- HOME
- etc
- 支援のはずなのに、なぜ申請が負担に?「平日昼間に窓口へ行く前提」を見直す、制度説明・聞き取り・申請を分けて考える“手続き分解”という発想—平塚市がたどり着いた、ひとり親家庭支援の進化系ナビ【前編】
支援のはずなのに、なぜ申請が負担に?「平日昼間に窓口へ行く前提」を見直す、制度説明・聞き取り・申請を分けて考える“手続き分解”という発想—平塚市がたどり着いた、ひとり親家庭支援の進化系ナビ【前編】
- category : etc GDX レポート GDX 事例
- writer : GDX TIMES編集部
index
ひとり親家庭の手続きは、なぜここまで負担が大きいのでしょうか。その背景には、制度の対象となるかどうかを、生活実態まで踏まえて丁寧に確認する難しさがあります。平塚市が向き合ったのは、「制度説明」「聞き取り」「申請」が窓口で一体化した構造でした。
本記事(前編)では、現場のリアルをもとに、オンラインで申請できる状態を実現するために、平塚市が何に着目し、どのように手続きの流れを見直していったのかをたどります。

この方にお話を伺いました
平塚市 健康・こども部・こども家庭課児童手当・医療担当
丸山 優様
現場の実態|落ち着いて話す時間が持てない窓口での手続き
アスコエ|まず、ひとり親家庭の方が窓口に来られるときの状況について教えてください。
丸山さん|子どもを連れて来る方もいれば、預けて来る方もいます。
連れて来る場合は、抱っこしながらだったり、子どもがその場でぐずったりするなかで説明を聞くことになります。一方、預けて来る方の場合は、その分「短時間で終わらせたい」というプレッシャーもあって。
いずれにしても、バタバタした状態でやりとりが始まりますし、その影響で職員側もどこか慌ただしい空気になることが多いです。
アスコエ|確かに、落ち着いて説明をしたり受けたりできる環境ではないですよね。
丸山さん|そうなんです。そういうなかで制度の説明や多様な聞き取りを行うので、どうしても内容が頭に入りにくい状況はあると思います。その場ではわかったつもりでも、あとで振り返るとわからなくなっている、ということも多いのではないかと感じていました。
手続きの構造|申請の前にある“制度説明”と“聞き取り”が障壁に
アスコエ|実際の手続きはどのように進むのでしょうか。
丸山さん|大きく分けると、「制度の説明」「聞き取り」「申請」の3つですね。この3つをすべて窓口で一度に行うので、どうしても時間がかかります。
まず制度の説明ですが、ひとり親家庭の支援制度を探したときに、多くの方が最初に目にするのは「児童扶養手当」や「ひとり親家庭等医療費助成」などの代表的な制度です。ただ、事前に制度を調べようとしても、手続きが窓口での聞き取りを前提としているため、自分の状況に当てはめて確認することが難しい状態でした。
そのため、そもそも読まずに来る方も多いですし、読んできたとしても「自分がどう当てはまるのかわからない」という状態で来庁されることがほとんどでした。
聞き取り|形式だけでは判断できない。生活実態を踏まえた制度判定の難しさ
アスコエ|そのうえで聞き取りに入るわけですね。
丸山さん|はい。ここが一番重要な部分です。ひとり親家庭として認定できるかどうかの判断が非常に複雑なんです。単純に「ひとり親です」と言えば対象になるわけではなく、実際の生活実態まで含めて確認する必要があります。
例えば、離婚しているかどうかだけでなく、誰とどの程度一緒に暮らしているのか、どのくらいの頻度で行き来があるのか、生活費の負担がどうなっているのか、といった点です。
形式上はひとり親でも、同居している人がいて生活を支えている場合は対象にならないことがありますし、逆に、婚姻関係が残っていても実質的に別居していて支援を受けていない場合は対象になることもあります。
また、同じ住所に住んでいても実態として生活が別れているケースや、別居していても頻繁に出入りがあって生活が一体と見なされるケースなど、判断が分かれるパターンがいくつもあります。
アスコエ|かなり繊細な判断になりますね。
丸山さん|そうなんです。生活状況や人間関係に踏み込む必要があるので、聞く側としても簡単ではないですし、答える側も抵抗を感じることもあるようです。
それでも、その確認をしないと制度の適用判断ができないので、どうしても丁寧に聞き取る必要があります。この「聞き取り」があることで、これまでは対面前提になっていました。

申請|窓口で完結させることが、かえって理解を難しくしていた
アスコエ|そして最後が申請ですね。
丸山さん|はい。聞き取りのなかで職員から質問されれば、その場では答えられるのですが、質問内容を本当に住民の方が理解できているかというと、正直心もとない部分はあります。
その場で流れに沿って職員に聞かれるがままに「はい」や「これです」と答えるという受動的な形になってしまうことがあるので、あとで住民の方が振り返ったときに「どういう意味だったんだろう」となることはあると思います。
ただ、無理して時間をつくって来ていただいている方も多いので、「また来てください」とはなかなか言えなくて。申請者の負担を考えながら、職員が横についてサポートしつつ、その場で申請まで進めていく形になっています。
違和感|対面手続きが本当に最善なの?
丸山さん|説明、聞き取り、申請を一通り行うと、1件あたり約1時間かかります。しかもそれを、落ち着かない状況のなかで進めることになるので、利用者にとっても負担は大きいですし、こちらとしても「本当に伝わっているのか」という不安は常にありました。
アスコエ|ここまで聞くと、「対面じゃないと難しい」というのもわかる気がしますね。
丸山さん|そうなんです。実際、これまではそういう前提で運用されてきていましたし、「聞き取りがあるからオンライン化できない」というのは、ある意味正しいと思っていました。
アスコエ|ただ、そのなかでも違和感があったということですね。
丸山さん|はい。来られる方の状況を見ていると、このやり方が本当に最適なのか、というのはずっと感じていました。子どもを気にしながら説明を聞いているとか、時間がなくて焦っているとか、そういう状態のなかで重要な話をしているので、「これ、ちゃんと伝わっているのかな」というのはずっと引っかかっていました。
しかも、役所は平日の昼間に来てもらう前提になっているので、ひとりで子育てと仕事を両立させなければいけない方にとっては、それ自体が大きな負担になっています。なので、「来てもらって、対面で全部やる」という前提自体を見直さないといけないんじゃないか」と思いました。
疑問|なぜオンラインでできない?
丸山さん|窓口で手続きを進めようとしたときに、「今日は時間がなくて、インターネットでできないんですか?」と聞かれることがあったのですが、そのとき、自分も疑問に思いました。「なんでこれオンラインでできないんだろう」って。
アスコエ|最初からナビのような構想があったわけではないのですね。
丸山さん|全然なかったですね。最初は「申請をオンラインにすればいいのではないか」という発想でしたし、実際に自前のツールでフォームを作ろうとしたこともあります。ただ、それだけでは意味がないと途中で気づきました。

問題|申請ではなく、その手前の“聞き取り”にあった
アスコエ|どのあたりで問題点に気づいたのですか?
丸山さん|申請の前にやっていることを整理したときですね。説明があって、聞き取りがあって、そのうえで申請がある。つまり、申請は最後の工程なんです。申請だけオンラインにしても、その前のプロセスが窓口前提のままだと、結局来庁しないといけない。それでは本質的には何も変わらないですよね。
そこで、「オンライン化できない理由はどこにあるのか」と考えたときに、ネックになっていたのが“聞き取り”でした。これまでは「複雑な状況の聞き取りをしたうえで、判断が必要だからオンライン申請はできない」という考え方だったんですが、逆に言うと、「その聞き取りと判断ができればオンラインでもできるのではないか」と考えに変わっていきました。
アスコエ|まさに逆転の発想ですね。
丸山さん|そうです。聞き取りって、やっていること自体はナビゲーションなんです。その人の状況を確認して、「あなたはこれに該当します」「この手続きが必要です」と整理している。それなら、そのプロセス自体はウェブ上でも再現できるのではないかと思いました。
設計|申請の前工程を「制度説明」と「聞き取り」に分解
丸山さん|「オンラインで申請できるようにしたい」という目的ははっきりしていました。今後、デジタルネイティブな世代が子育て世代になっていくことを考えると、Web上での「わかりやすさ」はより重要になると感じていました。制度の内容を理解することと、自分が対象になるのかを直感的に把握できること、その両方が必要だと考えていました。
つまり、オンライン申請をスムーズにできるかどうかは、前工程である制度理解と状況把握の精度をどこまで高められるかにかかっていることは明確だったので、それぞれの役割を分解して考える必要があると思いました。
まず「制度説明」は、窓口での補足が前提となっていて、資料だけでは理解しにくい状態になっていたので、資料だけで理解できる状態を目指す必要があります。
次に「聞き取り」は、その人の状況を確認し、対象になるかどうかを判断するプロセスです。課題は、窓口で職員が行っているやりとりをどこまでナビで再現できるか、そして現場で蓄積してきたさまざまなケースや判断ポイントを、どこまで仕組みに落とし込めるかでした。
最後に「申請」は、情報を提出する手続きです。ナビで利用できる支援がわかったあと、いかに申請へスムーズに誘導できるかが課題でした。

確信|先行事例が、平塚市での実現イメージにつながった
アスコエ|その考え方が現実的だと判断できたきっかけは何だったんでしょうか。
丸山さん|当時、同じような取り組みをしている自治体が全国で1つだけあって、それが武蔵野市でした。
アスコエ|すでに実現している例があったということですね。
丸山さん|はい。実際に担当の方に連絡して、どういう考え方でやったのか、どのように進めたのかを詳しく教えていただきました。熱量の高いやりとりのなかで、自分たちでもやる必要があると強く感じました。その事例をベースに、「平塚市だったらどうやるか」という具体的なイメージを持つことができました。

反応|県内初の取り組みを、モデルづくりの機会に
アスコエ|その段階で、周囲の反応はいかがでしたか。
丸山さん|窓口の担当者のなかでは、これまでのやり方に課題があるという認識は共有されていたので、「聞き取りをオンラインでやる」という発想自体も、とくに強い反対や慎重な反応はありませんでした。
アスコエ|その違和感はいままでもあったかと思いますが、今回実現できたきっかけなどはあったのですか?
丸山さん|すでに先行事例があったことで、「実際にできている」というイメージを持てたのも大きかったと思います。また、神奈川県内では初めての取り組みになる可能性があったのですが、それもむしろ「だったら平塚市がまずやってみよう」という前向きな空気につながっていきました。
アスコエ|県内で前例がないことが、逆に後押しになったわけですね。
丸山さん|はい。リスクがあるというよりは、モデルをつくれるチャンスとして捉えられていたと思います。「聞き取りが必須でオンライン申請できません」とされていた前提を変えることができるのは革新的なので、成功して形になったら他の課でもゆくゆくは水平展開できるのではないかと思います。
手段|既存の手続きナビを活用し、短期間で実現へ
アスコエ|そこから具体的な手段に落としていたわけですね。
丸山さん|そうですね。窓口での聞き取りと申請可否の判定をWEB上で可能にするプラットフォームはないか?と考えたときに、平塚市ではすでに手続きナビが導入されていて実績もあったので、これを使えば実現できるのではないかと考えました。
当初構築されていたパッケージではないので、実際に実装できるかは不安もありましたが、山本さん(アスコエ担当者)に「『手続きナビ』で同じことができないか」と相談したところ、「できます」と言ってもらえました。結果的に先行事例を参考にしながら、さらに工夫を重ね平塚市の実態にあった形に構築することができました。

後編では、ナビの設計と実装、そして現場にどのような変化が生まれたのかを具体的にご紹介します。



