【自治体標準データセット】地方自治体の声が反映された政府相互運用性フレームワーク(GIF)「推奨データセット」の修正版
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- writer : GDX TIMES編集部
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自治体標準データセットは、政府相互運用性フレームワーク(GIF)の一部「推奨データセット」のアップデート版で、既存のデータセットを修正して新規データセットの追加を行ったものです。従来の推奨データセットに準拠したオープンデータの提供側、利用者側の課題意識を整理したうえで、おもな変更点や、GIF・従来の推奨データセットとの関係について見ていきます。
自治体標準データセットとは?
「政府相互運用性フレームワーク(GIF)」は、誰もが必要な情報を容易に入手し、新たなサービスをスタートしやすい環境づくりのために、データを円滑に相互運用するための技術的体系として、2022年4月に公開されています。GIFは、従来の相互運用性確保のための仕組み(既存のルールやデータモデルなど)を集約し、整理されていますが、2017年に0.1版が策定された「推奨データセット」も含まれます。
「推奨データセット」は、政府として公開を推奨するデータと、データ作成にあたって準拠すべきルールやフォーマットなどを取りまとめたもので、0.1版以降、見直しや追加を重ねてきました。2022年3月時点で、推奨データセットを利用してオープンデータを公開している自治体数は、全自治体数の1/4強にあたる468カ所となり、一定程度の認知・普及が進んでいるものと見られます。
この「推奨データセット」を「自治体標準オープンデータセット」と改称し、既存データセットの修正や新規追加を行い、2023年3月に公開予定です。
GIFについては、以下の記事もあわせてお読みください。
政府相互運用性フレームワークはなぜ必要? なぜ参照モデル?【政府相互運用性フレームワーク(GIF)①】
政府相互運用性フレームワークで日本が抱えているデジタル問題をどう解決する?【政府相互運用性フレームワーク(GIF)②】
推奨データセットに関する調査結果から見えてきた課題意識
デジタル庁では、推奨データセットの追加や修正、データ項目の検討などを重ねてきました。これとあわせて、推奨データセットに準拠したオープンデータを提供する側の地方公共団体や公開されたデータの利活用を検討する事業者などの意見や質問を集め、調査を実施してきました。
提供側(地方自治体)が感じている課題
2021年6月に公開された「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート結果」では、推奨データセットに関して、以下のような意見が寄せられています。
推奨データセットの加工への支援を
アンケートの結果、多くの地方公共団体が、推奨データセットの加工やオープンデータの作成・公開にかかる業務負荷を軽減したいという要望があることがわかりました。オープンデータの作成が容易に行えるツール類の提供など、担当職員に負担をかけることなくオープンデータを公開できるような技術的支援を行ってほしいとの要望がありました。
オープンデータの公開について「未計画」「検討中」「公開を検討すべき推奨データセットはない」とした理由として、「データ加工方法の整備ができていない」「どのようにデータを加工すべきか検討中」「調整、加工などの時間が確保できない」との回答が多数あったことからも、技術支援の必要性が伺われます。
推奨データセットの活用事例の提供を
推奨データセットのそれぞれについて「具体的な活用事例を提供してほしい」との声も多く寄せられています。それぞれの地方公共団体におけるオープンデータの公開状況や、推奨フォーマットを用いた業務効率化の成功事例などの情報が提供されれば、取り組む担当者のモチベーションアップにつながると期待する声も。
強制的な指針が欲しい
推奨データセットによるオープンデータの公開を順次推進しているという団体では、オープンデータの利活用が促進されるデータフォーマットなどが明らかになれば、その研究成果としてロールモデルへのロードマップやデータフォーマットへの強制指針を打ち出してほしいとの意見がありました。このほか、国が統一の様式を義務づけるなどの方針策定への期待や「全国的に公開を義務化するデータセットが示されれば地方公共団体としてもオープンデータに取り組まざるをえない」との声も聞かれました。
国や都道府県で一括管理すべき
医療機関一覧や介護サービス事業所一覧などの推奨データセットについて、どちらも都道府県が認可する機関・事業所なので、都道府県もしくは国で一括管理し、オープンデータ化するほうが効率的との意見がありました。また、小さい自治体でも必要な取り組みであるとは思うが、国や都道府県がデータを収集し公開したほうが利用しやすいとの声も聞かれました。
オープンデータ化による効果の提示
オープンデータの効果を定量的に把握することが難しく予算の確保ができない。効果が薄いのなら、職員の負担が増加するというデメリットしかないのではないかと不安。現場レベルでは、オープンデータの効果・メリット・ニーズが不明確であり、業務の優先順位が低いなどの声があり、データセットごとにどの程度の効果があるのかが数値で示されれば、公開に向けた職員のモチベーション向上につながるとしています。
推奨データセットと対になるAPIの提供
オープンデータで使用する推奨データセットと対になる標準APIが、オープンソースで提供されれば、より多くの地方公共団体でデータ連携提供の敷居が低くなるとする意見がありました。たとえば、先行している地方公共団体で使用しているAPIを公開・提供してほしいということです。
全国統一のオープンデータ公開サイトを
全国で統一的なオープンデータ公開サイトがあれば、それぞれの市町村でオープンデータ専用のWebページを開設する必要がなく、利用者側も活用しやすいのではないかとする意見も寄せられています。このほか「市町村ごとのホームページで公開するよりも、国や県など大きな単位のポータルサイトがあるほうが、アプリなどの作成に活用しやすく、活用事例が増えるのではないか」「現在は各自治体がそれぞれにカタログサイトを構築していますが、国や都道府県などが主体となって共同で利用できる統一的なカタログサイトを構築してほしい」との提案もありました。
利用者側(事業者など)が感じている課題
一方、公開されたオープンデータを利活用する事業者などの課題意識としては、2022年度に実施された調査によると、次のような点への指摘がありました。
- 「データが古い」「フォーマットがばらばら」「データが正確でない」「データが加工しにくい」「情報の粒度が不統一」など、データ自体やデータフォーマットの品質に関する問題
- 「データの数」「更新頻度」「データ形式の利用しにくさ」など、オープンデータの利用継続に関する課題
- 識別子の標準化・民間が利用するものとの互換性確保
推奨データセットからのおもな変更点は?
オープンデータの提供者側、利用者側それぞれの課題意識を踏まえて、既存の推奨データセットの見直しが進められました。新たなデータセットの、推奨データセットからのおもな変更点は以下の通りです。
データセット名の変更
自治体向けの標準フォーマットであることを示すために、データセット名を「推奨データセット」から「自治体標準データセット」へと改称しました。旧名称にある「推奨」について、解釈の揺れを避けるため、以下のように整理しています。
「推奨」の内容を整理
従来の「基本編」「応用編」という区分をやめて、各データセットの提供元団体を「初めて取り組む基礎自治体」「基礎自治体」「一部事務組合等」「都道府県」「国」「民間」の6種類に区分し、それぞれに公開を推奨するデータセットを記載しています。
GIFとの整合性を確保
自治体標準データセットをGIFの一部と位置づけるためには、GIF「地域サービス・データモデル・ガイドブック β版」との整合性を確保しなければなりません。このために必要な項目の追加・修正を行いました。また、データ項目定義書の各データセットの参考情報欄には、GIFの該当情報を記載しています。
項目単位での見直し
項目名の統合や項目の追加、位置づけの変更、形式の修正、参照先の記載などを行いました。
メタデータ(カタログデータ)の付与
データの検索性やデータそのものの質の向上を図るために、メタデータ(カタログデータ)を付与しました。メタデータが整備されると、データを自動処理するプログラムなどでデータを機械的に検索したり、収集したりすることが可能となります。これによって利用者の利便性は飛躍的に高まることが期待されます。
支援制度(給付金)情報の改善
支援制度(給付金)情報のデータセットについて、フォーマットが他のデータセットと大きく異なるため、専用の項目定義書を作成しました。給付金のような支援制度をデータ化し、利用者の属性情報と紐づけることで、プッシュ型の案内も可能になります。また地方公共団体間の制度比較や新たな支援制度立案にも活用できるようになります。
ニーズを踏まえて9種類のデータセットを追加
利用者のニーズに対応し、利活用の広がりやすさにも配慮して、上図にある9種類のデータセットを試験的に追加しています。
追加の背景と利用例
自治体標準データセットに今回追加された9種類のデータセットから抜粋して、その理由と想定される利用例を紹介します。
防災行政無線設置一覧
防災行政無線は、住民の生命に直結することもあるため、重要な情報発信手段です。ただし拡声放送には難聴地区が存在することから、代替施策を考えておく必要があります。このデータをもとに難聴地区を可視化すれば、より効率的な政策立案が可能になり、民間事業者からの提案も期待できます。
<想定される利用例>
- 防災行政無線アプリ
- 総合防災アプリ
教育機関一覧
地方公共団体が保有する教育機関の情報については、GIGAスクール構想における教育データの流通・蓄積の将来イメージにおいても、構想を担う組織として学校が位置づけられていますから、今後、ますますのデータ整備が求められることになるでしょう。また、防災の面でも、地域の避難所としての機能を持つ小学校などのデータ化は重要です。
<想定される利用例>
- 子育て支援アプリへの掲載
- 子育て応援マップなどでのマッピング
- 学校情報検索アプリへの掲載
- 防犯情報や事故情報などと連携した安全情報の提供
公営駐車場一覧
駐車場の情報は、日常生活においても、観光地を訪れる際にも必要とされる情報のひとつになります。また、公営駐車場情報の提供によって、路上駐車など迷惑行為の改善も期待できます。
<想定される利用例>
- 駐車場検索アプリ
- 観光情報アプリなどのコンテンツ
- カーナビなどのコンテンツ
- 駐車場利用状況や空き状況のリアルタイム配信
ゴミの分別方法一覧
ゴミの分別方法については、地方公共団体単位で決められています。ゴミの問題には、環境への配慮という視点からもしっかりと目を向ける必要があるでしょう。また、ゴミの分別方法は、イベントなどの啓発活動での活用も期待されます。
<想定される利用例>
- ゴミ出しアプリ
- ゴミ分別方法検索アプリ
- チャットボット、音声AI
赤ちゃんの駅
赤ちゃんの駅には、乳幼児を連れた親子が自由に立ち寄り、オムツ替えや授乳ができるスペースとしての役割があります。すでに多くの地方公共団体で情報提供されていますが、統一したフォーマットがないため、利用時に手間がかかってしまうこともあるようです。子育てに優しい社会づくりのためにも必要なサービスであることから、推奨データセットとして公開することで、利用シーンが増えていくことが期待できます。
<想定される利用例>
- 子育て応援アプリ
- 子育て応援施設マップ
- 授乳室検索アプリ
- 観光案内アプリ
ゴミ集積場所一覧
ゴミ集積場所の情報は、地域住民の暮らしに直結し、不動産評価にも関わる情報になります。このような嫌悪施設の情報が利用しやすくなれば、住民間や不動産仲介業者とのトラブルを未然に防ぐことも可能です。
<想定される利用例>
- ゴミ集積場所マップ等での可視化
- 不動産資産価値の評価基準
- ゴミ収集ルート効率化の材料
観光ポイント
観光に関する情報は、すでに「観光施設一覧」の推奨データセットがありますが、施設情報だけではなく、観光のポイントに関する情報もデータとして公開することで、観光スポットに観光客を呼び込みたい地方公共団体のアピールにもつながる情報になります。
<想定される利用例>
- 観光スポット案内アプリ
- 観光マップ
- 観光ルート検索
追加されたデータセットの特徴
今回新たに追加されたデータセットは、構造化の考え方を一部とり入れたものとなっています。つまり、GIFを参照して対象物を決めることで、ただ一つ決定される基本情報と、種別や用途などに応じて変化する関連情報を、ファイルとして分けるかたちをとっています。
このデータの構造化が目指すのは、あらゆる物事に一つのIDが付与され相互にリンクされるかたちですが、そのような完璧なデータ構造を整備するのは困難なため、その第一歩としてGIFに記載されたデータモデルをベースに、コアデータモデルと個々の用途に応じたデータモデルを別々に定義しています。
自治体標準データセットとGIFや推奨データセットとの関係は?
デジタル田園都市国家構想推進交付金の採択事業では、地域サービス間の相互運用性を確保するためにGIFあるいは標準データモデルへ準拠することが求められています。これまでGIFおよび既存の推奨データセットへの準拠に取り組んできたこれらの地域においては、新たな自治体標準データセットとGIFや推奨データセットの関係性は気になるところでしょう。この点について見ていきます。
政府相互運用性フレームワーク(GIF)との関係性
自治体標準データセットは、従来の推奨データセットについて大幅な見直しを行ったものになりますが、GIFを参照したデータモデルという位置づけに変更はありません。最終的にはGIFの一部(部分集合)として整備されるものですが、現時点では違いも見られます。たとえばGIFで必須項目としているもののなかには、自治体標準データセットでは推奨としている項目もある点などです。
とはいえ現状の推奨データセットを用いてオープンデータの作成を行っても、それによって大きな問題が生じる恐れはありません。データが標準化されているためにコンパートなども容易で、将来一貫性を持ってGIFと融合することができるよう、コンバーターの提供なども予定されています。
たとえば、2022年5月31日付けのGIF「地域サービス・データモデル・ガイドブック(β版)」は、参照データモデルとして従来の推奨データセット(2.10版まで)を利用することを前提にまとめられ、従来フォーマットのままGIFに含まれたモデルとして扱われています。
そして、今回の見直しによる自治体標準データセットでの変更点については、GIF「実装データモデル 地域サービス・データモデル・ガイドブック β版」と連携しながら修正を進めていく予定としています。
なお、現在(2023年2月時点)の自治体標準データセットは、試験公開版であって、正式版は2023年3月に公開予定です。
GIFは、データの利活用やその連携を円滑に行うための技術的体系として提供されています。このフレームワークを活用して地方公共団体によるオープンデータの公開が進み、その利活用によって新たな価値が生まれ、誰もが快適で活力に満ちた社会が実現することを期待します。そして、今回の自治体標準データセットが、そのような社会に近づくための一助になることを願うばかりです。