【サービスデザイン】日本は後進国!? 行政サービスに「サービスデザイン」を取り入れるポイント
- category : GDX ナレッジ #UI/UX #サービスデザイン
- writer : GDX TIMES編集部
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市場にモノがあふれてモノそのものによる差別化が困難になるにつれ、モノからコト(顧客体験)へという考え方が主流になってきました。そしてよりよい顧客体験を創出するために、モノとコトとを統合したサービスをデザインすることが求められています。ここでは、この「サービスデザイン」という考え方を解説するとともに、「サービスデザイン」のアプローチを行政サービスに取り入れるポイントについて紹介します。
サービスデザインとは
経済産業省は「我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の在り⽅に関する調査研究報告書[概要版](2020年3月)」のなかで、サービスデザインを以下のように定義しています。
顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出するための方法論
「我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の在り⽅に関する調査研究報告書[概要版](2020年3月)」|経済産業省
この報告書では「サービス」を、サービス提供者とその利用者との間に存在するあらゆる接点を通した連続的な体験として捉えています。つまり、「商品を認知する」「購入する」「サポートを受ける」という個別の点としての体験ではなく、商品の認知からサポートを受けるまでの一連の面としての体験を「サービス」としています。
また、「サービスデザイン」における「デザイン」とは、商品のかたちや色などの表現ではなく、サービス利用者の連続的な体験を「デザイン」すること。つまり、現状の問題を解決し、よりよい状態に変えることを「デザイン」と捉えています。
従来のサービス改善・新サービス開発との違い
「サービスデザイン」が、従来型のサービス改善や新たなサービスの開発と異なるのは、問題の発見と解決策の特定というプロセスにおいて「拡散」と「収束」を繰り返しながら、利用者の真のニーズを満たした問題解決を図ろうとする考え方にあります。
これは、一般的に「ダブルダイヤモンド」と呼ばれるもので、「サービスデザイン」のプロセスを「発見」「定義」「開発」「実現」という4つのフェーズで表現しています。
「サービスデザイン」は、「発見〜定義」「開発〜実現」のそれぞれのフェーズにおいて、「発散」と「収束」という2つの思考を繰り返すことが特徴です。「発散」思考で、問題点の範囲や視点を拡大し、多様化させ、その後「収束」思考で、それぞれの要因を検証しながら、取り扱うべき項目を決定していきます。「デザイン」の対象は、利用者側の体験(UX)にとどまらず、サービスを提供する側のオペレーションや仕組みなども含めたものになります。
行政サービスに「サービスデザイン」が求められている背景
行政サービスに「サービスデザイン」が求められているのは、その考え方やアプローチが、行政サービスにおける現状の点検や課題実現に有効であると考えられているためです。ここではまず、行政サービスに「サービスデザイン」が必要とされる背景について見ていきます。
行政を取り囲む3つのトレンド
行政を取り巻く環境はいま、とくに経済や社会、技術の面で大きく変化しています。
経済のトレンド|量的な充足では不十分
日本経済は成熟期を迎え、モノの魅力や機能の向上だけで人々を魅了することが叶わなくなってきました。行政サービスについても、必要なサービスメニューが整っているという量的な充足だけで満足することはできず、提供サービスの付加価値が問われる状況となっています。
社会のトレンド|高度化している期待や要望
大量の情報があふれる日本社会において、行政サービスの利用者である市民の期待や要望は、ますます高度化しています。それらの要請に応えるためには、市民の期待を超えるような行政サービスの充実が求められるようになりました。
技術のトレンド|技術の発展に呼応して求められる利便性
大量の情報があふれる日本社会において、行政サービスの利用者である市民の期待や要望は、ますます高度化してデジタル技術の急速な発展によって、さまざまな連携や効率化が可能になりました。行政サービスについても、こうした技術革新の恩恵を求めて、官民連携によるサービスの拡大や市民一人ひとりに寄り添ったサービスの実現による利便性の向上が期待されています。
提供者視点での設計が、利用率の低迷に
従来の行政サービスは、国民や事業者の利便性向上を目的としてはいたものの、制度設計者や情報提供者側の視点が重視される傾向にあり、必ずしもサービスの利用者である市民や事業者に寄り添ったものにはなっていませんでした。このため、利用率の低迷など、当初期待された効果をあげられていないサービスも散見される状況です。
「使わせる」から「使っていただく」への意識改革が必要
一方、民間では、サービスによって得られる利用者の体験にまで配慮して設計されたサービスが多く存在し、厳しい競争環境のもとで、日々その利便性を向上させ続けています。行政サービスは、民間のような激しい競争下にはないものの、民間企業の成功事例に倣い、新たなサービスの創出や制度設計にあたっては、利用者の行動や感情に着目した調査・分析を行いながら、利用者に「使っていただける」ものへと再設計することが求められています。
日本は「サービスデザイン」後進国
民間のビジネス現場を中心に普及してきた「サービスデザイン」の考え方を公共サービスにも適用しようとする動きは、当初、欧米を中心に広がり、その有効事例が報告されるようになると、世界各国の政府や自治体においても研究や導入検討が進むようになりました。2004年には、国際組織である「Service Design Network(SDN)が発足し、毎年国際会議が開催されるなど、「サービスデザイン」の普及啓発活動が活発に行われるようになりました。
日本では、2017年に示された「デジタル・ガバメント推進方針」のなかで、「デジタル技術を徹底活用した利用者中心の行政サービス改革」を掲げ、「改革の推進の考え方として、サービスデザイン思考を取り入れる」としています。
しかしながら、SDNが2016年に実施したオンライン調査によると「国家の政策立案協議において、サービスデザインが実践されているか」の問いに対して、日本は調査対象12カ国中「No」の回答が2番目に多かったという報告があります。この結果を見る限り、行政分野における「サービスデザイン」において、日本は残念ながら後進国であり、まだまだ発展途上の段階にあるといえます。
行政サービスに「サービスデザイン」を取り入れる3つのポイント
より効果的な行政サービスを実現するために、サービスデザインの考え方やアプローチをどのように取り入れるべきなのでしょうか。
ユーザー調査は「定量」「定性」で把握
「サービスデザイン」を行政サービスに取り入れようとする場合、まず、利用者である市民や事業者が抱える問題を把握することが必要になります。そのために利用者調査を実施しますが、この調査は従来の住民アンケートのように、項目に該当する人数やその割合などから傾向を把握する「定量的」な分析だけではなく、対象者を絞ってそれぞれの住民の体験を捉えられるような「定性的」な分析を試みることが大切です。
たとえば、引越しにかかる手続きについて調査する場合、その対象者を「引越しをする人」に絞り、「引越しをする前」「引越しをしているとき」「引越した後」というそれぞれの場面で、どのような情報を必要としたのかを調査します。このように利用者の体験を時間軸で捉えることによって、それぞれの手続きが複数の部署にまたがっていたために見えにくくなっていた実態が明らかになり、サービスの改善に資するニーズを引き出し、課題実現に向かうことができるようになります。
住民と行政の「共創」が不可欠
「サービスデザイン」は、住民参加を促す効果的な手段になるといわれています。住民と行政とが、一緒になって地域について考え、暮らしやすい環境を整えていくのが、本来の住民参加のあり方です。そして、そうした経験を重ねて、住民と行政の「共創」の大切さを互いに実感することが問題解決の近道になります。
日本の組織には、顧客の声や要望に真摯に向き合おうとする文化が根付いていますが、ただ受け止めて対応するだけでは不十分であって、その声の背景にある感情や秘められた真のニーズにまで踏み込んでいくことも必要です。こうして利用者の心の奥にあるニーズを引き出し、ときには利用者の行動から変えていくことも求められます。
まずは「小さなゴールから」スタート
目標やゴールの大小にかかわらず、イノベーションを起こしていく組織文化を持続することが大切です。まずは目の前にある小さなゴールに目を向け、そこにある問題を解決へと導く活動を実践することが、次のゴールに向かうための原動力になります。
経済産業省による「我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の在り⽅に関する調査研究報告書[詳細版](2020年3月)」には、行政サービスに「サービスデザイン」を取り入れる際に参考になる情報や留意点がまとめられています。国内における実践事例も紹介されていますので、ぜひご覧ください。
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