2021年3月11日

行政DX 改めてコンテンツ設計の効用

データ構造化の効能

 新型コロナ禍のもと、緊急事態宣言が続いています。私もステイホームの一環で、自宅でテレビを見る機会が多くなりました。最近はデジタル化の恩恵で4K映像の非常に美しい作品を自宅のテレビで気軽に楽しむことが出来るようになっています。私はこの分野の専門家ではありませんが、こうした4K映像は4K向けのテレビや撮影機材、ネットワーク等の機器の進化だけではなく、4K向けコンテンツの作成も非常に大切であると聞いたことがあります。例えば、4K映像に適した画面構成や舞台、セットづくり、メイクや衣装の作り込み、さらには全体的なストーリー展開などに関しても4K作品に合わせた形で制作していると聞いたことがあります。
 このようにデジタル化の中ではコンテンツの作り込みも非常に重要な要素になっています。

SNS、チャットボットで情報発信、その前に。。。

 昨今の行政デジタル化の流れの中で、LINE等のSNSやチャットボット、または国が用意したナビゲーションシステムを活用しようという話を、国・府省庁の方、自治体ご担当者様を問わず、よくご相談を頂くようになりました。
 その際に気になる点が「SNS で使おう」「チャットボットを開発しよう!」という話だけで議論が終わってしまっていることです。SNSやチャットボットの有用性は間違いなく、その方向性はもちろん正しいのですが、その前にやることがあることも改めて認識すべきと考えています。
 SNSやAI、チャットボットを活用するためには、ごく基本的ですが「その利用者はだれか」「利用者についてどういったことを知れば良いか」を、まず十分に整理する必要があります。
 例えばSNSやチャットボットを使って国や自治体の就業支援制度をお知らせするシステムを作る場合には、そうした就業支援制度が必要なのはどんな方たちなのか、その対象となる方たちの職業や職種、あるいは年収など、どのようなプロフィールなのかや、ニーズをどのように聞けばいいかという設計なしには、そもそも利用者にあった就業支援制度の情報を提供することはできません。
 また就業支援制度を提供する側においても、それぞれの利用者のどのニーズにどの制度が該当するかということについてもしっかり整理しないと、利用者のプロフィールやニーズに的確にマッチする制度設計はできません。
 このように、SNSやチャットボットを使うにしても、どのような利用者に対してどのようなニーズを満たすのか、またその利用者ニーズにあわせて提供する情報の整理をすることが不可欠です。
 さらに未だによく目にするのが、SNSやチャットボットで最終的に提供される情報が既存の当該ページへのリンクが列挙してある、いわゆるリンク集で終わっているというケースです。これではリンク先の情報のわかりやすさ、わかりにくさということが一切議論されていない状態です。
 その結果、リンク先の情報が非常に読みにくい長文である、あるいはその逆で、ほとんど説明がなく利用するには不十分な情報しかないというようなケースが往々にしてあり、提供する情報の過不足が大きいという状況に陥ってしまいます。このようにSNSやチャットボットを活用する場合においても、その先の情報の整理整頓をきちんと行う必要があります。
 最近では言うまでもなくスマートフォンでの利用が中心になっており、スマホでのユーザビリティが大切になってきます。単純にたくさんの情報量があればよいという訳でもなく、スマホでも読みやすい、簡潔な表現にコンテンツを再構成するといった細かな工夫も心がける必要があります。

「情報の整理からスタートするDX」は、変わらない

 このようにSNSやチャットボット、既存のナビシステムなどの効果を十分に引き出すためには、提供する情報、コンテンツの準備とその整理整頓が不可欠となってきます。このような情報、コンテンツの整理整頓を情報構造(IA:Information Architecture)設計と言います。
 民間のウェブサイトを構築する際には、多様な商品やサービスを的確に顧客に提供するために、この情報構造設計がごく一般的に行われています。

 「これから行政系ウェブサイトの設計でもこうした情報構造設計が今まで以上に必要になってくる」と私が盛んにお伝えしていたのがちょうど10年ほど前です。行政系WEBサイトが当たり前になり、多様なSNS、チャットボット、AIシステムが出てきているDX時代の現在でも、こうした状況はほぼ変わらないのではないでしょうか。

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 4Kの映像を楽しむために、4Kテレビや通信機器は不可欠です。しかし提供されるコンテンツの質が悪ければ、いくら4Kといってもそのデジタル化の恩恵は限られます。

 これから国・自治体のDXを進めていく上で、SNSやチャットボット、AIなどの仕組みは不可欠です。しかしそこで提供されるコンテンツの質が悪ければ、いくらデジタル化が進んでも利用者である国民が得られる恩恵は限られます。しかしながら、国・府省庁、自治体の方々とお話している際には、国や自治体のDX、デジタル化が進められている中で、SNS、チャットボットありきで、こうしたコンテンツの設計が置き去りになってしまうことを最近改めて感じています。

 冒頭にお話した4Kの素晴らしさを実感出来るのは、テレビや通信機器などの媒体、通信技術などのデジタル化が進化しただけではなく、そこでもやはりコンテンツの進化も大切でした。こうした流れは、行政のDXでも変わらないのではないでしょうか?

安井秀行(アスコエパートナーズ)
この記事を書いたのは:

株式会社アスコエパートナーズ 代表取締役社長 NPO団体 アスコエ代表 一般社団法人ユニバーサルメニュー普及協会 理事 慶応義塾大学 政策・メディア研究科 非常勤講師 内閣官房「新戦略推進専門調査会 デジタル・ガバメント分科会」委員 内閣官房「地方官民データ活用推進計画に関する委員会」委員 マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン、株式会社DBMG取締役を経て、現職。企業だけでなく、行政等公的機関も含めたウェブ、マーケティング戦略関連の幅広いコンサルティングを行っている。

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