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2022年10月19日

【BPR】組織・業務・システムの「抜本的リデザイン」で行政DXを成功へと導く 手法

BPRは、それまでの組織構成や既存のルールを根底から見直し、組織全体の業務プロセスを抜本的にデザインしなおすことです。その概要と歴史やよく耳にする関連用語との違い、自治体行政においてBPRプロジェクトを推進する際の留意すべきポイントなどについて紹介します。

BPRとは?

BPRとは「Business Process Re-engineering」の略語
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「業務改革」「業務プロセス改革」とも表現されることがある「BPR」ですが、ここではまず、その概要と歴史について見ていきます。

業務に関わるすべての要素をデザインしなおすこと

BPRは「Business Process Re-engineering」の略語で、直訳すると「業務プロセスの再構築」という意味になります。「Re-engineering」には「再設計」という意味があるので、BPRとは、組織構成や社内制度、規約など、既存のルールを抜本的に見直して、業務プロセスの観点から、職務や業務分掌、業務フロー、管理体制、システム体制などをデザインしなおすという意味合いになります。

BPRの歴史

BPRの考え方は、1993年に元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士と経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏の共著として発表された「リエンジニアリング革命(邦題)」によって、世界的に広まっていきました。

1990年代初頭の米国は、長引く不況から抜け出すことができずにいました。多くの企業は、業績の低迷からの脱却を果たすべく、ハマー博士らが説く「業務プロセスの抜本的な改革」を実践するようになりました。

日本に目を向けると、当時はまさにバブル崩壊の時期。BPRの革新的な考え方は、日本においても歓迎され、国や地方自治体、多くの民間企業が組織改革の手法として取り入れようとしました。とはいえ「BPR」と称しながらも、業務フローの改善程度にとどまり組織全体を俯瞰した抜本的な改革に至らないケースがほとんどであり、雇用調整としてのリストラを助長して混乱を招く結果にもなりました。このように、日本における初期のBPRの取り組みは、けっして成功したとはいいがたいものでした。

そして日本社会は現在、少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少が加速しています。これに対して日本政府も「働き方改革」を掲げ、ワーク・ライフ・バランスやより柔軟な働き方の実現を促しています。

しかし、このような環境整備による労働力の確保や業務の効率化を可能にするためには、従来の組織やルールを根底から見直し、業務を変革するという構えが必要です。このような日本を取り巻く社会状況によって、BPRは再び、注目されるようになっています。

「業務改善」「BPM」「DX」との違いは?

BPRの基本手順

上図は、BPRの基本的な手順を示したものです。ここでは、BPRについての理解を深めるために、よく耳にする関連用語との違いを紹介します。

「BPR」と「業務改善」の違い

業務改善とは、業務を遂行する際に図らずも生じてしまった無駄や重複を省き、業務を効率化することをいいます。業務プロセス自体に問題がない場合に、問題のある業務について部分的な改善を行います。対してBPRは、業務全体を見直し、業務プロセスそのものを抜本的に再構築するものです。

業務改善では、順を追って徐々に業務効率化を達成しようとしますが、BPRでは一気に、劇的な変革を目指します。顧客やマーケットにとって不必要なプロセスがあれば、それを取り除くことも必要です。

「BPR」と「BPM」の違い

BPMは、「Business Process Management」の略語で、業務プロセスの現状を把握して、無駄な業務や非効率なフローを発見し、本来あるべきプロセスに近づけていくための業務管理手法です。以下のような流れでPDCAサイクルを繰り返しながら、継続的に業務プロセスの最適化を目指していきます。

1)業務の流れを可視化

2)課題を抽出

3)課題解決のための新たな業務プロセスを創出

4)実施

BPRはトップダウンスタイルによる全社的な改革ですが、BPMは、現場を熟知する担当者からの提案などを起点としてボトムアップの改善(業務プロセスの再構築)を行います。また、BPRは、施策を実施して不具合な部分はチューニングするものの抜本的な改革が何度も繰り返されることはありませんが、BPMは、繰り返して継続的に改善を行うという点も異なります。

「BPR」と「DX」の違い

DX(Digital Transformation)は「デジタルによる変革」を意味します。デジタルの力を活用して、ビジネスモデルや組織のあり方を変革し、新たなビジネスモデルを創出します。これに対してBPRは、業務プロセスの再構築によって効率化を進めます。DXは、ビジネスモデル自体を変えることなく企業のパフォーマンスを向上させるための手法です。

自治体BPRでおさえておきたい5つのポイント

自治体BPRでおさえておきたい5つのポイント
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BPRの推進によって民間事業者の提供サービスが日々進化をとげるなか、自治体行政においても多くのBPRプロジェクトが進められています。ここでは、自治体BPRを進めるために、おさえておきたいポイントについて解説します。

1.現場の業務プロセスを可視化

自治体BPRを進めるためには、まず現場でどのような業務が行なわれ、課題がどこにあるのかを把握しなければなりません。複雑化した業務プロセスを検証して課題を見つけ出すためには、(マニュアルがあるのであれば)マニュアルどおりに実施されているか、作業者の工夫によって行っていることや使っているツールはないかなど、細かい部分まで洗い出す必要があります。

2.民間委託も視野に入れて検討

すでに自治体は人手不足なので、定型的な業務や事務事業全般について、民間への委託の可能性についても検証することが必要です。とくに職務内容が同種あるいは類似している業務であって民間委託が進んでいない分野があれば、先行事例や民間の受託提案などを参考にしながら検討を進めます。以下、おもな民間委託の手法について紹介します。

アウトソーシング

一部の業務を外部の民間企業に委託する手法です。外部に委託したほうが効率化できる業務については、アウトソーシングによって自治体職員の大幅な負担軽減、場合によってはコスト削減にもつながります。

BPO (Business Process Outsourcing)

BPO は、アウトソーシングの一形態で、特定の業務をまるごと外部の知識・経験のある企業に委託することです。外部の専門的なノウハウを活用し、自治体職員がコア業務にシフトすることで行政サービスの高度化を実現します。

シェアードサービス

シェアードサービスとは、複数の自治体(企業)で共通するサービスを、特定の企業に集約して業務効率を図る手法です。民間企業でいえば、間接業務(経理、財務、人事、総務、法務、情報システムなど)をグループ内企業に集約することで、業務の効率化やノウハウの蓄積を図りながら経営の強化を狙います。民間企業で多用されている手法ですが、自治体でも導入は可能で、同様の効果が見込めるでしょう。

改正された「指定管理者制度」で委託先を検証
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3.改正された「指定管理者制度」で委託先を検証

指定管理者制度とは、公の施設の管理・運営を、地方公共団体が指定する民間事業者や市民団体に委託することを可能とする制度です。従来の制度では、公共団体、公共的団体、政令で定める出資法人などに限られていましたが、2003年9月の地方自治法244条の2の改正によって、この制限が取り払われました。

すでに新制度を導入済みの公的施設も含め、管理のあり方についての再検証を行う必要があります。複数施設の一括指定などのスケールメリットを活かそうとする取り組みや、公募前対話の実施など民間事業者の参入機会を増大させる取り組みなど、幅広い視点から管理のあり方について検証し、より効果的、効率的な運営を目指します。

4.ICTほか最新技術を積極的に活用

AIやRPAなどの最新技術を活用して、BPRを成功に導く民間企業が多く見られるようになりました。行政サービスにおいても、BPRによる業務プロセスの見直しとともに、ICTを活用した業務の効率化も推進する必要があります。とくに住民サービスに直結する窓口業務の見直しや職員の業務効率の向上につながる内部管理業務の見直しを重点的に実施することが重要です。

5.長年蓄積された知識や経験をナレッジマネジメント

これまでの業務により積み上げられてきた知識や経験、ノウハウなどは、部門や職員ごとにそれぞれ異なります。隠された財産ともいえるこのようなナレッジを、部門横断的に共有できるようになれば、提供サービスの強化につながります。ナレッジマネジメントの導入は、非定型業務の生産性向上に大きな効果を発揮するはずです。

自治体DXが成功するかは「BPR」の精度にかかっている

自治体DXが成功するかは「BPR」の精度にかかっている
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ここでは、自治体によるDXの推進において、BPRの手法がどのように活用されているのかを見ていきます。

総務省が2021年7月に発表した「自治体DX推進手順書」では、DXを推進するにあたって想定される一連の手順が示されています。DXの認識共有・機運醸成、全体方針の決定、推進体制の整備、DXの取り組みの実行という4つのステップによって、各自治体がその実情にあわせてDXを推進できるように作成されています。

このなかで、BPRの取り組みの意義について、以下のように記されています。

「工程表のイメージ」では、取組事項の一番上に「BPR の取組みの徹底」を位置づけている。これは、業務内容や業務プロセス、さらには組織体制を含めて抜本的に見直し、再構築するいわゆる BPR の取組みが、DX の成果を決定づけるからである。

「自治体DX推進手順書」総務省
「自治体DX推進手順書 概要」総務省
工程表のイメージ/「自治体DX推進手順書 概要」総務省

以下、自治体DXの推進にあたって、BPRをどのように活用すべきとしているのかを、抜粋して紹介します。

オンライン化やAI・RPA利用推進時はBPRがベース

オンライン化にあたっては、従来の行政手続きを前提とするのではなく、たとえば申請自体の必要性から検討に着手するなど、徹底した利用者目線によるBPRの取り組みが必要だとしています。AIやRPAなどの技術を導入する際にも、既存の業務プロセスを前提とするのではなく、そもそも業務そのものが必要なのかという検討や業務プロセスの徹底した見直しを行うことが重要です。

提案募集方式の主なプロセス|地方分権改革・提案募集方式ハンドブック(令和4年版
提案募集方式の主なプロセス|地方分権改革・提案募集方式ハンドブック(令和4年版)

BPRの取り組みが規制緩和申請のエビデンス(根拠)になることも

BPRの取り組みによって法令や国の制度の見直しが必要になった場合、国に対して自治体への事務や権限の移譲、規制緩和を求める提案(内閣府への「提案募集方式」を活用)をすることになりますが、BPRの取り組みがその際のエビデンス(具体的支援事例や制度改正による効果の根拠)となることを示しています。

書面・押印・対面の見直しではとくにBPRの取り組みを徹底

「デジタル社会形成法」の柱のひとつである書面規制や押印、対面規制の見直しは、自治体にとっても喫緊の課題です。地方自治法の改正(2021年1月)により、今後自治体との電子契約も飛躍的に増加することが見込まれるため、早急にBPRを取り組む必要があります。

BPRの成果によって組織改編も

自治体DXの推進にあたっては、関連する各部門との緊密な連携が不可欠であって、とくに業務改革の知見を有する行政改革担当部門と連携し、最適な業務プロセスの構築を図ることが重要としています。このようなBPRによる成果は、組織担当部門とも共有し、必要に応じて組織の改編などの見直しが必要になります。

働き方改革やDXの推進など、日本社会は今後、大きな変革を求められることになります。BPRによる業務プロセスの抜本的な見直しと再構築のためのイノベーション手法が、多くの自治体組織に活力を与え、効率的で生産性の高い業務推進が可能になることを期待します。

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