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オープンガバメントとは、ICTを活用して、透明性が高く「開かれた政府」を実現しようとする取り組みのことです。このオープンガバメントの実現に向けたこれまでの取り組みやオープンガバメント推進のメリットと懸念点などを解説します。
オープンガバメントの意味は「開かれた政府」
オープンガバメントとは、その名が示す通り「開かれた政府」を実現するための取り組みをいいます。「政府のオープン化」と呼ぶこともあり、インターネットを活用して、政府を市民に開かれたものとしていく活動が推進されるようになりました。
また、オープンガバメントの実現に向けた取り組みでは、政府が保有する情報データを積極的に開示することが重要であることから「オープンデータ化」という表現が用いられることもあります。さらにオープンガバメントには「Web2.0」を活用した新たな行政モデルの構築が期待されるため、「Gov2.0」と呼ばれることもあるようです。
このように呼びかたはさまざまでが、いずれも市民の「知る権利」を尊重し、政府が保有する情報に市民がアクセスする権利を保障して、透明性の高いオープンな政府の実現を目的としている点は同じです。そして、オープンガバメントの実現には「政府の透明性(Transparency)」「市民の参加(Participation)」「官民の連携(Collaboration)」が基本となります。
オープンガバメント取り組みの経緯
透明性のある「開かれた政府」の実現に向けたオープンガバメントの取り組みは、各国政府のどのような活動を起点として発展してきたのでしょうか。その経緯についてまとめてみました。
英国政府のPOIタスクフォースが契機に
政府が保有する情報の公開については、以前から各国政府による取り組みが見られましたが、現在のオープンガバメントの取り組みにつながるものとして、英国政府のPOI(Power of Information)タスクフォース(組織内の緊急性の高い課題解決などを行うために一時的に構成された組織のこと)の設置がありました。
2007年6月にPOIタスクフォースによる提言と英国政府の対応策が同時に公開されたことを契機に、各国政府においても、より積極的な行政情報の公開とその活用策の検討が行われるようになりました。
オバマ政権の「オープンガバメント」構想で加速
こうしたなか、米国では2009年1月にオバマ大統領が就任し、その直後に各省庁に向けて発出した「透明性とオープンガバメント(Transparency & Open Government)」と題する覚書が、オープンガバメントのムーブメントに火をつけたといわれています。オバマ大統領はこの覚書で、「透明性」「国民参加」「協業」の3原則に基づいて「開かれた政府」を築くことを表明しています。
日本でのオープンガバメントの取り組み
オープンガバメントの実現に向けた各国の取り組みが進むなか、日本国内ではどのような動きがあったのかを見ていきます。
2009年|CIO百人委員会を開催
英国のPOIタスクフォースによる提言を契機に、日本国内においてもオープンガバメントの実現に向けた議論や検討が進むようになりました。2008年10月には、経済産業省が行政府や自治体のCIO(最高情報責任者)関係者が集まる行政CIOフォーラムを立ち上げ、情報公開や官民の対話を通して新たな行政モデルを立ち上げるための研究に着手しています。
その後、オバマ政権によるオープンガバメントの提起を受けて、2009年3月、経済産業省は官民のCIOを集めた「CIO百人委員会」を開催。この委員会での議論を経て「行政情報のオープン化」「政策づくりへの国民参加」を重点プロジェクトとして発表したのが、日本のオープンガバメントのはじまりです。
2011年|新たな情報通信技術戦略を策定
その後、2011年5月には、内閣府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が「新たな情報通信技術戦略」を策定しました。このなかで、行政情報の提供や国民の政策決定への参加などについて、その工程が示されるなど、オープンガバメントは、政府が一体となって取り組むべき課題となっていきました。
同戦略では「情報通信技術革命の本質は情報主権の革命である」として、政府をはじめとする情報提供者が主導する社会から、納税者であり消費者である国民が主導する社会へ転換するためには、ICT(情報通信技術)による徹底した情報公開による透明性の向上が必要だとしています。そして、この戦略の推進のために、以下の3つの柱と目標を掲げています。
国民本位の電子行政の実現
国民生活に必要な手続きや証明書の入手を、行政窓口以外の場所で365日24時間ワンストップで行えるようにするという目標です。また、2020年までに50%以上の地方自治体で、公平で利便性の高い電子行政の実現によって、国民が行政の見える化や行政刷新を実感できるとしています。
地域の絆の再生
ICTの活用によって、すべての国民が地域を問わずに、質の高い医療サービスや在宅医療、介護・見守りを受けることができるようにすべきとしています。すべての世帯でブロードバンドサービスの利用が可能となり、医療・教育・行政サービスなどの飛躍的な向上と地域の活性化が実現します。
世界中で新市場の創出と国際展開
環境・エネルギー、医療・介護、観光・地域活性化などの分野では、クラウドコンピューティングなどの新技術の導入や関連する規制の撤廃によって、約70兆円規模の新市場が創出されることになります。
さらに、スマートグリッド(次世代送電網)やICTを駆使したゼロエネルギー住宅・オフィスの実現などにより、CO2の排出削減も加速させます。また、新世代の技術を投入する戦略分野において、産学官連携による集中的な研究開発を進め、海外市場における知的財産権や国際標準の獲得を目指します。
オープンガバメントは「国民本位の電子行政の実現」の戦略
「オープンガバメント」という言葉は「新たな情報通信技術戦略」推進のために掲げた3つの柱のうち、おもに「国民本位の電子行政の実現」のための戦略として用いられています。
オープンガバメントの重点戦略
行政が保有する情報を2次利用可能なかたちで公開し、インターネットで容易に入手できるようにするなど、「行政保有情報の積極的な公開」を、オープンガバメントの確立のための重点施策としています。
行政が保有する統計・調査などの情報についても、回答者の個人情報保護の観点から個人が特定できないかたちにしたうえで、インターネットを通じて入手・活用できるように整え、新事業の創出を促します。
オープンガバメントの具体的な取り組み
政府は率先して重点施策に取り組み、同時に地方自治体にも参画を促します。具体的には、徹底した業務改革の推進によって文書管理の電子化や公文書等のデジタルアーカイブ化を進め、国民ニーズの高い情報はWebサイト上に積極的に公開して政策決定への国民参加を促進します。
また、行政機関が保有する地理空間や統計調査による情報については、プライバシー保護の対策を講じ、より一層の活用を推進します。
オープンガバメントは「アジャイル開発」を推奨
オープンガバメントの取り組みは、その内容の新しさだけではなく、開発・推進方法が従来と大きく異なっているという点も特徴です。
従来は仕様書を作成し、入札後に開発に着手、サービス開始に至るという流れが一般的でしたが、オープンガバメントの取り組みでは、システムの基本機能ができた時点でベータ版をリリースして利用者の声を聴きながら修正を加えるというアジャイル的な開発手法が採用されました。この手法によって、リリースまでの期間が短縮され、利用者ニーズに対応したしくみづくりを実現しています。
各自治体では「オープンガバメント推進協議会」を中心に活動
「オープンガバメント推進協議会」の旧名称は、2013年4月に武雄市・奈良市・福岡市・千葉市の4市が中心となって設立した「ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会」でした。元々、ビッグデータ・オープンデータの活用推進のための活動を行っていましたが、新たに「マイナンバー制度の利活用の推進」に関する取り組みにも着手したことから、現在の名称へと変更しました。
現在は、協議会の目的に賛同する以下の12団体(一般会員)で構成され、特別会員として大学・企業など6団体も参加しています。
一般会員|武雄市、千葉市、奈良市、福岡市、三重県、室蘭市、郡山市、日南市、浜松市、桑名市、つくば市、熊本市
産官学が連携してマイナンバー制度やビッグデータ・オープンデータの具体的活用策の検討を進め、「行政の効率性及び透明性の向上」「市民サービスの向上及び市民主体のまちづくりの促進」「産業の発展」など、市民や市内事業者にとって利便性の高い公平・公正な社会の実現を目的とする活動を行っています。
「オープンガバメント推進協議会」の活動については、フェイスブックページに公開されているほか、同協議会のオープンデータの取り組み事例については、政府CIOポータルでも紹介されています。
オープンガバメントのメリットと懸念点
オープンガバメントの推進に伴うメリットと懸念点について、国民と行政それぞれの視点で考えてみます。
国民にとってのメリットと懸念点
オープンガバメントでは、行政から発信される情報はインターネットを介して瞬時に取得し共有することができます。地域の災害情報などにアクセスすることで、避難行動を起こして安全を確保したり、安心を得たりすることもできます。
これに対して懸念点を挙げるなら、新たなシステムが導入されることによって、それに対応できない層が少なからず存在するという点でしょう。インターネットに不慣れな高齢者やデジタルに疎い人たちはその恩恵を享受できないということになるかもしれません。
行政にとってのメリットと懸念点
オープンガバメントの推進によって行政サービスが効率化し、業務負担が軽減されることで、サービス品質の向上や新たなサービスの実現につながる可能性があります。またコストの削減も行政側の大きなメリットになります。
ただし、オープンガバメントでは、取り扱う情報の管理に万全を期さなければなりません。とくに個人情報などのプライバシーに関わる情報については、慎重な取り扱いが必要になります。こうした情報管理面での負担増は懸念点といえるでしょう。
ICTを活用して、開かれた透明性の高い政府を実現しようとする取り組みは、たんに行政サービスの効率化や業務負担の軽減を目的に行われるものではありません。オープンガバメントの実現が、市民の政治参加を促し、産学官連携による新たな市場の創出にも寄与することで、より多くの人々が豊かさを実感できる社会になることが期待されています。