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2022年11月2日

ノーコード・ローコード|「ITの内製化」「開発の民主化」を促進する開発手法

ノーコード・ローコードによるシステム開発が、ITの内製化、開発の民主化を促す手法として注目を集めています。ここでは、ノーコード・ローコードと従来型の開発の違い、ノーコード・ローコード開発が注目される背景、ノーコード・ローコード開発のメリットとデメリット、経済産業省における活用例を紹介します。

ノーコード・ローコードとは?

ノーコード・ローコードとは?
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ノーコードとは、コーディング(プログラミング言語によるソースコードの記述)を一切行うことなく、アプリケーションを開発する手法です。ローコードでは、高度な処理機能の追加やカスタマイズなどにコーディングを必要としますが、開発工程の大半をノーコードで進めることができるため、従来よりも圧倒的に少ないソースコードでアプリケーションの開発が可能です。

このようなソースコードの記述を抑えた開発環境(プラットフォーム)は、「GUI(Graphical User Interface)」と呼ばれる画面表示や体系化された操作によって成り立っています。GUIとは、コンピューターへの指示や命令を、画面上に表示されるアイコンやメニュー、ボタンなどの視覚的要素に対するドラッグ&ドロップなどのマウス(トラックパッドやタッチパネルなどのポインティングデバイスを含む)操作のみで直感的に行えるようにしたものです。

ノーコード・ローコードによるシステム開発は、2010年頃より新しい開発手法として注目されはじめましたが、コーディングのスキルを持つエンジニアの専売特許であった従来のシステム開発を、非エンジニア(一般市民)にも解放したという点から、「ITの内製化」「開発の民主化」を促すとして、期待されています。

ノーコード・ローコードと従来開発との違い

ノーコード・ローコードと従来開発との違い
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コンピューターが動作するためには、利用目的に応じた機能を提供するアプリケーションが必要になります。一般的には、COBOLやC/C++、JAVAなどのプログラミング言語を用いて記述したソースコード(テキスト形式)を、コンピューターが理解できる形式(機械語)に翻訳して実行します。

このような従来型のアプリケーション開発は「プロコード」「フルコード」「スクラッチ開発」とも呼ばれ、その開発工程において、プログラミング言語によるソースコードの記述(コーディング)が不可避です。このため、アプリケーション開発に携わるためには、プログラミング言語やサーバー上のデータの取り扱いに関する知識を身につける必要がありました。

従来の開発手法とノーコード・ローコード開発の比較
従来の開発手法とノーコード・ローコード開発の比較

従来の開発手法では、ソースコードをゼロから記述することになるため、より高度な専門人材の確保が必要となるばかりではなく、開発のコストや時間もより多くかかります。その分、利用者の高度な要望をかなえる独自性の高いアプリケーションの構築が可能になります。

一方、ノーコードやローコード開発では、GUIのプラットフォームを活用することで、技術的なハードルが低くなり、より少ない労力と時間でアプリケーションを構築することができ、開発やメンテナンスのコストも削減することができます。しかしながら、利用できるテンプレートや設定できる機能が限られ、他のシステムやアプリケーションとの連携や機能の拡張性は限定的です。ただし、ローコード開発のプラットフォームのなかには、拡張性のあるアーキテクチャや再利用可能なオープンAPIを利用できるものもあります。

ノーコード・ローコードが注目されている背景

2025年の崖/「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開〜」
2025年の崖/「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開〜」経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会 

じつは、ノーコードやローコードによってアプリケーション開発を行うためのプラットフォームは、十数年も前から存在しましたが、2018年頃から急速に注目を集めるようになりました。その背景について、見ていくことにします。

経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」が目前

DX(デジタルトランスフォーメーション)が社会に広く認知され、多くの企業や団体において、その取り組みが加速するきっかけとなったのは、2018年に経済産業省の「デジタルトランスポーテーションに向けた研究会」が発表した「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」でした。

同レポートでは、当時の日本企業が運用するITシステムが抱える課題を、以下のように指摘しています。

  • 技術面の老朽化
  • システムの肥大化・複雑化
  • ブラックボックス化

2017年に行ったJUAS(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会)の調査によると、約8割の企業が、上のような課題を有するいわゆる「レガシーシステム」を抱え、約7割が、レガシーシステムがDX推進の足かせとなっていると回答しています。

既存のITシステムがレガシー化した要素技術などで構成されて機能の追加・変更などによってシステムの肥大化・複雑化が進み、自社のシステムがブラックボックス化してしまうために、社内にノウハウが継承されることなく、システムのメンテナンスや運用のためのコストだけが増大していきます。同レポートでは、このようにレガシーシステムがDX推進の阻害要因となる状況が続けば、2025年以降、最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。

以上のように、DXの推進は『2025年の崖』を乗り越えるためにも重要な取り組みとなりますが、同時に、日本企業が激変するビジネス環境に対応し、新たなビジネスモデルの創出によって成長し続けるために不可欠の取り組みとなります。

このような状況のなかで、DX推進の足かせとなってきたレガシーシステムを刷新し、新技術や新市場に対応したシステムへと再構築するために、ノーコード、ローコードによる開発が注目されるようになりました。ソースコードを記述することなく、GUIによって新しい機能の搭載や追加が容易に行えることで、プログラミングの知識を持たない組織や事業に精通した人材がシステム構築に携わることが可能になる、つまり流動要素の多いスピード社会に対応した「ひと・かね・もの」を調達できる手法、ということが注目される理由です。

※DX(デジタルトランスフォーメーション)については、以下の記事もあわせてお読みください。

【デジタルトランスフォーメーション(DX)】「デジタル化」を目的から手段へ

自治体ならではのDX阻害要因を払拭できるか

「DXレポート」では、日本の企業によるDXの推進という観点から、さまざまな検討がなされていますが、行政が置かれている状況は、日本企業の現状とも完全に合致します。すなわちノーコード・ローコード活用によって、自治体とITとの関係性は、大きく変化していく可能性があるということです。

自治体業務の特徴として、その種類が膨大な数に上ることが挙げられます。住民の出生から死亡に至るまで、あらゆるシーンで多岐にわたるサービスを提供しなければなりません。なかには、年間の処理件数がきわめて少ない業務も多く、このような業務をシステム化しようとしても投資効果を得にくいという現状がありました。

また、自治体の予算ルールとして、前年度の9月〜11月頃に各部門が予算要求し、翌年4月の議会で議決されて初めて予算の執行が可能になります。しかし、このように長い時間をかけて予算を確保したとしても、業務内容に変化が生じれば、システム改修のための予算要求からまた始めなければなりません。

ノーコード・ローコードを活用することで、これまでの外注ありきの体制から解放され、自治体職員が自ら新たなシステム開発を主導することで、行政が抱えるDX阻害要因を払拭することが期待できます。

ノーコード・ローコード開発のメリット

ノーコード・ローコード開発のメリット
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ノーコード・ローコードを活用した開発には、どのようなメリットがあるのかを見ていきます。

開発期間の短縮

ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作によって開発できるため、開発に着手してからリリースするまでの時間を短縮することができます。

開発コストの削減

プログラミング言語によるソースコードの記述(コーディング)が不要になることで、開発期間が短縮されて外部に発注するコストも抑えられることから、開発費用の抑制にもつながります。

エンジニアのスキルに依存しない

とくにノーコードによる開発では、ソースコードの記述を全く必要としないことから、非エンジニアによるシステム開発が加速していくことが期待されています。ローコード開発においても、わずかなコーディング作業のみでシステム開発が可能になるため、高度なスキルを有するエンジニアでなくても、開発を進めることができます。

セキュリティ対策の負担を軽減

ノーコード・ローコード開発のためのプラットフォーム自体のセキュリティについては、その提供者の責任となります。このため、プラットフォームの利用者が対応すべき範囲が少なくなり、システム開発に伴うセキュリティ対策の負担を軽減することができます。

新しいIT技術の利用

新たに登場した先進的なIT技術も、ノーコード・ローコード開発のプラットフォームに組み込まれることによって、利用者はそのことを意識することさえなく、システム開発を行うことができます。

拡張・改修しやすい

ローコード開発の場合、コードを記述して機能を追加することもできるため、システム完成後の機能拡張や改修も可能です。

業務の要件が正しく反映されやすい

業務のプロフェッショナルが自らアプリケーションの開発を行えるため、業務の仕様や要件を正しく反映させることができます。

ノーコード・ローコード開発のデメリット

ノーコード・ローコード開発のデメリット
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ノーコード・ローコードをシステム開発に活用する際には、そのデメリットを事前に把握しておくことも大切です。

機能面での自由度は低い

とくにノーコード開発では、機能面での自由度や拡張性が低いため、大規模開発や複雑なシステムへの対応は難しくなります。

プラットフォームへの依存リスクが高い

プラットフォームへの依存度が高いノーコード開発では、デザインや機能、セキュリティ面で制約が生じます。また、開発ツールのサービスが終了してしまうと、開発したアプリケーションが使用できなくなる恐れもあります。

ツールの知識が必要

プラットフォームの提供企業の多くが国外企業です。そのため、サポートを受けるには英語による問い合わせが必要になるなど、開発面以外のハードルが存在します。

【活用例】経済産業省「Gビズフォーム Webポータルサイト」

【活用例】経済産業省「Gビズフォーム Webポータルサイト」
gBizFORM ポータルサイト トップ画面|「gBizFORM ポータルサイト」経済産業省 

ノーコード・ローコード開発の活用例として、ここでは経済産業省による「gBizFORM」を紹介します。

「GビズID」はオンライン行政手続きプラットフォーム

Gビズフォームは、ノーコード・ローコード開発ツールを活用したオンライン行政手続きプラットフォームです。事業者がこのプラットフォームを利用して経済産業省が受け付ける各種申請を行う場合、Web上のポータルサイトから法人・個人事業主向け共通認証基盤である「GビズID」のアカウントでログインします。本人確認書類の提出やすでに登録済みのデータの入力も不要となり、手続きの負担を減らして必要な届出や申請、許認可処理などがスピーディに行えます。

ローコード・ノーコード開発ツール利用の経緯・結果は?

行政のシステム開発に、ノーコード・ローコード開発ツールが活用されるようになったのは、どのような理由からでしょうか。そして、どのような効果が得られたのでしょうか。

政府手続きの98%が中小規模手続き

日本政府が取り扱う行政手続きは、全体で約58,000種類に及ぶといいます。そして、このうち98%が年間の手続件数が10万件以下の中小規模の手続きになります。いずれも国民や事業者にとっては重要な手続きですが、これらを一つひとつシステム化していくのではコストパフォーマンスが悪いため、システム開発とその運用の効率化が求められていました。

開発期間が2~4週間程度に

従来の開発手法では、行政手続きのデジタル化に向けたシステムの設計からリリースまでに、半年から1年ほどを要していました。ノーコード・ローコード開発ツールを活用することで、開発期間を最短で2〜4週間程度に短縮することができます。

経済産業省では2018年頃から「省内の職員が使うITプラットフォームを自らが管理し、中小規模の行政手続きについては、事業者任せにするのではなく自分たちでつくっていく」という方針のもと、ノーコード・ローコードの実証・調査に着手していました。そして、「申請→受付→審査→承認→通知」といった基本的な業務フローを対象として、2020年度には8つの行政手続きのデジタル化に至りました。

ノーコード・ローコード開発のプラットフォームが整備されることによって、長く開発経験を積んだ技術者から、それぞれの現場を支えてきた業務に精通した人たちへと、システム開発の主導権が移ることによって、現場に寄り添った精度の高いDXの推進が可能になるのではないでしょうか。また、開発すべきシステムの規模や専門性などの要件によって、ノーコード開発、ローコード開発、従来型の開発を使い分けることで、より高度で大規模なシステム開発に専門性の高いIT人材を投入できるようになることも期待できます。

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