法人設立ワンストップサービスは「民間企業の新陳代謝」「ベンチャーの加速」が狙い【ワンストップサービス③】
- category : GDX ナレッジ #手続・申請
- writer : GDX TIMES編集部
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法人設立ワンストップサービスとは、これまで必要な手続きの数が多く、長い日数がかかっていた法人設立手続きを、オンラインで一括して行えるようにするサービスです。このサービスの実現によって起業環境を改善することは、民間の活力を引き出し、新たな事業創造への道を開くことにもなります。ここでは、これまでの法人設立手続きの実情と、法人設立ワンストップサービスの狙いや今後に向けた課題などを紹介します。
ワンストップサービスとは
まず、ワンストップサービスとは何か、その構築に向けて不可欠な考え方について整理します。
関連する複数の手続きを、官民の枠を超えてまとめて行えるサービス
官民の複数の機関や部署、窓口などにまたがっていた関連するサービスや手続きを、一括で提供することを、ワンストップサービスといいます。「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」 でも、行政デジタル化の推進策として、ワンストップサービスを含む以下の「デジタル3原則」への取り組みを喫緊の課題としています。
①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する
世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画
ワンストップサービスの構築に不可欠な「サービスデザイン」という考え方
引越しや介護、死亡・相続などのライフイベントを迎えると、行政・民間のそれぞれ複数の窓口に出向き、数多くの手続きをする必要があります。ライフイベントごとに多くの課題が存在しますが、ワンストップサービスの構築に向けては、手続全般を、利用者を起点とする「サービスデザイン思考」を取り入れて設計・構築することが大切です。
サービスデザインについては「サービスデザイン|日本は後進国!? 行政サービスに「サービスデザイン」を取り入れるポイント」の記事もお読みください。
今回は、ワンストップサービスの実現に向けた具体的な取り組みとして、法人設立ワンストップサービスを紹介します。
法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化の取り組みの背景
法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化の背景と国内外のオンライン化の動きについて見ていきます。
常に進化する経済成長戦略のカギは「民間」
安倍政権発足後の2013年6月に提唱された「日本再興戦略 – JAPAN is BACK 」では、日本経済の成長への道筋として、以下を挙げています。
民間の力を最大限引き出す
新たなフロンティアを作り出す
成長の果実の国民の暮らしへの反映
「日本再興戦略 – JAPAN is BACK」首相官邸
このうち「民間の力を最大限に引き出す」では、新陳代謝とベンチャーの加速、規制・制度改革と官業の開放を断行することで、グローバル競争に勝ち続けることのできる製造業の復活、付加価値の高いサービス産業の創出を図っていくことを掲げています。
さらに「新陳代謝とベンチャーの加速」のなかで「新事業を創出する」という施策を達成すべき成果目標(KPI)として、以下を挙げています。
<成果目標>
◆開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率 10%台(現状約5%)を目指す
◆ビジネス環境ランキングで先進国3位以内を目指す
「日本再興戦略 – JAPAN is BACK」首相官邸
「ビジネス環境ランキング」は、世界銀行が190の国と地域を対象に、企業活動に影響を及ぼす規則や制度を比較評価し、順位付けした年次報告書です。首相官邸サイトにて発信された「世界銀行の事業環境ランキングに関する更なる取組の検討について 」によると、2020年の結果は、先進国(OECD加盟国)のなかでは18位、全体で29位でした。前年からはそれぞれランクアップしているものの目標にはほど遠い状況が続いています。
ちなみに、この「ビジネス環境ランキング」は、2017年の報告書に不適切な圧力・順位操作が判明したとして、2021年以降の発行が停止されています。これらの不正が是正されたときに日本の順位がどうなるのかは不明ですが、いずれにしても目標に遠く及ばないことは事実です。
国内外における手続きのオンライン化の動き
民間では電子契約が広がりつつあります。行政手続きでも、民間事業者による政府システムAPIと連携したITサービスが提供され、法人設立に関連する一連の手続きについても、必要書類の作成支援サービスがスタートしています。一方、海外に目を向けると、政府による法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化の動きが進んでいます。
日本では、「デジタル・ガバメント推進方針」(平成29年5月高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定)にて、行政手続きおよび民間取引きのデジタル化にあたっての3原則(デジタルファースト、コネクテッドワンストップ、ワンスオンリー)を掲げ、行政内部の業務改革を実行することが宣言されています。
オンライン・ワンストップ化を阻む法人設立手続きの実情
日本における法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化を妨げてきた要因として、以下の点が挙げられます。
手続きが多く、日数が長くかかる
「ビジネス環境ランキング」において、日本の法人設立分野に対する低評価は、上図の通り必要な手続数が多く、手続きの完了までの日数が長くかかることが大きな要因とされています。
対面や書面手続きが多く残っている
株式会社の設立には、公証人の面前における定款の認証や会社代表印の書面提出、銀行口座開設時の登記事項証明書の提出など、対面や書面での手続きが多く残されていました。
手続きごとに窓口が異なる
登記申請や国税・地方税・社会保険に関する届出など、手続きごとに窓口が異なり、それぞれ個別の手続きが求められることが、申請者にとって大きな負担となっていました。
複数のオンラインシステム
法人の設立手続きをオンラインで行える申請システムは用意されていますが、手続きごとに複数のシステムに分かれているため、申請手続きを一括して完了させることができませんでした。
法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化は生産性革命のカギ
このような状況を踏まえて、2017年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージについて」 では、「Society 5.0 の社会実装と破壊的イノベーションによる生産性革命」に向けた対策として、法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化についての具体的な方向性を示しています。世界最高水準の起業環境を実現するために、以下の4テーマに取り組みました。
マイナポータルを活用したワンストップサービス
マイナポータルを活用した法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化に向けて、技術的な検討を行いながら、登記後の手続きからワンストップ化を図り、さらに定款認証や設立登記を含めたすべての手続きのワンストップ化を実現しました。
設立登記の24時間以内処理
まず2018年3月からは、それまで7日程度を要していた法人設立登記について、処理時間を原則3日以内とする取り組みをスタートしました。さらに現在では、審査業務の電子化を進め、オンライン設立登記の24時間以内の処理を実現しています。
株式会社設立時の定款認証手続きの合理化
株式会社の設立時の定款認証について、公証役場まで出向かなければならなかった手続きを、一定の条件のもとテレビ電話等による対応を開始しました。さらに定款認証および設立登記のオンライン同時申請を対象に、24時間以内に設立登記が完了する取り組みを実施しました。
印鑑届出の任意化
法人設立登記の際には、オンラインであっても、別途、代表者の印鑑を押した書面を提出する必要がありました。これを、商業登記法の改正および商業登記電子証明書の普及促進、システム改修などを進め、商業登記電子証明書の申請をした場合には印鑑届出を任意とする見直しを行いました。
2021年3月、全手続が法人設立ワンストップサービスの対象に
法人設立ワンストップサービスは、政府が運営するポータルサイト「マイナポータル」を利用して、2020年1月からサービス提供を開始しました。
法人設立ワンストップサービスのメリット
法人設立ワンストップサービスを利用するメリットについてまとめました。
オンラインで
これまでは手続きごとに、担当する窓口を訪ねる必要がありましたが、オンラインで手続きを完了することができます。
ワンストップで
法人設立登記から国税・地方税、年金や社会保険まで、法人の設立に必要な手続きを一括で行うことができます。
いつでも
365日24時間、いつでも、どこからでもアクセスして手続きを行うことができます。
法人設立ワンストップサービスの対象
2021年3月には、法人設立ワンストップサービスの対象がすべての手続きに拡大されました。
「かんたん問診」の質問事項に「はい」「いいえ」「わからない」の3択で答えていくことで、必要な手続きがリストアップされます。このサービスの対象となるのは、以下の手続きです。
- 国税・地方税に関する設立届
- 雇用に関する届出(年金事務所・ハローワーク)などの法人設立後に必要なすべての行政手続き
- 定款認証・設立登記
- GビズIDの発行
法人設立ワンストップサービスでは、手続きのオンライン・ワンストップ化を進めるにあたって、サービスデザインの考え方に基づき、利用者である起業を目指す人たちに望まれるサービスの実現を目指しました。その結果、利用者にとって使いやすいサービスとなったばかりではなく、サービスを提供する行政側にとっても業務負荷の軽減などのメリットをもたらしています。