政府相互運用性フレームワークはなぜ必要? なぜ参照モデル?【政府相互運用性フレームワーク(GIF)①】
- category : GDX ナレッジ #デジタルガバメント #情報構造設計
- writer : GDX TIMES編集部
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GIF(政府相互運用性フレームワーク)は、デジタル社会のためのモデルプランや連携ルールなどをまとめたもので、これらをもとにデータ設計やサービス設計を行うことによって、利用者に高度なサービスを提供しやすくなります。2022年3月31日、デジタル庁はデータの利活用や連携を円滑に行うための基盤として、GIFを公開しました。今回は、GIFを必要とする社会背景やGIFを「参照モデル」としている理由について見ていきます。
デジタル・ガバメントの歴史
GIFとは何かを解説する前に、デジタル社会の実現に向けた日本政府の取り組みについておさらいしておきます。
2016年12月に官民データ活用推進基本法が成立。データの利活用のための環境を整備し、行政手続きのオンライン利用を原則化するなどの施策を推進することになりました。2017年5月には、官民データ活用推進基本法および高度情報通信ネットワーク社会形成基本法に基づく具体的な取り組みとして、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(通称:デジタル宣言・官民データ計画)」が策定されました。
さらに、「デジタル宣言・官民データ計画」の重点分野のひとつであるデジタル・ガバメント分野の取り組みとして、「デジタル・ガバメント推進方針」を策定。2019年には「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクテッド・ワンストップ」を3原則とするデジタル手続法が制定されました。
「デジタル・ガバメント」については、以下の記事をお読みください。
デジタル・ガバメント|日本の「IT化戦略」の課題を解決する「デジタル・ガバメント実行計画」とは?
GIF(政府相互運用性フレームワーク)とは
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、人々の生活や考え方が大きく変化しました。各国がデジタル技術を活用したさまざまなアプローチでパンデミック対策を講じるなかで、我が国ではコロナ禍によって社会のデジタル化の遅れが顕在化し、政府や自治体のデジタル基盤の脆弱さが露見することとなりました。
日本政府は、日本社会が目指すべき未来社会の姿を「超スマート社会」と名付け、その実現に向けた取り組みとして「Society 5.0」を掲げ、その推進のために、デジタル・アーキテクチャ(設計書)やデータ連携基盤の整備を進めてきました。コロナ禍の反省も含めてその取り組みは加速しています。
「Society5.0」について、以下の記事もお読みください。
Society(ソサエティ)5.0|どんな社会?どう変わる?
GIF(政府相互運用性フレームワーク)は、Government Interoperability Frameworkの略語で、データを相互運用するための体系としてまとめたものです。データを連携するためには、データの形式を揃えたり、運用ルールを定めたり、データ交換のためのツールなども用意しなければなりません。これまでにもデータのひな形やガイドブックの整備などを進めてきましたが、それらを政府としてひとつの体系にまとめ、2030年に本格的なデータ駆動社会を実現しようとしています。 プロジェクト名は、これまでのデータ相互運用性の取り組み「IMI(Infrastructure for Multi-layer Interoperability)」を拡張するものとして、「IMI2」(アイ・エム・アイ・ツー)としています。
GIF(政府相互運用性フレームワーク)が必要になった理由
行政データの標準化を図るために、これまでも標準ガイドライン群 https://cio.go.jp/guides の一部として、以下のデータモデルなどを設計、公開してきました。
- 行政基本情報データ連携モデル
- 行政サービス・データ連携モデル(β版)
- 推奨データセット
- 共通語彙基盤 など
これらは、データを相互に連携するための共通規格として利用されることを想定し、データの総合運用性の確保を目的として設計されています。しかしながら、実際にこれらを利用したいというユーザーの視点から、以下のような課題があきらかになりました。
課題1|標準の普及
これらの既存の標準群はCIOポータルにその他の標準ガイドラインと並んで掲載されていますが、その認知度や可読性に課題がありました。「掲載されていることを知らなかった」「CIOポータル自体を知らなかった」「標準というアプローチがあることを知らなかった」など、既存の標準が広く普及しているとは言えない状況でした。
課題2|標準の統一
既存の標準群は、それぞれ異なる時期に整備されたものであり、データ項目に重複や定義の差異が存在し、データ構造も異なります。ユーザーは、複数のドキュメントから利用目的にあった標準を見つけ出すという負荷が生じます。
GIFの取り組みでは、上記のうち「標準の統一」を解決するもので、既存の標準群を統合・再整理して、データ項目の取捨選択、定義の見直しを行っています。
GIF(政府相互運用性フレームワーク)を「参照モデル」としている理由
GIFは、デジタル社会のためのモデルプランや部品、連携ルールなどを提供するもので、データを使ったサービスの広域展開や持続的に利用したり、発展させることができるため、今後のデジタル社会において必須の基盤となっていきます。ここでは、GIFが確定した標準をつくるのではなく「参照モデル」としている理由について見ていきます。
GIFはまだまだ発展途上
建物や製品をつくるための設計の記法や取引ルールなどは、これまで長い年月をかけて確立してきました。一方、デジタル社会の設計の手法とか取引ルールはまだまだ発展途上で整理しきれていないのが現状です。従来のさまざまな取り組みを相互に連携し、シームレスにデータの交換や利活用ができる環境を実現するためには、まだ多くの時間を要します。
既存のシステム・データとの兼ね合いも要検討
従来、データを連携しようと思っても、それぞれに仕様が異なるために、設計にはコストがかかり、連携先の数だけ調整が発生するため大きな労力がかかっていました。とくに業界ごとに独自のデータ項目が普及していたり、さまざまなシステムやサービスが存在する場合には、新旧データを二重に保有するなどの移行措置やコンバータの準備が必要でした。
これに対して、GIFがデータの参照モデルを提供し、各サービスの提供者は参照モデルを部分利用したり拡張したりすることによって、それぞれの目的に合わせた柔軟な設計が可能になります。さらに、GIFに準拠したデータを活用した他のサービスとの連携や新たなサービスへの乗り換えも容易になり、新たなサービス創出の可能性も広がります。
このようにGIFを「標準モデル」ではなく「参照モデル」として扱うことで、高い相互運用性が確保され、設計の正確化や効率化も測ることができます。従来データやシステムの移行があるため導入は任意としていますが、新規システムの設計やシステム更改のタイミングでGIFを参照することが推奨されます。
既存データを活用するための導入方法を検討中
GIFの導入にあたっては、自治体や利用者に負担をかけない方法で行う必要があります。GIFは、既存の実践ガイドブックやデータモデルなど、従来の相互運用性確保のための仕組みを整理・集約し、2022年3月に公開されました。さらに、公開後の利用者の意見を収集し反映しながら、2023年3月にはより実務的なバージョンに更新することを予定しています。また、ベース・レジストリ(行政データベース)設計への反映、既存データへのコンバータ開発も進めていきます。
ベース・レジストリについては、以下の記事もお読みください。
ベース・レジストリ|「デジタル・ガバメント」成功のカギを握る社会基盤データベース
コロナ禍によって社会のデジタル化の遅れが露見することになりましたが、GIFの公表とそのさらなる発展によって、政府が目指すべき未来社会の姿として掲げる「超スマート社会」を、多くの人々が実感できる日が、一日も早くやってくることを期待したいと思います。