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2022年12月15日

デジタルと学びをつなぐ:第3回『始動人』を引き寄せる国づくり。 群馬県の新・総合計画とSTEAM教育の目指す未来(後編)

これからの世界を生きていく子どもたちに必要な資質・能力を得る学び方(創造・共創・共存) 。STEAMとは、世界的に見られる「学際的な研究活動・創造活動」を低年齢化させる教育改革の中心的な概念となっています。
今回は、STEAM教育、そして、STEAM教育を取り入れた、新しい未来づくりを進める群馬県の「ワクワク」する取り組みについてお聞きします。

(この記事は2022年11月24日に開催したウェビナーのレポートです。)

◆第3回 『始動人』を引き寄せる国づくり。 群馬県の新・総合計画とSTEAMの目指す未来(前編)

◆「Passeggiata con KITANO! ~コエとコエを紡ぐ~ デジタルと学びをつなぐ」特集ページはこちら


Passeggiata con KITANO! ~コエとコエを紡ぐ~ デジタルと学びをつなぐ

デジタル化が進む教育現場。人間の成長における「学び」とは?という原点の問いを、学校現場にいる子どもたちや先生も含む、学び・教育業界へと繋げていきます。

Presented by株式会社アスコエ・パートナーズ 取締役 北野菜穂


◆ゲスト

宇留賀敬一様(群馬県 副知事)

中島さち子様(株式会社steAm代表取締役)

STEAM教育を活かした群馬県の事例

北野:

前半でSTEAM教育について、教えていただきました。実際に始まっている群馬県での事例にはどのようなものがあるでしょうか?

中島様:

群馬県の場合は、「始動人」の「かけら」がみんなにあるという考え方をもとに、それを育てていく社会や文化があり、県自体や県外の人、海外の方を巻き込んで発信するということをされています。

群馬県の事例はたくさんあるのですが、例えば、中之条研究というのがあります。2000年から60〜65歳以上の方々にセンサーをつけていただいて、毎日どれぐらい歩いたかデータを取るという取り組みがありました。まだ、ビッグデータと言われていなかった頃の話です。それがずっと続いていって、かなりデータが集まって出てきた結果として、歩数だけではなくて、中強度のちょっとゼーゼーハーハーするような歩きが何分ぐらいあったかという歩きの質の面からも、両面で見ないとわからないという結果が出てきました。

それを高校生にも同じように考えてもらおうというのが、その後、2020年に吾妻中央高校で行った取り組みです。折しもコロナ禍になったことで子どもたちもなかなか歩かなくなり、普段あまり健康など意識していなかった高校生の意識がちょっと変わってきたときでした。自分たちで毎日どれぐらい歩いているのか測ると、そのデータをさらに細かく分析する子もいれば、より歩きたくなるようなイベントを考える子がいたり、歩数計をただ使うだけではなくつくってみようということで加速度センサーを使って、自分たちで歩数計のラフ版をつくってみたり、それを発展させていろんなツールを発明した子たちもいました。

これを3~4カ月かけてみんなでやりました。仮説検証も行って、何か気分がいいと歩数が増えて健康になるんじゃないかという仮説を立てた子もいましたし、また健康をどう定義するかを考えた子もいます。他にも、歩きたくなるようなゲームをつくろうということで、得意な絵を活かして、歩くとどんどんマッチョに、サボるとリバウンドしたりするゲームをつくった子もいます。

その翌年はそれを4校でやって、発表会も行いました。群馬県ではそういう発表の場もあって、みんなで共有できるのがすごいと思います。

先ほどお話にあった尾瀬でもいろいろやっていまして、今年の成果発表会の様子がYouTubeに載っています。高校生たちのチームもあれば、大人のチームがあったり、大学生と高校生と大人の混合チームもあったり、非常に面白い結果がいろいろ出ていますので、もしよければ見てみてください。

今年の事例でいくと、自然とAIを絡めるというテーマに取り組みました。今回は5泊6日でみんなで尾瀬で過ごし仲良くなって、そこから探究をつなげるという試みです。

AIの花認識アプリ体験がテーマなのですが、まず参加者みんなでAIってどういうことか、という基礎学習をします。そのうえで実際に尾瀬を歩いて、事前にベース開発しておいたAIの花認識アプリをつくり上げていく体験です。

つくったものを渡したのではなくて、やり方を教えてみんなでつくったんです。

AIを使って尾瀬を歩くのですが、このAIは完璧ではなく、Googleで検索した尾瀬の情報しか入っていないので、もっとAIに情報を与えるため、新たに花の写真を撮るなどしてもらいました。尾瀬で情報を集めて一旦、片品村に戻って、AIの精度改善をします。自分たちが撮ってきた写真をうまく活用してAIに学習させるんです。やはり一度使ってみることで、AIをよく知ることができるので、そこからは自分たちで独自でクラスをつくるなどして、いろいろ考えながら花認識アプリを改善していきました。もちろん勉強だけでなく、花火をしたり、スイカを食べたり楽しむ時間もありました。

大事なのがここから先の探究で、面白かったのは生徒同士すでに仲良くなっているので、その後も、オンラインでつながりあいながらいろいろ模索を深めて、尾瀬地図鑑という、花がどこに咲いていて時期はいつか?などがわかるようなサイトをつくり、さらにみんなでつくるウェブサイトということで、公開のLINEアプリをつくって尾瀬に来た人たちが写真を送ってくれると、その位置情報からまた情報が増えていくようなものをつくり出しました。

その他、大日本印刷の方々が持っているものを使って、立体的に見える花の置き方を提案したり、また鹿とどう共生していくのかを考えるにあたって、尾瀬にももっとこういうデータがあるといいという提言を含めて、分析してくれました。

などなど、群馬県ではすでに多様な活動をしています。

STEAM教育を導入する環境づくり

北野

中島さんのお話はワクワクばかりで、いつお聞きしても楽しいです。

群馬県ではSTEAM教育を学校の活動に組込もうとしているとのことですが、それはカリキュラムなのか、クラブ活動なのか、夏休みの課題研究なのか、どのような形で取り入れようとされているのでしょうか?

宇留賀様:

群馬県では、いろんな仕掛けをしていますが、県立高校の標準カリキュラムにSTEAMを入れていこうとしています。学校ごとに取り入れ方は違うのですが、基本、県立高校全体で進めています。高校のカリキュラム以外でも、小学生や中学生も参加できるような形で、始動人Jrキャンプみたいなことをやったり、県内ですごいチャレンジをした中学生、高校生を表彰する会で始動人認定みたいなこともしています。また、昨年から夏に1週間英語の合宿を企画したりしています。さらに、学校のカリキュラムという枠を超えて、不登校の子なども参加できるようないろいろな枠組みに取り組んでいます。あとは、STEAMとは直接関係ないかもしれませんが、知事に直接物申すみたいな機会もつくっています。

特にうちの知事はテレビにもたくさん出たりしているので、知っている人は多いんですが、どうしても距離があって、みんな直接話しにくいということで、知事に直接、中学生や高校生が政策提案をしてみたり、10代、20代が参加しやすい政治・政策検討プラットフォームみたいところで環境問題のゴミについて知事に提案したりしています。他にも、知事は県立女子大で講義したり、いろいろな方々と直接、接点を持ちながら、実際政策を動かしてみるということをしています。そこはSTEAMにあった、やってみることと学ぶということは一緒というところと、けっこう共通しているのかなと思います。

北野:

群馬県には自由に発信ができるスタジオもありますよね。このような情報発信のスタジオを、県がイニシアチブを持って環境提供をするのは素晴らしいですよね。実際に、どのように使われているんですか?

宇留賀様:

群馬県庁の32階にあって、群馬県の一番高い建物の最上階にスタジオがあるんですけれども、ふらっと行くと、高校生が収録しているのは普通に見かける光景です。特に昼間の時間帯は高校生とか中学生が来て何か動画を録ったりしていますね。

北野:

STEAM教育を導入することで、誰でも自分でクリエイティブなものを作ることができる環境を整備する。徐々にその環境にデータが蓄積されて、かつ共有化されていく「ポイント」のようになる。その先に、常にトップダウン的な、固定化された「授業」ではなく、生徒が自分で、個別最適な学びをつくることができるような社会を目指したい、というお話であるかと思います。この、最後のゴールでもある個別最適の部分はSTEAM教育の中ではどう解釈されるのでしょうか?

中島様

日本の場合はたぶん段階を踏んだ方がいいとは思っています。今まで正解がある授業をやってきたのですから、やはり急な変革は学校の先生の負担になるので、私は先生が駆け込める場がもっとあるといいと思っています。本当は大人のSTEAMの遊び場がもっとあるといいですね。

事例が見えないときに人ってちょっと不安感があります。ゆとり教育がまさにもったいなかった。私はすごく面白い取り組みだと思っていたけど、結局何をしていいかが自由すぎてわからない、みんなどうしよう、どうしようとなってしまってあまりうまく動けませんでした。

今、未来の地球学校でちょっとやろうとしているのはいろいろなプロジェクトの見える化です。最初は盗む、真似があってもいいんじゃないかと思うので、いろんな学校がやっている面白い事例をちょっとずつ出してもらおうと。

途中で失敗した記録やドキュメンテーションももっと出てくるといいですね。英語や中国語の失敗事例はけっこうネット上にあるのですが、何のデータを取ったのか、どこでつまずいたかなどがデータ蓄積されて、それから無意識に自分が持っているものが見えてきたり、他に、評価についても自分の評価、先生の評価、今のアクティビティの評価など、いろいろなものが蓄積されてくると、何か新たなものの見方みたいなものが広がってくると思います。

北野:

個別最適で学びを多様にしていくための基盤として、やはりデータは大切ですね。このような学びのデータをためるためにはDX戦略やデータ戦略をしっかりと整備して進めていく必要があると思うのですが、群馬県ではどのように取り組んでいらっしゃいますか?

宇留賀様:

県立高校のいい学校に入って東京のいい大学に入って東京のいい会社に就職するというのが勝ち組モデルという固定観念がまだ根強いと思うのですが、本来は別に中学校高校で少し留年してもいいし、逆に飛び級してもいいんですよね。例えば海外の大学へ行く選択肢を入れてみたり、別に大学、国内外関係なく、群馬県は専門学校が多いので専門学校に行って、クリエイティブとかプログラミング能力をつけてもらっても全然いいですし、今までの偏差値教育が決めてきたことにとらわれなくてもいいと思います。偏差値教育によって塾などで子どもがキックアウトされる状況を救う環境づくりは行政にこそできることです。みんなが自信を持ってのびのびとできる可能性があるということをDXという意味で進めていけるといいなと考えています。

北野:

お話を聞いていると群馬県で子育てしたくなりますね。

宇留賀様:

教育ってみんなが経験しているのでいろいろ言いたいんですよ。でもたぶん今の状態が時代の変化に合わなくなってきている部分もあるので、そういったところを変えたいということなんですよね。変えたいなって思っている人が群馬に来ていただけるようになると面白いと思います。

さまざまな人が動きやすい社会を目指して

北野:

最後に、宇留賀さんと中島さんが、それぞれ、次はどんなワクワクしたいことをやっていきたいか?というテーマで、2040年に向けての抱負などお聞かせいただけますか?

宇留賀様

2040年となるとまだ想像できてないところはあるんですけれど、もともと自分の田舎が長野県の安曇野というところで、田んぼが段々に並んでとても綺麗な街並みなんです。でも田舎に帰るたびに感じているのが、毎年のように東京にある大型店量販店みたいなものがどんどん増えていて、ある意味、田舎のお店や独特な風景がどんどん変わっているように思っています。自分だけでなく、時々来る人たちも悲しんでいるんですよね。そういう未来のことを責任を持って行政で関わりあっていきたいと考えています。

私は今、群馬県副知事という役職をいただいているので、群馬でいうと、普通免許の交付率も男女ともに日本一で、自動車の保有率日本一なので、みんな車で移動するんですけれども、車で移動するため夜はお酒を飲めないので、街中でも夜8時になると真っ暗になって面白くないんですよね。運転しなくてもコストも安く、環境に優しいサービスを使用できるのを当たり前になるようにできたらと思います。群馬の人たちは、自家用車率が高いので交通費が東京の人よりかかっているのですが、それをみんなが当たり前のように受け止めているけど数字見るとちょっと変なことになっています。今は業務としてそういう数字などに向き合っていますが、自分が何かをやるだけでなく、いろいろな人が動きやすい社会づくりが2040年ぐらいまでにできていて、そういう人をファシリテートする方向に自分の役割も変わっていければすごくいい社会になると思うんです。もちろん失敗することはあるかと思うのですが、確実に前に進んでいるので。

北野:

宇留賀様のその次の取り組みは、今後もぜひ注目していきたいです。

中島様

私のワクワクですが、2025年の大阪万博はやっぱり一つ大きなポイントだと思っていています。私は経営者もやっているので、だからできる、何か社会変革というか文化の変革というのを考えていきたい。この間、大分の「太陽の家」の施設に行ったのですが、障がいのある方たち皆さん、いきいき働いて、まさに個別最適な感じでした。自分たちは足が使えないならどうしたらすればいいか、みんなで相談して何かつくったり、工夫したりして活動しているのがいいなぁと思いました。

本当に多様な人たちが、ありのままの自分の創造性というか、生きるって面白いなということを発揮できるような社会文化を、万博の流れからずっと2040年へとつないでいきたいです。さっき宇留賀さんがおっしゃったことに近いと思うんですけど、みんなが創り手になれるような時代をつくりたいっていうのが公的なワクワクですね。

それと並行してすごくパーソナルなワクワクですが、私自身、やっぱり音楽と数学が好きで、今ピアノや作曲・音楽そのものの探究も一生をかけて悪戦苦闘し続けています。数学も,正直今,忙しくなると研究する時間がなかなかとれないのですが、でも最高に楽しいことなので絶対に時間をかけてでも人生でもっと深掘りしていきたいですね。メディアアートも同じく。経営者としても同じくなのかも。自分自身もやっぱり創り手として永遠に模索し続けていくと思います。そこは2040年になっても変わらないかな。世界は変動しているかもしれないですが、そういうことを模索していきたいと思っています。

北野:

この教育イノベーションが具体事例として群馬県をどのように変えていくのか、これからもぜひ、お二人と一緒に取り組めたらいいなと実感した対談でした。ありがとうございました。


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◆第1回 学びと心の成長 「探求する心の育て方」~教師と子どもを育てるアフターGIGA

◆第2回 学びと環境  GIGAスクールのその先へ 「“先生”って何だろう?」

【STEM教育・STEAM教育】AI活用社会に必要な人材を育てるために官民学総力をあげて取り組む教育施策

【ゲストプロフィール】

群馬県 副知事 宇留賀 敬一様
2003年経済産業省。ITを活用した政府機関の業務効率化、ITを活用した地方創生、製造業を中心とした産業群におけるIoT活用、ITを活用した分散型エネルギーシステムなど、ITによるイノベーションの実現に一貫して携わる。
2007年からは、日本国内で社会問題化した年金記録問題に対して、厚生労働大臣の補佐役として、IT技術をベースとした解決策の企画立案を主導した。また、SXSW 2019におけるThe New Japan Islandsプロジェクトの統括プロデューサーを務めた。現在は、全国最年少の副知事として、世界の課題先進圏といえる日本の地域から、持続可能で世界に誇る地域経済の実現を目指している。


中島さち子様 
音楽家・数学研究者・STEAM 教育者。
(株)steAm 代表取締役、(一社)steAmBAND代表理事、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、内閣府STEM Girls Ambassador、東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。国際数学オリンピック金メダリスト。音楽数学教育と共にアート&テクノロジーの研究も進める。
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