• HOME
  • GDX ナレッジ
  • 【デジタル手続法】行政サービスのデジタル化を一気に加速させる法律
2021年12月15日

【デジタル手続法】行政サービスのデジタル化を一気に加速させる法律

デジタル手続法は、行政サービスをデジタルで完結させるために制定されました。ここでは、この法律の施行までの経緯やその背景、デジタル手続法の基本原則、デジタル化推進の個別施策、そしてデジタル手続法への期待と懸念点について解説していきます。

デジタル手続法とは

デジタル手続法とは
Designed by Freepik

少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や大都市圏への人口集中など、日本社会が抱える多くの問題を解決し、経済成長を実現する基盤として、日本政府は「電子政府(デジタル・ガバメント)」の推進に取り組んできました。進化を続ける情報通信技術を活用して、行政サービスを見直し、行政のあり方そのものを変革しようとしています。

デジタル手続法は、こうした基盤整備の流れのなかで、行政サービスの個々の手続をデジタルで完結させるために施行されました。2019年5月に公布され、同年12月に施行されたこの法律の正式名称は「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」。略して「デジタル手続法」「デジタルファースト法」と呼ばれています。

内閣官房IT総合戦略室は、この法律の施行目的を以下の通り示しています。

情報通信技術を活用し、行政手続等の利便性の向上や行政運営の簡素化・効率化を図るため、①行政のデジタル化に関する基本原則及び行政手続の原則オンライン化のために必要な事項を定めるとともに、②行政のデジタル化を推進するための個別分野における各種施策を講ずる。

デジタル手続法案について|2019年2月 内閣官房IT総合戦略室

情報通信技術の徹底活用を前提に、行政手続をオンライン化することで、利用者の利便性を高めるとともに、行政サービスの効率化を図ることを目的とした法律であることがわかります。

デジタル手続法、成立の背景と経緯

デジタル手続法が成立した背景には、国や地方の行政が抱えている数々の問題が存在します。成立までの経緯とともに見ていきます。

デジタル手続法、成立の背景と経緯
Designed by Freepik

行政が直面している問題

日本の行政府が直面する問題として、デジタル化の遅れや人口減にともなう行政サービスの質低下への懸念があげられます。

行政手続きのデジタル化を阻む「印鑑・紙・対面」文化

日本における行政手続のデジタル化が、海外諸国に比べて後れをとっているのは、「印鑑・紙・対面」の文化が色濃く残っているためであるといわれています。日本社会全体としてはペーパーレス化、オンライン化が進んでいますが、行政サービスでは、対面での手続や書類の提出、押印を前提としたものがまだまだ多く残っています。

行政サービスの質低下への懸念

日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少を続け、総務省統計局の人口推計によると、2021年10月1日現在の概算値は1億2,512万人となっています。国立社会保障・人口問題研究所の出生中位・死亡中位推計(2017年推計)では、2040年の総人口は1億1,092万人、15歳〜64歳の生産年齢人口は5,977万人になると見込んでいます。

一方、地方公共団体の職員数は、1994年をピークとして対同年比で約52万人減少(総務省・地方公共団体定員管理調査/2020年4月1日現在)しています。生産年齢人口の減少による税収減が見込まれるため、今後も定員増加の可能性は低く、人々の生活様式の多様化や少子高齢化による人口構造の変化によって、問題は山積するばかりです。このように行政サービスを担う職員数の減少と業務負担の増大によって、提供サービスの質の低下が危惧される状況です。

デジタル手続法は「デジタル・ガバメント実行計画」の流れで成立

行政府が直面する問題を解決するために、行政手続きをオンライン化しようとする動きは、2001年に政策決定した「e-Japan戦略」のなかで、対面の手続きや書類の提出を伴う行政手続きをオンライン化していこうとする「電子政府」への移行推進構想を打ち出したことからはじまっています。

2002年には、デジタル手続法の前身となる「行政手続オンライン化法」が制定されました。これを受けて政府は「電子政府」への取り組みを積極的に進め、デジタル化の基盤となる法制度の整備を進めました。

2019年に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」では、たんに情報システムを整備・構築するだけではなく、行政手続きに関連する業務の改革や制度の見直しを同時に進めることによって、あらゆる行政サービスをデジタル化することを宣言しています。デジタル手続法は、こうした流れを受けて、行政サービスの個々の手続きをデジタルで完結させるために施行されました。

デジタル手続法では、行政手続きのデジタル化・オンライン化に向けて、行政手続オンライン化法、住民基本台帳法、公的個人認証法、マイナンバー法などの関連法例を、公布の日から5年という期間をかけて順次改正していくことを定めています。

デジタル手続法の基本原則

デジタル手続法の基本原則
Designed by Freepik

デジタル手続法が目指すのは、情報通信技術を活用して、行政手続きの利便性の向上や行政運営の簡素化・効率化を図ることです。そのために、以下の3点を基本原則としています。

デジタルファースト

行政手続きの最初から最後までを、一貫してデジタルで完結させることです。これまでにもオンライン申請が可能な手続きはありましたが、添付書類の送付が必要だったり、手数料の支払いのために役所に出向かなければならなかったりなど、利便性に欠けるものでした。完全なかたちでのオンライン化を実現するために、デジタル手続法では、このデジタルファーストを、第一の基本原則としています。

ワンスオンリー

これまでの行政手続きでは、申請内容や窓口が変わるたびに、同じ情報を記入したり、同じ添付書類を提出したりする必要がありました。このような状況を改善するために、一度提出した情報や添付書類などを、可能な限り二度提出させないようにすることです。このワンスオンリーによって、利用者の利便性を向上させるとともに、行政での書類保管の手間を省くことにもつながります。

コネクテッド・ワンストップ

民間サービスとの連携を含め、複数の手続きやサービスをワンストップで実現することです。コネクテッド・ワンストップでは、国や地方公共団体だけでなく、民間事業者が提供しているサービスも含めて、あらゆる手続きがワンストップで完了できる社会を目指しています。

「デジタル手続法」による施策

「デジタル手続法」による施策
Designed by Freepik

デジタル手続法に基づき、デジタル化が推進されるおもな個別施策を紹介します。

国外転出者手続きのオンライン化

マイナンバーカードや公的個人認証(電子証明書)は、住民票をベースとする制度です。この住民票は、国外への転出時には除票扱いとなるため、海外駐在などで国外に転出する場合には、マイナンバーカードや公的個人認証を利用することができませんでした。

一方で、国外に長期にわたって滞在する日本人が増加し、国外からでも本人確認を行うニーズが高まっているという現状があります。こうした状況に対応するために、国外転出後にも利用可能な「戸籍の附表」を個人認証の基盤として活用することで、マイナンバーカードが発行され、国外からでも公的個人認証を利用したオンライン手続きができるようになります。

▶改正された法律:住民基本台帳法、公的個人認証法、マイナンバー法

本人確認情報の長期保存と提供範囲の拡大

土地の所有者の探索や休眠資金の活用のための証明などに、現在の居住地情報につながる過去の居住関係を証明するニーズが高まっています。

そこで、本人確認情報を長期にわたって確実に保存しておくために、行政事務の基盤として活用されてきた住民票情報を、その消除後も「除票」として保存し、本人確認情報である住民票の除票や戸籍付票の除票の写しを交付する制度を明確化しました。これらの保存規範は、それまでの5年間から150年間に改正されました。

▶改正された法律:住民基本台帳法

オンラインによる本人確認の利便性向上

これまでも、マイナンバーカードを利用して、国税の電子申告やコンビニエンスストアで住民票を取得することができましたが、利用のたびに4桁の暗証番号を入力しなければなりませんでした。

マイナンバーカードを健康保険証として活用するなど、利用範囲の拡大が本格化することを見込んで、「利用者証明用電子証明書」について、暗証番号の入力を必要としない方式が導入されました。

▶改正された法律:公的個人認証法

マイナンバーカードの利便性向上による普及促進

マイナンバー制度をスタートするにあたって、国民一人ひとりにマイナンバーを通知し、証明書類として利用できるように「通知カード」が配布されました。転居時などに記載事項を変更するためには、自治体の窓口に赴き、職員による変更手続きが必要でした。

この住民と職員の負担を軽減し、デジタル化を推進するとの観点から、ICチップを搭載したマイナンバーカードへの早期移行を実現するために、「通知カード」の発行が廃止され、マイナンバーの通知は、原則、個人番号通知書を送付するかたちとなりました。

▶改正された法律:マイナンバー法

「デジタル手続法」に寄せられている期待と懸念点

「デジタル手続法」に寄せられている期待と懸念点
Designed by Freepik

デジタル手続法によって、行政手続きのオンライン化が進むことによって、行政及びそのサービスの利用者の双方にさまざまな恩恵がもたらされます。一方で、これらの恩恵を得られない人たちがいることも忘れてはいけません。

行政・利用者ともにさまざまなメリットが

デジタル手続法の施行によって、行政サービスを提供する側の職員やその利用者である市民や事業者は、多くのメリットを享受することになります。各種申請に伴う作業が短縮されて省力化が進むことによって、市民や事業者の負担は軽減され、働き方改革の促進につながります。また、インターネットを介して申請手続きをワンストップ・ワンスオンリーで済ませられるので、交通費や郵送費の削減効果も期待できます。

一方、行政サイドでも、これまで多くの時間を要していた確認作業も短時間で行うことができ、人手不足も解消されそうです。

デジタル格差が拡大する恐れも

コンピュータやインターネットなどの情報技術を使いこなし、その恩恵を得られる人と、そうでない人たちの間に生じる格差を「デジタルデバイド」といいます。高齢化が進む日本社会では、インターネットをうまく使いこなせないという人も多く存在します。

また、スマートフォンを所持し使い込んでいる若い世代でも、複雑な申請手続きは苦手という人もいるでしょう。デジタル手続法の運用では、こうしたデジタルデバイドが生じないような配慮が求められることになります。

デジタル手続法は、行政手続きのデジタル化によって利便性を高め、その運用の簡素化と効率化を図るための法律です。しかしながら、デジタル化自体が目的化してしまえば、本来の目的である利用者の利便性向上や行政の効率化という成果が十分に得られないという懸念もあります。たとえば、手続きをオンラインでしたい人はデジタルで、書類や対面で申請したい人は窓口で、と利用者が選択できるようにするなど、利用者中心の行政サービスに立ち返った運用がなされることを期待します。

関連記事
Top