【電子契約】コロナ禍を機に急増! 電子契約のメリットや注意事項、関連法律を解説
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- writer : GDX TIMES編集部
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電子契約とは、電子文書に電子署名をして交わす契約で、コロナ禍によって電子契約を利用する事業者数が急増しています。本記事では、電子契約の定義、電子契約が急増した理由、電子契約導入のメリット、注意点、電子契約に関連する法律について紹介します。
「電子契約」とは?
電子文書に電子署名をして取り交わされる契約のことを、電子契約といいます。しかし、電子契約の定義として確立したものがあるわけではなく、以下のように、法律上でもさまざまな定義が存在し、各組織や団体による定義もさまざまです。
この法律において「電子契約」とは、事業者が一方の当事者となる契約であって、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により契約書に代わる電磁的記録が作成されるものをいう。
電子委任状の普及の促進に関する法律(電子委任状法)第2条2項
「電子消費者契約」とは、消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うものをいう。
電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律
販売業者又は役務提供事業者と顧客との間で電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信技術を利用する方法により電子計算機の映像面を介して締結される売買契約又は役務提供契約であつて、販売業者若しくは役務提供事業者又はこれらの委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従つて、顧客がその使用する電子計算機を用いて送信することによつてその申込みを行うものをいう。
特定商取引に関する法律(特定商取引法)施行規則16条1項1号
電子的に作成した契約書を、インターネットなどの通信回線を用いて契約の相手方へ開示し、契約内容への合意の意思表示として、契約当事者の電子署名を付与することにより契約の締結を行うもの。
公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)電子契約委員会|電子契約活用ガイドライン
「電子契約」が急増している理由は?
一般財団法人日本情報経済社会推進協会による「IT-REPORT 2021 SPRING」によると、2021年1月に実施した「企業IT利活用動向調査」の結果、電子契約を利用している企業の比率は67.2%でした。また、「採用していないが、利用するよう検討・準備している」との回答が17.7%となっていることから、今後は8割以上の利用が見込まれるとしています。
電子署名の付与によって電子契約が成立するとした「電子署名法」は、2001年から施行されています。それでは、ここ数年で電子契約を利用する企業の比率が急激に増大することになったのは、どのような理由があるのでしょうか。
「信用」を重んじる日本人特有の価値観に変化
日本の商取引では、古くから「信用」に重きを置いてきました。このため国内で取り交わされる契約書には、「問題が発生した場合には、当事者同士が誠意をもって協議し解決する」といった記載が見られることが多いようです。
一方、訴訟大国といわれるアメリカをはじめ諸外国では、訴訟件数が日本よりもきわめて多く、万一、商取引上のトラブルが生じて訴えられるようなリスクに備えて、契約書をしっかりと交わすという文化が根付いています。
「信用」を重視する従来の日本では、契約書を「形だけのもの」として捉える傾向があり、書面による契約が厳密に行われてはきませんでした。しかし契約書には、債務不履行を防止するという効力があります。
債務には「対価として行う行為または義務」という意味があり、その履行が遅滞あるいは不能、不完全となることを債務不履行といいます。契約書に何が債務であり、どのように履行すべきかを明記することによって、スムーズな取引を可能とし、万一、トラブルが発生した場合には、契約書の記載内容を証拠として、契約の解除や損害賠償を求めることができます。このような点から近年では、契約書を交わすことの重要性が高まってきました。さらにグローバル化が進んで海外企業などとの契約の機会が増えるにつれ、ますます契約書の重要性は高まることになるでしょう。
テレワークやリモートワークの普及
コロナ禍において、テレワークやリモートワークなど、非対面での業務スタイルが増え、一般化してきました。また、働き方改革の一環として、テレワークを可能とする職場環境の見直しが、多くの企業に求められることになりました。こうしたなか、ハンコを押すだけのために出社する、いわゆるハンコ出社が問題視されたことで、電子契約はさらに注目されるようになりました。
「押印・書面手続き」を見直す法律の設置
2000年に政府が掲げた「e-Japan構想」では、その重点政策分野として、電子政府の実現、電子商取引の推進などが掲げられました。また同年には、電子署名法が制定され、2005年にはe-文書法の制定、電子帳簿法の改正もあり、電子契約に関する法整備が進められてきました。
そして、2021年9月には6つの法律からなるデジタル改革関連法が施行され、そのなかの「デジタル社会形成基本法」では、押印・書面手続きの見直しが柱のひとつとなっています。これを契機に、事務処理の電子化や押印廃止の動きが進み、電子契約普及の後押しになっています。
さらに、後述する電子契約に関連する法律の見直しなどもあって、電子契約が行いやすい環境が整備されつつあります。
デジタル社会形成基本法については、以下の記事をお読みください。
【デジタル社会形成基本法①】デジタル社会形成基本法は「IT基本法」の後継法律。なぜIT基本法は見直しが必要だったのか?
【デジタル社会形成基本法②】デジタル社会形成基本法と「IT基本法」との違いは?地方自治体関連で追加された項目は?
電子契約を導入するメリット
電子契約の導入によって得られる効果には、どのようなものがあるのでしょうか。
業務の効率化
書面によって契約を締結するには、契約書を作成して出力した書類に押印、印紙を貼付したうえで取引先に送付し、契約内容の確認後に押印し返送してもらわなければなりません。契約締結までに数週間を要することもあるでしょう。電子契約では、作成した契約書のデータをサーバーなどに格納し、これを取引先が確認し、電子署名を付与して返信することで、契約締結となります。契約業務のすべてをオンライン上で行えるため、早ければ数時間での契約締結も可能です。
コストの削減
契約業務の手間を省き、時間の短縮が可能な電子契約では、作業にかかる人件費や郵送代、印刷費などのコストを削減できます。また、電子契約を利用することで印紙税が非課税となります。
保存や管理の手間を削減
電子契約では契約書のデータを自社のサーバーなどに保管できるため、書類の保管場所を用意する必要がありません。また、契約書のファイリングなどの手間もなくなります。検索機能を利用して過去の契約書データを確認することも容易で、契約締結後の更新時期の管理なども、漏れなく確実に行うことができます。
契約内容の改ざん防止
電子認証局から発行される「電子証明書」や電子文書の存在と非改ざんを証明する「タイムスタンプ」を付与することで、情報の改ざんやなりすましを防止し、契約書の安全性と信頼性が担保されます。
コンプライアンスの強化
契約書を電子データとして一元管理することで、どの契約を誰がどのように進めているのかを容易に把握することができるようになります。また、契約業務が可視化されることで漏れや抜けを防ぐことができ、データの閲覧権限を設ければ、社外や契約に無関係な人が契約内容を見ることができなくなります。このように契約業務の安全性が確保されることで、コンプライアンスの強化につながります。
電子契約の導入上の留意点
電子契約には大きなメリットがありますが、導入するにあたって注意したい点もあります。
取引先の理解・協力が必要
電子契約の導入には、まず契約を交わす取引先の理解と協力が必要になります。契約書を書面から電子データに切り替えることへの同意がなければ、電子契約を締結することはできません。
電子契約などで受け取った電子文書は電子データのまま保存することが義務づけられるなど、関連する法律については後述することにします。
導入のコストと手間がかかる
電子契約を行う場合、事業者などが提供する電子契約サービスを利用するのが一般的です。ただし、このようなサービスの利用には料金がかかり、移行後の契約業務に慣れるまでは、ある程度の時間と手間がかかることを理解しなければなりません。
電子契約対象は今後も拡大
2021年9月に施行されたデジタル改革関連法によって、さまざまな書類の電子化が認められるようになりました。とくにデジタル社会形成整備法(デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律)には、押印・書面に関する48の法改正が盛り込まれ、電子契約への段階的移行を目指す姿勢が示されています。今後は、電子契約の対象も徐々に拡大していくことになります。
押さえておきたい「電子契約」関連の法律
電子契約を行う場合には、関連する各種法律の要件を満たす必要があります。以下に電子契約に関連する法律の要件や注意点を、法律が制定された順に紹介します。
民事訴訟法 第228条(文書の成立)
第1項|文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
第4項|私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
民事訴訟法 第228条
契約書の作成などで当事者の意思を文書化するのは、意思表示の明確化と証拠化のためです。文書を本文と署名・押印に分けて考えると、本文部分は「何を」意思表示するのかを明確化・証拠化し、署名・押印部分は「誰が」意思表示するのかを明確化・証拠化するものとなります。
民事訴訟法 第228条1項の「文書の成立の真正」とは、文書の作成者の意思に基づいて文書が作成されていることをいいます。そして、同条4項の規定によって「文書の成立の真正」が推定されるためには、単に署名・押印されていればよいわけではなく、その書名・押印が本人または代理人の意思に基づくものであることを証明しなければなりません。
電子署名法
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)は、2001年4月から施行され、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用するという法的基盤が整備されました。同法による電子署名の定義は、以下の通りです。
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
電子署名法 第2条
また、電子署名において真正な成立が推定される要件については、以下のように定めています。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
電子署名法 第3条
電磁的記録の保存方法には、おもに3種類あります。電子取引による情報を紙ではなく電子記録として保存することで、ペーパーレス化によって保存すべき書類の格納に要するスペースの確保が容易になり、検索機能を使って書類を整理しやすくなるなどのメリットがあります。また、タイムスタンプを付した記録が保存されることで、記録の改ざんなどを防ぎ、記録の真実性を担保することができるようになります。
また、電磁的記録による保存では、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。真実性の確保とは、その記録が改ざんなどがされていない本物であると確認できること。可視性の確保は、誰もが視認・確認できる状態が確保されているということです。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法(法律電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、国税関係の帳簿書類を電子化して保存することを認めた法律で、1998年7月に公布されました。
各税法では、それまで国税関係の帳簿書類について、原則紙での保存が義務づけられていましたが、一定の要件を満たしたうえで電磁的記録による保存を可能とすることと、電子的に授受した取引情報の保存義務などが定められています。
電子帳簿保存法が対象とするのは、「国税関係帳簿」「国税関係書類」「電子取引」の3種類の帳簿書類です。これらの帳簿書類は、以下のように分類されます。
2021年度の税制改正に伴い、電子帳簿保存法も改正され、書類の電子保存に関する手続きについて抜本的な見直しが行われました。事前承認制度の廃止など大幅な要件緩和が行われる一方、電子取引の電子保存が義務化され、不正行為に対するペナルティも強化されました。
e-文書法(電子文書法)
e-文書法は通称であって、正しくは2005年4月に施行された「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」のことです。
これら2つの法律は、法人税法や会社法、商法、証券取引法などで保管が義務づけられている書類や帳簿などについて、紙媒体だけではなく、電子化した文書(電磁的記録)での保存を認める法律で、「電子文書法」とも呼ばれます。
このような書類や帳簿の電子化にあたっては、法令で定められた要件を満たすことが必要になります。これらの要件は、府省ごとに異なっていますが、その前提として経済産業省は、見読性・完全性・機密性・検索性という4つの技術的基本要件を定めています。
「電子帳簿保存法」と「e-文書法」の違いは?
電子帳簿保存法は、財務省・国税庁が管轄する法律を対象に適用されますが、e-文書法は複数の監督省庁が管轄する約250の法律に対して適用されます。電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿書類の電子保存を認めるものですが、e-文書法が認めているのは、紙での保存が義務づけられてきた法廷書類の電子保存です。このため、e-文書法のほうが対象となる書類が多いことになります。
電子契約の有効性を認める法整備が進み、電子契約を利用する事業者数は急激に増加しています。この機会に、契約業務ばかりではなく、その周辺業務へとデジタル化の動きが拡大し、その恩恵を官民問わず社会全体で共有できるようになることを期待します。