「キャッシュレス法」施行で行政手続きのキャッシュレスはどう変わる?【行政のキャッシュレス決済②】
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- writer : GDX TIMES編集部
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行政のキャッシュレス決済が思うように進まない背景として、日本社会の特殊性などに加えて、行政特有の事情があるといわれています。本記事では、行政のキャッシュレス化のあゆみ、キャッシュレス法の施行によって期待される行政手続きのキャッシュレス化などについて紹介します。
2027年にキャッシュレス決済率4割が目標
代金の支払いに現金を使わない「キャッシュレス決済」は世界各国で着実に浸透しつつあります。比較的キャッシュレス化が進んでいる国々のキャッシュレス決済比率は40〜60%であるのに対して、日本では約20%にとどまっているというのが現状です。
日本でキャッシュレス決済が普及しない背景には、盗難などの被害にあうことが少ない治安のよさや、ATMなどの金融インフラが整い、現金決済に不便を感じることがないなど、日本の特有の事業があるためと考えられています。また、キャッシュレス決済による使いすぎやセキュリティ面での不安から踏み切れないでいるとの声も聞かれます。
こうした現状を踏まえて、日本政府はキャッシュレス化を重要な政策課題として掲げ、2017年12月に閣議決定した「未来投資戦略 2017」において、キャッシュレス化を推進するためのKPI(重要業績評価指標)として、「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」としました。
日本社会のキャッシュレス化については、以下の記事をお読みください。
日本はキャッシュレス途上国。キャッシュレスが進まない日本特有の事情とは?【行政のキャッシュレス決済①】
行政のキャッシュレス化のあゆみ
日本社会のキャッシュレス化を重要な政策課題として推進するなか、自治体窓口や公共施設におけるキャッシュレス化は、どのように進められているのでしょうか。これまで民間の事業者(小売店など)が提供するサービス(商品の販売など)への対価の支払いについて、キャッシュレス化を阻む理由について見てきましたが、自治体窓口や公共施設における使用料などの公金の取り扱いについても、行政特有の事情からキャッシュレス決済の普及が遅れていたようです。
ここでは、その背景について整理したうえで、地方自治法の改正やデジタル手続法の公布によって、行政サービスのキャッシュレス化がどのように進展しているのかを見ていきます。
2007年、地方税などのカード支払いがスタート
地方税などの納付手段の多様化を図り、住民サービスの利便性や聴取効率などの向上を目的として、2006年9月に地方自治法(第231条の2第6項、同条第7項)が改正されました。改正法では、クレジットカードを提示することなどが、現金による納付があったことと同様の効果をもたらすものと規定されました。翌2007年の施行によって、地方税などのクレジットカードによる支払いがスタートしました。
クレジットカードによる納付ができる範囲については、各市町村が住民の要望などを踏まえて決定することが適当とされ、法律上限定されてはいませんが、地方税や水道料金、公立病院診療費、施設使用料、各種証明書発行手数料の納付などが考えられます。
なお、クレジットカード利用の手数料については、加盟店(徴収側)が負担することが一般的です。各市町村にとっては新たな負担となりますが、それまでも口座振替やコンビニ収納による手数料は、市町村が負担していることもあり、納付手段の多様化や、住民サービスの利便性および聴取効率の向上などを図るという改正法の主旨を踏まえ、市町村が負担することになりました。
2019年、デジタル手続法が施行
2019年5月には、デジタル手続法が公布され、同年12月に施行されました。情報通信技術の活用によって、行政手続きのオンライン化を推進して行政サービスの効率化を図ることを目的としています。正式名称は「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等を一部改正する法律」です。
デジタル手続法については、以下の記事も合わせてお読みください。
【デジタル手続法】行政サービスのデジタル化を一気に加速させる法律
活発化する政府から各地方公共団体へのアプローチ
2019年3月には、総務省による「電子マネーを利用した公金の収納について」という文書が、各地方公共団体宛に通知されました。この文書は、内閣府が2018年に実施した「地方分権改革に関する提案募集 」※において、電子マネーを利用した使用料など公金収納の取り扱いの明確化についての提案があり、その実施にあたって留意すべき事項について取りまとめたもので、以下の内容が記載されています。
- 電子マネー(プリペイド方式を想定)を利用した公金収納については、改正地方自治法第231条の2第6項、同条第7項を適用した対応が可能であること
- 対応にあたっては、電子マネー事業者を改正法の同項が規定する指定代理業者として指定し、納入義務者がこれに該当する電子マネーを用いた支払手続を申し出た場合に、地方公共団体がそれを承認することで対応可能とすること
- この場合、地方公共団体はその納期限にかかわらず、指定代理業者の事務処理に要する日数を踏まえて納付期限を適切に設定し、あらかじめ指定代理業者との契約などに定めておくこと
- この場合、地方公共団体はその納期限にかかわらず、指定代理業者の事務処理に要する日数を踏まえて納付期限を適切に設定し、あらかじめ指定代理業者との契約などに定めておくこと
※2019年9月に発表された「行政におけるキャッシュレス決済入門 」では、実際にキャッシュレスサービスを導入する際に参考となるような基本情報や導入事例を紹介しています。
「キャッシュレス法」の施行で期待される行政手続きのキャッシュレス化
情報通信技術を利用する方法による国の歳入等の納付に関する法律(キャッシュレス法)が、2022年4月に可決・成立し、同年11月から施行されました。この法律には、インターネットバンキングなどの情報通信技術を利用して、国民自らが納付する方法と、クレジットカードや電子マネー、コンビニ決済など、指定納付受託者に委託して納付する方法が定められています。
キャッシュレスによる多彩な決済が可能に
キャッシュレス法では、国に納付する税金や手数料などのうち、同法に基づく主務省令が定められたものについて、キャッシュレスでの納付が可能になるとしています。これまで、一部の税金などの納付について、クレジットカードやインターネットバンキングによる納付が可能でしたが、決済手段として電子マネーやコンビニ決済による納付も可能になります。ただし、コンビニ決済については現状、バーコード付き払込取扱票を想定したもので、厳密にはキャッシュレスではなく、従来とは異なる便利な納付方法という位置付けになります。
インターネットバンキングによる決済の範囲が拡大
これまでにも、インターネットバンキングによる納付が可能な税金などはありましたが、申請などがオンラインで行われる場合に限られていました。キャッシュレス法の施行によって、オンライン申請以外の納付もインターネットバンキングを利用して決済することができるようになります。
クレジット決済やコンビニ決済の範囲拡大も検討
クレジットカード決済やコンビニ決済の納付範囲も拡大していきます。新たにクレジットカード決済やコンビニ決済の導入が検討されている手数料などについて、以下にまとめました。
クレジットカード決済などによる納付
- 自動車検査(車検)の登録手数料(2022年度中)
- 旅券発給手数料(2022年度以降順次)
- 登記関連手数料(2024年度以降)
- 交通反則金(2024年度末以降順次)
コンビニ決済による納付
- 交通反則金(2024年度末以降)
収入印紙は?納付期限は?
キャッシュレス法では、収入印紙の購入によって納付としてきた手数料などについて、キャッシュレス決済が導入された場合には、収入印紙の購入は不要と定めています(第三条・第四条)。また、納付期限が定められた税金などの納付について、納期限までにキャッシュレス決済が行われれば、実際に指定納付受託者による納付がいつになったとしても、遅滞なく納付が完了したとみなされます。(第六条4項)
政府の方針は「効果の高いものからキャッシュレス化」
政府の方針として、各府省は支払件数が1万件以上の手続きについて、取り組み方針を明らかにしたうえでキャッシュレス決済の導入に取り組むとしています。また、窓口支払いに限定されている手続き、または窓口支払いが多く残ると見込まれる手続きのうち、窓口支払件数が1万件以上のものについては、取り組み方針を明らかにしたうえで現金またはキャッシュレス決済に取り組むとしています。
日本政府は、キャッシュレス化を重要な政策課題として掲げ、将来的には世界最高水準のキャッシュレス化比率を目指すとしています。その鍵となるのは、行政のキャッシュレス決済がどこまで進むのかという点でしょう。自治体窓口や公共施設からキャッシュレス化を進め、いつ、どこにいても多くの手続きが可能な体制を整備することで、現金主義にこだわる年配者や小売店舗の店主たちの不安を取りのぞき、意識を変えていくことになるからです。