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2023年11月28日

人口6,000人、高齢化率50%をこえる小規模自治体が挑む行政DX ~ 奈良県吉野町の挑戦 ~ ①

待ったなしの自治体DX、予算も人手も限られている小規模自治体でも、DXの一歩を踏み出した自治体が増えています。今回は、奈良県吉野町の取り組み事例をお聞きしました。

(インタビュー:株式会社アスコエパートナーズ 取締役 北野菜穂)

インタビューにお答えいただいのは(左から)

吉野町 参事兼政策戦略課課長    :黒田祐介さん
吉野町 総務課課長兼デジタル推進室長:辻中哲也さん
吉野町 総務課デジタル推進室    :鍋谷友志さん

人口6,000人、高齢化率52.7%の吉野町

北野:さまざまな自治体でDXへの取り組みが行われていますが、自治体の規模によって、対応すべき課題が異なったり、対応する順番が異なることは当然かと思います。今日は、全国でも多くを占める小規模自治体の中から、奈良県吉野町の皆さんに、DXへの一歩を踏み出された目的や背景、また始めてみて分かってきた具体課題とその対応状況について、お話を伺います。

まず最初に、吉野町はどんな町でいらっしゃるのでしょうか。特徴を教えてください。

辻中様:吉野町は、奈良県の中央部にあります。町の中には吉野熊野国立公園や自然公園に指定されている吉野川津風呂湖があり、全国的には春になると豪華絢爛に咲き誇る吉野山の桜が有名です。

主要産業については高品質を誇る吉野杉や吉野檜を育てる林業をメインに、その林業を利用した高級建築材の製材業が大きなシェアを占めています。あとは、吉野山の桜やそれ以外の自然資源を利用した観光産業ですね。

面積でいいますと、95.659平方キロですが、人口はもう本当に減少が激しくて、今現在でいうと6,000人程度になってきている状況です。進学や就職をきっかけに若年層が都市部に転出していってしまい、戻ってこないというのが大きな原因です。実際、人口構成をみても、高齢化率52.7%とかなり高い水準になっています。全国や県と比較しても高齢化率は高いと認識しています。

あと一点、山も川も自然環境がたくさんあるということで、それが産業として発展する反面、自然災害の危険性もあるので、その辺の対策にも注意していかないといけない地域です。

北野:吉野町の、熊野古道の世界遺産の中の一つであるとか、桜の名所であるとか、このような吉野町外へのアピールを、デジタル活用してきたことはございますか。

辻中様:昔は、PRをしなくても、桜と言えば吉野山、1回は行ってみたいということで来てくださる方も多かったのですが、なかなかリピートしてもらえない。それが最近になって、SNSで「今、こんふうに満開になってるよ」と発信されるとワーッと戻ってきてくれるので、情報発信の仕方がはだいぶ変わりましたね。そういうところを、上手に利用して売っていこうという動きにはなってきています。

小規模自治体が持つDXの課題

北野:人口6,000人という小規模自治体様ですと、住民と役場の距離が近い、結果、行政に対する信頼感が強いということがDXを進めるためのメリットとなるように想像しています。いかがでしょうか。

鍋谷様:組織的な話で言うと、一度決まったら進みやすいとは思います。住民との距離が近いのかどうかわかりませんが、うちで開催しているスマホ教室は近所のあの人がやってるから私も行こうみたいな、そんな感じで出席者が塊でやってくる印象はありますね。それぞれがつながっている感じです。

北野:なるほど、では、DXを進めるうえで、小規模自治体だからこその課題がもしあればお聞きしたいのですが、いかがでしょうか。

辻中様:自治体が小さくなれば小さくなるほどなのかもしれませんが、一人の人が兼務で担当する業務が本当に多いんですよね。ただでさえ抱えている業務が多いところに、プラスアルファでDXを導入して効率化を求めると、将来的にいいのはわかるけれど、今、それにかける時間的ゆとりがないと。これが非常に大きな課題ですね。

でも、やらなければ次に進めないし、住民のことを考えて利便性を向上させたいと思ったら、絶対やっていかなければいけないことなので、職員の意識も変えて理解を深めていきたいとは思いますが、今の業務との兼ね合いでなかなか一気に行きにくいということはありますね。

鍋谷様:現場の課題としては、「もう今の業務で手一杯だから、新しいことをやれって言わんといてよ」というのが大きかったかなと思いますね。その新しいことをやった結果、いい方向に進むのだろうか、失敗したら無駄になってしまうのではないかという不安もあったと思います。これが必ず正解かどうかがわからないことに踏み出さなければいけないという現場に対して、それをやりなさいと言うデジタル推進側の方もやったことがないわけなので、難しさはありましたね。

北野:何か新しいこと始めるためには、今の既存業務から何かを減らしていかないとできないというのは、官民問わず現場の現実ですよね。どれを減らしていいのか、優先順位をつけるときは、誰が判断するか、庁内で決めていますか。例えば、判断は各課でやりる、なのか、もしくは明確に、DXを優先にする、という庁内方針が決定されているのか、等、方針やマインドセットのご共有や合意形成の状況はいかがでしょうか。

辻中様:特に決めはないですが「デジタルはせなあかんよ」という意識は職員にも浸透していると思います。

すべては町長の「まずデジタル化をやってくれ」から始まった

黒田様:実は、昨年の4月に、デジタル化アドバイザーの方に講演していただいたんです。その際に、馬車が車になったり、電話が携帯になったりしたのと同じように、DXっていうのは当たり前のことなんだという話をいただいて、それをきっかけに町長から吉野町でも取り組んでいきたいという話がありました。

吉野町はデジタルに関しては決して先進自治体ではありませんし、どちらかというと遅れている方なのかもしれないですが、私が吉野町に着任してから最初に町長に言われたのは、「まずデジタル化をやってくれ」という言葉でした。

そのためには職員や町民にそれを浸透させないといけないということで、浜松市に次いでおそらく全国で2番目のデジタル化の理念条例を令和4年9月議会で作りました。まず管理職含めて全体の意識を変えていくことから始めたわけです。

北野: DX計画の骨子となる条例にまず着手されたのはとても素晴らしい動きだと思いますが、こういった条例文案はどなたがお作りになられたのでしょうか。また、参考にされた条例はあったのでしょうか。

黒田様:私が作りましたが、条例も書いたことがなかったし、参考にしたものがあったわけでもなく…。

「吉野町デジタル変革条例」は、町民の利便性向上、行政の業務効率化、そのデジタルの関係人口の増大という3本柱を立て、デジタル化の理念の部分にフォーカスしたものです。

北野:多くの自治体でも「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」に則った条例改正は着々と行っていらしているようですね。この条例はどちらかというと、テクニカルに、既存業務をDXしていくための条例ですが、なぜ業務を変えていくのか、DXをやるのかという、デジタル化の理念までを条例に落とされたというのは、素晴らしいと思います。吉野町様の議会審議では、どのようなご反応だったのでしょうか。

辻中様:デジタルデバイドの話がちらっと出たぐらいで、基本的には、どんどんやった方がいいよ、みたいな感じでしたね。

黒田様:議会からも全会一致で可決をいただいたので、町広報誌にも載せたりしました。それもあり、町民には少しずつデジタル化という動きの認知は高くなってきているかなという印象があります。

ただ、やはり実際に進めるとなると、普通のこれまでの仕事もある中で、どうやってその新しいことをやっていくのか、今悩んでいるような状況です。

北野:この条例を皮切りに、吉野町様は既に「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」に基づく条例改正なども終えられました。これら条例整備を進めていく中で、町民の声をどう拾うかについてお聞きします。他の自治体では、アンケート取ったり、首長が対話をするような場所を企画して、町民の声をリアルに聞く会を実施されたりする例があります。吉野町で実際に取り組まれたことは何かございますか。

黒田様:条例を作るときはどちらかというと庁内をどうするかの方に力点があったのですが、住民には条例を作る前に、行政サービスのあり方についてのアンケートを行っています。役場に何回行きますか?とか、高齢者の人が多いので、その手続きをもし自分がオンラインでできたらやりたいか?とか。そういう聞き方をすると「使えるんだったらやりたい」という声が多いんですけどね。

北野:緩やかに住民参加型をうまく取り入れつつ、デジタル化によって庁内職員皆さんに向けた、自分たちの仕事のやり方が変わるかもしれないという「現場向け広報」もきちんと実施しながら進められてきたのですね。

「人口6,000人、高齢化率50%をこえる小規模自治体が挑む行政DX ~ 奈良県吉野町の挑戦 ~ ②」はこちら


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▶ 国・自治体向け 行政DX導入支援 手続きアセスメント(行政手続き棚卸し)

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▶吉野町『行政手続オンライン化・業務BPR 勉強会経過発表』


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