マイナンバーについてどこまで知っている? マイナンバー法が成立するまでの紆余曲折【マイナンバー制度①】
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- writer : GDX TIMES編集部
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マイナンバー制度は、複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であることを確認するためのもので、社会保障や税制度の効率性を高め、国民に利便性の高い行政サービスを提供するための社会基盤です。ここでは、マイナンバー法が成立するまでの経緯やマイナンバー制度導入が急がれた理由などを紹介します。
マイナンバー導入に拍車がかかったのは「消えた年金」問題がきっかけ
マイナンバーカードの取得者を対象とする「マイナポイント事業」の第2弾が、2022年1月1日よりスタートしています。第1弾のポイント付与を受けていない人、あるいは今後取得される人をはじめ、マイナンバーカードの健康保険証としての利用申込者や公金受取口座の登録者に、ポイントが付与されます。日本政府は、このようにマイナンバーカードの普及に本腰を入れて取り組んでいますが、その理由や背景についてきちんと理解することが大切です。
マイナンバーの導入についての議論が本格化したのは、2007年の「消えた年金」問題※の発覚がきっかけでした。年金記録を正しく管理し、社会保障制度をうまく機能させるためには、その基盤となる個人番号制度の重要性が注目されるようになりました。
※「消えた年金」問題では、それまで年金制度ごとに分散して管理されていた年金記録を基礎年金番号に統合した際に、持ち主不明の年金記録の存在が明らかになりました。このことを国会で指摘され、社会保険庁(当時)のずさんな管理が問題となりました。
その後、政府は「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」や「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」などを設置して検討を進め、マイナンバー制度導入の動きは勢いを増していきました。そして2013年、いよいよ「マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)」が成立することになりました。
この制度の本格的なスタートは、2016年1月から。マイナンバーカードの交付が開始され、社会保障や税金の申請や手続き・管理にマイナンバーが用いられるようになりました。
日本のマイナンバー制度前にあった共通番号制度
共通番号制度の導入は、マイナンバー制度の導入前から何度も試みられてきましたがいずれも頓挫しています。ここでは、日本におけるマイナンバー制度導入に至る歴史をたどってみることにします。
国民総背番号制度
日本の共通番号制度は、1968年に佐藤栄作内閣が「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置して、すべての国民に個人コードの付与を計画したことに始まります。行政業務の効率化とサービス向上を目的として、各省庁が統一の個人コードを利用する番号制度の導入を検討しました。しかしながら、この「国民総背番号制度」は国民監視につながるなどの反対意見が多く、頓挫することになりました。
納税者番号制度
1978年、政府・税制調査会は「昭和54年度の税制改正に関する答申」のなかで「利子・配当所得の適性な把握のためいわゆる納税者番号制度の導入を検討すべきとする意見」があったと記載しました。しかし、1979年の税制調査会「利子配当・土地税制特別部会」報告では、「納税者番号制を導入するために十分な環境整備が行われているとはいいがたい」とし、グリーンカード制度の採用が適当としました。1980年3月末には、所得税法改正案が可決され、1984年1月からの制度実施が決定したものの、各界からの根強い反対のなか一度も実施されることなく1985年に廃案となりました。
住民基本台帳ネットワークシステム
市町村が個別に保有する住民基本台帳(住民票)をネットワーク化し、全国レベルでの本人確認を可能とする構想が浮上し、自治省(現総務省)を中心に検討が進められました。1994年に発足した「住民記録システムのネットワークの構築等に関する研究会」は、1996年3月に最終報告書を提出しました。
これを受けて1998年3月、「住民基本台帳法の一部を改正する法律案」が国会に提出され、翌1999年に成立。2002年8月から国民への住民票コードの通知が始まり、行政機関への本人確認情報の提供がスタートしました。2003年8月からは、住民基本台帳カード(住基カード)が交付開始となり、住基ネットの本格運用が始まりました。
住基カードは、公的な身分証明書として利用できるほか、電子申請での本人確認や市町村が行う独自のサービスが受けられるなどの機能を持っていました。しかしながら、2014年3月末時点での普及率は5%程度にとどまり、広く利用されることはありませんでした。
マイナンバー法の検討が急がれた背景
マイナンバー法成立までの経緯をたどると、2009年12月に閣議決定された「平成22年度税制改正大綱」までさかのぼります。このなかで、共通番号制度の導入についての言及がなされました。
先述のとおり、マイナンバーに関する議論が活発したきっかけは「消えた年金問題」でしたが、当時の日本は、そもそも以下のような状況下にありました。
人口減少と高齢化が同時進行する社会への突入
人口構造の変化は、日本経済を支える労働者や消費者の減少につながり、経済成長力を減退や納税者の減少によって税収も大きな影響を受けます。この結果、年金・医療・介護など社会保障制度の根幹が大きく揺らぎ、国民の将来不安の大きな原因になっていました。
グローバル化の急速な進展
私たちの生活は、常にグローバルな経済社会のなかで営まれるために、あらゆる活動が国内だけで完結することはありません。グローバル化の進展は、経済の効率化による富の拡大などの成果をもたらしてきましたが、一方では、競争に敗れた国内産業の衰退、国際的な格差の拡大、投機的資金の流出入による市場の混乱などの副作用ももたらしました。
国内での格差拡大
グローバル化の急速な進展や規制緩和の推進によって、企業間競争は激化し、非正規雇用が増大。加えて税財政の所得再分配機能の低下などによって、所得階層間や世代間での利害の対立が見られるようになりました。地域間の格差も広がりつつあり、このような格差が固定化するおそれがありました。
資源制約の問題
資源小国である日本では、エネルギー資源の確保を長年の課題としてきました。日本経済はエネルギー価格の上昇に対して脆弱であり、とくに近年の途上国の経済発展などに伴うエネルギー価格の上昇が企業収益を圧迫し、人件費削減の要因となったとの指摘もあります。
政府への信頼失墜、国民不安を招いた原因
「平成22年度税制改正大綱 ~納税者主権の確立へ向けて~」では、とくに以下の点については政府の対応が不十分だったとして、その理由を述べています。
人口減少・超高齢社会への対応への大幅な遅れ
グローバル化による国際間競争の激化は、企業による従業員への福祉を減退させる傾向にあります。一方、核家族化や単身世帯の増加、生活スタイルの多様化などにより、家族や地域を核とするコミュニティの力も失われつつあります。こうしたなか、セーフティネット機能を社会全体で担うという本来あるべき姿へと導くためには、現行の社会保障制度を抜本的に改革し、少子化対策を強力に推進することなどが求められますが、対応が十分ではありませんでした。
透明性と公平性を欠いた予算編成、税制改革
一度予算がつくとそれが既得権となって、削減されるべき不必要な予算までもが温存され続けることになります。また、税制の改正についても、その決定過程が不透明であるために、一部の人や組織だけが恩恵を得ているのではないかという疑念が生じ、納税者の立場から見た公平性が欠如するかたちとなっていました。
国や自治体の債務超過
国が抱える長期債務残高は、他の先進諸国では考えられないような水準に達しています。国債の発行が増大すれば、金利の上昇を招き、財政はさらに悪化します。政策の実行は制限され、個人の債務負担も増加し、企業の設備投資や資金繰りに悪影響を与えるおそれがあります。また、財政赤字は将来世代への負担先送りを意味しますから、世代間の不公平を拡大させる原因にもなります。同様に地方の債務残高の累積も大きな問題であり、抜本的な解決が求められています。
共通番号制度整備は、抜本的な社会保障制度改革の取り組み
このような時代の大きな転換期に求められていることは、政府がきちんとしたセーフティネットを整備することによって、国民に安心感を与えることです。
「平成22年度税制改正大綱」では、「社会保障制度と税制を一体化し、真に手を差し伸べるべき人に対する社会保障を充実させるとともに、社会保障制度の効率化を進めるため、また所得税の公正性を担保するために、正しい所得把握体制の環境整備が必要不可欠」として、マイナンバー制度について言及しています。それまでにも共通番号制度の導入に向けたいくつかの取り組みが見られましたが、この制度の再構築のよる社会保障制度の改革は、まさに待ったなしの状態にありました。
マイナンバー法とは
2010年2月に「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」を設置し、その後も「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」や「番号制度創設推進本部」で議論を重ね、国会での審議を経て、マイナンバー関連4法が公布されたのは、2013年5月31日のことでした。
マイナンバーに関連する必要事項をまとめた法律
マイナンバー法の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」です。以下の4つの法律をまとめた総称として「マイナンバー関連法」と呼んでいます。
- 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)
- 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成25年法律第28号)
- 地方公共団体情報システム機構法(平成25年法律第29号)
- 内閣法等の一部を改正する法律(平成25年法律第22号)
内閣法等の一部を改正する法律(平成25年法律第22号)
マイナンバー制度(マイナンバー法)を、円滑に運営するためには、以下の3つの仕組みが必要になります。
付番
新たに国民一人ひとりに、官民で利用可能な唯一無二の見える番号を、最新の住所情報と関連づけて付番する仕組み。
情報連携
複数の機関において、機関ごとに管理していた同一人の情報を紐づけし、活用する仕組み。
本人確認
個人や法人が番号を利用する際に、利用者が番号の持ち主であることを証明するための本人確認(公的認証)の仕組み。
個人情報の保護と不正利用の防止は重要な課題
マイナンバー制度に対する国民の懸念としては、国によって一元管理されることへの不安や、個人情報漏洩への危険性、なりすましなどの不正利用による被害発生などがあります。これらの不安要素を解消するために、どのような対策がとられているのかを見ていきます。
安全対策1|落としても他人が使うことができない
マイナンバーカードには本人の顔写真が入っているため、対面での悪用は困難です。また、オンラインで使用するためには、本人だけが知る暗証番号が必要になります。さらに、不正な手段で情報を読みだそうとすると、ICチップが壊れる仕組みとなっています。
安全対策2|大切な個人情報は入っていない
プライバシー生の高い個人情報は、マイナンバーカードのICチップには記録されていません。税や年金などの情報は、各行政機関において分散して管理されています。このため、仮にマイナンバーを他人に知られても、そこから個人情報が漏れることはありません。
安全対策3|24時間365日体制で一時利用停止を受付
マイナンバーカードを紛失したり、盗難にあった場合には、24時間365日体制で一時利用停止を受け付ける体制を整えています。
制度面・システム面ともに徹底した保護措置
マイナンバー制度における安全・安心を確保するために、制度面で行った保護措置は以下の通りです。
- 本人確認措置(マイナンバーの確認・身元(実存)の確認)(マイナンバー法第16条)
- マイナンバー法の規定によるものを除き、特定個人情報(マイナンバーをその内容に含む個人情報)の収集・保管、特定個人情報ファイルの作成を禁止(マイナンバー法第20条、第29条)
- 個人情報保護委員会による監視・監督(マイナンバー法第33条〜第35条)
- 特定個人情報保護評価(マイナンバー法第21条、第28条)
- 罰則の強化(マイナンバー法第48条〜第57条)
さらにシステム面では、以下の保護措置を実施しています。
- 個人情報を一元的に管理せずに、分散管理を実施
- マイナンバーを直接用いず、符号を用いた情報連携を実施
- アクセス制御により、アクセスできる人の制限・管理を実施
- 通信の暗号化を実施
マイナンバー制度に対する国民の正しい理解やマイナンバーカードの普及率の低迷、サービスのさらなる拡充など、多くの課題が山積するなか、現時点ではこの安全性確保のための保護措置は、日本のマイナンバー制度が誇るべき特長のひとつといえるでしょう。なりすましやセキュリティ、個人情報の取り扱いなど、後発組ゆえに各国の事例をふまえた制度設計を行えた点も多くあります。一方で、さまざまなリスクを回避するために、制度自体が煩雑化し過ぎていて、利便性を損なうことになっていることは否めません。