【FIWARE(ファイウェア)】世界のスタンダードになりつつあるスマートシティのIoTプラットフォーム
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- writer : GDX TIMES編集部
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FIWARE(ファイウェア)は、国や自治体、民間企業などの枠を超えて、それぞれが保有するデータの利活用を相互に促すために開発されたソフトウェア群の総称です。スマートシティの実現のために欠かせないIoTプラットフォームとして注目されるFIWAREについて、その開発背景、都市OSとして期待される理由、日本社会におけるFIWAREの活用実態を紹介します。
FIWARE(ファイウェア)とは
FIWARE(ファイウェア)という言葉を耳にしたことはありますか。FIWAREは、FI(Future Internet)WARE(SOFTWARE)の略で、国や地方自治体、民間企業などの枠を超えて、それぞれが保有するデータの相互利用などを促すために開発されたソフトウェア群の総称です。
FIWAREは、欧州連合(EU)のICTプロジェクトとして、2011年からの5年間に実施された次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)において開発され、オープンソースソフトウェア(OSS)として公開されています。7つのカテゴリー、約40種のモジュール群で構成され、用途に合わせて自由に組み合わせて利用することができます。
日本でも、2016年に官民データ活用推進基本法が施行され、スマートシティの実現に向けた取り組みが加速しています。そして、スマートシティの実現には、ICTやデータの利活用が欠かせません。このためFIWAREは、スマートシティの実現に向けたIoTプラットフォームとして注目されるようになりました。
このFIWAREの普及を民間主導で推進する非営利団体がFIWARE Foundationであり、FIWARE Foundation
が運営するWebサイト(英語)「FIWARE」 にて、その詳細や最新動向を知ることができます。
スマートシティについては、以下の記事もお読みください。
スマートシティ②|「スマートシティ化」で各分野はどう変わる?
IoTについては、以下の記事もお読みください。
IoT(アイオーティー)|スマートシティ化に不可欠な注目のインターネット技術
FIWAREがEUの官民連携投資で開発された背景
FIWAREの導入目的や効果について理解するために、まず、EU(欧州連合)における開発の背景について見ておきましょう。
国の枠組みを超えた金融施策以外の政策が必要だった
欧州では、1958年に域内の経済統合を目的とした「欧州経済共同体(EEC)」が設立されました。さらに1993年には、EECをEC(欧州共同体)と改称しますが、2009年12月のリスボン条約においてECは廃止され、域内全体に影響する法令の制定が可能な「欧州連合(EU)」が発足しました。
すでにEU圏では国ごとの金融政策が実施されていましたが、各国の財政状況や産業構造の違いから、参加国間の格差が生じてしまいました。EUが国際社会のなかでの発言力を高めるためには、EU圏全体の経済発展が不可欠であり、金融政策以外の施策も求められることに。そして、それらの施策のひとつとして実施されたのが、2011年からの5年間に実施された「次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)」でした。
また同時期には、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の台頭がありました。圧倒的な情報量を有し、競争力に優れたGAFAのような外資系企業の存在は、EU圏各国の経済発展にとっての脅威になり得ます。このため、圏内データの利活用による効率化やインターネット環境の最適活用のための整備が重要な課題になっていたのです。
FIWAREは「次世代インターネット官民連携プログラム」の活動で誕生
EUは、科学分野の研究開発への財政的支援制度として「欧州研究開発フレームワーク計画(FP)」を推進。第7次計画(FP7)として2007年にスタートした「次世代インターネット官民連携プログラム(正式名:the Future Internet Public-Private Partnership(FI-PPP))は、2011年からの5カ年で、総額3億ユーロ(約390億円)の予算が組まれました。このFI-PPPの多様なプロジェクトのひとつが「FI-WAREプロジェクト」です。
FI-WAREプロジェクトの目標は、EUの経済競争力を向上させることです。そのためには次世代のインターネット環境を、多様な分野で活用できる基盤の開発が必要でした。この基盤こそが、今回取り上げているFIWAREであり、その開発には多くの欧州大手企業が参画するなか、唯一の日系企業としてNEC欧州研究所も参画しています。
FIWAREプロジェクトは多角的に8つのカテゴリーで展開・実証
FI-PPPでは、物流、スマートシティ、交通・輸送、農業、街の安全、環境、メディア・コンテンツ、エネルギーの8分野で、EU加盟国横断の取り組みとして、FIWAREの実証実験を進められました。つまり、FIWAREは、スマートシティのための専用基盤ソフトウェアというだけではなく、スタートアップ企業の育成や社会・公共分野のアプリケーション開発にも取り組むことで、EU圏の産業活性化を狙ったものでした。
FIWAREが都市OSとして期待される理由とは?
スマートシティを実現するためには、IoTによって収集された街のデータや、行政機関や民間企業などに蓄積されたデータを活用して、地域課題を解決に導き、持続的な発展を可能にするような土台(プラットフォーム)が必要です。そして、組織や地域の垣根を越えて、分野横断的なデータ連携を図りながら新たなサービスを創出していくという、スマートシティの実現に欠かせないプラットフォームが都市OSです。内閣府が2020年3月にまとめた「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」では、「相互運用(つながる)」「データ流通(ながれる)」「拡張容易(つづけられる)」を都市OSの3要件としています。
都市OSについては、以下の記事をお読みください。
都市OS|スマートシティ・スーパーシティ構想に不可欠なデータ連携基盤
それでは、これらの都市OSの要件を、FIWAREがどのように満たしているのかを見ていきます。
オープンAPIで相互運用性が高い
FIWAREでは、「NGSI」というネットワークAPIの国際標準規格を採用しています。データモデルを標準化することによって、相互運用性の高いデータ流通を可能としています。代表的なデータモデルは公開されているので、定義されていないデータについても、公開ガイドラインに準じることで新たなデータモデルとして定義できます。このように、オープンなインターフェイスを採用することにより、分野や組織を横断したデータの利活用による新たなサービスや価値の創造が期待できます。
データの管理性が高い
データそのもの(コンテキスト)を管理するだけでなく、分散するデータの所在(アベイラビリティ)を管理することで、連携する複数のシステムが持つデータを論理的にひとつのデータとして見せることができます。データの利用者からのアクセスに応じて、データ提供者とのやりとりを仲介するAPIによって、利用者がデータへのアクセス方法を意識することなく利用できます。
拡張性が高い
FIWAREは「Generic Enabler(GE)」と呼ぶソフトウェアコンポーネント群で構成されています。それぞれ独立したサービスとして動作するFIWARE GEを組み合わせて、ひとつのアプリケーションとして構成することで、機能拡張や障害対応など、システムに手を加える必要が生じたときにも、既存部分への影響を最小限に抑えることができます。
このように、機能拡張などを容易にするために、機能をブロック単位に分割しておく手法を「ビルディングブロック方式」といいます。多くの機能群のなかから必要な機能を取捨選択し、組み合わせることで、疎結合なシステムを実現することができます。
※疎結合とは、細分化されたコンポーネント同士の結びつきが緩やかで、独立性が高い状態のこと。疎結合なシステムでは、個々のコンポーネントは相互に連携しながらも、相互に依存し合うことはない。
基盤開発が低コスト・効率的
FIWAREのモジュール群は、OSS(オープンソースソフトウェア)をベースにして開発されています。そのリファレンス実装は「FIWARE Catalogue」としてWebで世界中に公開されているのでライセンス費用は発生しません。これらをひな形として必要なモジュールを組み合わせて機能を追加することで、低コストかつ効率的な基盤開発を可能にしています。
日本では2016年からFIWARE準拠のIoTプラットフォーム構築が始動
FIWAREを先行開発した欧州はもとより米国においても、公共分野におけるデータ活用基盤としてデファクト・スタンダートとしての地位を築きつつあります。
日本では、2016年11月にICT街づくり推進会議スマートシティ検討ワーキンググループが発表した「スマートシティを実現するIoTプラットフォームFIWAREについて」において、日本の実情に合わせたFIWARE準拠の日本版IoTプラットフォームへの実装イメージが公開されました。これを皮切りに、日本版IoTプラットフォームの構築がすでに始動しています。また、自由民主党のIT戦略特命委員会による「デジタルニッポン2016」や「デジタルニッポン2017」でも、FIWAREによるIoTプラットフォームの活用イメージが、数多く提言されています。
自治体でもFIWAREを活用してIoTプラットフォームを実証中
地域が抱える独自の課題解決に向けて、FIWAREを活用したIoTプラットフォームの実証プロジェクトが、地方自治体によって推進されています。
高松市|スマートシティたかまつ
高松市は、2017年に設置した情報政策課ICT推進室を中心に、国内で初めて「FIWARE」によるIoT共通プラットフォーム(データ連携基盤)を構築し、データ利活用による地域課題の解決を目的とする「スマートシティたかまつ」を推進しています。産学民官の連携による「スマートシティたかまつ推進協議会」を設立し、データ利活用の促進によって防災・観光・福祉・交通分野での課題解決に向けた実証実験を行っています。
富山市|富山市センサーネットワーク
富山市センサーネットワークは、省電力広域エリア無線通信(LPWA)を用いて、市内全域に無線通信ネットワーク網を構築し、これを経由してIoTセンサーからの収集データを管理するプラットフォーム(情報基盤)です。このネットワークによって集約されたデータを分析・活用することで、新たなサービスの提供や行政事務の効率化、IoT技術を活用した新産業の育成などを目的としています。
会津若松市|スマートシティ会津若松
会津若松市では、人口減少に歯止めをかけ、少子高齢化による問題を解決していくために、ICTをさまざまな分野で活用する「スマートシティ会津若松」を推進しています。地域産業の活性化、街づくり再生へ貢献を目的として、エネルギー、観光、健康福祉・医療、農業の分野でのデータ利活用による課題解決を実証しようとしています。
日本の各都市でも、FIWAREを活用したIoTプラットフォームの実証の取り組みが増えてきました。いまはまだ分野を限定した取り組みではあるようですが、やがては産学官民の多様な主体がデータを自由に利活用できる共通プラットフォームが構築され、多彩な分野におけるアプリケーションの開発が可能な環境が整備されることが期待されます。そして、日本社会ならではの世界に誇れるスマートシティが実現できるようになることを期待します。