死亡・相続手続きの実態把握から「おくやみ手続支援窓口」展開までの“デザイン”を検証【ワンストップサービス②】
- category : GDX ナレッジ #手続・申請
- writer : GDX TIMES編集部
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「おくやみコーナー」「おくやみ窓口」「おくやみ手続支援サービス」と、いろいろな自治体の窓口名がありますが、いずれも死亡・相続という不慣れなライフイベントで必要な手続きに伴う遺族の負担を軽減するために生まれた手続きのワンストップサービスのことです。「サービスデザイン」の視点で検証しました。
ワンストップサービスとは
まず、ワンストップサービスとは何か、その構築に向けて不可欠な考え方を紹介します。
官民の複数の窓口にまたがっていた手続きを、まとめて行えるサービス
複数の機関や部署、窓口に分かれていた関連するサービスや手続きを、まとめて一括提供することを、「ワンストップサービス」といいます。「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」でも、行政デジタル化の推進策として、ワンストップサービスを含む以下の「デジタル3原則」への取り組みを重要課題としています。
①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する
世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画
“サービスデザイン”は、ワンストップサービスの構築に不可欠な考え方
引越しや介護、死亡・相続などのライフイベントを迎えると、行政・民間のそれぞれ複数の窓口に出向き、数多くの手続きをする必要があります。ライフイベントごとに多くの課題が存在しますが、ワンストップサービスの構築に向けては、手続全般を、利用者を起点とする「サービスデザイン思考」で構築することが求められています。
サービスデザインについては「サービスデザイン|日本は後進国!? 行政サービスに「サービスデザイン」を取り入れるポイント」の記事をお読みください。
今回は、ワンストップサービスの実現に向けた具体的な取り組みとして、死亡・相続ワンストップサービスを紹介します。
死亡者数は増加傾向。世帯や家族の多様性に伴い遺族の手続き負担も増加
厚生労働省が報告する人口動態統計(確定数)の概況 によると、2000年の年間死亡者数は約96万人。それが2020年には約137万人となっていて、日本の年間死亡者数は増加傾向にあることがわかります。
死亡・相続に関する手続きは多数あり、死亡届や年金手続き、不動産名義変更、税務申告など行政手続きだけでも、自治体の窓口や年金事務所、法務局、税務署などに出向いてそれぞれ個別に行う必要がありました。
2019年に総務省が行った調査で、死亡に関する届出(67手続き)について確認したところ、以下の実態が判明しました。
省略可能な手続き:21手続き
他の手続きにおいて、住民情報台帳システムなどに登録された死亡情報を参照することによって、省略可能とされた手続きです。
省略できない手続き:46手続き
他の手続きで登録された死亡情報を参照することができず、死亡情報の確認手段がその届出に限られているものは、医籍登録の抹消など35の手続きがありました。加えて、他の手続きで登録された死亡情報を参照できるものの、死亡に関する届出を必要とするものが、介護保険資格喪失の届出など11の手続きがありました。
世帯構成や家族のあり方の多様化が進むなか、遺された親族が担う手続きの負担は、今後ますます大きくなっていくことが予測されます。死亡・相続に関する手続きを見直し、遺族の負担を軽減するために、死亡・相続ワンストップサービスの実現が期待されていました。
自治体への事前調査で判明した死亡・相続手続きのワンストップを阻む要因
ワンストップサービスの構築にあたっては、利用者を起点とする“サービスデザイン思考”を取り入れることが求められます。サービスデザインでは、「ダブルダイヤモンド」と呼ばれる4つのプロセスにおいて、「発散」と「収束」という2つの思考を繰り返しますが、死亡・相続ワンストップサービスの構築プロジェクトも、この考え方に基づいています。自治体職員などを対象とした事前調査において、以下の実態が明らかになりました。
死亡手続きに対する不満の解消を阻む要因
以下のような点から、行政としては遺族の不満を受けとめて業務を改善することよりも、業務の遂行を優先することになっていました。そしてこのことが、業務改善につながりにくい典型的なケースであると指摘しています。
◇限られた期間内に、手続完結が最優先される。
◇身近な方が亡くなって間もない状況のため、不満や手間といった負担に対し、思考を巡らして提言してもらう余力があるとは考えにくい。
◇行政側にフィードバックする機会がない。アンケートなどの取得も心理的状況を考慮すると依頼をしづらい。
◇もし解消されるべき不満を見出したとしても、再度その場面に遺族自身が直面する可能性が低いことから、問題提起のインセンティブが働きづらい。
「行政機関におけるサービスデザインの利活用と優良事例」政府CIO補佐官等ディスカッションペーパー
他のライフイベントとの違い
手続きを複雑化させる要因として、引越しや結婚など他のライフイベントとは異なる以下のような特徴を念頭に置くべきとしました。
◇前触れなく訪れることが大半である。
◇手続き対象者となる本人が逝去されており、不在である。
◇故人や遺族の状況に応じて、実施するべき手続が大きく異なる。
◇実際の手続に関与する機会が多くないため、慣れない手続をその都度おこなう必要がある。
◇関係者が多い。行政や民間事業者といった遺族にとっての外部関係者だけでなく、親族等の内部での協議も発生する。
「行政機関におけるサービスデザインの利活用と優良事例」政府CIO補佐官等ディスカッションペーパー
官民のステークホルダー協働で実態を把握
サービスデザインの「発見プロセス」においては、手続きありきではなく利用者目線での実態把握が不可欠になります。遺族の体験を棚卸しすることによって、普段は接点の少ない死亡・相続というライフイベントを、より具体的に把握できる点も、サービスデザイン思考を活用するメリットになります。
死亡手続き|各関係者がほぼ同じ故人情報を必要としている
「死亡」というライフイベントに際しての主要な関係者は、医療機関のほか、市区町村などの公的機関、火葬場と葬儀社、および金融機関やライフライン事業者などの民間企業があげられます。この時必要とされる故人に関するデータについては、関係者がそれぞれ、ほぼ同じ情報を必要としているために、「引越しワンストップサービス」とも重複するものがあることがわかりました。
死亡手続き|発生頻度が低いケースへの対応も不可欠
たとえば猟銃や刀剣を保有している人が亡くなった場合、死亡の届出を提出すべき遺族が、定められた期日内に許可証を返納しなければならないことが、銃砲刀剣類所持等取締法に明記されています。このことを故人は理解していても、遺された遺族が知っているとは限りません。
それでも手続きする義務がある以上、発生頻度の多寡にかかわらず、必要となる手続きについては網羅的に示すことが求められます。こうした網羅性を要求される分野では、人手で対応するよりもシステムを活用したほうが漏れを減らすことにつながります。
相続手続き|遺産分割協議というワンストップ実現のハードル
「相続」のおもな関係者は、法務局や金融機関、各相続人などであり、場合によっては税理士や司法書士が関わることもあります。相続が確定するまでの流れは、以下の通りです。
- 戸籍を利用して法定相続人の確認を行う。
- どのような財産があるのか、金融機関や不動産状況の確認をし、相続財産調査を行う。
- 相続の割合を協議するため、相続人で遺産分割協議を実施する。
- 金融資産の名義変更や不動産の登記を実施する。
遺産分割協議で決定する割合などの変数は、システム上でワンストップ化する際のハードルとなり得ますが、すべてを一律でワンストップに実現するのではなく、段階を追って認証・許諾を得ると考えるべきでしょう。このように、利用者目線での実態の把握を、官民一体となって進めてきたことで、死亡・相続ワンストップサービスの実現に向けた課題が明らかになってきました。
「死亡・相続」ワンストップの全体像と取り組み
「死亡・相続」手続きのワンストップ化に向けた全体像と課題解決の方向性、自治体による取り組み事例を見ていきます。
(1) 行政手続を見直して、遺族が行う手続を削減し、
(2)故人の生前の情報をデジタル化し、死後、当該情報を、信頼できる第三者により相続人であることを電子的に認証された遺族が、死亡・相続の手続に活用できるようにすることで、遺族の負担を軽減するとともに、
(3)死亡・相続に関する手続の総合窓口を自治体が円滑に設置・運営できるように支援することで、自治体が精神的・経済的に支えを失った遺族に必要な支援を行えるようにすることを目指すこととする。
「死亡・相続ワンストップサービス実現に向けた方策のとりまとめ2018」内閣官房IT総合戦略室
課題解決の方向性
死亡・相続ワンストップサービスの全体像で示されたそれぞれの課題を、どのように解決に導いていったかを見ていきます。
行政手続きの見直し
他の手続きで登録された死亡情報を参照することによって、手続きを省略することができるものについては、届出省略の可否を検討・判断し、見直しに向けた課題を整理したうえで、制度改正を行いました。
故人の生前の情報をデジタル化
故人の生前の情報を、死後、遺族に電子的に継承する方策を検討しました。関連する制度として遺言がありますが、相続を巡る紛争を回避するとの観点から遺言公正証書の作成件数は増加傾向にあります。また、終活支援事業としてエンディングノートの配布や終活関連情報を書面で預かる自治体もあります。
これらの情報を死後に遺族に引き継ぐことが重要であり、各機関に存在する故人の生前の情報をデジタル化して活用することが、安全かつ低コストで相続人に継承するサービスにつながります。
信頼できる第三者による相続人であることを電子的に認証する仕組み
死亡・相続の手続きでは、その対象となる故人が手続きする時に存在しないため、故人に代わる信頼できる第三者が、遺族が相続人であることを認証する必要があります。この認証を安全かつ低コストで行うためにも上述の終活情報のデジタル化は有効で、相続人であることを電子的に認証する方策としても活用していきます。
自治体が必要に応じて遺族に支援する仕組み
死亡・相続の手続きが削減されても、遺族が行うべき手続きは残されています。このため自治体による遺族への支援やケアは引き続き重要です。「おくやみコーナー(死亡関連手続きを一元的に対応する総合窓口)」を設置する⾃治体などの協力を得て「支援ナビ」を試験的に導⼊し、横展開で、自治体が適切な遺族ケアを行えるようにしました。
先行事例として三重県松阪市の「おくやみコーナー」について紹介します。
<おもなサービス>
- ワンストップ受付:死亡に伴う諸手続きをワンストップで受け付けます。
- 手続抽出:約30の質問への回答によって故人・遺族の状況によって必要な手続きを絞り込みます。
- 申請書作成代行:必要な手続きの各種申請書類の一括作成し、補助します。
- コンシェルジュ(各種証明書の取得支援等):市役所以外の手続きで必要な戸籍謄本や住民票の写しなど証明書類の取得をサポートします。
<利用者に対するアンケート結果>
- おくやみコーナーの対応(わかりやすさ): 満足度93%
- おくやみコーナーによる申請書作成の補助:満足度92%
内閣官房は、故人の生前の情報を、死後、遺族に電子的に引き継ぐ仕組みとして、エンディングノートのデータ項目および形式に関するデータ標準の作成に取り組んできました。現在、このエンディングノートのデータ標準α版が公開されています。エンディングノートに法的効力はありませんが、自分が思うように自由に記載することができて書き直しが容易であることから、遺族による死亡・相続手続きを円滑にするツールとして、自治体や民間事業者による活用が進み、エンディングノートの利用が広がることが期待されます。