マイナンバー制度・カードはなぜ普及・浸透しない? 制度の問題点と対策【マイナンバー制度④】
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- writer : GDX TIMES編集部
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マイナンバー制度は、電子政府の実現による日本社会のデジタル化の推進を目的とする共通番号制度です。今回は、マイナンバーカードの交付率向上のための政府の取り組みや普及率、マイナンバー制度の問題点、今後注目される政府のマイナンバー対策について見ていきます。
2021年11月16日時点でマイナンバーカード交付率は39.5%
これまで、マイナンバー制度についていろいろな角度から解説してきました。詳しくは、以下の記事をお読みください。
マイナンバー制度①|どこまで知っている? マイナンバー法が成立するまでの紆余曲折
マイナンバー制度②|世界各国のマイナンバー制度の考え方や仕組みを学ぶ
マイナンバー制度③|制度が目指す国民のメリット、行政のメリットとは?
電子政府の構築に向けた共通番号制度が導入されたのは、先進諸国のなかで日本は後発組となっています。後発組であるがゆえに、他国の事例をふまえた制度構築が行えたという利点があったはずですが、マイナンバーカードの交付枚数は伸び悩み、その普及が思うように進んでいないという現状があります。
マイナポイント付与のマイナンバーカード普及策は一定の効果あり
2020年9月には、マイナンバーカードを持つ人に最大5000円分のマイナポイント※を付与するという普及策を実施。ポイント付与の対象となる交付期間は、2021年4月末に終了しましたが、5月6日時点でのカード交付件数は3825万枚、交付率は30.1%となり、2020年4月1日時点の交付率16%から大幅に増やすことができました。交付待ちの人を含めた申請件数は4951万件で、全人口の4割に迫るという成果が得られました。
※マイナポイントとは、マイナンバーカードを使って予約・申込を行い、選択したキャッシュレス決済サービスでチャージまたは買い物をすると、利用金額の25%(上限5000円)がポイントとして還元される仕組みです。
ところが、2021年11月に金子総務大臣から発表されたのは、「11月16日時点のマイナンバーカード交付枚数がおよそ5003万枚、全人口の39.5%に達した」という内容でした。2021年5月6日時点で確認された申請件数(交付待ちを含む)から大きな伸びが見られなかったことがわかります。
そこで、マイナポイント事業の第2弾を、2022年1月1日から実施しています。事業の詳細については、以下のホームページを参照ください。
マイナンバーカードの交付数は、マイナポイント事業など政府の普及策によって順調に増えてきましたが、いまだ全人口の半分にも満たないのには、どのような理由によるのでしょうか。
「マイナンバーカードを作らない」人が挙げる理由とは?
内閣府が実施した「マイナンバー制度に関する世論調査」によると、マイナンバーカードを取得しない理由として、以下のような回答がありました。
取得する必要性を感じない
そもそもマイナンバーカードの提示を求められるような場面がほとんどないために、取得する必要性を感じられないという声が約6割弱ありました。各種証明書を発行する機会も、それほど頻繁ではないため、持っていなくても不便を感じることはないと考えているようです。
身分証明書になるものが他にある
身分を証明する書類としては、運転免許証やパスポート、健康保険証などが用いられてきました。それらが効力があるのだとすれば、わざわざ新たな証明書を持つ必要はないと考える人が約4割いました。現在、もっとも多く身分証明書として利用されているのは運転免許証ですが、今後、若年層のクルマ離れや高齢者の自主返納が進むつれ、マイナンバーカード取得のニーズは高まっていくのでしょうか。
個人情報の漏洩が心配
マイナンバーカードに記録された個人情報が漏洩することを心配する人も多くいます。実際には、マイナンバーカードのICチップには、プライバシー性の高い個人情報は記録されず、関係各機関がそれぞれの個人情報を「分散管理」しているために、情報が流出したとしても被害が限定されるようになっています。但し、「個人情報の一元化」というイメージが強いために、個人情報が漏洩してしまうのではないかと危惧する人が多いのでしょう。
紛失や盗難が心配
他人の個人番号を用いた成りすましなどの不正利用によって、財産その他の被害を負うのではないかといった懸念があるようです。2022年度から、公金受取口座登録制度がスタートし、給付金や年金、児童手当、所得税の還付金などの公金を受け取るための口座を、マイナポータルで登録できるようになりました。これらの公金を受け取る際には便利な機能ですが、紛失によるリスクを懸念する人もいるようです。
申請手続きが面倒
紙による申請であり、証明写真の用意が必要であること。受け取りまでに1ヵ月以上かかること。受け取るために窓口へ行く必要があることなど、慣れない申請手続きに手間をかけたくないという人も多いようです。さらに、有効期限が設定されていることや、紛失時の再発行手続きやパスワードの再発行も面倒だという理由もありました。実際、コロナ禍での「特別定額給付金」の支給時には、マイナンバーを使うオンライン申請が大混乱しました。
マイナンバーカードをそもそも保有していない人や暗証番号が無効になっている人などが迅速な給付を受けるためには、マイナンバーカードの発行手続きから行う必要があり、一部の市区町村では、これらの手続きのために窓口が混雑してしまいました。
国民・企業目線から見たマイナンバー制度の問題点
コロナ禍で明らかになったデジタル化の遅れに対して、デジタル庁が中心になって取り組むとされていますが、現時点で大きな発表はありません。ここでは有識者たちが指摘しているマイナンバー制度の問題点についてまとめます。
国民目線|「マイナンバー」と「マイナンバーカード」の違いがわかりづらい
マイナンバーとは、日本に住民票を有するすべての人に付与される12桁の個人番号です。対して、マイナンバーカードは、申請した人に交付されるマイナンバーが記載されたICチップ付きのカードのことです。マイナンバーカードの普及が思うように進まないなかで、マイナンバー制度は失敗であるという意見もありますが、これはマイナンバー制度とマイナンバーカードを混同したことによる誤解です。カードがなくてもできること、カードがなければできないことを分けて説明することで、制度とカードの関係を正しく理解してもらう必要があります。
国民目線|マイナンバー制度で便利になっていない
マイナンバー制度の導入目的として、行政サービスの効率化や国民の利便性向上などがいわれていますが、市民の目線では、格段に便利になったとは感じることができないでいます。このような状況を改善するためには、マイナポータルのコンテンツの充実やマイナンバーカードのメリットの充実が求められています。
国民目線|マイナンバーカード管理が煩雑
マイナンバーカードに搭載された電子証明書のパスワード(暗証番号)には、「利用者証明用パスワード」「署名用パスワード」「券面事項入力補助用パスワード」「個人番号カード用(住民基本台帳用)パスワード」の4種類があります。そして、これら暗証番号の有効期限は5年間で、これらを適切に管理することは、利用者である市民にとって大きな負担となっていると考えられます。実際、特別給付金の手続きでは、パスワード忘れや入力ミスが多発し、大きな混乱を招きました。生体認証などのシステムを導入するなど、管理面での見直しが求められます。
企業目線|マイナンバーのメリットがない
企業は、従業員のマイナンバーを収集し、保管していますが、それだけでは企業にとってのメリットがありません。「民間事業者におけるマイナンバーカードの活用」では、企業での活用事例が紹介されていますが、それらは試験的かつ限定的な取り組みに過ぎません。マイナンバー制度導入による企業側のメリットを強くアピールできるような活用施策を打ち出していく必要があります。
行政目線から見たマイナンバー制度の問題点
一方、行政の視点で以下の問題点が挙げられています。
法律・条例が複雑
マイナンバー法は4法令(個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法、個人情報保護条例)の特別法であるために、法律自体が複雑で難解になり過ぎているという指摘があります。このため法律に基づく条例の改正や改正後の条例の解釈も難解となっています。
各自治体で同様の条例を策定するのはきわめて非効率的であり、これらに携わる職員たちの労力不足は否めません。全国の自治体でほぼ共通的に発生する事項については、条例事項ではなく法律事項とし、地方の創意工夫による点のみを条例事項とすべきだと考えられます。
業務が効率化できていない
これまで各自治体が行ってきたそれぞれの業務フローに、マイナンバーを付け足すだけでは、かえって作業量が増える結果となるおそれがあります。書面を確認するよりも情報連携するほうが面倒だったり、情報ネットワークシステムが使いにくいために、紙の処理を代替できないでいる自治体も少なくありません。
たとえば、本人が所得額の証明書を持参した場合には、その証明書で国民健康保険料、年金保険料、児童手当など複数の手続きが可能でした。これをネットワークシステムで情報連携しようとすると、国民健康保険、年金、児童手当といった手続きの数だけ、情報連携処理を行わなければならないために、書面を確認するよりも手間が増えることになります。
システム改修にコストがかかる
システムの開発・運用・保守やそれ以外の業務を委託すれば、かなりのコストがかかることになります。このため、各自治体が法改正のたびにシステムを改修するのは割高となります。適正なコスト管理を行うためには、何が高コストにつながるのか、どのようにコスト削減を図るべきなのかについて、丁寧に検討することが必要です。そのためにはICTの理解が不可欠ですが、全国的なICT人材が不足するなかでの人材確保は困難な状況です。
今後注目される政府の「マイナンバー」対策
政府は、マイナンバー制度およびマイナンバーカードを基盤としたデジタル社会の構築を掲げています。「2023年3月末までに、ほとんどの住民がカードを保有」することを目標に、さらに対策を加速しています。そのための政府のおもな取り組みを紹介します。
「公金受取口座登録制度」で公金の給付・支給がスムーズに
預貯金口座の情報をマイナンバーとともに事前に国(デジタル庁)に登録しておくことにより、今後の緊急時における給付金などの申請時に、申請書への口座情報の記載や通帳の写しの添付、行政機関における口座情報の確認作業などが不要になります。この公金受取口座の登録は任意ですが、マイナポータルでも登録が可能(2022年春頃を予定)となります。
マイナンバーカードが健康保険証に
マイナンバーカードを健康保険証の代わりとして本人確認に利用するというもので、利用者にとってさまざまなメリットがあるとして期待されています。2021年10月(※同年3月から延期)から利用開始となりました。政府は、2023年3月末には、おおむねすべての医療機関などでの導入を目指すとしています。
※2021年3月下旬に利用開始となる予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響による医療機関や薬局の導入の遅れがあったことやプレ運用段階でのエラーが発覚したことなどを考慮して延期となりました。
この制度の導入によって、通院時には顔認証で受付が可能となり、正確なデータに基づく診療や薬の処方が受けられるようになります。窓口での限度額以上の医療費が発生しても、一時支払いが不要になります。さらに、特定検診や薬の情報をマイナポータルで閲覧したり、マイナポータルからe-Taxに連携することで確定申告が簡単になります。
マイナンバーカード機能をスマートフォンへの搭載
マイナンバーの機能をスマートフォンに搭載することで、スマートフォンのみで各種行政手続きがオンラインで完結することを目指すものです。
この他、顔認証技術を活用したコンビニでの電子証明書の暗証番号初期化・再設定(ロック解除)、2024年度末には、運転免許証と一体化の実現などが計画されています。
マイナポイント付与によるマイナンバーカードの普及促進は一定の効果が認められていて、健康保険証や運転免許証との一体化、スマートフォンへの機能搭載などの施策も、カード取得の契機となるでしょう。しかしながら、マイナンバーカードの本来の目的は、電子政府の実現による日本社会のデジタル化の推進にあります。取得率にばかりとらわれるのではなく、市民一人ひとりの利用シーンを考え、より利便性の高いシステムの構築に注力することが大切です。
マイナポイント付与によるマイナンバーカードの普及促進は一定の効果が認められていて、健康保険証や運転免許証との一体化、スマートフォンへの機能搭載などの施策も、カード取得の契機となるでしょう。しかしながら、マイナンバーカードの本来の目的は、電子政府の実現による日本社会のデジタル化の推進にあります。取得率にばかりとらわれるのではなく、市民一人ひとりの利用シーンを考え、より利便性の高いシステムの構築に注力することが大切です。