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2022年6月8日

【デジタル田園都市国家構想】総予算5.7兆円をかけて岸田内閣が挑む「地域格差」の解消

デジタル田園都市国家構想は、岸田内閣が「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略であり、デジタル社会の実現に向けた重要な柱として位置づけています。同構想の概要とそのコンセプトに続き、この構想が打ち出された背景である地域格差の問題とその解消に向けた取り組みや構想実現のためのおもな施策について紹介します。

「デジタル田園都市国家構想」とは?

「デジタル田園都市国家構想」とは?
デジタル田園都市国家構想の成功の鍵/「デジタル田園都市国家が目指す将来像について」デジタル庁

「デジタル田園都市国家構想」は、2021年10月8日の第205回国会で、岸田文雄首相による所信表明演説において表明されました。この構想は、どのような社会の実現を目指しているのでしょうか。

岸田内閣の施策「新しい資本主義」の実現に向けた最重要成長戦略

地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の差を縮め、都市の活力と地方のゆとりの両方を享受できる「デジタル田園都市国家構想」の実現を図っていく。

「デジタル田園都市国家構想の実現に向けて」デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣

また、岸田首相は、看板政策のひとつである「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略の柱のひとつとして、以下のように「デジタル田園都市国家構想」を位置づけています。

・・・第二の柱は、地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」です。地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていきます。そのために、5Gや半導体、データセンターなど、デジタルインフラの整備を進めます。誰一人取り残さず、全ての方がデジタル化のメリットを享受でいるように取り組みます。

「第二百五回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説」首相官邸

「デジタル田園都市国家構想」のコンセプト

デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣氏が提示した「デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像」では、「デジタル田園都市国家構想」のコンセプトを以下のとおり定義しています。

本構想は、「新しい資本主義」の実現に向けた、成長戦略の最も重要な柱であり、地方の豊かさをそのままに、利便性と魅力を備えた新しい地方像を提示するものである。

産官学の連携の下、仕事・交通・教育・医療をはじめとする地方が抱える課題を、デジタル実装を通じて解決し、誰一人取り残さず全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する。地域の個性を活かした地方活性化を図り、地方から国全体へのボトムアップの成長を実現し、持続可能な経済社会を目指す。

「デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像」デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣

それぞれの地域の個性と豊かさを活かしながら、デジタルの力を活用することで、地方が抱える諸課題を解決し、都市に引けをとらない利便性と生産性を兼ね備えた「デジタル田園都市国家」の創生を目指しています。

この構想の実現に向けて、デジタル実装を通じた地方の活性化を推進するために、政策推進を担う「デジタル田園都市国家構想実現会議」を設置し、これまでに7回の会議を実施しています。

「デジタル田園都市国家構想」を打ち出した背景

「デジタル田園都市国家構想」を打ち出した背景
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岸田内閣が、このような構想を打ち出した背景には、地域格差の問題があります。地域格差の背景や実態について見ていきます。

地域格差を生んできた歴史

そもそも地域格差の問題がどのようなかたちで発生し、この格差の解消に向けて、どのような政策を講じてきたのかを振り返っておきましょう。

昭和30~60年代|地域格差が深刻化

昭和30年代に高度経済成長期を迎えると、新たな産業が東京をはじめとする三大都市圏で発達し、就業機会が拡大していくなかで、地方圏から三大都市圏への人口移動に拍車がかかるようになります。昭和40年代には、高度経済成長がますます大都市圏の過密現象、地方圏の過疎現象を進め、地域格差が深刻化しているとして、都市と地方の人口格差が強く認識されるようになりました。

第一次オイルショックを契機に安定成長に移行しますが、依然、大都市圏と地方圏との人口格差の深刻化が進むと同時に、地方圏でも地方都市に人口が定着している一方、農山漁村では人口の流出が続き、地域社会の維持・発展が困難になっていくという地方圏内における地域間格差も注目るようになります。

バブル経済への突入を間近に控えた昭和60年代には、鈍化していた三大都市圏への人口集中が東京圏への一極集中というかたちに姿を変え、大都市圏間にも地域格差が進行していることが明らかになりました。

平成|地方中都市の地域活力が低下

バブル経済崩壊後の不況が続くなか、東京圏への人口の転入超過と一極集中は継続します。一方、昭和30年代から続く都市と農山漁村との人口格差の拡大に伴って、中山間地域の過疎化がさらに進行し、地方中小都市を含めた地域活力の低下が見られるようになります。人口減少と高齢化が加速するなかで、社会サービスの維持の問題にも直面。地域型コミュニティの弱体化や長い歴史を持つ集落の衰退や消滅も懸念されるようになりました。

平成までの地域格差の是正に向けた政府の取り組み

昭和30〜40年代には、大都市圏での人口過密による弊害が地域格差の最重要課題として認識され、人口集積を地方に構築していくため、新産業都市などを整備し、工業拠点を地方圏に数多く展開しています。高度経済成長の進展による三大都市圏と地方圏間の人口格差の是正に向けては、高速道路や新幹線などによる高速ネットワークの整備が推進されました。

昭和50〜60年代には、地方定住の機運が高まるなか、人間居住の総合的な生活圏の整備が地域格差の是正に不可欠であるとの認識のもと、定住構想に基づく各種施策を実施することになります。このほか多極分散型国土の構築を目指した高速道路や新幹線、空港などの高速交通機関の整備や、民間資本による地方圏での各種プロジェクトの実施によって、地域間格差の是正に向けた取り組みが進められました。

平成に入ると、東京圏への一極集中と中山間地域の過疎化進行への危機感から、一極一軸型の国土構造から多軸型への転換によって、国土の均衡ある発展を推進することになりました。さらに、それぞれの地域の資源を最大限に活かした特色のある地域戦略を描くことによって、東京に過度に依存しない自立的な圏域を形成しようとする国土政策の転換がなされました。

地域格差を拡大する東京圏への転入超過傾向は継続中

東京圏への転入超過は、2011年以降、増加傾向にありました。2020年はコロナの影響で大幅に減少しましたが、10代後半から20代の若年層が大半を占めるという傾向には変わりありません。

デジタル田園都市国家構想|東京圏への年齢階層別転入超過数の推移
東京圏への年齢階層別転入超過数の推移/「デジタル田園都市国家構想の実現に向けて」デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣

東京圏への転入超過の背景には、下グラフのとおり、仕事・収入や教育・子育て、医療の充実など地方の抱えるさまざまな課題が存在しています。

デジタル田園都市国家構想|東京圏流入者が移住することを選択した背景となった地元の事情
東京圏流入者が移住することを選択した背景となった地元の事情/「デジタル田園都市国家構想の実現に向けて」デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣

現在の地方自治体が抱える「地域格差」問題

日本社会が抱える地域格差は、地方圏と大都市圏という構図から、東京一極集中という大都市間の格差にまで及ぶようになりました。1960年代には、三大都市圏それぞれの規模に応じて、バランスよく人口が流入していましたが、1980年代には、大阪圏、名古屋圏にはっきりとした増加傾向が見られなくなりました。

これまで見てきたように、地域格差の問題は、時代とともに変容してきましたが、現在の地方自治体は、総じて以下のような問題点を抱えているといわれています。

  • 人口減少・過疎化
  • 少子高齢化
  • 人手不足・仕事不足
  • 医療や交通・教育への不安
  • 多発する災害

人口減少と高齢化によって地域経済が縮小すると、さらなる人口流出と高齢化が進むという悪循環が生じることになります。このことによって、労働力不足の問題や働く場所や働き方の多様性が低下するようになるでしょう。さらに介護分野をはじめとした人材の流出が進んで医療や交通、教育などの公共サービスの提供や社会インフラの維持が困難となり、多発する災害への備えも不足し、社会不安が増すことになります。

国×地方自治体で取り組むべき「地域格差」解消の課題

デジタル田園都市国家構想|国×地方自治体で取り組むべき「地域格差」解消の課題
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地域格差を解消するために、国は中長期的な方向性を示すとともに、地方のデジタル化に向けた環境整備を主導することが求められます。地方自治体は、それらを踏まえて、実現したいそれぞれの地域のビジョンを描き、自主的な取り組みを推進していくことになります。ここでは国と地方自治体が解決すべき課題について見ていきましょう。

地方に仕事をつくる

地域を支える産業を振興し、農林水産業を成長産業として育成することや、中小企業の生産性向上、観光振興などによって、地方に仕事をつくることに注力しなければなりません。スマート農林水産業や中小企業や観光事業でのDXの推進など、デジタル技術の積極活用も求められます。

ひとの流れをつくる

地方への人材支援、政府関係機関の地方移転、地方へのインターンシップの推進など、新たなひとの流れを生み出す取り組みが必要です。テレワークやワーケーションなどを活用した地方移住者を呼び込む戦略も有効です。

結婚・出産・子育ての希望を叶える

女性の活躍推進、少子化対策の充実によって、結婚や出産、子育てのための地方居住の魅力を打ち出していく必要があります。母子オンライン相談や母子健康手帳アプリ、子どもの見守り支援など、デジタル技術を活用した高度なサービス提供を実現しなければなりません。

魅力的な地域をつくる

地域交通の維持・確保、医療機能の整備、高校生の地域留学、SDGsにつながる持続可能なまちづくりの推進など、魅力的な地域づくりが求められています。遠隔医療、ドローン物流、自動運転などのデジタル技術を、地域の魅力につなげる取り組みも大切です。

構想を支えるためのデジタル活用の環境整備

本構想の実現には、5Gやデータセンターなどのデジタル基盤の整備するとともに、国が主導する共通ID基盤やデータ連携基盤などを全国に実装しなければなりません。さらにデジタル技術による地域の課題解決をけん引するデジタル推進人材の育成も重要で、政府は2026年までに230万人を育成するとしています。また、誰一人取り残さないための取り組みとして、年齢、性別、地理的な制約などにかかわらず、誰でもデジタルの恩恵を享受できるデジタル社会の実現が求められています。

「デジタル田園都市国家構想」実現のための地方横断施策

デジタル田園都市国家構想は、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略のもっとも重要な柱であり、地方の豊かさをそのままに、利便性と魅力を備えた新たな地方像を提示するものです。ここでは、総額5.7兆円をかけて挑む構想実現のための施策について紹介します。

デジタル基盤の整備

デジタル庁主導のもと、共通ID基盤やデータ連携基盤、ガバメントクラウドなどを全国で活用できるように実装する計画が進められています。また、データセンターや海底ケーブルなどを地方に分散して設置し、光ファイバのユニバーサルサービス化を実現することで、5G通信の人口カバー率の早期向上を図ります。さらにガバメントクラウド上に構築された自治体システムへの移行に向けた統一・標準化を推進します。

デジタル田園都市を支えるデジタル共通基盤/「デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像」デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣
デジタル田園都市を支えるデジタル共通基盤/「デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像」デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣

デジタル人材の育成・確保

地域で活躍するデジタル推進人材を、2022年度からの5年間で230万人確保します。政府においては2022年度末までに年間25万人、2024年度末までに年間45万人のデジタル推進人材を育成できる体制を構築。民間企業においても、政府の施策を活用しながら独自のデジタル推進人材の育成・確保に向けた取り組みが進むことが期待されます。この実現のために、デジタル人材育成プラットフォームや職業訓練、大学などにおける教育を中心とした各種施策を連携させながら取り組みます。

デジタル田園都市国家構想|デジタル人材の育成・確保
デジタル人材の実現目標の実現に向けて/「デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像」デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣

誰一人取り残されないための取り組み

年齢や性別、経済的な状況や地理的な制約などにかかわらず、誰でもデジタルの恩恵を享受できるデジタル社会の実現を目指します。

デジタル活用を促すための支援

デジタル庁は関係省庁と連携し、地方公共団体などと連携した「デジタル推進委員」制度を整備します。総務省では、デジタル活用支援推進事業の講師を全国的に育成・派遣する仕組みを構築し、オンライン行政手続きなどのスマートフォンの利用方法に関する講習会を開催します。

女性への支援

女性デジタル人材の育成やリモートによる企業での女性登用促進のための研修、テレワークの促進、女性へのオンラインを活用した相談支援など、地域女性活躍推進交付金による地域の実情に応じた女性活躍の推進の取り組みを支援します。

地方の課題を解決するためのデジタル実装施策

デジタル田園都市国家構想|地方の課題を解決するためのデジタル実装施策
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地方横断の施策とともに、各地域のデジタル化への取り組みや基盤整備に対しても多くの施策が計画されています。

地域の課題解決や特色ある地域づくりを分野横断的に支援

デジタル田園都市国家構想推進交付金を創設し、データ連携基盤を活用するモデルケースとなり得る取り組みを行う地方公共団体などを支援します。また、地方創生推進交付金、地方創生拠点整備交付金、地方大学・地域産業創生交付金によって、デジタル技術を活用して先導的な取り組みを行う地方公共団体や産業と雇用の創出と大学改革に一体的に取り組む地方公共団体の取り組みを支援します。

ローカル5Gの実装

地域の課題解決に資するローカル5Gについて、その柔軟な運用を可能とする技術基準の策定や、多様なソリューションの創出のため現実の利活用場面を想定した開発実証を行い、デジタル実装を通じた地方の活性化に貢献します。

デジタル田園都市国家構想を先導

住民満足度の向上やグリーン化など、多様で持続可能なスマートシティを構築して複数分野でのデータ連携、先端的サービスの提供を通じたスーパーシティ構想を推進します。さらにスマートシティの社会実装をはじめ、まちづくりのDXを推進するため、その基盤となる3D都市モデルの整備と活用、オープンデータ化を進めます。

稼ぐ地域や仕事の創出を支援

スマート農業、スマート林業、スマート水産業などの実現を加速するための基盤整備に注力し、地域における農林水産業の活性化を支えます。デジタル技術を活用して農山漁村発のイノベーションに取り組む事業体を支援します。また、スマート技術の活用や有機農業など、環境負荷の低減に取り組む産地の創出にも取り組みます。

中小企業・地域企業に対しては、DX推進を後押しし、中堅・中小企業の海外展開を支援します。また、中小企業向けセキュリティサービスの普及や血いい企業のセキュリティ意識の向上と情報共有を促進するためのコミュニティの形成と活動促進に取り組みます。

地方へのひとの流れを強化する

地方創生テレワークや国立公園におけるワーケーションの推進によって、リモートワークの普及・定着による新たなひとの流れの創出に向けた環境整備を行い、新たなライフスタイルの創造と地方活性化につなげます。また、地方のデジタル実装を促進し、移住支援事業などによってデジタル人材の地方への移住を支援します。さらに、拡充された地方拠点強化税制などを活用して、企業の地方移転、サテライトオフィスなどの整備、雇用の拡大を促します。

持続可能な暮らしやすい地域をつくる

健康・医療・介護、教育、防災、モビリティ、インフラおよび子どもの分野において、ユーザーごとに個別化したサービス提供を可能とするため、各分野におけるデータ利活用環境を整備します。

岸田内閣が看板政策のひとつとして掲げる「デジタル田園都市国家構想」がいよいよ動き始めました。5.7兆円という巨大な予算を投入して地方のIT実装を加速する計画ですが、この構想を実現に導くためには、それぞれの地域の個性と豊かさを活かしながら、独自の戦略を持って自主的に取り組むことが大切です。そしてデジタルの実装を地方から進めることで、日本社会全体の成長へとつながっていくことを期待したいと思います。

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