【デジタル庁】鳴り物入りで創設されたデジタル庁の役割は?
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- writer : GDX TIMES編集部
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2021年9月1日、デジタル庁が発足しました。デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目標とするといいます。ここでは、デジタル庁発足の背景、デジタル庁の役割について解説します。
デジタル庁発足の背景
新たに創設されたデジタル庁が担うべき役割について整理する前に、その発足の背景について見ていきます。
行政や企業が直面している「DX」の障害・危機
菅内閣の公約のひとつとして掲げられた「デジタル庁の創設」には、どのような背景があったのでしょうか。そこには、日本社会のデジタル化推進における課題や危機感が見えてきます。
なかなか普及しないマイナンバーカード
2016年に交付を開始したマイナンバーカードですが、2020年9月(菅内閣発足時)時点での交付枚数は2469万枚ほどで、その普及率(人口に対する交付枚数率)は19.4%でした。これは、政府が公表した「2023年3月末にほとんどの住民がカードを保有する」という目標にはほど遠い状況です。
行政の「DX」は推進を阻む要因が山積
人々のライフスタイルの多様化や少子・高齢化による人口構造の変化によって、行政が抱える課題は山積しています。一方、行政職員数は減少を続け、生産年齢人口の減少による税収減が見込まれるなか、住民一人ひとりに寄り添った行政サービスの提供が困難になってきています。こうした状況から脱するために、デジタル技術を活用した行政サービスの改革(DX)が求められていますが、「紙文化」や「対面サービス」「組織の縦割り」「分断されたシステム構築」など、行政のDX推進を阻む要因が色濃く残されています。
「行政のDX」については、行政DX・自治体DX|行政・自治体にとってのDXとは?をお読みください。
もうすぐやってくる「2025年の崖」
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」では、DXの実現を阻んでいる課題が克服されなければ、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があると警鐘をならしています。これが「2025年の崖」です。
「2025年の崖」については、デジタルトランスフォーメーション(DX)|「デジタル化」を目的から手段へをお読みください。
コロナ禍で顕在化したデジタル化への課題
2020年12月以降、世界的なパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症によって、日本社会も大きな影響を受けました。同時に、これらの影響による社会変容は、以下のようなさまざまな分野で、デジタル化への課題を浮き彫りとする結果となりました。デジタル改革関係閣僚会議「デジタル化の現状・課題」から抜粋して紹介します。
- 経済・生活|オンライン手続きの不具合、国と地方のシステムの不整合
- 働き方|押印手続きなど、テレワークの阻害要因の顕在化
- 教育|オンライン教育に必要な基盤、ノウハウの不足
- 行政|オンライン手続きの不具合、国と地方のシステムの不整合
- 医療|陽性者報告のFAXでの申請などデジタル化の遅れ
- 防災|マイナンバーカードによる罹災証明発行、AI活用等による被災者・現場負担軽減の必要性
1年の準備期間を経て2021年9月、デジタル庁発足
2020年9月に発足した菅義偉内閣の公約のひとつが「デジタル庁(当時仮称)」の創設でした。1年後の2021年9月の創設に向けて、以下のような経緯でデジタル改革の基本方針を定め、法制度や組織、推進計画を整備してきました。
2020年12月|「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(デジタル改革基本方針)」策定
2021年2月|デジタル改革関連6法案が閣議決定
2021年6月|「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画の変更について」閣議決定
そして、2021年9月、デジタル庁はいよいよ船出を迎えることになりました。デジタル庁の長は、内閣総理大臣が務め、内閣総理大臣を補佐するのがデジタル大臣。このデジタル大臣を補佐する事務方トップとしてデジタル監というポジションが新設されました。職員数はおよそ600人で、その3分の1にあたる約200人を民間から登用しました。政府は、デジタル庁の創設によって行政の縦割りを打破し、大胆な規制改革を断行するための突破口としたいと考えているようです。
デジタル庁が目指す世の中
デジタル庁の創設にあたって、政府としての方針を示すために策定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」のなかで、デジタル社会のビジョンについて、以下のように記しています。
今般のデジタル改革が目指すデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を掲げ、これに向けた制度構築として、IT基本法の全面的な見直しを進める。このような社会を目指すことは、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を進めるということにつながる。
「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」
さらに、デジタル社会を形成するための基本原則として、以下の10の原則を大方針として施策を展開するとしています。
- オープン・透明
- 公平・倫理
- 安全・安心
- 継続・安定・強靱
- 社会課題の解決
- 迅速・柔軟
- 包摂・多様性
- 浸透
- 新たな価値の創造
- 飛躍・国際貢献
デジタル庁は、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指し、徹底した国民目線で行政サービスを刷新することにより、誰もがデジタル化の恩恵を受けることができる社会の実現に向けて動きはじめました。
こうした取り組みは「人に優しいデジタル化」の推進につながり、その究極の姿として「デジタルを意識しないデジタル社会」を作り上げることにより、日本経済の持続的な成長と幸福な国民生活を実現することを目指しています。
デジタル庁が掲げる3つの柱
2021年6月に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画の変更について」では、デジタル社会の形成に向けた取り組みとして、以下の3つの柱を掲げ、計画推進の司令塔としてデジタル庁が担うべき役割を定めています。
①デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及
まず、国民向けのサービスを徹底して実現するための基盤として、デジタル社会に必要な共通機能の整備や普及に向けて取り組むことが必要になります。
◇ID・認証機能の整備
マイナンバー(個人番号)制度やGビズIDなど、個人や法人を特定・識別し、その真正性・完全性等を保証するID・認証機能を整備、普及させることにより、効率的かつ安全・安心な行政サービス提供に取り組みます。
◇ ガバメントクラウド、ガバメントソリューションサービス
政府情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供する利用環境として、ガバメントクラウドを整備。最新技術を採用したガバメントネットワークを再構築しします。
◇ 地方公共団体の基幹業務等システムの統一・標準化
地方公共団体の基幹業務について、住民サービスの向上と行政の効率化を図るため、ガバメントクラウド上に構築された標準化基準に適合した基幹業務システムへと移行します。
ほかにも以下の取り組みを計画しています。
- データセンターの最適化の実現
- 情報通信インフラの整備
②徹底した UI・UX の改善と国民向けサービスの実現
国民目線での徹底したUI・UXを実現することによって、行政サービスのユーザーである国民一人ひとりにとっての体験価値を最大化する取り組みを進めなければなりません。
◇ 国民目線の UI・UX の実現
マイナポータルなど、特に多くの国民が利用する情報システムについて、行政手続きを簡易に行えるように、UI・UXの抜本的な改善を図ります。
◇ 公共フロントサービスの提供(ワンストップサービスの推進など)
行政手続きのワンストップ化を推進。その際には、行政手続きだけではなく、民間の手続きを含めたワンストップ化を実現するために、APIの整備やその公開も推進します。
◇ 政府ウェブサイトの標準化・統一化
国民が必要な情報に簡単にアクセスできるよう、各府省庁のウェブサイトのデザインやコンテンツ構成等を標準化・統一化する共通基盤を構築します。
ほかにも以下の取り組みを計画しています。
- 裁判関連手続、警察業務、港湾等のデジタル化
- 準公共・民間分野でのデジタル化の推進
- 相互連携分野のデジタル化の推進等による経済社会のデジタル化
③包括的なデータ戦略
デジタル社会において最も基礎的要素となるデータの多様化と大容量化が進むなか、以下の取り組みを包括的に実行することによって、データの利活用を進めていきます。
◇ 新しいサービス価値を提供するプラットフォームの構築
多様なデータを活用して新たな価値を創出するために、データ連携の基盤となるプラットフォームの構築を進めます。データ流通を促進するための共通ルールを定め、「健康・医療・介護」「教育」「防災」「農業」「インフラ」「スマートシティ」を重点分野として、分野ごとのプラットフォーム構築に取り組みます。
◇ 基盤となるデータの整備
ベース・レジストリなどの基盤となるデータについて、データ標準や各種ツールの整備を進めるため、デジタル庁はデータを保有する各府省庁への支援を行います。
◇ デジタルインフラの整備・拡充
デジタル化の進展を踏まえて、デジタル化を支えるインフラとして、通信インフラ、計算インフラ、データの取り扱いルールの実装などの一体的整備を図ります。
ほかにも以下の取り組みを計画しています。
- トラストを担保する基盤の確立
- データ取り引き市場の活性化
- デジタル庁と各府省庁との連携
- DFFT 推進に向けた国際連携
3つの柱を効果的に実現するための対策
デジタル庁が中心となって、行政府のデジタル化を推進するためには、改革を断行するための人材の育成と確保が急務となります。このため、ITスキルに関する民間の評価基準を活用して採用活動を進めるなど、優秀な人材が民間、地方公共団体、政府を行き来しながらキャリアを積める環境を整備していきます。
また、デジタル庁は、システムの整備・運用にあたって最新のテクノロジーを大胆に導入することとして、アジャイル開発などの新たな手法やスタートアップをはじめとする革新的な技術を有する民間事業者からの調達を円滑に進めるための手法を検討しています。これらの技術の効果が認められれば、各府庁への横展開も積極的に推進する計画です。
国民の利便性向上を確保するための対策
「誰一人取り残さない」デジタル化を進めるためには、継続的なUI・UXの改善を進め、行政サービスの利用者が常に快適なユーザー体験が得られるようにならなければなりません。アクセシビリティの確保を通じて、誰もが公平に有用な情報にアクセスし、デジタル化の恩恵を得られるような環境整備を進めています。
また、利用者の安全・安心の確保のために、サイバーセキュリティについての基本方針を示し、設計・開発段階を含めたセキュリティの確保に努め、個人情報の保護の観点からも適切な運用がなされるよう体制を整備します。
さらにデジタル社会の進展を支える基盤技術として、高度な情報通信技術やAI・ビッグデータなどの技術の研究開発に注力し、国民の利便性向上に資するよう、常に最新技術を反映した情報システム構築を目指しています。
10月10・11日は「デジタルの日」
2020年11月、「デジタル改革関連法案ワーキンググループ」は、社会全体でデジタルについて振り返り、体験して見直し、共有し合える定期的な機会として「デジタルの日」の創設を発案。「デジタル改革アイデアボックス」において日付を募集し「2021年デジタルの日」は、デジタル技術で活用される二進数の数字「1」と「0」で構成された、10月10日(日)、11日(月)の2日間とすることを決定しました。
創設初年度となる2021年のテーマは「#デジタルを贈ろう」。デジタル庁創設を記念するとともに、「新しく触れる、感じる」ことを通じて、デジタル技術の恩恵を実感できる機会でした。
「デジタルの日」ホームページでは、企業・団体が取り組んだ特設ページや実施したイベントの様子を閲覧できます。
2021年9月1日、デジタル庁の発足式で菅総理(当時)は、職員に向けて「日本を作り変える覚悟でデジタル化に取り組む」と訓示したといいます。デジタル庁の創設によって、行政の縦割りを解消しながら、長年先送りにされてきた多くの課題に向き合い、官民一体となった改革の推進によって、世界に遜色のないデジタル社会が築かれることを期待したいと思います。
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