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デジタルと学びをつなぐ:第1回 学びと心の成長 「探究する心の育て方」~教師と子どもを育てるアフターGIGA(前編)
- category : AUKOE の コエ #子育て
- writer : GDX TIMES編集部
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子どもたちが身体的・認知的能力にかかわらず等しく価値ある人間だと感じられることを目指す、そのような学びとは?テストが終わったら忘れてしまう知識とは異なり、一生の財産となりうる「探究する心」の育て方とは?アフターGIGA*を模索する日本の全国の小中学校で、先生、子どもたち、保護者たちの意識改革をどう進めるのかをテーマにお届けします。
*GIGA(Global and Innovation Gateway for All)
(この記事は2022年10月21日に開催したウェビナーのレポートです。)
Passeggiata con KITANO! ~コエとコエを紡ぐ~ デジタルと学びをつなぐ
デジタル化が進む教育現場。
学校教育という枠にとらわれない人間の成長における「学び」とは?
という私たち全ての人びとの原点に関する問いについて、デジタル環境と人間の脳の成長過程への影響や、探究する心の育成という視点から、未来を創る学習に関わっている専門の方々のコエを聞き、より多くの皆さんに伝えたいと考えています。
”Passeggiata con KITANO! ~コエとコエを紡ぐ~” デジタルと学びをつなぐ シリーズは、株式会社アスコエパートナーズ取締役 北野菜穂がテーマに沿って、教育デジタル化業界の最前線の方々と対談していくシリーズです。
Presented by株式会社アスコエ・パートナーズ 取締役 北野菜穂
◆ゲスト
藤原さと様 (一般社団法人 こたえのない学校)
平井聡一郎様(地域情報化アドバイザー)
Passeggiata con KITANO!企画の背景
今回、GDX TIMES新企画シリーズ題して、Passeggiata con KITANO!を始めることになりました。シリーズ名が長いので、その背景をご紹介させていただこうかと思います。
イタリア語でパッセンジャータは、夕方頃に、街のメインストリートをぶらぶら歩くというお散歩のことです。散歩をしながら、友人と出会って、最近何してる?と話をしたり、新しい人と知り合い、そのまま一緒にエスプレッソコーヒーを飲んだり、色んなことが誘発されていく、そんな夕方の時間の使い方があります。
私はイタリア在住のころ、このパッセンジャータという習慣をとても気に入っていました。今回のシリーズで、この、声と声を繋いでいくパッセジャータのような時間を作れないかと思い、このタイトルをつけさせていただきました。イメージとして、私がパッセジャータをしながら、色々な分野のデジタル業界最前線の方々と対談し、その内容を皆様にお届けさせていただくシリーズとしたいと思っています。
特にその第1回目のシリーズは、デジタル化を進めなければいけない、とされている教育現場にフォーカスを当てました。
そもそも学ぶということ自体は、子どもだけに生じることではなく、大人にも関係しており、人として誰もが学んでいくことを当たり前の社会にしなければいけないのではと感じています。誰にとっても、「自分創り」の原点となる学びってなんだろう?ということを、ぜひGDX TIMESのなかで考えてみたいと思っています。
まず、第1回目では、「探究する心の育て方」を平井さんと藤原さんと一緒にお届けさせていただこうと思います。
未来を作る”学び”に携わっている様々な専門の皆様のお声を聞きながら、より多くの方々に、このメッセージをお届けしていく企画を配信記事と、ウェビナーを通して伝えていけたらいいなと思います。
そもそもGIGAとは?
北野:
まず教育現場の実態についてを平井先生にお伺いしたく思います。 そもそもGIGAとはどういうことを目指すものだったのでしょうか?
平井様:
GIGAが始まってもう3年ぐらい経ちます。なんとなくICT活用することが目的化しているようなところがありますが、なぜGIGAが始まったのかを考えることが大事です。GIGAはICT活用を通した授業改革で学校変えていくことが目的で、ある意味、「学校DX」です。学校をデジタル化することによって変えていこうということがGIGAの狙いです。新しい学習指導要領が出るタイミングに合わせて、その新しい学習指導要領の学びを支える環境を整えましょうというのが、「GIGAスクール構想」です。
「問題発見力」「的確な予測」「革新性」 社会で求められるスキルが変わった
では、なぜ変わらないといけなくなったかということですが、経済産業省が5月に発表した「未来人材ビジョン」の中で、社会で生きていくため、または仕事をしていくために「意識・行動面」「ビジネス力」「知識」など56のスキルの必要性を示しています。スキルは時代によって重要視されるものが変化していきます。
2015年では「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」「信頼感・誠実さ」などまじめにコツコツやることが重視されていましたが、2050年では「問題発見力」「的確な予測」「革新性」など個人のスキルが重視されるように変わっていくのです。
今までのような、先生が教えて生徒は聞くという知識伝達型だと「コツコツやる」「まじめさ」はつくけれど、これからは従来のような受け身のスタイルでは社会に求められるスキルは身につかないということで、学習指導要綱が大きく変わり、生徒が主体的・対話的に深い学びができるようにと示されてきたわけです。教育と社会がリンクしたわけですね。
ICTを活用して学びを変えていく
新学習指導要領は一昨年に小学校、昨年は中学校、今年は高校と出揃い、完結しました。
いよいよ今年から教育DXによって学校が変わる体制ができあがったのですが、この新しい学びを支えるためにはICT機器環境の整備がポイントになります。
そのために始めたのがGIGAスクール構想です。
・1人1台の端末
・どこでも学べるようにクラウド環境
・クラウド環境を支える通信環境
この3つがGIGAスクール構想に必要なことです。これはもう始まって2年くらい経っていますが、現場の先生方はバタバタしながら一生懸命取り組んでいるところです。
徐々に先生も生徒も練度が上がっており、子どもたちは文房具のように端末を使いこなしています。でも変わってほしいのは、端末を使いこなすことではなく、授業そのものの学びなのです。
文部科学省の調べで1人1台端末を授業で活用している学校の割合について都道府県別のデータがあります。それによると5割から6割のところで、ほぼ毎日コンピュータを使って授業が展開されています。ですが、自分で調べる場面でICT機器を使用している学校の割合になると2割に減ります。さらに自分の考えをまとめ、発表・表現する場面でICT機器を活用している学校の割合は1割になります。
問題は、ここからで、児童同士のやり取りでICT機器を使用している学校の割合が1割程度ということです。ここが変わっていかなければといけないと考えています。
今後は、ただ使うだけから、従来型の授業でのICT活用から、学び自体を変えていくというところにフェーズを変えなくてはならない。子どもたち同士がやり取りしたり、家に端末を持ち帰ることができるように切り替えていく必要があります。
学びを変えていくにはPBLがキーワード
これを推し進めるには、先生方が教える学びから、子どもたち自身が求める学びに変わることがポイントです。そのキーワードはPBL(Problem Based Learning )(Project Based Learning)です。自分たちでどんどん極めていく、求めていく学びになります。
でも今の先生方はPBLってやったことないんですよね。教えてもらう授業を受けてきましたし、保護者も一生懸命教えてくれる先生がいい先生と認識していますから。なので、まずは問題解決型のPBLの学習をしてもらっています。私は小さなPBLと言っていますが、1時間や2時間帯のPBLをやったり、そしてそこから学習のまとまりごと、単元ごとなどでPBLにしたりして、どんどん大きく徐々に進化させていくことが大事だと思っています。
PBLをやっていくと授業デザインが今までと変わってきます。子どもたちにとって活動目標(学習者目線)や、やりがいのある課題を与えることになります。この活動をやっていくと自然に指導目標教科の狙いを達成できるということになると思います。
私はよく動画作づくりを指導しますが、例えば、中学校で天気のことを勉強するならば、「天気予報士になって天気予報の番組をつくろう」というPBLをやります。そうすると、天気予報の番組を作ることを通して、天気の変化について理解しようという指導目標を達成するということになります。
子どもはまず研究する場を求めて、天気についての知識をどんどんインプットしなければなりません。そして自分の考えをまとめて仲間たちにアウトプットし、さらに番組という形でアウトプットします。それを見て他の子どもたちが「ここいいね」とか、「これもこんなふうに直したらいいんじゃない」ということをフィードバックするわけです。インプット、アウトプット、フィードバックというのが、PBLを作る上で大事なポイントになってきます。
これからの授業をPBLの探究的な学びによって変えていく、それを支えるのはGIGAスクール構想で用意されたICT端末なのではないかと考えているわけです。
自分自身が何者かを知ることが大切
北野:
平井先生のご説明にあった、GIGAというこの4文字。全ての人が、グローバルな情報に、革新的につながることができる入口。この、GIGA構想においては「革新的、すなわち、イノベーション」という要素が入っているというのが難しいところですよね。
子どもにしろ、親にしろ、先生にしろ、イノベーティブな世界ってどんなことなのかわかりにくい。教育によってイノベーションを生み出す力やクリエイティビティは育てることができるのでしょうか。
藤原様:
今、教師が頑張れば頑張るほど学びのアイテムが増えてしまう「カリキュラムオーバーロード」という現象が世界的に起きています。「ロジカルシンキング」「プレゼンテーション」「英語」「プログラミング」と次から次へとスキルを詰めこんでしまいます。
これは親も全く同じで、いろいろ子どもにやらせたくなる。でも、それは一人ひとりの子どもの人格を尊重するというよりは、これからの世の中で得になるような知識やスキルを子どもの個性や気持ちを度外視してインストールしてしまうようなところがあります。でも、それでは子どもは、「自分自身」ではなく、世間の求める「誰か」になろうとしてしまう。結局自分が何をしたかったのかわからなくなっているという状況なんです。それが子どもたちの心に大きな影響を与えていて、この傾向が特に日本では強いと思っています。
「あなたがあなたであっていい」「個性を表に出していい」「他の人と違っていい」という意識が低く、日本財団の18歳意識調査では、アメリカ・イギリス・中国・韓国・インドなど他の国との比較調査において、「自分には人に誇れる個性がある」「自分は人から必要とされている」「勉強、仕事、趣味など、何か夢中になれることがある」などの項目で6か国中最下位となりました。
学習指導要領が変わり、GIGAスクール構想が入ってきて本当に学校が変わらないといけないと思います。自分で興味のあることを探すことに時間をかけたり、誰かと共同して一緒に何かをしたりする中で、私は何者かということを考えていけるようにしなければならないでしょう。
今の時代は、環境問題や戦争、それによるエネルギー需給の逼迫、激しいインフレなどさまざまなことが起きています。こうした変動性が高く、不確実で複雑、曖昧な社会をVUCA(ブーカ)と言ったりします。こうした社会は恐れてしまうとついつい、次から次へとスキルを獲得する防御の学びをしてしまいますが、むしろこうしたVUCAを楽しもうと頭を切り替えてしまったほうがいいかもしれません。
つまり、未来に対する準備をすることから未来を創る喜びへ大きく舵を取ることではないでしょうか。もう誰もあなたの人生を保証しないなら、他人の人生ではなく、自分の人生を生きる必要が出てきます。だとしたら、自分を知り、自分だからこそ地球の役に立てる強みを探す探究が必要になってきます。新学習指導要領は、こうした時代の変化を踏まえたものだと理解しています。
探究は一人ひとり違っていていい
では探究とは何か?実は、探究にはこれが正解という一つの形があるわけではなく、さまざまな人がさまざまな定義をしています。例えば高等学校学習指導要領の「総合的な探究の時間」なら「探究における生徒の学習の姿」として課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現というサイクルが描かれています。一方で、教育哲学者のジョン・デューイは、不確定な状況→問題的状況→提案・計画→確定的状況という表現をしています。どちらが正しいということではなく、私たちは一人ひとり違う探究の仕方をする唯一の個性的な探究者である、と考えることが大切ではないかと思っています。つまり、子どもも一人ひとり固有の探究のサイクルを持つはずです。そこを見極めながら教師も児童・生徒とともに一緒に探究していくことが今求められていると思っています。
デューイが探究は不安から始まるといったとおり、探究には不安と失敗がつきものです。そこを楽しむことがVUCAを楽しむことにつながります。GIGAスクール構想も不安で失敗がつきないかもしれないけど、それを前向きに捉え、克服するプロセスに学びがあるという気構えが必要でしょう。
◆第1回 学びと心の成長 「探究する心の育て方」~教師と子どもを育てるアフターGIGA(後編)へ続く
◆「Passeggiata con KITANO! ~コエとコエを紡ぐ~ デジタルと学びをつなぐ」特集ページへ
【ゲストプロフィール】 ◆合同会社未来教育デザイン代表社員 平井 聡一郎 様 株式会社情報通信総合研究所特別研究員 茨城県公立小中学校、総和町、茨城県、古河市教育委員会指導主事を経て 2017 年より現職 南牧村教育 CIO 他、自治体、私学、教育関係企業の ICT アドバイザー 茨城大学教育学部非常勤講師 経済産業省産業構造審議会臨時委員、経済産業省未来の教室評価・検討会議委員 文部科学省教育情報化専門家会議委員、文部科学省 ICT 活用教育アドバイザー 総務省地域情報化アドバイザー、デジタル庁デジタルの日検討委員会 WG 委員 ◆一般社団法人こたえのない学校 代表理事 藤原さと 様 慶應義塾大学法学部政治学科卒・米国コーネル大学大学院公共政策学修士(M.P.A.) 日本政策金融金庫、ソニー株式会社などで海外アライアンス、新規事業立ち上げなどを経験。 仕事をしながら子育てをする中で「探究する学び」に出会い、2014 年、一般社団法人こたえのない学校を設立。2014 年から 2017 年までアメリカ在住。2018 年経産省 「未来の教室」事業で世界屈指のプロジェクト型学習を行う米ハイ・テック・ハイの教育プログラムを日本に導入。 著書に『探究する学びをつくる-社会とつながるプロジェクト型学習』(平凡社)、『ラクガキのススメ(共同執筆)』(あいり出版)