デジタルと学びをつなぐ:第3回『始動人』を引き寄せる国づくり。群馬県の新・総合計画とSTEAM教育の目指す未来(前編)

これからの世界を生きていく子どもたちに必要な資質・能力を得る学び方(創造・共創・共存) を探る。今回は、STEAM教育、そして、STEAM教育を取り入れた、新しい未来づくりを進める群馬県の「ワクワク」する取り組みについてお聞きします。

(この記事は2022年11月24日に開催したウェビナーのレポートです。)

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Passeggiata con KITANO! ~コエとコエを紡ぐ~ デジタルと学びをつなぐ

デジタル化が進む教育現場。人間の成長における「学び」とは?という原点の問いを、学校現場にいる子どもたちや先生も含む、学び・教育業界へと繋げていきます。

Presented by株式会社アスコエ・パートナーズ 取締役 北野菜穂


◆ゲスト

宇留賀敬一様(群馬県 副知事)

中島さち子様(株式会社steAm代表取締役)

2040年に向けて未来のビジョンをつくる

北野:

まずは、今、群馬県で何が始まろうとしているのか、ご共有いただけますか?

宇留賀様:

群馬県は、この数年間で、かなりメディア露出が増えてきましたが、2019年の7月に、もともと参議院議員を24年間されていた山本一太さんが知事になられたということが変化の一つの起点になっていると思います。

群馬県は関東の一角を占めているのですが、あまり目立った特徴がなくて、東京から約1時間という距離もあり、高校は県内だけど大学は東京へと、優秀な人材が東京に流れる傾向がありました。

2019年に山本知事が就任して、まず取り組んだのが2040年のビジョンをつくっていくということでした。一般的に地方公共団体では、こういうタイミングに10年間プランというものをつくるのですが、ビジョンというより、実行計画に近いものがつくられて、どこも政府のおすすめメニューが並んでいることが多いです。ですが、群馬県の場合はガラッと変えていこうということで2040年、20年後の未来を描こうということになりました。

20年後となると、それこそ想像できないようなことがあるはずなので、むしろそれを描いてしまおうと。

一番初めに特に知事から出されたのは「性別や国籍、障害の有無にかかわらず、すべての県民が誰一人取り残されることなく、自ら思い描く人生を生き、幸福を実感できる自立分散型の社会」をつくりたいということです。

例えば群馬でいうと、前橋市や高崎市ま太田市という少し大きい都市があるのですが、そういう都市に行かずにどこのエリアに住んでいても、それぞれの人が自らが主人公の人生を描けるようにしていこうというビジョンを描きました。

こういうビジョンをつくっていくときには、地元の代表、各業界団体からの推薦人などの合議制でつくっていくのが一般的で、群馬県もそうでした。ただ、そうなると、人数が増えうまく意見交換ができないので、今回、群馬県のビジョンをつくるときには、中の目と外の目、つまり県内の有識者と県外の有識者を半々にしました。男女比も半々で女性6人、男性6人という形になっています。また、年齢も20代から70代までで平均年齢40代ぐらいという、20年後にもしっかり現役の世代の方がいるメンバー構成にしました。

コロナ禍になる前は、2時間会議して、そのあと皆さんと食事しながらまた2、3時間、みっちり話して合計4~5時間やっていました。山本知事も最初の会議から食事会の最後までファシリテーターとして出席し、皆さんとの会話の中でどんどん吸収していく時間を取っていました。今日のゲストの中島様や北野様にも県外の有識者として入っていただいています。

群馬県が目指している始動人とは?

こういったメンバーの中で大きく3つのビジョン「快疎」「始動人」「官民共創コミュニティ」を打ち出してきまして、「始動人」はその一つです。

「始動人」は群馬県でつくった造語です。学校の先生や社会のリーダーなどの「指導者」ではなく、自ら動き始める人という意味で「始動人」です。

インターネットの発展の中、同じエリアにいなくても世界中の人と協働していくことが非常に簡単になったので、自分がやりたいこと、自分にしかできないことを見つけ出して、誇りを持ってやっていくような人材がこれからどんどん群馬から輩出されていく…、そうやって世界とつながっていくと面白いんじゃないかと思っています。

今までの偏差値教育的な「言われたことをしっかりやります」ということではなく、他の人が目指さないことや自分でしかつくれない領域で動き始めて生き抜いていく、そういう力を持つ人を「始動人」と名付けました。特別な人じゃなくても、誰もがそういう「始動人」の「かけら」を持っている。どんな人でも自信を持って社会を楽しく生きていく。またそれが幸福につながっていく…。そういう人を群馬県から輩出していくために教育イノベーションが必要だと話しています。

今日のメインテーマになったSTEAMも、この「始動人」の育成のために非常にいいだろうということで、力を入れて今、取り組んでいます。最初は、今日のゲストの中島様に群馬県内の中堅校でSTEAM教育のトライアルを始めていただきましたが、今年度からは県内の全県立高校でSTEAM教育を推進するという形にしています。

デジタル、クリエイティブ部門に力を入れる

群馬県ではSTEAMの前に基盤整備も重要ということで、1人1台PCを配備しています。さらに、小学校から高校までの教育データの連携にも力を入れました。例えば県内で引っ越しをしたら、この子はこれが得意とか、こういうところが長所という情報をちゃんと学校で引き継いでいく。また、小学校から中学校に上がる、中学校から高校に上がるときもしっかりデータを共有することで、生徒にとって最適な教育ができる環境をつくっています。当然見ることができる人はちゃんと限定しながら、情報管理をしっかりして、教育データをシェアしています。

将来的には柔軟に個別最適化できる形も模索しています。得意、不得意はもちろんありますし、例えば中学生で高校の数学を全部終わっている子もいるというように、学習の進捗率もそれぞれ違います。1人1人みんなが同じレベルで上がっていくという形ではなく、個別最適化が必要なのではないかと思います。塾へ行くとか、個別に受けている教育サービスなども自分で管理できて、自分の道を進むために必要な教育が柔軟に受けられるような環境をつくっていきたいですね。

このようにいろいろ取り組んでいる教育のイノベーションですが、中でも特に力を入れていることがあります。群馬県はこれからデジタル、コンテンツ、またクリエイティブの分野で世界のマーケットを狙っていく、そういう県になりたいと考えています。

クリエイティブなデジタル人材育成の拠点も県で運営しています。小学生、中学生をターゲットにプロが使うような機材をeスポーツに使えたりプログラミングに使えたり、3DCGやVR、デジタル映像制作などを無料で学べたり、小学生が毎日来てそういう取り組みをしています。

BTSが韓国という小さな国から世界中のメディアコンテンツを席巻しようという勢いがあるように、群馬県からデジタルやクリエイティブの世界で世界を席巻してもいいと思っています。群馬県は自動車産業も大きいのですが、自動車もあるし、デジタルもある、そういう県にしていきたい。そういうエリアにしていけば、東京よりもむしろ魅力的になる、と思って、今、取り組んでいるところです。

STEAM教育とは?

北野:

群馬県としての独自のビジョン造り、その実現に向けて、何から始めていくのか、というステップまで、かなり具体的になっていて、さらにもう着手が始まっていらっしゃいますね。

始動人を多く輩出していくための環境や仕組みづくりには、やはり行政が担うレイヤーがあって、行政だからこそイニシアティブを取れる「場所」を作ることが必要だと思います。中島様が日本に持ってきてくれたSTEAM教育にも積極的に取り組まれているようですが、まだSTEAM教育って何だろう?という方が多いと思います。

STEAM教育について、具体的に教えていただけますか?

中島様:

軽く私の自己紹介なんですが、2017年に株式会社steAmを立ち上げ、2025年の大阪関西万博のテーマ事業プロデューサーをはじめ、音楽、数学、STEAM教育など、いろいろなことをさせていただいています。ちなみに来年、日本で数学オリンピックが20年ぶりに開催されるのですが、それにも関わっています。

今、STEAMの活動をいろいろやっていますが、わからないものを研究したり、考えたりすることで何か見えてくる楽しさ、つまり「創り出す喜び」を、芸術家や研究者のような特定の職種ではない子どもたちなどにも届けていく活動をしています。

今、世界中でSTEAMという言葉が出てきています。STEAMはアメリカで最初に使われるようになった言葉です。STEMといういう言葉がまずあって、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics )の創造的な能力の育成が求められました。そこに、芸術・教養(Art・Atrs )を加えながら発展したのがSTEAM教育です。私は日本ではSTEMよりSTEAMの方が浸透するだろうなと思っていますし、STEAMという考え方、思想みたいなものが広がるといいなと思って、活動しています。

STEAMの背景には、構築主義「Learning by Making」、創ることで学ぶという考え方があると思います。もともと学びとは一方的に教えてもらうものではない、知識というのは再構築する、あるいは発明することによって理解できるんだという考え方があります。それを頭の中から取り出して「創る」ことが、今、ある意味民主化されてきて、それはいろいろなテクノロジーの発展とも関係しています。

先ほど、お話があった群馬の事例のように、技術がすごいというよりも、技術によって人が本来持っていた創造性がいろいろな形で表現されてくることがすごいんです。20世紀では小説家やテレビに出ている人は遠い人だったけれど、今となっては、誰でも動画も撮影もできるし編集もできる、アクターにもなれる、小説も書ける。サービスも何か自分で構築することができるかもしれない。そういった場を自分で形にできることは非常に面白いことだと思います。

それが背景にあったうえでSTEAMというものが出てきています。今は、創造力が大事だと言われる時代になってきました。20世紀には数学でも音楽でもいろいろな分野、ジャンルが生まれ多様化しましたが、そうやって分かれたものを今度は融合していく時代に入っています。融合することで今までの専門性がより活かされる時代だと思っています。業界も変わってきますし、学問も融合によって今までの境界線が消えていくような時代になっています。その中で「創る」ということはどういうことかを伝えていきたいのです。STEAMをつくるということを分解すると、まずは目的もなく遊ぶような時間があることが大切で、そこから、徐々に時間をかけて自分なりの問いをつくり出す、別の言い方で言うと「思想」や「アート思考力」が求められ、でもそれで終わらせずに今度具体的なものに落とそうとすると、「デザイン力」「エンジニア力」というものが必要になります。

文部科学省は今、Science, Technology, Engineering, Art(s), Mathematics 等の各教科での学習を実社会での課題解決に活かしていくための教科横断的な教育がSTEAMであるというふうに定義をしています。

私は、経産省の未来の教室で初年度から委員として関わり、かつ、実証プロジェクトにもたくさん関わってきたのですが、ここでも群馬県での会議のようにいろいろな方と議論をしながら、一つのコンセプト「学びのSTEAM化」をつくりました。

学びをSTEAM化するというのはどういうことかと言いますと、まず、真ん中にワクワクがあるんですね。ワクワクから始まらないとやっぱりやる気にならない。もちろん「知る」ということも大事です。でも今までは子どもの頃に知って大人になって創る、というパターンでしたが、「知る」ことと「創る」ことが循環することが大事。知ったら創りたくなるし、創っていると何かもっと知りたくなるし、この循環ですよね。これがSTEAMのモデルであるというような出し方をしています。

海外の定義を見てみると、キーワードとして創造性や、ワクワク、好奇心があがっていて、何か科目を学ぶというよりは、アーティストとかエンジニアのように創ったり、科学者とか数学者のように考えたり、そういう考え方が学び方、生き方なんだみたいに書かれていたりします。STEAMとはそういうことかなと思っています。

今、大きく学びも学校のあり方も変わりつつあって、楽しさ・遊び(Play)の中にこそ、学びがあふれている、つまり、学ぶ=働く=生きる=創る=遊ぶの時代!ということが意識されるようになってきています。

第3回 『始動人』を引き寄せる国づくり。 群馬県の新・総合計画とSTEAMの目指す未来(後編)へ続く

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◆第1回 学びと心の成長 「探求する心の育て方」~教師と子どもを育てるアフターGIGA

◆第2回 学びと環境  GIGAスクールのその先へ 「“先生”って何だろう?」

【STEM教育・STEAM教育】AI活用社会に必要な人材を育てるために官民学総力をあげて取り組む教育施策

【ゲストプロフィール】

群馬県 副知事 宇留賀 敬一様
2003年経済産業省。ITを活用した政府機関の業務効率化、ITを活用した地方創生、製造業を中心とした産業群におけるIoT活用、ITを活用した分散型エネルギーシステムなど、ITによるイノベーションの実現に一貫して携わる。
2007年からは、日本国内で社会問題化した年金記録問題に対して、厚生労働大臣の補佐役として、IT技術をベースとした解決策の企画立案を主導した。また、SXSW 2019におけるThe New Japan Islandsプロジェクトの統括プロデューサーを務めた。現在は、全国最年少の副知事として、世界の課題先進圏といえる日本の地域から、持続可能で世界に誇る地域経済の実現を目指している。

中島さち子様 
音楽家・数学研究者・STEAM 教育者。
(株)steAm 代表取締役、(一社)steAmBAND代表理事、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、内閣府STEM Girls Ambassador、東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。国際数学オリンピック金メダリスト。音楽数学教育と共にアート&テクノロジーの研究も進める。