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2024年9月6日

【防災月間に考える】罹災証明書交付の迅速化に向けた防災DXの取り組み

災害で建物や土地に被害を受けた被災者は、復旧・復興支援を目的とした行政支援制度を利用することができます。しかし、この申請に必要な書類の準備に多くの被災者が苦労している現状があり、特に罹災証明書(り災証明書)の交付が手続きのボトルネックになることが多いと言われています。

本記事では、罹災証明書交付に関する行政側の課題と、迅速な手続きを実現するために各行政機関が行っている取り組みについて紹介します。

罹災証明書とは?

罹災証明書は、自然災害によって被害を受けた住民に対して地方自治体が交付する公的な証明書です。この証明書は、住宅や財産がどの程度の被害を受けたかを公的に証明するもので、行政の災害支援制度を利用する際に必要となる場合が多いです。

罹災証明書が必要となる行政制度には、住宅の再建や保育所の保育料の減免など、被災者の生活を支援するために用意されたものが多数存在します。

 大規模災害における罹災証明書交付に関する課題

通常、罹災証明書の取得には市区町村の担当窓口への申請が必要です。申請後、自治体職員が現地で被害状況を調査し、その結果に基づいて証明書が交付されます。しかし、交付までの過程には複数の事務業務が必要であり、迅速な手続きが困難な場合があります。現状では、迅速な交付が実現できていない自治体も少なくありません。

課題1 罹災証明書の交付に関する職員の業務負担

通常、建物被害の調査は自治体職員が現地に出向いて実施します。この調査では、1軒1軒を個別に確認する必要があり、各建物の調査にも相当な時間がかかります。そのため、大規模災害で被害が広範囲に及ぶ場合、現地調査全体に多大な時間を要することになります。

課題2 罹災証明書交付完了までの待機時間長期化による住民負担

罹災証明書の交付には数か月を要する場合があり、復旧・復興に重大な影響を及ぼします。被災者は現地調査が行われるまで被害を受けた建物を被災当時のまま保持する必要があるため、迅速な復旧作業に着手できません。さらに、公費解体など罹災証明書を必要とする支援策は、証明書の交付を待たねばならず、これが復興のボトルネックとなります。結果として、罹災証明書の交付遅延は被災者の復旧・復興に向けた行動を制限し、地域全体の再建プロセスを遅らせてしまう可能性があります。

罹災証明書の迅速な交付に向けた取り組み事例

デジタル庁は、防災分野の優れたサービス・アプリを自治体が円滑に検索・調達できるよう「防災DXサービスマップ・サービスカタログ」として整理し、公表しています。また、罹災証明書の交付についても、優れたサービス・アプリが公表されています。

事例1 大分県日田市

大分県日田市では、2012年以降、4度にわたって激甚災害に指定される規模の豪雨災害に直面してきました。同市においては、これまでの被災経験を踏まえて罹災証明書交付に関わる業務の効率化を進めていたものの、非デジタルな作業による自治体独自での取り組みには限界を迎えていました。富士フイルムシステムサービス株式会社から提案された「罹災証明迅速化ソリューション」等の導入により、「交付の迅速化」「業務の省力化」を実現しています。

(参考)罹災証明書の交付を迅速化するDXの取組 | 地方自治研究機構

事例2 京都府

京都府では、2015年7月に東日本電信電話株式会社の「被災者生活再建支援システム」を府内の全市町村に実施しました。建物の被害認定から調査結果までの認定プロセス状況を一元データ化し、罹災証明書の交付を効率化するとともに、被害者の生活再建を支援します。京都市では、大規模な建物被害が発生した2017年9月の台風18号や10月に起きた台風21号で、同システムの活用により被災者への迅速な支援を少ない業務負担で実現しました。

(参考)京都府のシステム活用経験が自治体間の「応援・受援」体制構築を加速 | NTT東日本

事例3 熊本県人吉市、熊本県球磨村、熊本県相良村

令和2年7月豪雨において、UPWARD株式会社は、同3自治体へ位置情報とCRMを掛け合わせたモバイルCRM「UPWARD」の無償提供を行いました。災害後、2週間程度で受付を開始し、熊本地震(2016年)と比較して、災害後40日時点の証明書交付状況が大きく伸展しました。

(参考)位置情報×モバイルCRM「UPWARD」の無償提供により、令和2年7月豪雨において罹災証明書のスピード交付を実現 | UPWARD

国や自治体の動き

罹災証明書の交付業務の効率化について、国・自治体での取り組みが進められています。

2024年6月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、防災DX推進の一つとして罹災証明書のオンライン申請の実現が示されています。

令和6年能登半島地震の被災地域の多くの自治体では、マイナンバーカードを利用して、マイナポータルからオンラインで罹災証明書の交付申請ができ、役所を訪問せず、“待たない申請”が実現しています。

(参考)罹災証明書(り災証明書)をマイナポータルから申請する方法 | デジタル庁

東京都 

2024年3月8日の記者会見では、住家被害認定に関する国への緊急要望を示しています。

①他自治体の職員でも認定を行えるよう見直すこと
現状、認定業務は被災自治体の職員が実施

②判定基準を徹底して簡略化すること
基準の簡略化に加え、デジタルツインやAIなどの最新技術も活用し、スピードアップを図る

③基準の考え方自体を抜本的に見直すこと
【判定基準】住家の損傷程度→建て替え要否 など

(参考)住家被害認定に関する国への緊急要望 知事記者会見 令和6年3月8日 | 東京都

  

被災者の不安を解消し、一日も早く元の生活状態に戻れるよう、迅速な罹災証明書の交付は非常に重要です。また、被災者がどのような支援制度があるか、罹災証明書が必要か否かなど申請に必要な書類を簡単に調べられる状態であることも、被災者の迅速な支援のために重要です。被災者支援をサポートする様々なソリューションを提供する企業と連携しながら、いざという時に住民が頼りにできる体制を作っていきたいものです。

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