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2022年11月16日

デジタル社会形成基本法と「IT基本法」との違いは? 地方自治体関連で追加された項目は?【デジタル社会形成基本法②】

今回は、デジタル社会形成基本法とIT基本法との違いやIT基本法から引き継がれたことを整理した上で、デジタル社会形成基本法が目指す構造改革について、デジタル社会形成基本法で追加された、とくに地方公共団体に影響のある項目について紹介します。

デジタル社会形成基本法とIT基本法はなにが違う?

デジタル社会形成基本法とIT基本法はなにが違う?
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2000年11月に成立した「情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」は、その施行(2001年)から20年以上が経過し、施行後の状況変化に対応した新たな法整備の必要性から、全面的な見直しが行われ、デジタル社会形成基本法の施行にともないIT基本法は廃止となりました。

*「IT基本法」を見直すに至った経緯やデジタル社会形成基本法の理念・ビジョンなどについては、以下の記事もあわせてお読みください。

デジタル社会形成基本法は「IT基本法」の後継法律。なぜIT基本法は見直しが必要だったのか?【デジタル社会形成基本法①】

ネットワークの充実からデータの利活用を重要視

IT基本法は、インターネットの普及拡大を前提とした情報通信ネットワークの整備に注力するものでしたが、IT基本法に代わる新法として制定されたデジタル社会形成基本法では、このようなネットワークによって収集されるデータの利活用に力点を置くものとなりました。

役割分担を明確化

デジタル社会形成基本法では、「国及び地方公共団体と民間の役割分担」(第七条)および「国及び地方公共団体の責務」(第十条~第十二条)を、以下のように規定しています。

官民が果たす役割

デジタル社会の形成にあたっては、民間が主導的役割を担い、国や地方公共団体は、民間の活力が十分に発揮されるための環境整備に注力すべきとしています。具体的には、公正な競争の促進、規制の見直しなど、デジタル社会の形成を阻害する要因の解消などの施策です。

国や自治体が果たす役割

デジタル社会形成基本法が規定するデジタル社会の形成に関する基本理念にのっとり、国は、デジタル社会の形成に関する施策を策定して実施する責務を担当。地方公共団体には、国との適切な役割分担を踏まえて、それぞれの地域の特性を生かした自主的な施策を策定し、実施する責務があるとしています。

さらに、国と地方公共団体は、デジタル社会の形成に関する施策が迅速に実施されるよう相互に連携し、情報システムの共同化・集約などを推進します。

デジタル庁の設置

デジタル社会形成基本法が施行された2021年9月1日、同日の施行となったデジタル庁設置法に基づき、デジタル庁が設置されました。デジタル庁は、内閣総理大臣がその長を務め、その下に担当大臣が置かれるという特異な組織で、各省庁への勧告権を与えられています。デジタル社会形成の司令塔として、日本社会のデジタル化を強力に推進するための組織としてスタートしました。

デジタル社会形成のために掲げる理念・原則とは?

デジタル社会形成のために掲げる理念・原則とは?

デジタル社会形成基本法の第三十七条では「政府はデジタル社会の形成に関する重点計画を作成しなければならない」と規定しています。この定めに従い、デジタル庁は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を策定し、国会に報告しています。

インターネットの普及拡大を前提とした情報通信ネットワークの充実に注力したIT基本法に代わり、デジタル社会形成基本法では、このようなネットワークによって収集されるデータの利活用に力点を置くものとなったと述べました。しかし、IT基本法に掲げられたことがすべて否定されるのではなく、IT基本法の精神は、新法の理念や原則などにも引き継がれています。

誰一人取り残されないデジタル社会の実現

「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現、「人に優しいデジタル化」という理念は、IT基本法が掲げた「すべての国民がITのメリットを享受できる社会の実現」を引き継ぐものです。デジタルの活用により、国民一人ひとりのニーズにあったサービスを選ぶことができ、多様な幸せを享受できる社会を目指しています。

デジタル社会形成のための基本原則

デジタル社会を形成するための基本原則として示されたのが、下図の10原則です。

デジタル社会を形成するための基本原則
デジタル社会を形成するための基本原則/「デジタル改革関連法案ワーキンググループとりまとめ」デジタル改革関連法案ワーキンググループ 

情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル手続法)では、行政サービスをデジタルで完結させるために不可欠な取り組みとして、以下のデジタル3原則がIT基本法から引き継がれました。この3原則をベースに10の基本原則が示されています。

  • デジタルファースト:個々の手続きやサービスを一貫してデジタルで完結する
  • ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
  • コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続き・サービスをワンストップで実現する

BPRと規制改革の必要性

デジタル化を進めるにあたっては、オンライン化自体を目的とするのではなく、本来の行政サービス利用者の利便性向上や行政運営の効率化に立ち返って、BPR(業務改革)に取り組む必要があります。合わせて、デジタル化の効果を最大限に発揮するため、規制の見直しを進めます。

クラウド・バイ・デフォルト原則

各府省で必要となる情報システムの整備・構築にあたっては、迅速かつ柔軟に進めるための「クラウド・バイ・デフォルト原則」を徹底します。クラウドサービスの利用を第一候補として検討し、共用できるような必要な機能については、機能ごとに細分化された部品を組み合わせるという設計思想に基づく整備を行います。

デジタル社会形成基本法が目指す構造改革とは

デジタル社会形成基本法が目指す構造改革とは

デジタル庁は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」のなかで、デジタル化の基本戦略として、デジタル社会の実現に向けた構造改革を推進し、現場のデジタル化を阻害する規制や制度の見直しを行うとしています。以下、抜粋して紹介します。

デジタル原則

2021年11月に創設されたデジタル臨時行政調査会は、デジタル改革、規制改革、行政改革の共通の指針として「構造改革のためのデジタル原則」を策定しました。これは、以下の5つの原則からなるものです。

  1. デジタル完結・自動化
  2. 機動的で柔軟なガバナンス
  3. 官民連携
  4. 相互運用性の確保
  5. 共通基盤の利用

「デジタル原則」については、以下の記事も合わせてお読みください。

【デジタル原則】デジタル・規制・行政のデジタル化を一気に加速させる共通のものさし

横断的な規制の見直し

デジタル臨時行政調査会では、デジタル原則に沿って、4万以上の法令などを対象として、アナログ規制の見直しを横断的に実施し、規制・制度のデジタル原則への適合を目指しています。

デジタル化を阻んでいる規制の点検・見直し

代表的なアナログ規制として、以下の7項目の規制を取り上げ、現場のデジタル化を阻害する規制・制度の見直しを進めています。

  • 目視規制
  • 定期検査・点検規制
  • 実地監査規制
  • 常駐・専任規制
  • 書面掲示規制
  • 対面講習規制
  • 往訪閲覧・縦覧規制

地方公共団体における取り組みの支援

デジタル化の恩恵について、国民一人ひとりがより一層の実感を得られるように、地方公共団体による自主的なアナログ規制の点検・見直しの実施を支援します。マニュアルを作成し、その手順を示すとともに、地方公共団体における先進事例を公表します。

テクノロジーマップの整備

アナログ規制の見直しを各府省庁と進めていくにあたっては、民間企業が有するデジタル技術と規制の見直し事項の対応関係を整理したテクノロジーマップを整備します。府省庁は、それぞれの課題に有効な技術を有する企業のノウハウを最大限に活用して規制の見直しに取り組み、成長産業の創出にも寄与することができます。

デジタル田園都市国家構想の実現

過疎化や高齢化などの社会課題が山積する地方にこそ、デジタル技術を活用して活性化を図る必要があります。それぞれの地域の特性や豊かさを生かしながら、デジタルの力を活用することで、都市に引けをとらない利便性と生産性を兼ね備えた社会の創出を目指します。

*「デジタル田園都市国家構想」については、以下の記事も合わせてお読みください。

【デジタル田園都市国家構想】総予算5.7兆円をかけて岸田内閣が挑む「地域格差」の解消 

デジタル社会形成基本法に追加された地方自治体関連の法律は?

デジタル社会形成基本法に追加された地方自治体関連の法律
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IT基本法を見直し、デジタル社会形成基本法で追加された項目から、とくに地方公共団体に影響のある項目を抜粋して紹介します。

第十四条 地方公共団体の責務

地方公共団体は、基本理念にのっとり、デジタル社会の形成に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

デジタル社会形成基本法

各自治体は、それぞれの地域特性を生かした施策を自主的に策定し、実施しなければなりません。

第二十九条 国及び地方公共団体の情報システムの共同化等

(前略)公共サービスにおける国民の利便性の向上を図るとともに、行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上に資するため、行政の内外の知見を集約し、及び活用しつつ、国及び地方公共団体の情報システムの共同化又は集約の推進(中略)、個人番号の利用の範囲の拡大その他の国及び地方公共団体における高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術を用いた情報の活用を積極的に推進するために必要な措置が講じられなければならない。 

デジタル社会形成基本法

各自治体が個別に整備してきた情報システムについて、クラウドサービスによって共同化し、マイナンバーを活用した情報連携などを進めます。

第三十条 国民による国及び地方公共団体が保有する情報の活用

(前略)国及び地方公共団体が保有する情報のうち国民生活に有用なものについて、書面等に記載された情報の電磁的記録としての記録、電磁的記録として記録された情報であって一般の利用に供しているものの公表その他の国及び地方公共団体が保有する情報を国民が容易に活用することができるようにするために必要な措置が講じられなければならない。

デジタル社会形成基本法

国や自治体が保有するデータをオープンデータとして公開することで、民間による新たなサービスの創出を促します。

第三十一条 公的基礎情報データベースの整備等

(前略)公的基礎情報データベース(中略)を整備するとともに、その利用を促進するために必要な措置が講じられなければならない。 

デジタル社会形成基本法

各府省庁や自治体で広く利用されている情報を、公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)として整備することで、ワンスオンリーの実現やシステムへの重複投資への削減、社会の情報基盤の整備につなげます。

第三十二条 公共分野におけるサービスの多様化及び質の向上

(前略)国民の利便性の向上を図るため、高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術を用いた情報の活用による公共分野におけるサービスの多様化及び質の向上のために必要な措置が講じられなければならない。

デジタル社会形成基本法

公共分野におけるサービスには、自治体が提供する各種行政サービスや各種申請の受付、許認可の業務などが含まれます。デジタル技術の活用を積極的に推進することで、これらの業務を電子化し、効率化することが求められています。

第三十六条 デジタル庁

(前略)デジタル社会の形成に関する内閣の事務を内閣官房と共に助けるとともに、デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図るため、別に法律で定めるところにより、内閣に、デジタル庁を置く。

デジタル社会形成基本法

デジタル庁の業務には、全国規模のクラウド移行に向けた標準化・共通化に関する業務などが含まれます。これらは地方共通のデジタル基盤として、自治体の情報システムの整備に大いに影響します。

新型コロナ対策として打ち出された定額給付金の支給手続きに混乱が生じたことから、行政のデジタル化の遅れを目の当たりにしたという国民も多かったのではないでしょうか。デジタル社会形成基本法では、地方行政に関する多くの項目が追加されました。これによって、国や自治体が保有するデータや情報システムが相互にシームレスな連携を保ち、行政サービスのデジタル化が本格的に進むことで、私たちの暮らしがより豊かに、便利になったと実感できる日が、1日でも早く到来することを期待しています。

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