない、自分の心を洗い、まっさらな気持ちで向き合うことが大切。そうすると市民や地域にとって必要なことが見えてくると思いますよ。

奥村様のリフレッシュ方法

Q 今後もますますお忙しい日々かと思いますが、ご趣味やリフレッシュ方法を教えてください。

奥村様:趣味?まずは中野駅前のレフ亭の今川焼を食べることですね。とろける美味しさです。それに強いて言うなら瞑想かな。ひたすら無になる、孤独になることで、時間を忘れることができますね。散歩が好きなのもそのせいかな。若い頃は自転車で東京から箱根まで往復したりしていましたね。ひたすらペダルをこいでいると夢中になるし、没頭して何も考えなくなるでしょ? 「自分が無になる」そういう時間が好きなんです。でも没入しすぎて約束をすっぽかすことがあるので要注意ですね(笑)。

◆チャレンジ‼ オープンガバナンス

http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/padit/cog2020/

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