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2022年5月11日

【デジタルデバイド】高齢者だけの問題じゃない! 情報格差がもたらす問題点と解決策

デジタルデバイドとは、インターネットやパソコンなどの情報通信技術を利用して、それらの恩恵を得られる人と、うまく利用できないために恩恵が得られない人との間に生じる格差という意味です。ここでは、デジタルデバイドの種類や原因、デジタルデバイドによって生じる問題点とその解決策などについて紹介します。

デジタルデバイドとは

デジタルデバイドとは
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「デジタルデバイド」は、「digital」と「分離、分割」を意味する「divide」を組み合わせた言葉で、「情報格差」「情報弱者」といわれることもあります。インターネットやパソコンなどの情報通信技術を利用して、それらの恩恵を得られる人と、うまく利用できないために恩恵が得られない人との間に生じる格差という意味があります。「divide」には「格差」という意味はありませんが、「デジタルデバイド」は「情報技術によって区切られている」状態を指すようです。

この言葉は、1996年に当時のアメリカ合衆国副大統領、アル・ゴア氏の発言がきっかけで広まったといわれています。日本では、2000年に開催された沖縄サミットで主要先進国が取り組むべき課題のひとつとして取り上げられるなど、重要な社会課題として注目されるようになりました。一般的に「情報技術によって分断されることのない社会を目指す」というような文脈で使われています。

デジタルデバイドの種類

デジタルデバイドの種類
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デジタルデバイドは、世界のどこにでも存在します。それでは、どのようなかたちで存在するのでしょうか。ここではデジタルデバイドのおもな種類について見ていきます。

国際間で起きるデジタルデバイド

国家間の経済的な要因を背景に生じる情報格差です。情報通信インフラの整備が進む先進国と発展途上国の間には大きな情報格差があり、国家間の経済交流やビジネスのグローバル化、技術基盤の確立や教育などの面で影響があるといわれています。情報通信基盤の整備や人々の情報リテラシーの向上には、大きな資金投入が必要となりますが、不安定な経済状況下では対応することができません。

地域間で起きるデジタルデバイド

国内の都市部と地方部の間に生じる情報格差です。インターネットやブロードバンドの利用環境は、各地域の情報通信インフラの整備状況によって異なります。5Gなどの新たな通信基盤の整備は、都市部から地方部へと広がっていきますが、その過程で地方が取り残されるケースは少なくありません。また、ICT(情報通信技術)を使いこなす人たちが都市部に集中してしまうことも、地域間のデジタルデバイドの要因となっています。

個人・集団間で起きるデジタルデバイド

個人や集団の年齢・学歴・所得などによって生じる情報格差です。それぞれの家庭の収入によって、保有する情報端末やインターネットへの接続環境に違いが生じる、学歴の高い人や若者たちのほうがITリテラシーが高く、IT機器を使いこなせない高齢者よりも必要な情報に素早くアクセスすることができるなどの傾向が見られます。

デジタルデバイドを引き起こす原因

デジタルデバイドは、どのような理由があって生じてしまうのでしょうか。総務省が行った「令和2年版情報通信白書」では、年齢や収入などによって、インターネットの利用率に違いがあることが明らかになりました。

年齢による格差

年齢別のインターネット利用率では、高齢者の利用率に大きな伸びが見られますが、依然、他の年代との差は明らかです。現状の生活に問題が生じなければ、新たに情報端末を持ってインターネットを利用する必要はないと考える層が一定数存在することがわかります。

一方、インターネット利用に慣れていることから「デジタルネイティブ世代」と呼ばれている20代の若者ですが、スマートフォンやタブレットは自在に使いこなすものの、パソコンを使用する機会が少ないために、パソコンへの入力や設定、OSに関する知識が浅いといったデジタルデバイドが発生しています。

目的別利用メディア/「令和元年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査〈概要〉」総務省情報通信政策研究所
目的別利用メディア/「令和2年版情報通信白書|ICTサービスの利用動向」総務省

学歴や所得の格差

所得世帯年収別インターネット利用率は、年収400万円以上の階層では9割を超えています。ただし、それ以下の階層で9割に達していないのは、インターネット利用環境の整備にコストがかかるために生じた格差と考えられます。

ITの知識量による格差

日本におけるIT教育は、他の先進国と比べて後れをとっているといわれます。この結果、デジタルに詳しい層と詳しくない層との間に格差が生じています。IT人材は、IT環境が整いIT技術が進んだ国に流れていくといわれるので、このままでは、IT人材不足がますます深刻化する懸念があります。

インターネットの利用目的による格差

インターネットの利用目的は、「電子メールの送受信」が各年齢階層でもっとも多く、「動画投稿・共有サイトの利用」や「オンラインゲーム」では、各年齢階層の差が大きくなっています。趣味や娯楽だけにインターネットを利用する人々にとっては、事業を広げたり、収益につなげたりするための有益な情報を入手することは困難でしょう。インターネットの利用目的によって入手可能な情報が異なるために、それが情報格差となります。

都市部と地方部の格差

地方では、少子高齢化が進み、働き手となる世代が都市部に移動することにより、深刻な過疎化が進む地域も少なくありません。離島や山間部にある地域でシステム障害が発生した場合には、対応のための人材派遣が遅れたり、多くのコストがかかることになります。

障がいの有無による格差

視覚や聴覚、知的障がいなどによって、取得できる情報に差が生じることがあります。このような障がいを持つ人々が必要とする、より多くの情報にアクセスすることができるようになるための情報端末の進化や利用環境の改善が求められています。

デジタルデバイドによって生じる問題点

デジタルデバイドによって生じる問題点
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デジタルデバイドが起きることによって、どのような問題が生じるのでしょうか。私たちの社会が受けることになるデジタルデバイドの影響について考えてみます。

教育の格差

コロナ禍では、教室で行われていた授業を、登校することなく自宅で受けることができる「オンライン授業」が試行されました。しかし、家庭ごとにインターネットの利用環境が異なり、所有するパソコンやタブレットなどの情報端末にも違いがあります。また、そうした機器を操作する能力や練度にも差があるために、格差が生じてしまう懸念があります。

就業機会の格差

企業の採用活動においては、面接などの選考をオンラインで実施するケースも増えています。ところがインターネット環境が十分に整備されていない地域に住む人にとっては、オンラインによる選考に参加することができずに就業機会を失ってしまうケースもあるようです。また、テレワークを行う企業も増えていますが、それに対応できる社員とそうでない社員との間にもデジタルデバイドは生じます。

緊急時や犯罪の危険性

自然災害や疫病の拡大、テロの発生など緊急時の情報を、リアルタイムに受信して活用するためにも、インターネット利用は有効です。ICTに関する深い知識を持ち、より高度な情報収集能力を備えた人ほど、適切な対応をとりやすくなり、うまく扱えない場合には、災害時の行動に迷い、逃げ遅れたりするかもしれません。また、インターネットを使った犯罪に遭遇するリスクも高くなるでしょう。

高齢者が孤立しやすい

インターネットを利用して入手可能な情報のすべてが正しく、信頼できるものではありません。その時々に必要な信頼できる情報を得るためには、それにたどり着くためのITリテラシーを身につけておく必要があります。情報通信インフラが未整備な地域で暮らす人やインターネットを利用するための情報端末を所有していない場合には、情報を得る手段が限られているために、有益な情報を見落としてしまうこともあるでしょう。この傾向は高齢者になるほど高くなります。また、SNSなどでつながる機会もない高齢者などが、コミュニティ内で孤立し、孤独感を強めてしまうことも考えられます。

IT人材の不足・流出

情報通信インフラの整備が進んだ国や地域では、多くの人がインターネット利用による価値や利便性を享受することができ、利用頻度も高くなります。利用しながら、自然に高度なITリテラシーを身につけることができ、優秀なIT人材の育成にもつながるでしょう。IT人材は、IT技術が発展した国に流れていくといわれているので、IT環境の整備とIT教育に注力してIT人材を流出させることなく、数多くのIT人材がシステム開発に注力できる環境を整えることが大切です。

国際競争力の低下

国際間のデジタルデバイドによって、情報通信技術の分野で後れをとってしまえば、グローバル化の波に乗れずに国際競争力を低下させてしまいます。国際間のデジタルデバイドを解消していくことは、情報に関する不平等をなくして各国の生産性を高め、文化的な相互理解を促すことによって、より豊かな国際社会の実現することにつながります。

デジタルデバイドを解消する解決策例

デジタルデバイドを解消する解決策例
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デジタルデバイドの解消に向けて、具体的にどのような取り組みが必要になるのでしょうか。ここでは4つの解決策を示します。

高齢者のICT活用を支援

高齢化社会においては、高齢者によるICTの利活用をサポートする施策の実施が重要です。高齢者を対象とするデジタル講習会などを増やしたり、高齢者でも使いやすい端末の開発を進めたりすることで、年齢によるハードルを少しでも下げていくことが、分断を解消する解決策のひとつになります。

IT人材の確保

IT業界全体の人材をいかに増やしていけるのかが大きな課題となっています。先進国と発展途上国の間でIT人材の交流を活発化させたり、都市部から地方部への人材派遣などを行うことによって、国と国、都市と地方の分断を解消し、後進地域での人材育成、インフラの整備を進めることで、ITビジネスの投資対象となるエリアを拡大させ、IT企業の進出が期待できるようになります。

端末やコンテンツのユニバーサル化

たとえば視覚障害者には音声機能やキーボードの工夫をするなど、多様な障がいに対応したユニバーサルな機器の開発が待たれます。またWebコンテンツにおいても、さまざまな障がいに配慮して、アクセシビリティの高い設計としなければなりません。

無料で利用できる端末の設置

オンライン授業を行うにあたって、子どもたちに無償でデジタル機器を貸し出す学校も増えています。また、自治体によっては、無料で利用できるパソコンや通信機器を備えた施設を設置しているところもあります。経済的な理由から情報端末を手に入れにくいという人たちを情報弱者としないためにも、有益な施策といえるでしょう。

国・自治体のデジタルデバイド対策

国・自治体のデジタルデバイド対策
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国や自治体においても、デジタルデバイドの解消は重要な政策課題となっています。ここでは、「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現に向けた総務省による支援事業や各自治体による独自の施策を紹介します。

総務省の取り組み

総務省では、デジタルデバイドの解消のための取り組みとして「デジタル活用推進」や「デジタル・デバイド解消に向けた技術等研究開発(情報通信利用促進支援事業費補助金)」などの事業を実施しています。

デジタル活用支援

総務省は、デジタル活用に不安のある高齢者などを対象とする講習会を、携帯ショップなどを中心に全国約1,800カ所で実施(2021年度)しました。2022年度以降も、高齢者などがより身近な場所で参加できるよう、携帯ショップのない市町村や携帯ショップがあっても講習会を開催できない市町村では、近隣の市区町村の携帯ショップなどから講師の派遣を行うことによって、公民館等で講習会を行うことを検討しています。2021年度から2025年度の5年間で、延べ1,000万人の参加を目指しています。

このような総務省の事業に加えて、他の府省、自治体、教育機関、NPO法人などと連携し、若い世代が高齢者に教えたり、高齢者が気軽に相談したり教えあえる場を提供するなど、国民運動としての取り組みへと広げていく構えです。

情報バリアフリー通信・放送役務提供・開発推進助成金

デジタル・デバイド解消に向けた技術等研究開発(情報通信利用促進支援事業費補助金)事業として、高齢者や身体上の障がいのために、通信・放送役務の利用に支障のある人々がより円滑に利用できるように通信・放送サービスの開発などを行う民間企業などに対して、必要な資金の一部を助成するものです。

自治体でも独自のデジタルデバイド対策

「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現のために、自治体ごとの実情にあわせてデジタルデバイドの解消に向けた取り組みが実施されています。

東京都渋谷区

渋谷区では、高齢者デジタルデバイド解消に向けた実証事業として、スマートフォンを保有していない65歳以上の区民に対して、2年間無料で貸し出し、機器やアプリの活用を支援します。この事業は、高齢者のQOLの向上を図ることを目的としています。

石川県加賀市

加賀市は、デジタル活用支援員推進事業として、市内の高齢者がスマートシティ推進によるデータ駆動型社会の恩恵を受けるために、スマートフォンなどのデジタルデバイスの使い方相談会を開催しています。「スマートフォンの基本操作」から「マイナンバーカードを活用した電子申請」まで、参加者の習熟度に応じた教室を開催しています。

愛媛県松山市

松山市は、市内在住のひとり親などを対象に、仕事と育児の両立を支援する「松山市ひとり親家庭等の在宅就業支援事業」 に取り組んでいます。ひとり親に対して3カ月間の基礎訓練を行い、その後12カ月間の応用訓練・OJT研修を実施します。受講後は個人事業主または契約社員として在宅業務に従事するか、委託事業者が運営するBPOセンターが直接雇用します。

神奈川県川崎市

川崎市では、市の公式ホームページなどを通じた情報入手を誰でも便利で快適に行えるようにするなど、川崎市官民データ活用推進計画の1施策として、利用機会などの格差是正に向けたデジタルデバイド対策を推進中。具体的には以下の施策を進めています。

  • ウェブアクセシリビリティ確保のための環境整備の推進
  • 高齢者などの情報リテラシー向上に向けた取り組みの推進
  • 公衆無線LAN環境の整備
  • 多様なチャンネルを通じた地域情報の発信など

デジタルデバイドは、単に高齢者や開発途上国だけの問題ではありません。ますますその発展が期待される情報化社会において、誰もが平等に必要な情報にアクセスして、豊かな暮らしを実現するためには、より多角的な視点からデジタルデバイドの解消に努めなければなりません。

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