小規模自治体のためのコンパクトスマートシティ~豊能町の事例と今後の課題

「大阪スマートシティ」プロジェクトの一環で実施された、豊能町のコンパクトスマートシティの実証実験。予算豊富な大規模自治体でなくても実施可能なスマートシティモデルとは?大阪府スマートシティ戦略スーパーアドバイザー・江川将偉氏に、豊能町の事例についてお話を伺い、今後の課題と共にレポートします。

コンパクトスマートシティプラットフォーム協議会
代表理事 江川将偉 氏

豊能町のコンパクトスマートシティとは?

コンパクトスマートシティという発想が生まれてきた背景は?

大阪府全体のスマートシティ戦略を練っていく中で、自治体と企業の両面から検討を続けていたのですが、そこである課題にぶつかりました。企業目線で考えると10万人以上の自治体でないと様々なビジネスにおいて収益を上げることが難しく、どうしても大規模自治体を対象にサービスを考えざるを得ないのです。ところが、実際、日本には10万人以下の自治体が半分以上あります。スマートシティは10万人以下の自治体ではできないのか、という大きな壁にぶつかったわけです。

10万人以上の自治体におけるスマートシティ推進には企業がしっかり入ってくれればいいのですが、10万人以下の自治体でどういうふうにスマートシティを実践していくか、まずは事例を作らなければと思い、動き始めました。

その際、他のスマートシティと何が違うのか、ということをわかりやすく伝えていくために、小規模でもできるんだという意味で「コンパクトスマートシティ」という言葉を使わせていただくことにしました。

豊能町をスマートシティモデルに選んだ理由は?

大阪府で43自治体へのヒアリングを行った際、アンケートで、豊能町が自分の自治体で抱えている課題をしっかり把握していることがわかり、とても意欲的にアプローチしてきてくれました。さらに首長である町長自ら電話もいただき、スマートシティ化への意識の高さを実感したのが最初のキッカケです。

豊能町は65歳以上の人口比率が45%を超え、過疎化認定された地域です。豊能町が抱えている課題は、全国の多くの自治体の課題と同じく、少子高齢化、それに基づく健康問題、また、もともと山を切り拓いてできた町なので、移動の問題も深刻でした。人口は約2万人なのですが、それくらい小規模の方がかえってやりやすいという気持ちもありました。人口が多いと行政も縦割りになってしまうのですが、豊能町の規模ですと役場の人数も少ないため新しい試みも役場内で伝わりやすく、関心を持ってもらえるのでかえって周辺にも広がりやすいと考えたのです。

コンパクトスマートシティによって豊能町のどんな課題が解決されましたか

そもそも自治体の課題は一つではなく、いろいろな側面があるので、これを解決すれば課題が解決したというものではありませんが、まずは自治体の現場で考えていることを丁寧に聞かせてもらうことと、そして、住民の声を聞くことをやらせてもらいました。

豊能町の住民アンケートで自治体への期待をヒアリングしたところ、何とかしてほしいものとして、高齢者人口を反映して、やはり、ヘルスケアがダントツで多く、次いで、移動の問題が挙げられました。

豊能町は年間6000万円の交通赤字を抱えています。半分はバス会社、半分を豊能町が補填しているのです。ほとんど人が乗っていないまま走っているバスもあり、赤字承知で交通予算を組むしかない状態です。今回のアンケートで明らかになったことは、交通機関の利便性に対し住民が不満に思っているということ。ただ、もともと山を切り拓いてできた町なので坂が多く、人口の約半分を占める65歳以上の人にとっては歩くのはつらい、今後、高齢者の免許返納の流れもあり、クルマに乗れなくなってくるので不安も大きい、などなど。すぐに解決策が見つかる問題ではありませんが、住民と対話していくことで、対話の中で課題を見出し、それを役場に伝えていくことが役割として重要なのではないかと考えています。

他に、スマホ問題もありますね。町をどうやったら活気づけられるか対策の一つとしてデジタル化がありますが、スマホを持っているけど使えないという声が多かったので、スマホ教室、スマホ相談室なども始めています。ITツールを使えるようにする環境も整えたいと考えています。

まずは住民の声を聞く、それを行政に伝える、解決策を考える、住みやすい町になっていく、この流れを重視したいですね。

「手続きナビ」の導入を決めた理由は?

住民の中には、行政があなたのために何のサービスをやっているのか、わかっている人がほとんどいませんでした。スマートシティを推進する上では、住民の利便性に対する改革を追求する必要があります。それもあって、「手続きナビ」を導入しました。

実は、「手続きナビ」の導入は、自治体の中の組織の意識も変えました。このツールを使えば簡単に案内できるとか、デジタル化が身近に感じられる感覚が生まれたのです。「手続きナビ」がデジタル化とは何なのかというキッカケになることで、意識が変わり、デジタル申請まで進んでいけば、もっともっとデジタル化できますね。

豊能町 手続きナビ

スマートシティが進んでいるエストニアやフィンランドでは、役場に人が2.3人しかいないんです。みんな仕事もきっちり終えてプライベートを充実させているようです。豊能町にもそうなってもらいたいですね。自治体の中でも2.3の部署がうまくデジタル化を進められると他の部署への刺激になりますので、そういう事例を作っていきたいです。

コンパクトスマートシティはどう広がる?

コンパクトスマートシティの発想は全国の自治体にどのような変化をもたらしますか?

「コンパクトスマートシティプラットフォーム協議会」は豊能町に特化しているわけではなく、横展開が目的です。全国の多くの自治体が豊能町と同様、過疎化認定されています。

ところが、コロナで人の動きが変わり、リモートワークで大都市に住まなくてもいい、ワーケーションや移住などの選択肢が出始めました。移住した人が定住してくれると人口も増えていくのですが、そういう人たちが求める生活の利便性を提供する予算がない、サービスができない、住みづらいという問題があるわけです。

それを解決する可能性はやはりデジタル化にあります。高齢者だけにフォーカスするのではなく、若者も住みやすい町にすることが重要です。昔は自治会などがありましたが、若者は縛られることを嫌うので、自治会のような仕組みは機能するのが難しいと思われます。そこで、テクノロジーというツールを使って新たな住民のコミュニティを作っていくということが、スマートシティの大切なポイントだと思います。

コンパクトスマートシティを導入したい自治体はどうしたらいいのでしょうか?

スマートシティプラットフォームではデータ連携基盤、個人情報を管理するツール、ユーザインターフェイス、この3つが重要です。大きい自治体は、これにお金を掛けられるのですが、今、小さな自治体でも始められるように、これを全部パッケージにして無償で提供しています。実際、豊能町が負担しているのは、人件費ぐらいです。

無償のツールだけでなく、豊能町でブラッシュアップしたノウハウを参考にすれば、自分の自治体ではどういう形で実現できるのかが見えてくるはず。それがコンパクトスマートシティプラットフォームの良さです。

大阪の自治体に、課題をヒアリングすると、一番多いのはスマートシティを何から始めていいのかわからない、IT人材がいない、予算がない、という声があがります。全国の小規模自治体のためにも、この3つの課題をどうやって解決していくかの見本になる事例をどんどんブラッシュアップしていく必要があると考えています。

豊能町のスマートシティは常に進化を求めたいのでいろいろな企業に参加してもらい、それを他の自治体にも広げてもらいたいと思っています。官民一緒になって横展開できればと思っています。

コンパクトスマートシティの課題とは?

データ連携は大きな自治体でもうまく進まないという声がありますがコンパクトスマートシティではどのように進めますか?

データ連携基盤には、都市整備を含めた町のスマート化を図ったスマートシティ、住民のクオリティライフを上げるための住民サービス系のスマートシティの2分類があると思います。日本は外国をサンプルにしてスマートシティを進めてきたこともあり、町の効率を上げるためのスマートシティをベースにしているので、町の中のセンサーやカメラでごみの収集をする、人の見守りをするなどというものが多いのですが、ベースとしてオープンデータを使うことになり、個人情報が使えないのがネックです。

一方、住民サービスは住民に対するパーソナルなサービスを提供していこうということになるので、個人情報を扱います。我々が取り組んだのはエストニアやフィンランドで使われているX-road型のデータ連携基盤。個人情報を管理していくというものです。これまで他の自治体のデータ連携基盤には、町にあるカメラやセンサーを使ったものや、観光マップデータなどがありますが、企業がそれを使って収益を上げられるようなものは今のところありません。

結果的に住民のパーソナルなデータ(健康、移動などのライフログ)を基盤にいかにビジネスにアプローチできるかが重要ということです。今、協議会に参加している企業でデータ連携基盤を使うと何ができるかの検討が始まっています。

スマートシティには、運用が発生しますが、今後どう推進していくのですか?

スマートシティプラットフォームはデータ連携基盤が大きなポイント。企業がどんな人にどんなサービスを行っているのか、どの地域のどれぐらいの人にサービスをしているのかが見えるようになります。 そこで、企業からはAPI利用料を社団法人にいただく、いただいたものを町に戻すということをやっています。今、IT企業の8割が東京の企業といわれていますが、できる限り地産地消、町で使ったお金を町に戻し、地域に内部留保していくことを推進したいと思っています。国の助成金なども活用して、官民連携しながらうまく進めていきたいですね。

豊能町の実証実験で新たな課題が見えましたか?

自治体の意識改革が課題だと認識しました。各課が普段の業務の忙しさに忙殺されるとスマートシティのような新しいサービスを考える時間がありません。そして、それを解決するためにデジタル化を進めることが重要なのですが、デジタルツールは押し付けるだけではだめです。そこで、人を派遣して一緒に仕事をしてその業務を体験する中でデジタル化の必要性を見つけて行くというやり方にチャレンジしたいと思っています。現場の状況を知り、声を聞いたうえでどういう形にするのが一番使いやすいかを考えていくことが大事だと思っています。

自分自身も今は東京に住んでいて、仕事が趣味みたいなものなので、休日も仕事か、奥さんとワンちゃんのケアをするぐらいですが、できればリモートワークしながら、山や森など自然溢れる場所に住みたい気もしています。

5年10年の話ではないけれど、若者が早いうちに田舎暮らしを体験できて、生活の心配もない、教育・子育てが心穏やかにできるなど、地方でゆっくり暮らすことの素晴らしさを知ってもらえるように、地方の創生も兼ねてコンパクトスマートシティが多くの自治体で広がっていくといいなと思っています。


豊能町が導入した「手続きナビ」の特徴や効果についての詳細はこちらをご覧ください。

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