「副大臣プロジェクト」の仮説・課題は「支援実証事業」で答えが出るか?【こどもに関する情報・データ連携②】
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- writer : GDX TIMES編集部
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こどもに関する情報・データ連携は、貧困や虐待などから保護を要するこどもたちを見守るためのデジタル戦略です。そして、こどもに関する情報・データ連携 副大臣プロジェクトチームには、こどもたちの生活に関わる多くの情報を集約するデジタル基盤を築いていくための取り組みを推進する役割を担います。今回は、このプロジェクトの経緯や今後に向けた課題などを紹介します。
こどもに関する情報・データ連携は、貧困をはじめとするさまざまな困難を抱えるこどもや家庭に、必要な支援が行き届くようにするための重要施策として進められてきました。その経緯や現状などを整理した、以下の記事もあわせてお読みください。
こども家庭庁の創設で再注目!「支援が必要なこども・家庭に素早く・確実に」を目的としたデジタル戦略【こどもに関する情報・データ連携①】
こどもに関する情報・データ連携は、「副大臣プロジェクト」が2021年から着手
2021年11月16日に開催された「デジタル臨時行政調査会(第1回)」では、岸田首相が「貧困や虐待などから保護を要するこどもたちを見守るため、牧島デジタル大臣を中心に、こどもたちの生活に関わる、関係機関のさまざまな情報を集約するデジタル基盤を整備いたします」と発言。この発言を受けて、2021年11月からデジタル副大臣を主査とし、内閣府・厚生労働省・文部科学省の副大臣を構成員とする「こどもに関する情報・データ連携 副大臣プロジェクトチーム(以下、副大臣PT)」が開催されています。
このプロジェクトチームによるおもな検討事項は以下の通りです。
こどもに関する情報・データ連携のあり方
さまざまな困難を抱えるこどもや家庭に、必要とする支援が行き届くようにするためには、真に支援を必要とするこどもや家庭を早期に発見するための仕組みが必要になります。行政機関の各部局をはじめ、学校・児童相談所・医療機関などが保有する、妊娠期から20歳頃までのこどもの成長・発達に関する情報を、必要に応じて連携させて、それぞれのニーズにふさわしい支援を行うために、まず、情報・データ連携のあり方について検討すべきとしています。
それと並行して、こどもに関する情報を包括的に把握する自治体などの組織のあり方や連携の仕組み、こどもからのSOSやその前兆を、どのように受け止め、拾い上げるかについても考えなければなりません。
この検討課題における各府省の役割分担は、以下の通りです。
- デジタル庁:こども政策全般に関する情報・データ連携について
- 内閣官房:今後のこども政策全般に関する検討
- 内閣府:こどもの貧困に関する研究会や調査研究事業・実証事業について
- 厚生労働省:健康情報、児童虐待情報など医療・福祉に関する検討
- 文部科学省:スタディ・ログ、ライフ・ログなど教育の観点からの検討
デジタルを活用した包括的な子育て支援のあり方
妊産婦や乳幼児などの状況を継続的・包括的に把握し、切れ目のない支援を提供するために子育て世代包括支援センターが設置されています。同センターの取り組みを踏まえて、デジタル技術などを活用し、窓口を訪ねることなく適切な情報入手や相談を行える子育て支援のあり方について検討すべきとしています。この検討課題における各府省の役割分担は、以下の通りです。
- 厚生労働省:子育て世代包括支援や地域子育て支援拠点
- 内閣官房:今後のこども政策全般に関する検討
- デジタル庁:デジタルやデータ連携について
こどもに関する政策の可視化のあり方
AIなどの技術を活用した、こどもに関する政策、予算、統計などを可視化するためのデータの利活用のあり方についても検討すべきとしています。その際のデータの質も、検討テーマのひとつです。
たとえば支援の対象となる家庭への手当の支給手続きや就学前の施設に関する情報提供などに向けて、どのような政策が必要かも検討していくとしています。この検討課題における各府省の役割分担は、以下の通りです。
- 内閣官房:今後のこども政策全般に関する検討
- 厚生労働省:保育・福祉など
- 文部科学省:教育について
- デジタル庁:デジタルやデータ連携について
このプロジェクトでは、「データ連携」を、1つの部局や機関だけでは見落としがちなSOSを発見し、こどもへの支援にあたる現場の職員をサポートする手段と位置付けるべきだとしています。
ここからは、2021年11月から2022年6月までのおもな検討内容を抜粋して紹介します。
自治体の先行事例から見えてくるものは?
副大臣PTでは、各府省から、こどもに関する情報やデータを利活用している自治体独自の先行事例が報告されました。各事例の仕組みや狙い、期待できる効果から、成功に導くパターンを見つけることが狙いです。詳細は以下の資料を参照ください。
▶自治体等における先行事例ヒアリングの概要について(デジタル庁)
▶児童虐待におけるAIの活用等について(厚生労働省こども家庭局)
先行事例に見る、データ連携・活用の基本形
2021年4月から、内閣府を中心に関連府省が連携し、潜在的に支援が必要な貧困状態にあるこどもやその家庭を広く把握。必要な支援につなぐためのデータ連携のあり方についての検討がなされ、これを将来的に全国の地方公共団体へと展開していくための調査研究が行われました。
「令和3年度|貧困状態の子供の支援のための教育・福祉等データ連携・活用に向けた調査研究 報告書」では、先行事例から想定されるユースケースをもとに、潜在的な支援が必要なこどもや家庭に対してプッシュ型(アウトリーチ型)の支援を行う取り組みの基本形として、以下の流れで整理しています。
①デジタルデータを用いた困難な状況にあるこどもの一次絞り込み
デジタルデータを活用して、困難な状況にあると懸念されるこどもを自動的に抽出します。デジタルデータを用いた困難な状況にあるこどもの自動抽出は、人によるアセスメントを行う前段階において、補助的に行われるものです。
②人による更なる絞り込み(アセスメント)
現に支援対象となっているこども・家庭との比較などによって、支援から漏れているこどもを把握しようとします。個々のこどもについて、「気づき」などのアナログ情報を含めて、人の手によって精査し、支援の必要性を判断します。
③個々のこどもへの対応策の検討
「気づき」など含めて精査した個々のこどもが置かれる状況に合わせて困難を乗り越えるための対応策を検討します。
④支援への接続(アウトリーチ)
それぞれのこどもについて検討された対応策をもとに、支援体制の構築を目指します。
「潜在的な支援が必要なこども」をどのように把握するのか?
貧困や虐待、不登校、いじめなど、こどもが抱える困難については、その実態が見えにくく、捉えにくいという側面があり、必要な支援が十分に行き届かないという課題があります。このような困難な状況にあるこどもを確実に把握し、プッシュ型(アウトリーチ型)の支援を行うためには、こどもに関する情報やデータの連携を推進する必要があります。
もちろん、支援が必要かどうかを判断するには、専門的知見を有する職員などによるアセスメントが不可欠です。しかし、地方自治体などがそれぞれ管理していた情報やデータを連携し、アセスメントの前に補助的に対象者の絞り込みに利用することは、支援の必要性を判断する際の一助となるでしょう。
まずは地方自治体における個人情報の保有状況等に関する整理・調査に着手し、データの範囲やデータ項目についての検討を進めています。
潜在的に支援が必要なこどもの早期発見のためのデータ連携を行うため、先行する事例や調査研究、地方自治体などが採用するデータ項目の標準仕様やレイアウトなどを参照し、有用性の高いデータ項目について精査していきます。さらに現実の運用に向けた整理・分析を行い、地方自治体などが参照しやすいように提示しなければなりません。加えて、地方自治体などがデータを取得する際の人的およびコスト面の負担も考慮すべきでしょう。
個人情報保護法に抵触することなく運用できるか?
こどもに関する情報やデータの連携においては、幅広い行政データを取り扱うことになりますが、「こどもの見守り」という本来はなかった目的で使用することになります。
この点について、一部の有識者から、個人情報保護の観点で以下のような指摘があります。
- 経済協力開発機構(OECD)が定めた「個人情報保護のガイドライン※」や個人情報保護法の「本人の同意がない目的外利用」に抵触するのではないか
- 差別的なデータ利用になるのではないか
※OECDが1980年9月に採択した「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」に記述された8つの原則のうち、「収集制限の原則」では、個人のデータを収集する場合には、法律にのっとる公正な手段によって、個人データの主体である本人に通知または同意を得て収集されるべきとしています。
ちなみに、副大臣PTが検討するデータ連携に関するホームページや資料では、随所に、「潜在的に支援が必要なこどもや家庭を支援につなげることを目的として、地方校公共団体などがそれぞれ分散管理してきた情報やデータを連携するものであって、国が情報やデータを一元的に管理しようとするものではない」という表記が見られます。有識者からの指摘や国民の不安をふまえてのことだと思われます。
先行事例では目的利用外の措置済。実証自治体にも同レベルの措置を要請
副大臣PTでは、本人の同意なく行政データを使用することができるかを、先行事例をもとに確認を行いました。「先行自治体における個人情報の取扱い及び改正後の個人情報保護法における本実証事業と関連する主な論点について」によると、どの事例においても条例の改正や個人情報保護制度運営審議会へ諮問・確認など、目的外利用のための措置が講じられていたとしています。また、閲覧職員の制限(アクセスコントロール)や、不要データの処分など安全管理措置も行われていました。
当然ながら、実証事業へ参加する自治体にも、同様の対応を求め、個人情報の適性な取り扱いを確保する必要があるとしています。
2023年4月、改正後の個人情報保護法に合わせてガイドラインを策定
2021年の個人情報保護法改正(2023年4月1日施行)によって、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法の3本の法律を1本の法律に統合することになりました。
副大臣PTでは、改正される個人情報保護法における実証事業と関連する条項や論点について検証することになります。以下は、実証事業の運営にあたって関連する条項になります。
- 利用目的の特定(第61条第1項)
- 利用目的の達成に必要な範囲での個人情報の保有(第61条第2項)
- 不適正な利用の禁止(第63条)
- 適正な取得(第64条)
- 正確性の確保(第65条)
- 安全管理措置(第66条)
- 従事者の義務(第67条)
- 漏えい等の報告等(第68条)
- 保有個人情報・個人関連情報の提供を受ける者に対する措置要求(第70条・第72条)
また、各ユースケースにおける個人情報の取得・利用などの必要性や公益性についても検討を進め、個人情報保護委員会とも連携して、ガイドラインなどを提示していくことになります。
そのほか制度面・運用面での課題は?
先行事例や実証事業を踏まえて、こどもに関する情報やデータの連携を全国へと展開していくにあたっては、制度面や運用面での課題もあります。
データ標準化の取り組み
実証事業などを通じて、全国的にも有用であると認められる機能やデータ項目については、標準仕様書に新規で追加することが必要になります。そして地方自治体などが共通して収集することが、住民の利便性や行政運営の効率化に寄与することが認められた場合にも、機能やデータの標準化が必要になります。また、地方自治体などが活用するデータ項目については、政府相互運用フレームワーク(GIF)に準拠して整備しなければなりません。
政府相互運用フレームワーク(GIF)についてはこちらもお読みください。
GIF(政府相互運用性フレームワーク)①|なぜ必要? なぜ「参照モデル」?
GIF(政府相互運用性フレームワーク)②|日本が抱えているデジタル問題をGIFでどう解決する?
分野横断のデータ連携・データの相互運用確保のための取り組み
地方自治体などで共通の宛名番号を利用できる場合には、この宛名番号をベースにデータ連携を進めていくことも考えられます。「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基板抜本改善ワーキンググループ」における、情報連携の基盤となる公共サービスメッシュの整備についての検討も踏まえて、適切な情報連携が行われるよう検討する必要があります。
期待が集まる「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」による課題・仮説の検証
地方自治体などが保有する教育・保育・福祉・医療などのデータを、分野を超えて連携させ、支援が必要なこども・家庭へのプッシュ型の支援に活用するための課題などを検証することを目的に、7.3億円の予算をかけて、7つの自治体での実証実験が始まっています。
事業内容としては、データ項目に関する調査研究(ユースケースの調査や必要なデータ項目、制度面・運用面での課題の検証)、自治体におけるデータ連携に関する調査研究(自治体におけるデータの連携方策の実証)があります。
2022年2月4日に公募を開始し、埼玉県戸田市、東京都昭島市、石川県加賀市、愛知県、兵庫県尼崎市、広島県、福岡県福岡市の7団体が選定されました。7月から順次、支援の実証に向けた取り組みがスタートしています。なお、データ項目やデータ連携に関する調査研究の実施団体からの報告は、2023年3月までに提出される予定です。
7団体による実証事業から得られる結果は、こどもに関する情報やデータを連携することへの国民の理解を促し、その後の全国展開、継続可能な仕組みづくりを行うためにも重要です。
こどもに関する情報やデータの連携によって、困難な状況にあるこどもをどのように把握し、ワンストップ型・プッシュ型の支援へとつなげていく取り組みについて検討が重ねられてきました。副大臣PTで整理された論点や実証実験によって明らかになった成果や課題を踏まえて、支援が必要な家庭が簡単に行政サービスへアクセスできてサービスや制度を利用できる環境の構築や、持続可能な検証と改善のための仕組みづくりが重要です。