世界のイノベーション動向に、日本のイノベーション施策は通用するか?【オープンイノベーション②】
- category : GDX ナレッジ #データ社会
- writer : GDX TIMES編集部
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オープンイノベーションは、企業や大学、スタートアップなどが組織の枠を越えて連携し、新たな価値やサービスを創出することです。このオープンイノベーションのアプローチ、世界のイノベーション動向、日本における関連政策、自治体でのオープンイノベーション事例などについて紹介します。
オープンイノベーションは、社会に求められている新しい価値の創出スタイル
イノベーションは、それまでになかった製品やサービスなどによって、新たな価値を社会にもたらします。多くの企業では、自社の保有技術や知的財産を保護して、組織外に展開することを避けてきましたが、このような壁を取り除き、より効率的にイノベーションを創出するためのアプローチとして、近年、注目されているのがオープンイノベーションです。
オープンイノベーションは、組織の内外を問わず、世界中に広がる技術やアイデアなどのリソースを活用して革新的な価値を創出することです。企業や大学、スタートアップなどが互いに連携して、これまでになかった付加価値の高い製品やサービス、ビジネスモデルなどを創出します。
多様化する顧客ニーズへの柔軟な対応を可能とし、プロダクトサイクルの短期化にも有効なオープンイノベーションですが、その実施率や投資割合を見ても、日本ではオープンイノベーションの動きが思うように進んでいません。
詳しくは、以下の記事をお読みください。
なぜ日本ではイノベーションが生まれにくい? 日本のイノベーション事情を探る【オープンイノベーション①】
世界のイノベーション動向
下図は、企業におけるオープンイノベーション活動の国ごとの違いを確認するために実施された質問票調査の結果です。この調査によると、オープンイノベーション活動を実施したことがある欧米企業は、回答企業のうち78%を占めていました。これに対して、オープンイノベーション活動を実施したことがある日本企業は47%という結果に。日本企業のオープンイノベーション活動への取り組みは、欧米企業に比べて相対的に、活発ではないことがわかりました。
同調査では、「イノベーション関連の総予算のうち、オープンイノベーション活動に費やした予算の割合」という観点から調べています。この結果、日本企業よりも欧米企業のほうが、より多くの予算をオープンイノベーション活動に費やしていることがわかりました。
国ごとのイノベーション創出力を評価する指標として広く利用されているものに「Global Innovation Index(GII)」があります。このGIIでは、世界129の国または経済圏に対して以下の7点からなる指標を評価し、ランキングを出しています。
- 公的機関
- 人的資本と研究
- インフラストラクチャー
- 市場の成熟度
- ビジネスの高度化
- 知識と技術アウトプット
- 創造的なアウトプット
下図は、2011年から2019年のGII上位国の推移ですが、日本は少しずつ順位をあげ、2019年は15位でした。ただし、「②人的資本と研究」では、教育に対する政府支出の少なさや海外からの留学生数の少なさから、「⑦創造的なアウトプット」では、ICTやビジネスモデルの創造の状況やICTを活用した新たな組織モデルの活用状況などの点で、いずれも評価が低くなっています。
日本のイノベーション関連政策
もともとのイノベーションの目的は、企業の経済的利益の追求です。ところが近年の企業活動においては、その社会的責任も問われるようになり、その結果、企業による社会課題への取り組みは、オープンイノベーションのあり方にも変化をもたらしました。とくに欧州では、欧州委員会(EUの政策執行機関)を中心に、企業、大学、研究機関、行政など、従来のオープンイノベーションの主たる連携のなかに、市民やユーザーを巻き込んで共創する「ビジネス・エコシステム」の形成を目指す動きが見られるようになりました。このような動きは「オープンイノベーション2.0」と呼ばれています。
日本においても、少子高齢化や資源・エネルギーの問題など、日本が直面する社会課題の解決に向けて、産学官民が連携してイノベーションを推進すべきとして、そのための環境を整備する、以下のような各種施策を実施しています。
オープンイノベーション促進税制
スタートアップ企業とのオープンイノベーションを促進するための税制措置です。国内の事業会社やコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)などが、オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業(設立10年未満の国内外非上場企業など)の株式を取得する場合、取得価額の25%を課税所得から控除できます。
オープンイノベーション白書
日本におけるオープンイノベーション推進の一助とすべく、オープンイノベーション協議会(JOIC)と国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によって公開されています。2016年7月公開の初版では、可能な限り多くのデータを集め、日本におけるオープンイノベーションの現状を可視化するとともに、オープンイノベーションによって一定の成果をあげた企業の事例を掲載しました。
2018年6月公開の第二版では、オープンイノベーションの目的や期待できる効果に着目し、具体的な成果を出しつつある取り組みを整理しました。最新の第三版(2020年6月発行)では、イノベーションの歴史を整理したうえで「日本がイノベーションを創出するために何を考え、何をしなければならないか」という方策を検討し、整理しています。
オープンイノベーション機構の整備事業
大学と企業とが「組織」対「組織」として、本格的でパイプの太い持続的な産学官連携へと発展させる基盤として、「オープンイノベーション機構」と呼ぶ組織を、採択された各大学内に構築・整備しようとする事業です。産業界などから経験豊富なプロフェッショナル人材を招聘し、クリエイティブ・マネージャーとして登用。大学の組織や制度を強化しながら、全企業の事業戦略に深く関わる大規模な共同研究を集中的にマネジメントする体制(=オープンイノベーション機構)を、自立的に運営していくための支援を行います。
内閣府オープンイノベーションチャレンジ
イノベーションの創出を、機動的にスピード感をもって行うための、内閣府による取り組みです。行政機関(国の省庁や地方自治体など)が抱える課題をもとにテーマを設定し、スタートアップや中小企業を含めた連携チームによる提案を募ります。スタートアップ・中小企業による新たな技術や着想を積極的に発掘し、事業化することを目的とした事業です。
中小企業技術革新制度
スタートアップなどによる研究開発を促し、その成果を事業化することよってイノベーション創出を促進するための制度です。この制度の目的は、国の機関から研究開発型のスタートアップなどへの補助金や委託費の支出機会を増やすしくみをつくること。
そして、それら補助金や委託費の効果を高めるために、公募や執行に関する統一的なルールを設定するとともに、研究開発成果の社会実装に向けた随意契約制度の活用など、事業活動支援などを実施し、初期段階の技術シーズから事業化までを一貫して支援することです。
地域未来構想20オープンラボ
内閣府では新しい生活様式の実現に向けて、地域で取り組むことが期待される政策分野を「地域未来構想20」と定め、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用して推進しています。
これら20の政策分野の取り組みを推進するためには、以下の三者連携が重要になります。
- それぞれの分野に関心のある自治体
- 各分野の課題解決に向けたソリューションを有する専門家(民間企業などを含む)
- 関連施策を所管する府省庁
そこで、自治体、専門家、府省庁のマッチングを支援するために開設されたのが「地域未来構想20 オープンラボ」です。このサイトは、2023年3月31日をもって閉鎖されますが、閉鎖後も「官民のマッチング支援機能」は内閣府地方創生推進室にて運営する「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」 に集約されます。
自治体でも増えてきたオープンイノベーション事例
日本におけるオープンイノベーションの多くは、当初、大企業とスタートアップの共創というかたちで推進されてきました。最近では、こうした動きに加えて、自治体と地場の事業者、スタートアップという構成で、オープンイノベーションを推進する事例が増えているようです。自治体が主導する地方発のイノベーションが、どのように展開されるのかを理解するために、注目事例をタイプ別に見ていきます。
地域特有の課題を官民共創で解決するタイプ
札幌市:Local Innovation Challenge HOKKAIDO
さっぽろ連携中枢都市圏の12自治体と連携し、圏内の地域・行政課題を、国内外のスタートアップとの協働で解決を図るプロジェクトです。2020年にスタートし、3年目となる2022年には、共通テーマとして「行政DXの推進」や「交流人口・関係人口の創出」、個別テーマとして「新しい観光サービスの創出」(小樽市・岩見沢市・江別市・当別町・南幌町)、「除雪オペレーションのスマート化」(恵庭市)、「公共空間の利活用・賑わい創出(南幌町)」など計14のテーマに対してアイデアを募集しました。採択プロジェクトの決定後、スタートアップ、自治体、事務局の協働による実証実験を実施し、その成果をとりまとめサービス導入や実験の継続などについて確認します。
地場産業とのマッチングによる事業創出を目指すタイプ
STATION Aiとは、PFIの手法によって建設・運営されるプロジェクトの中核支援拠点です。ここに地域の意欲あるスタートアップを集め、海外スタートアップ支援機関・⼤学との連携を通じて、高品質のスタートアップ支援プログラムなどをワンストップ・ワンルーフで提供する計画です。スタートアップの創出・育成し、海外展開を促すとともに、世界から有力なスタートアップを呼び込むことで、有力なスタートアップを呼び込むことを目指しています。また、スタートアップと地域のものづくり企業などの交流拠点となることが期待されています。
自治体による投資・育成支援を行うタイプ
浜松市:ベンチャー企業進出・成長応援サイト「HAMACT!!」
市内のスタートアップに対して、ベンチャーファンドからの出資と自治体による協調出資によって事業資金を交付し、スタートアップを支援する取り組みです。2022年度事業では、シード期(起業前もしくは起業後間もない段階)のスタートアップの支援や市内事業者とスタートアップとの協働によるイノベーション創出を目指して、「シード・R&D枠」「一般枠」「協業枠」の3つの区分による支援を実施しました。
実証事業の場を提供タイプ
コロナ禍で厳しい経営環境に置かれる広島県内の中小企業などが、AI/IoTなどのデジタル技術の導入とその活用によって新たな付加価値を創出できるように、さまざまな産業および地域の課題解決をテーマとする取り組みに対して、「広島県をまるごと実証フィールドに」とする実証実験の場を提供しています。これまでの4年間に「ひろしまサンドボックス」で実証を行い、地域への波及効果や事業性が検証された取り組みは100を超え、これらの実装にあたっての導入費用などに最大1,000万円の支援を実施しています。
オープンイノベーションによって、組織内のリソースだけでは達成できない新たな価値を創出することは、組織を発展させるばかりではなく、組織内の人材を成長させる貴重な取り組みとなるでしょう。自治体においても、地元企業やスタートアップと連携して地域課題の解決に取り組むことで、地域の魅力を増し、地域経済が活性化することが期待されます。