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2026年5月21日

理解と主体性を引き出し「一人で申請できる」安心感へ 制度説明と聞き取りを分解したこだわりの設計—平塚市がたどり着いた、ひとり親家庭支援の進化系ナビ【後編】

前編では、ひとり親家庭の手続きが「制度説明」「聞き取り」「申請」と窓口で一体化している構造そのものが、利用者にも職員にも大きな負担になっていることを見てきました。

平塚市は、そのボトルネックを解消するために手続きを役割ごとに整理するという発想にたどり着きます。

では、その発想はどのように具体化されたのでしょうか。

後編では、制度説明の再設計、ナビによる聞き取り・対象判定の仕組み化、そして導入後に利用者と職員の双方に生まれた変化をご紹介します。

支援のはずなのに、なぜ申請が負担に?「平日昼間に窓口へ行く前提」を見直す、制度説明・聞き取り・申請を分けて考える“手続き分解”という発想」—平塚市がたどり着いた、ひとり親家庭支援の進化系ナビ【前編】

https://gdx-times.com/hiratsukashi-hitorioya1_20260521


説明資料の再設計|補足ありきの資料から、読んでわかる構成・表現へ

アスコエ|説明に関して、何か対策を練られていたのでしょうか。

丸山さん|ホームページの文字情報と、その情報を元にした文字だけのA4のチラシしかない状態でした。忙しいひとり親の方に「このチラシをあとで見返しておいてください。」という形でしたが、見直してもわからない状態だったかと思います。そこで、新しくパンフレットを私の方で作成しました。

アスコエ|(実際に見せていただきました)視覚的にわかりやすいですね。制度説明の資料は、どのように見直していったのでしょうか。

丸山さん|はい、できるだけ当事者が持つ疑問や職員がよく聞かれることに沿って、イラストや図解を用いながらパンフレット化しました。職員でもわかりにくかったルールも記載されているので、職員にとっても説明の過不足を防げるものとなっています。あとから見返したときにも直感的に理解できることが重要と考え作り直しました。

丸山さん|資料だけで完結させるのではなく、その後のナビや申請につながる入り口として使うことも意識しています。

ひとり親家庭等のための手当・医療費助成のご案内

聞き取りのナビ設計|窓口で行っていた判断を質問と分岐に落とし込む    

アスコエ|制度説明の整理のあと、ナビの設計に入ったのですね。

丸山さん|次に考えたのは、窓口でやっている聞き取りを、どうナビで置き換えるかという点でした。窓口では、職員がその方の状況を聞きながら、「この制度に当てはまるかどうか」を判断しています。

実際に制度を一つひとつ整理していくと、条件の違いや該当するケースがかなり多くて、質問や分岐がどんどん増えていきました。

アスコエ|これまでの窓口対応で蓄積されていたケースや判断ポイントを、一つひとつ洗い出していったということですね。

丸山さん|そうですね。選択肢や分岐が複雑な場合でも、「詳細は窓口へ」としてしまうことは避けたかったので、どんなケースがあるのか、どういう条件で判断するのか、「どこで判断が分かれるのか」といったポイントを細かく洗い出して、それをナビのなかに落とし込んでいます。

加えて、窓口で対応していると、「この制度に該当するなら、これも関係してきますよ」とか、「この申請も必要になります」といった案内を一緒にすることが多いので、そういった内容も、できる限りナビのなかで案内できるようにしました。

ひとり親家庭支援ナビTOP画面

苦労|正確さと利用者負担のバランス、その線引きが一番難しかった

丸山さん|その一方で、「どこまで聞くか」というところは一番悩みました。細かく聞けば正確に判断できますが、その分質問が増えてしまって、利用される方の負担も大きくなってしまいます。逆に、質問を減らしすぎると、判断に必要な情報が足りなくなってしまいます。

アスコエ|増やしすぎても減らしすぎても成立しないということですね。

丸山さん|そうなんです。制度としては細かく分かれている部分でも、ナビのなかではある程度まとめて聞くようにしたり、本当に必要なところだけ聞くようにしたり、その線引きはかなり考えました。どの質問が判断に本当に必要なのか、どこはまとめられるのかを一つひとつ見直しながら設計していった形です。

Max15問の質問に回答していくと、自身が利用できる手続きがわかる

協働設計|現場の判断ポイントをナビにするには、制度知見とナビ構造への理解どちらも欠かせなかった

丸山さん|設計を進めるなかで、山本さん(アスコエ担当者)とやりとりを重ねながら、どこで分岐するのか、何を聞けば判断できるのかを一つひとつ整理していきました。制度の条件をそのまま並べるのではなくて、「どの質問に落とすのか」「どこで分けるのか」を考えながら調整していきました。

アスコエ(山本)|最初は制度の条件をどう整理するかという視点が中心だったと思うのですが、やりとりを重ねるなかで、ナビとしてどう成立させるかという視点に変わっていった印象があります。

「どこで分岐するか」「何を聞けば判断できるか」といったナビの構造に対する丸山さんの理解が進んだことで、分岐の切り方や質問の置き方もかなり変わっていきました。

単に役割を分けて進めるのではなく、お互いの視点や考え方を共有しながら一緒に設計していったことで、ナビとしての精度も上がっていったのだと思います。

左は丸山様(平塚市)、右は担当した山本。「お互いが腹落ちするまでしっかり意見交換、認識のすり合わせが確実にできたと思っています」と丸山様。

結果|ナビ導入で窓口対応と利用者行動はどう変わったのか

アスコエ|実際にナビを導入してみて、どのような変化がありましたか。

事前にある程度理解・整理できている人が約9割

丸山さん|一番大きいのは、「自分が対象になるのかどうか」や、「どういう手続きが必要なのか」が事前にわかるので、窓口で一から説明する場面はかなり減ったと感じています。

体感としては、「自分が対象かどうかの判断」や「必要な手続きの整理」といった部分は、9割くらいナビで済んでいる印象です。紙の聞き取り票をほぼ使わなくなりました。

職員側も“迷わず案内できる”ようになった

丸山さん|導入前は、1件につき1時間くらいかかっていましたが、いまは半分くらいに減っている感覚です。あと、利用される方だけでなく、職員側も迷わなくなったと感じています。

これまでは、その方の状況を一から整理しながら説明していく必要があったのですが、ナビを前提にすると、「どこから説明するか」「どう進めるか」が整理された状態になります。

その分、余裕を持って案内できるようになったと思います。

「その場で申請」から「理解して家で申請」へ

丸山さん|窓口では、新しく作った資料で説明して、ナビを案内して、「あとはご自宅で申請できますよ」とお伝えすると、そのまま帰られる方も増えてきました。

制度の内容や、自分が対象かどうかがわかったことで、「これなら自分でもできそうだ」という感覚につながっているのではないかと思います。

QRコードの案内ツール。家で調べたり手続きしたりしたい人へ配布している。

窓口の滞在時間と確認の二重対応削減

窓口を塞いでしまう時間も削減することができたので、混雑要因が一つ解消されたと感じています。

また、これまでは窓口での聞き取り後に、担当者がバックオフィスで内容を確認し、「この内容で申請を進めて大丈夫か」をチェックして窓口に戻す、というダブルチェックの工程がありました。ナビが自動で間違うことなく判定してくれるようになったことで、そのやりとり自体がなくなりました。

◆“言われた通りに答えるから“理解して自分で進める

丸山さん|利用される方の様子を見ていると、以前よりも理解していただいていると感じています。

これまでは、窓口で説明を受けながら、その場で窓口担当にサポートしてもらいながら回答しているようなケースも多かったのですが、ナビを使って来られる方は、ある程度理解したうえで、自分で判断しながら回答されている印象があります。「ある程度わかったので、あとは家でやります」と言って帰られる方も増えています。

手続きナビで対象手続きがあった場合に表示されるコメント。ナビからダイレクトに電子申請へ。

手応え|自然に使われているからこそ、行動の変化が成果になる    

アスコエ|利用者の方からの反応はいかがですか。

丸山さん|ほとんどの方がこの手続き自体が初めてなので、「わかりやすくなった」「使いやすくなった」といった声が聞けないことが残念ではあります。笑 

ただ、

「ここまではわかっています」といった前提で話ができるようになった

「ある程度わかったので、あとは家でやります」と言って帰られる方が増えた

23時など夜遅くにナビが使われている

などの行動の変化を見ていると、導入の手応えはかなり感じています。

対面でしかわからない情報はどう補っているのか

アスコエ|対面だからこそわかる状況が、オンライン申請ではわからなくなるのではないかという自治体職員の方の懸念もよく耳にしますが     、その点はいかがですか。

丸山さん|その点については、「お困りごとについて自由に書いていただける欄」を用意しています。実際には、対面で質問されると答えにくかったり、あまり話したくないと感じることもあると思うのですが、文章であれば書きやすいという面もあるようです。

結果として、窓口でのやりとりとは違った形で情報が出てくることもあって、かえって状況が把握しやすくなっている部分もあると感じています。

アスコエ|実際に進めてみて、当初想定していたものと、できあがったものの印象は違いましたか。

丸山さん|今回やってみて感じたのは、ナビを作ったというよりも、手続きの流れそのものを見直したという感覚に近いです。もともと一体になっていたものを分けて整理していくことで、それぞれの役割がはっきりして、結果として使いやすい形になったのだと思います。

平塚市 健康・こども部・こども家庭課

編集後記

今回お話を伺って感じたのは、目的もプロセスも、徹底してユーザー視点と現場視点で組み立てられていたという点です。

「制度をどう見せるか」ではなく、「利用する人がどう理解できるか」。
「ナビをどう作るか」ではなく、「窓口で何が起きているか」。

その視点で一つひとつを見直していった結果、制度説明は“読めばわかる”形に変わり、聞き取りは“答えれば進める”ナビへと置き換わっていきました。

一般的な手続きナビが、条件を確認して該当制度を示す役割を担っているのに対して、今回の取り組みでは、窓口で行っていた説明や判断、さらにはその先の案内までをナビのなかに広げている点が特徴的です。その意味で、従来の手続きナビから一歩も二歩も踏み込んだものになっています。

印象的だったのは、ほとんどの方にとって一生に数回や一度の手続きで過去との比較がないため、「前よりわかりやすくなった」という声が多くあるわけではないなかで、実際の行動が変わっているという点です。理解したうえで回答する、途中で帰って自分で申請する、夜の時間帯にナビを使う——そうした変化が、静かに積み重なっていました。

ユーザー視点で考えることと、現場の実態から目を離さないこと。その両方が揃って初めて仕組みは機能する。今回の取り組みは、そのことをあらためて示しているように感じました。

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