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「アクセシビリティ」はアクセスのしやすさを意味しますが、とくにウェブコンテンツなどの利用のしやすさを「ウェブアクセシビリティ」と呼びます。ここでは、ウェブサイトの品質を確保するためのガイドラインについて、「アクセシビリティ」と「ユーザビリティ」の違い、「ウェブアクシビリティ」を確保することの行政上のメリットなどについて解説します。
アクセシビリティとは
アクセシビリティ(accessibility)には、「近づきやすい」「誰でも利用しやすい」などの意味があります。製品やサービスを利用する際に、利用者の年齢や性別、身体的特徴、使用している機器の違いなどに関わらず、誰もが簡単に同じような使い勝手を得られることをいいます。
ウェブサイトへのアクセスのしやすさや使いやすさなど、ウェブ上のアクシビリティは「ウェブアクセシビリティ」とも呼ばれています。インターネットの利用環境が整い、より多くの人々がウェブサイトで発信されるコンテンツにアクセスできるようになりました。さまざまな利用者が、それぞれ異なるデバイスを使って、いろいろな場面や状況下でウェブサイトを利用するようになった昨今、「ウェブアクシビリティ」は、あらゆるウェブサイトやコンテンツが備えるべき品質であると位置づけられています。
この「ウェブアクシビリティ」という品質を確保するために、発信者である企業などが独自のガイドラインを定めて運用したり、以下のような団体がそれぞれに基準を設けたりしていましたが、それぞれの改正を経て、2016年には技術的に同じ内容となって完全に統一されました。
WCAG 2.0
Web技術の標準化を推進する国際団体W3C(World Wide Web Consortium)が公表している達成基準・ガイドラインです。「WCAG 2.0」は、1999年5月にW3C勧告として公開された「Web Content Accessibility Guidelines 1.0(WCAG 1.0) 」の後継仕様として2008年12月に公開され、「ウェブアクシビリティ」の事実上の国際標準として広く利用されています。
JIS X 8341-3:2016
JIS X 8341-3は、情報アクセシビリティの日本工業規格である「高齢者・障害者等配慮設計指針ー情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス」の個別規格として、2004年に初めて公示されました。その後、WCAG2.0の公開を受けて、この内容を含めたJIS X 8341-3:2010を公示しています。現在は、「JIS X8341-3:2016」として公示されていますが、これは「ISO/IEC 40500:2012」との一致規格となるよう改正されたものです。
ISO/IEC 40500:2012
ISO/IEC は、各国の代表的な標準機関で構成されている国際標準化機関です。2008年12月に、W3C勧告としてWCAG2.0が公開されると、2012年10月には、そのままISO/IEC国際規格「ISO/IEC 40500」として承認されました。
アクセシビリティとユーザビリティの違い
「アクセシビリティ」と同じような意味をもつ言葉に「ユーザビリティ」があります。それぞれの意味や関係性について、各規格の定義から紐解いてみます。
ユーザビリティの定義|特定ユーザー×特定状況の使い勝手
ISO 9241-11:2018に基づくJIS Z 8521:2020において「ユーザビリティ」は、以下のように定義されています。
特定の利用状況において、特定のユーザーによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザーの満足度の度合い
「人間工学 −人とシステムとのインタラクション− ユーザビリティの定義及び概念」JIS Z 8521:2020
一般的には「使いやすさ」を示す「ユーザビリティ」ですが、ISOの標準規格では、「特定のユーザー」が「特定の状況」において、やりたいことが効率よくできるのかを示す言葉として定義されています。
考え方①|ユーザビリティはアクセシビリティ実現が前提
JIS X 25010:2013による「アクセシビリティ」の定義は以下のとおりです。
製品又はシステムが、明示された利用状況において、明示された目標を達成するために、幅広い範囲の心身特性及び能力の人々によって使用できる度合い
「システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SQuaRE)−システム及びソフトウェア品質モデル」JIS X25010:2013
特定の環境や状況下においても、すべての人が利用できることを示す言葉として定義されています。「アクセシビリティ」を実現できなければ、そのサービスを利用できない人が生まれてしまうという考え方に基づいています。
考え方②|アクセシビリティがユーザビリティに影響を与える
JIS X 8341による「アクセシビリティ」の定義は以下のとおりです。
様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品,サービス,環境又は施設(のインタラクティブシステム)のユーザビリティ
「高齢者・障害者等配慮設計指針− 情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第1部:共通指針」
この「アクセシビリティ」の定義には、「ユーザビリティ」という言葉が含まれます。このことから「ユーザビリティ」は「アクセシビリティ」の考え方に内包され、「アクセシビリティ」を実現することが「ユーザビリティ」にも影響を与えるという考え方です。
ユーザビリティは「使いやすさ」、アクセシビリティは「アクセスのしやすさ」を示している点は、①②共通の考え方です。
「アクセシビリティ=障がい者のため」は間違い
「World Wide Web」を考案し、ハイパーテキストシステムを開発したティム・バーナーズ=リー氏によって創設されたW3Cは、HTML、CSS、XMLなどの標準仕様を「勧告」として公開するなど、ウェブ技術の国際標準化を推進する非準化を推進する非営利団体です。W3Cは、1999年に「WCAG 1.0」を、2008年には「WCAG 2.0」を公開しています。このWCAGは「障がいに配慮することで、ほとんどの利用者にとっても使いやすい内容になる」という考え方に基づくものでした。そして、これが「ウェブアクセシビリティとは、障がいのある人がウェブを使えるようにすることを指す」という解釈につながっていきました。
これに対して、2014年4月に韓国ソウルで開催された『Web for All Conference』の公式サイトには、以下のような記述があります。
Accessibility was once viewed as benefiting people with disabilities only — not anymore! ……devices are diverse and their use varies across every conceivable context.
The 11th Web for All Conference
「アクセシビリティは、障がい者だけのためのものとしてこれまで見られてきた - もはやそうではない! デバイスが多様化していて、コンテキストによって使いかたも多種多様なのである」とのメッセージです。
現在、「ウェブアクセシビリティが障がい者に対応するためのものではない」という考え方は、すでに国内外に広まっていて、日本工業規格の「JIS X 8341-3:2016」やW3C勧告の「WCAG 2.0」が示したWebコンテンツの達成基準には、「障がいある人」という特定のユーザーグループのためだけに行うことは、ほとんど記されていません。
「ウェブアクセシビリティ」を確保する行政のメリット
ワクチンの接種予約やマイナンバーカードの申請など、これまで以上に多くの人々が、国・自治体のウェブサイトを利用する機会が増えています。そうしたなかで、ウェブコンテンツのアクセシビリティを確保することは、行政府にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
多様な利用環境に対応して利用者を増やせる
多種多様なデバイス・OS・ブラウザ、操作技術(キーボード、タッチ、音声ほか)、支援技術(点字、画面拡大機能、色反転機能ほか)など、多くの利用環境をサポートすることにより、より多くのアクセスが期待できます。
場所や状況を問わず快適な利用を提供できる
住民はいつでも好きなときに好きな場所から、アクセスできるようになります。多様化する利用者のニーズに対応し、それぞれの目的やライフスタイルに合わせて、必要な情報を取得することができます。
ユーザー満足度と行政のイメージ向上につながる
住民に対して快適な体験を提供することによって、行政に対する満足度とイメージの向上につながります。また、より多くの住民の声を、提供するコンテンツに反映させることによって、ウェブサイトの利用者が増え、多くの利用者に信頼と安心を提供することができます。
コンテンツ品質がUPして発信力が高まる
「ウェブアクシビリティ」という品質を確保するために、JIS X 8341-3などのガイドラインを利用することで、より明確な品質基準によるウェブサイトの運用を図ることができます。また、政府や地方自治体における「ウェブアクセシビリティ」を向上させることは、事業者や個人への発信力を高めることにつながります。
社会的な責任を果たせる
2016年4月の「障害者差別解消法」の施行によって、情報アクセシビリティの確保が求められるようになりました。利用者からの改善要求への対応は、行政府にとって法定義務となり、「ウェブアクセシビリティ」の改善によって社会的な責任を果たすことができます。
ウェブコンテンツが備えるべき品質のひとつとして「ウェブアクセシビリティ」を見てきました。今後、デジタル社会が急速に進展していくなかで、どのような環境のもとでも、誰一人として取り残さない「ウェブアクセシビリティ」の考え方は、情報の提供側だけではなく、提供される側にとっても評価基準のひとつとなりそうです。