デジタルと学びをつなぐ:第1回 学びと心の成長 「探究する心の育て方」~教師と子どもを育てるアフターGIGA(後編)

子どもたちが身体的・認知的能力にかかわらず等しく価値ある人間だと感じられることを目指す、そのような学びとは?テストが終わったら忘れてしまう知識とは異なり、一生の財産となりうる「探究する心」の育て方とは?アフターGIGA*を模索する日本の全国の小中学校で、先生、子どもたち、保護者たちの意識改革をどう進めるのかをテーマにお届けします。
*GIGA(Global and Innovation Gateway for All)
(この記事は2022年10月21日に開催したウェビナーのレポートです。)

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Passeggiata con KITANO! ~コエとコエを紡ぐ~ デジタルと学びをつなぐ

デジタル化が進む教育現場。人間の成長における「学び」とは?という原点の問いを、学校現場にいる子どもたちや先生も含む、学び・教育業界へと繋げていきます。

Presented by株式会社アスコエ・パートナーズ 取締役 北野菜穂


◆ゲスト

藤原さと様 (一般社団法人 こたえのない学校)

平井聡一郎様(地域情報化アドバイザー)

現場の先生の不安をどうする?

北野:
今までの「教える」「教わる」ということが変わる、でも革新的でなければならない。そのあたり現場の先生方は不安なのではと思うのですが、どうでしょうか?

平井様:
革新的ということはこれまでと変わるということで、デジタルトランスフォーメーションでデジタル化によって学校が転換していくことで変わっていくということですよね。学習指導要領が変わり、子どもたちが自分で求めていく学びに変えなくてはならないのですが、先生自身にそういう経験がないので、不安を感じられることが多いのだと思います。

北野:
この不安をなくすプロセスはどうしたらいいでしょうか?

藤原様:
私たちが主催する年間研修では、クラスサイズを意識していて、例年36名程度を受け入れています。そして、3月下旬から11月下旬までの8ヶ月をかけて、探究の諸理論を学びつつ、5~6人でチームを組んで自らプロジェクトを作り上げるということをしています。つまり、教え手ではなくクラスの一員としての学び手として探究するという経験をします。そうすると、実は探究の手法に関して、基本的な知識を学んでいても、いざやってみるとチームでは全くできないということを、参加者は毎年経験します。つまり、意見はまとまらないし、プロジェクトマネジメントがうまくいかない、一緒に目指す方向性も決まらない…。そういう苦しみの中で「探究」ってそもそもなんだったっけ、ということを考え続けていくのです。

革新的思考は決して「正しい」と言われていることについてスピーディに正確に回答することからは生まれません。学習指導要領で示されている「見方・考え方」はつまるところ現代の世の中で一般に正しいと言われているものです。でも、歴史的には、そうした世間に流通している「見方・考え方」を疑い、それを問うたり、新しい「見方・考え方」を提案することからイノベーションは起きました。よって「あなたなりの見方・考え方があっていい」ということはもっと教育の中に入ってこなければならないのではないかと思っています。そのためにもインターネットや外の世界に出ていくためのICTやGIGAは大事な役目を担っていると思います。

平井様:
コロナ禍で先生方もインターネットを使わざる得なくなったので、それによって大きく変わってきましたね。何でもオンラインでやらなくてはいけない状況に追い込まれましたが、インターネットがあったおかげで今までその地域をベースにした活動を他の地域に広げることもできました。他の地域の先生たちとオンラインでつながったり、研修したり、コミュケーションをとるようになり、そこにまさにイノベーションが起こったんです。コロナ禍がきっかけでGIGAスクール構想が同時に来たことで、教育は大きく変わろうとしています。そして乗り越えようと今頑張っているところだと思います。

北野:
藤原さんがされている年間の研修は先生が希望してくるのですか?どんな人がきますか?

藤原様:
そうですね。探究学習やプロジェクト型学習は、学びのめあてや、習得すべき概念の整理、教材の選定、評価の仕方などかなりオーダーメイドで決める部分があるので、基本的に教師一人が授業計画を立てるのはとても難しいものなのです。よって、例えば「こういうプロジェクトを考えているんだけど」「チームをつくってみたら全然入ってくれない子がいる」など相談ができる仲間がいることが必須となります。

今までは先生が1人で教室を持ち、1人で指導書を使いながらやっていくことでも授業はできましたが、探究学習やプロジェクト型学習は、先生同士で学び合い、協同していくことが求められますので、そういった仲間が欲しい方たちがくるのかな、と思っています。

「教える」「教わる」の関係から一緒に学ぶスタイルに変化

北野:
生徒同士でデジタルな環境のツールを、協働でリアルタイムに使いながら、授業を組み立てる、というシーンは、これまでの教える、学ぶの一方通行スタイルでは生じることがなかっと思います。このようなシーンは、どう準備して、つくっていけばいいのでしょうか?何か事例はございますか?

平井様:
今年の全国学力学習状況調査、中3の国語の問題にこういうのがありました。「ドキュメントを使って意見文を書いた。意見文はドライブに上がっているみんなが共有できる。それを読んだ他の子たちがそれに対してコメントを加えている。ある人はコメントを加えたらそれに対して私もそう思うというコメントが追加されて、そのコメントを基にして、意見文を書いた人は、ネットからまた新しい情報を持ってきて付け加えた」が問題の設定だったんです。

まさにこれって、生徒同士のやりとりで先生は全く出てきません。今までの授業では、生徒同士だけではこういったことはなかなか収拾がつかずできなかったのですが、オンラインならできます。テストを通して文部科学省はこういう授業に変えるんだという例を示したということです。

ICT環境が導入されてから、先生よりも子どものほうが動きが早いのです。子どもはマニュアルなしでゲームなどやってきた世代ですから、ツールを使うことに抵抗がなく、今まで教える立場だった先生を逆転していることがよくあります。今では、ツールの使い方を生徒と一緒に学ぼうという意識を持てる先生が多くなってきたと感じています。先生たちが今までの「教える」「教わる」から生徒と一緒に学ぶという意識改革をどうやっていくのかが教育改革を支える一番のポイントかと思います。

「失敗してもいい」校長先生の意識改革がポイントになる

藤原様:
平井先生にお聞きしたいのですが、GIGAスクール構想や新しい環境をうまく使えているところはどんな使い方をしているのでしょうか?うまくいっている例や逆にあまりうまくいかないのはどんなことがボトルネックなのかお聞きしたいです。

平井様:
僕らがいつも自分のセミナーの最後には必ず言う決めゼリフがあるんですけど、「つべこべ言わずやってみろ」っていうことなんです。結局やってみなきゃわからないんですよね。最初は低いレベルでもいいからやってみることです。

テクノロジーの部分もそうですが、探究的な学びになると先生はだんだん教えなくなるんですよね。そうなると子どもたちが動きます。授業では先生は3割、子どもたちが7割話すようになるのを目指そうと言っています。今は昔よりツールがありますから、どんどんやっていきましょうと。ICT環境も年代が若い先生よりベテランで授業のうまい先生が使えば鬼に金棒だと思います。私が校長をやっていた学校では、一番年配の先生にいい設備を全て提供しました。その先生はICTを使うのは苦手なので、使わなくてはいけないところのみ使うようにしていましたが、この使い方がよくて本人も「学習者目線がわかった」と言っていました。そうなると学校は変わっていくのですが、それを決断するのは管理職である校長先生なんですね。

校長先生が考え方を変えれば学校も変わります。さらにICT環境を進めていくリーダーとして働く実働部隊の先生、そして他の先生を含めて変わっていくことが大切です。これがうまくいっているのが熊本市。管理職研修、教育委員会でミドルリーダー研修、そして一般の先生方の研修というふうに、3段階で同時に攻めていっています。

藤原様:
探究も同じで、GIGAにしろ、探究にしろ、はじめてやることには失敗がつきものです。私は先生が失敗する姿を子どもが見るのは悪いことではないと思うのです。子どもたちは先生が少々失敗したくらいでは、決して見下しません。そうではなく、先生がどうリカバーするかを常に見ています。逆に、チャレンジもせずに説教ばかりする教師をバカにします。子どもたちに「失敗を恐れるな、へこたれず頑張れ」と言っているなら、先生自身がチャレンジして、失敗した時にどう克服するかを子どもに見せ、伝えるべきでしょう。

また、学校としても校長先生など、管理職が現場の失敗をある程度許容するような寛容な空気感を醸成できると、それが学校全体の雰囲気となり、子どもを見る目の寛容さにつながるような気がします。

生徒、先生、校長先生、保護者が同じ未来を共有する

平井様:
大人でも異なる考え方を許容できない人がいる。そういう人と接するのは難しいですよね。

北野:
学校はいわゆる社会の縮図ですよね。失敗してもいいからやろうという意識があまりなかったり、そういうことを言い合える仲間がいなかったりするのはつらいですよね。でも変わらないといけないのは事実なので、少しでも許容できるようになるにはどういう取り組みが必要でしょうか?

平井様:
話は少しずれますが、もう10年くらい前に校長をやっていた時にiPadを導入して、PBLでプログラミングをしたんです。先生には子どもたちに教えないように言って2年くらい経つと、子どもたちが自発的に話し始めるようになりました。ところがやっとうまくいったと思ったら、保護者から苦情がきたんです。「普通の授業をやってほしい」というクレームでした。保護者は自分たちが受けてきた先生が教える授業がいいと思っているので、この取り組みが手抜きに見えたんでしょうね。

私は先生や子どもたちに世の中の変化と共に学びが変わっていくことを話していましたが、保護者には伝えていなかったんですね。許容できないということは同じ未来を見ていないということですから、方向性が違ったとしても生徒、先生、保護者、校長が同じ未来を共有する、同じ未来を語る場というのがあれば少しは変わるのではないでしょうか?

藤原様
私も一保護者ですが、親の視野というのは決して広くないんですよ。教育については全くの素人です。なので、あまり保護者に遠慮しなくても本来はいいはずなのです。教員には社会経験がないからと引け腰になる人もいますが、親というものは、自分の子にしか基本興味ありません(笑)。先生はさまざまな子たちを見てきているし、そこからわかることは多いはずです。そして、なにより、教師は子どもたち一人ひとりの成長を心から喜ぶことのできるプロフェッショナルです。相応の敬意を払われるべきです。怯むとつけ込むような態度をとる人はいますが、保護者に言われても、ドンと構えていていいと思います。

お二人の今後の活動について

北野:
今日のお二人のお話で教育DXはまだまだこれからですが、伸びしろしかないと思うとポジティブに取り組んでいくのが大事だと実感しました。最後にお二人の今後の活動や目標とされていることを教えてください。

平井様
来年の1月にフィンランドに行くのですが、若い先生ややる気のある先生をどんどん海外に連れて行こうと思います。とにかく海外の文化や教育に触れて日本と比べてみるという経験をしてもらいたいです。その後、オランダ、デンマーク、スウェーデンに行くツアーなども予定しています。

藤原様:
私は去年から「インクルーシブ教育」という障害のある人とない人が共に学ぶ仕組みを考える場を持っています。重い障害のある子の親御さんや特別支援学校・学級の先生などと一緒にディスカッションをしています。各国のインクルーシブ教育の調査もしていますが、インクルーシブ教育と探究学習、プロジェクト型学習は実はとても相性がいいのではないかと思い始めています。総合的な探究の時間、総合的な学習の時間、遠足や修学旅行、運動会などの特別活動などを活用して、障害がある子どもたちと一緒に楽しい経験ができる時間をつくれないかと考えています。そういうことができてくると、今までは福祉ボランティアがやっていたようなイベントを、全国の学校がプロジェクトとしてできないかなと、ちょっと妄想しております。

北野:
ありがとうございます。今日のキーワードは、まずはやってみる、と、ポジティブと、それから妄想。どれも大切ですね!


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【ゲストプロフィール】
◆合同会社未来教育デザイン代表社員 平井 聡一郎 様  
株式会社情報通信総合研究所特別研究員
茨城県公立小中学校、総和町、茨城県、古河市教育委員会指導主事を経て 2017 年より現職
南牧村教育 CIO 他、自治体、私学、教育関係企業の ICT アドバイザー
茨城大学教育学部非常勤講師
経済産業省産業構造審議会臨時委員、経済産業省未来の教室評価・検討会議委員
文部科学省教育情報化専門家会議委員、文部科学省 ICT 活用教育アドバイザー
総務省地域情報化アドバイザー、デジタル庁デジタルの日検討委員会 WG 委員

◆一般社団法人こたえのない学校 代表理事 藤原さと 様
慶應義塾大学法学部政治学科卒・米国コーネル大学大学院公共政策学修士(M.P.A.)
日本政策金融金庫、ソニー株式会社などで海外アライアンス、新規事業立ち上げなどを経験。
仕事をしながら子育てをする中で「探究する学び」に出会い、2014 年、一般社団法人こたえのない学校を設立。2014 年から 2017 年までアメリカ在住。2018 年経産省 「未来の教室」事業で世界屈指のプロジェクト型学習を行う米ハイ・テック・ハイの教育プログラムを日本に導入。
著書に『探究する学びをつくる-社会とつながるプロジェクト型学習』(平凡社)、『ラクガキのススメ(共同執筆)』(あいり出版)