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2024年10月4日

東日本、千葉、熊本、能登半島…「Aid for プロジェクト」にかける想い

アスコエでは、2011年東日本大震災を機に「Aid for プロジェクト」を立ち上げ、自社が持つ被災者支援に関わるデータベースを活用して、災害に遭われた方々の支援を行っています。今年1月の能登半島地震の際にも「令和6年能登半島地震 支援情報ナビ」を公開し、「必要な人に必要な支援を届けること」に継続的に取り組んでいます。なぜアスコエがこのプロジェクトを行うのか、プロジェクトにかける想いなど、安井社長にお聞きします。
(取材・文/百田なつき)

株式会社アスコエパートナーズ
代表取締役社長 安井秀行

東日本大震災をきっかけに

Q まず、Aid for プロジェクト誕生の経緯を教えてください。

安井:もともと弊社は、子育て支援情報のデータベースや企業向け顧客マーケティング用行政サービスデータベース「ジモトク」のサイトを運用するなど、創業当時から国や自治体の行政サービスのデータベース化をしてきました。さまざまな立場の人に役立つ素晴らしい行政サービスがあるのですが、とにかく数がすごく多い。たくさんあるのに、必要な人に届いていないことがもったいないと感じていました。

そんな時、東日本大震災が起こりました。何かしたい、何かすべきじゃないかと思っていて、複数の企業に行政制度のデータベースを作ることを呼びかけたところ賛同いただき、実現することになりました。その後国が正式にデータベースの運用していくことになりました。

私たちには、行政サービスのデータベース「ユニバーサルメニュー®」があるので、災害関連のさまざまな支援制度情報を整理整頓してお伝えすることができると考えました。ユニバーサルメニューを広く皆で共有して、支援制度情報をわかりやすく発信していこうというプロジェクトを、弊社を含めネット系の会社などが集まって始めたことが、このプロジェクトの発端になっています。

Q このときの思いをお聞かせください。

安井:被災された方のために、我々ができることをしようと思いました。子育ての支援制度と同様に、災害に関する支援制度もたくさんあります。ですが、実はあまり知られておりません。

また自分に必要な制度、いまの自分の状況に合った制度を見つけるのが難しく、いろいろなサイトを見ないとわからないことも多いです。そこで、探しやすくてわかりやすい、そして使いやすいサイトを作ろうと思って、「復旧復興ナビ」を公開しました。

熊本豪雨からAid  for  プロジェクトを始動

Q その後、「復旧復興ナビ」は「Aid for プロジェクト」にどう結びついていったのですか?

安井:「復旧復興ナビ」は東日本大震災の被害エリアに特化したものだったのですが、災害はどこでも起こり得ることです。災害時の支援制度には、全国共通、ほぼ共通、自治体個別のものの3種類があります。これまで行政サービスを見てきた経験では、全国共通とほぼ共通が8割ほどを占めています。そのため、一度データベース化すれば、それをベースにどこでも使えるものを作るのは難しいことではありません。

全国共通の支援制度は国民共有の財産ですから、「復旧復興ナビ」を他のエリアでも使えるようにしたかったのですが、いろいろな事情があり、時間がかかったので、それなら自分たちで他のエリアで利用できる別の支援ナビを作ろうと始動しました。そこでまず手掛けたのが、千葉市、常総市・つくば市での「被災者支援ナビ」の実証実験です。当時、大規模な災害が各所で起きはじめていたため必要性を感じてスタートしましたが、令和元年に千葉で実際に台風災害が起きてしまいました。

その後、支援情報ナビがどれくらい役立つのか、生の声を聞きたくて、実証実験で千葉市民の方と自治体の職員の方にアンケートとヒアリングをさせていただきました。市民の方においては、66.7%の方がわかりやすかったとアンケートに回答いただき、ヒアリングをした方の74%の方に使ってみて「とても便利」「あるとよい」という評価をいただきました。

千葉市職員の方へのアンケートでは、66.7%が被災者の方へ支援制度を案内するときに「それぞれの被災者に合った支援制度を案内できなく困った経験がある」と回答していて、79%の職員の方が「支援情報ナビを支援に活用できる」と回答しました。支援情報を伝える側の自治体職員ですら、支援情報の整理ができていないのだということがわかり、このプロジェクトの必要性を再認識したわけです。

こういった結果を踏まえて、2020年7月に「Aid for プロジェクト」を立ち上げました。Aid  for  と名付けた最初の取り組みは「熊本県令和2年7月豪雨 支援情報ナビ」です。

Q なぜAid for プロジェクトというネーミングなのですか?

安井:もともと行政DXをやっているプログラマーやコーディングする人たちの中で、様々な地域支援の取り組みが行われており、そこからヒントを得て「Aid for」というネーミングにしました。

「Aid for プロジェクト」は自然災害を踏まえ、行政機関の支援制度を中心とした復旧復興に関する官民あわせた各種支援情報を分かりやすく情報提供し、「必要な人に必要な支援を届けること」を目的としたプロジェクトです。きめ細かい被災者支援制度情報を「探しやすく」「分かりやすく」「使いやすく」提供するため、アスコエで活用実績のあるユニバーサルメニューを基にして構築しました。

インターフェイスは、もともと弊社で東京都の「新型コロナウィルス感染症 支援情報ナビ」を作った時に、その操作性がとてもシンプルでわかりやすかったのと、東京都がオープンソースを公開されていたのでそれを利用させていただいて作りました。

新型コロナの支援制度もたくさんありましたので、この支援制度をデータベース化して東京都以外でも使えるようにしようというオープン化の流れを受けて、災害の支援情報ナビでも東京都の新型コロナ支援ナビと同じ画面を採用して作ることができたのです。

能登半島地震でAid  for  プロジェクトの必要性を確信

Q 「令和6年能登半島地震 支援情報ナビ」も公開されましたよね?

安井:元日に地震が起こって、すぐ準備に取り掛かり、3週間ほどでサイトを作りました。今回は国や公共団体等が提供する被災者支援制度に加え、石川県、富山県、新潟県、福井県の被災者支援制度に関する情報を対象に、制度の概要や利用条件などに加えて、問合せ先へのリンクなどを整備しました。被災された方への支援制度を簡単に探せるよう、タグ付けなどによる分類と制度の説明文の編集、加工を行ったので、ナビゲーション機能を使って膨大な情報の中からユーザーの状況に合った被災者支援制度情報だけを表示することが可能です。

例えば、「自分にあった制度を探す」をクリックすると、「市民向け」と「企業・個人事業主向け」に分かれています。市民向けをクリックすると、どんな情報を探しているかで検索できます。「おかねこと」なら「支援金・見舞金がほしい」「お金を貸してほしい」、「相談したい・解決したい」「その他」から選べて、支援金・見舞金がほしいをクリックすると、利用できる可能性のある支援制度が出てくるようになっています。その人に必要な制度を迅速に探せます。

石川県 令和6年能登半島地震 支援情報ナビの検索画面

また、制度の説明の画面も見やすく工夫しました。概要、支援内容、対象者、利用・申請方法、問い合わせ先などを簡潔にまとめています。国や自治体のホームページにある制度の説明は情報量が多く、すごく読み込まないといけないし、違うページに飛んで見ないといけないことが多々あります。被災して大変な生活環境の中、ゆっくり制度のページを見るのは被災された方にとってはなかなかしんどいことです。なので、なるべく簡潔にまとめて、自分が使えそうな支援を見つけられることを重視し、その後自治体で職員の方とのやりとりがスムーズになるようにしました。

これは職員の方にもメリットがあります。自治体職員の方は、避難所の案内や物資の配給などさまざまな仕事があります。そんな中、相談に来られた方に合う制度を案内するのは時間的にも難しいこともあります。でもこのサイトがあることで、すぐにその方に合った制度をご案内できますし、多くの制度を紹介することができます。

Q 反響や住民の方からの声は?

安井:石川県庁様からは、「石川県 令和6年能登半島地震 支援情報ナビ」を大変評価いただいており、石川県庁さんの公式ウェブサイトの緊急時トップページにも掲載されています。

障害がある方やご家族への相談活動や被災施設へ支援活動を行う支援団体「のとささえーる」の方からは、「障がい者は施設に入るにも元の居場所で手続きが必要なため、こうしたサイトがあると、被災地域から避難している状態でも、自分がいた場所の情報を入手しやすいのはとてもありがたいとのこと。ご家族や支援者にはまだまだ知られていないので、これから活用していきたいと思います。 障がい者さんは、自分では理解が難しい場合もありますが、周りの人が同じ情報を共有できていることがスムーズな支援につながります。そういった意味でも必要なのではないでしょうか。」というお言葉をいただいています。(引用:一般社団法人コード・フォー・カナザワのnote

また、輪島市へ応援に行かれた都内の職員の方からは、「保健師さんが高齢者の方の健康診断で訪問される際に、支援情報など様々聞かれることがあり、そういった時に活用できそうだ」というような声もお聞きしました。

「令和6年能登半島地震 支援情報ナビ」総合サイト

Aid for プロジェクトの国際展開も視野に入れて

Q 今後の展開について教えてください。

安井:日本は災害大国なので、支援情報はどこの地域でも必要な情報だと思います。ぜひ今回の能登以外の他の自治体でも災害が起こる前に導入を検討いただければと思います。まさに“備えあれば患いなし”で、「備災」の取り組みが大切になってきていると感じています。

民間企業にもご利用いただきたいですね。例えば、自社のご契約者にこういった災害における支援制度情報をサービスの一貫として提供できないか提案したり、また、データベースがほしいという企業様に提供していきたいと思います。この取り組みに社会的意義があると共感いただき、支援してくださる企業が増えていくといいなと考えています。

今後の展開として、事前登録型の「My Safety Net」の構築を検討しています。事前に登録していることで、プッシュ型で支援制度情報が届くというものです。例えば、住まいに関するお金の支援制度の場合、賃貸か持ち家か、鉄筋コンクリート造か木造かどなどを事前に登録しておけば、自分に必要な支援制度が届くようになるシステムです。被災後に、そういったことを答えるのは大変なので、時間があるときに登録しておくとことで、いざというときに便利。これは災害以外の失業や医療などの場合にも対応できるので、さまざまな制度に応用が効くと考えています。

もう一つは、国際展開です。災害大国である日本の災害支援制度は、本当に行き届いていて、他国で法整備の参考にされることが多いんです。また日本は、日本の制度を参考にしながらその国に合わせた法制度整備を手伝っていることもあり、ODA(政府開発援助)の実績としてあると聞いていますので、弊社のシステムのノウハウをODAとして海外に提供できる可能性もあるのはないかと考えています。気候変動によって災害が起こる可能性はどこでもあるので、そういった国際展開も実現できたらと思っています。

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